日本財団 図書館


たり前のことであるが、社会保障による公的福祉供給が発達した国で、その公的福祉に加えて福祉の市場供給とインフォーマル部門の役割を強調するところに意義がある。

経済部門だけでなく、福祉の部門でも市場化・民営化論が活発であり、そのような方向への実際の動きが見られる。互いに関連する三つの理由がその背景にある。

第一に、政府が大きくなりすぎて「市場の失敗」よりも「政府の失敗」が目立つようになったからである。とくに政府の財政規模が大きくなりすぎたこと、官僚の規模も権力も目立つこと、財政赤字と国公債残高が大きくなったことが、政府の失敗を印象づけている。そこで市場の長所が改めて評価されるようになった。市場システムの長所とは、(1)競争原理の導入による活性化・効率化、(2)需給の自動調整、(3)報償と制裁のシステムの導入による働くインセンティブの向上、(4)商品・サービスの多様化と質の向上、(5)利用者の選択の自由と顧客意識の向上、(6)コスト意識とマネッジメント意識の浸透、(7)政治面では、「政治の失敗」の排除、経済権力の分散の結果としての権力の集中排除および恣意的裁量の幅の縮小、(8)社会面ではネポチズム(縁故)やコネの排除、などである。

こうして市場の長所が再評価されるようになり、自治体でもこれまで政府がやっていたことを民間企業に代替させたり、委託したりするほうが効率的で、消費者・住民にも喜ばれることがあると認識されるようになった。それに官庁の仕事にも、民間企業の競争と制裁・刺激のインセンティブ・システムを導入したり、コスト意識を持たせて、公的部門の活性化と効率化を計るべきだとの考えが強くなった。確かにこのような市場志向の意識を強く持つか持たないかで福祉政策の効率は非常に違ってくるだろう。

ここで福祉政策の効率というと、経済学になじみのない人には誤解と反発を招きやすいので説明しておこう。効率化ということは使うお金を節約しようということでは必ずしもない。勿論、お金の節約は効率化の一つの方法であるが、福祉政策の効率化という場合には、福祉ニーズという目的をより少ないコストで達成することあるいは一定のコストでよりよく福祉ニーズを達成することであり、あるいはその両方を行うことである。その場合、目的は福祉ニーズの改善であり、お金ではない。コストといってもお金だけではない。要介護高齢親族に対する家族による家庭での介護の大変な労力もコストである。福祉政策の効率化というと、福祉予算を減らすことと短絡的に捉えがちで

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION