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?B 連携の状況

経済団体連合会の社会貢献部課長の田代正美氏がボランティア白書に寄稿しているので紹介しておく。

(田代 正美(経済団体連合会社会貢献部課長)「企業とボランティア団体がネットワークを組む時代へ」(「ボランティア白書1995年版」(社)日本青年奉仕協会))

 

(略)

「阪神淡路大震災・被災地の人々を応援する市民の会」

さて,こういう形でボランティアと関わってきた企業が大震災に直面したのが1月17日早朝である。朝からテレビなどで情報を追っていた。これまで,雲仙普賢岳,奥尻などの災害現場を経験してきたが,今回はこれまでとは以下の4点で大きく違うというのが実感であった。

イ.被災の規模がケタはずれに大きい

口.被災者が都市型住民である

ハ.地域経済の中心地が侵された

二.経団連会員企業自体が大きな被害を受けている

このような状況下で,経団連1%クラブとしてどういう救援体制を組めるだろうかと思案していたとき,大阪ボランティア協会とJYVAから,「阪神淡路大震災・被災地の人々を応援する市民の会」を発足させるので参加しないかという連絡があった。

基本コンセプトを聞くと,「救援する会ではない。被災者の自立を応援する会だ」,「主役は被災者であり,自分たち外部からのボランティアにできることは被災者の立ち上がりを応援することでしかない」ということであった。

このように基本コンセプトが明快であることに安心して,参加することにした。アメリカの社会思想家P.F.ドラッカーは,『非営利組織の経営(1991年,ダイヤモンド社)』の中で,非営利組織はまず「使命を明確に(言葉で)表現してみよ」と繰り返し説いている。企業と違ってボランティア団体のように数字(金銭,損益)で決算のできない非営利組織は,自らの「使命」を何と定めるかにエネルギーを注ぎ,徹底した議論をすべきだと言うのである。

前述した「応援する市民の会」の基本コンセプトがまさしくP.Fドラッカーの言う「使命」に当たる。

「使命」は,アクションに結びつくものでなければならない。たとえば,「応援する市民の会」では当初,被災者の必要とする物資の供給を懸命に行った。それも,行政の手の届かない部分に集中して行った。着の身着のままで風呂にも入れない状態が続いているから保温性のある下着を,少しでも温かい食事が摂れればという希望に応えて簡易ガスボンベを,被災者がやや落着きを取り戻し,倒壊した自宅からアルバムなどを取り出したいというステージに移行してからはヘルメットやマスク,軍手を企業から提供してもらって配った。行政が提供している水,食料品,毛布の類はほとんど手がけなかった。

そして,被災地の商店街が開き始めてからは,できるだけ早めに物資の供給を手控えるようにした。「被災者の自立を応援する」ことを使命としたのであるから,商店街の自力復興を妨げるようなことはしないということが自ずと決まってくる。商店に並んでいる品物であれば,対価を払って購入してもらい,できるだけ早く通常の取引きに戻すのが正しい道であるという意思決定ができ,それが実際のアクションに結びついていく。「市民の会」では被災後半月を経た頃から,商店街をよく見て歩き,被災者への無料の物資提供に代えて,「どの店に行けば何が買える」という情報の提供に力点を置き換えていったのである。

この間,企業は惜しみない支援をしてくれた。1%クラブからの要請にもとづいて「市民の会」に物資を提供してくれただけでなく,事務所やボランティアの集合するスペース,物資集積用の倉庫,さらには物資輸送のためにヘリコプターまで提供された。

いわば1%クラブが仲立ちとなって企業と市民団体(大阪ボランティア協会やJYVA)が結ばれ,それぞれが強味を発揮して「応援」に当たったのである。

これが実現したのは,前述したように,90年代に入ってから企業で社会貢献が真剣に議論され,またボランティア支援の経験が積み重ねられていたからだと思う。とりわけ,大阪ボランティア協会やJYVAのスタッフと,企業側の担当者が日頃の会合で顔を合わせ,互いに信頼感が醸成されていたことが,迅速な「市民の会」の結成と活動に結びついた最大の要因であったと考えている。

 

被災地におけるボランティアの活動

「応援する市民の会」のボランティア拠点には,平日で300〜400人,週末には500〜600人のボランティアがつめかけるという盛況ぶりであった。主として学生など若者たちであったが,企業人の姿もかなり見られた。

行政のボランティアの受入れ方と,「市民の会」の受入れ方の違いは,前者がボランティアに登録されたのに対し,

 

 

 

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