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この領域の海氷は、気候の変化に非常に敏感であり、グローバルな気候変動の指標として研究の意義が高いばかりでなく、水産事業等においても、この領域の海氷の状況把握は、非常に重要である。

 一方、合成開口レーダによる海氷の計測手法の研究は、カナダを中心に研究が進んできた。けれども、上記に述べたようにオホーツク流氷は、極域の海氷とやや性質が異なり、データの解釈にはその特殊性を考慮する必要がある。海氷域の探査において計測すべきパラメータとして挙げられるのは、海氷密接度、海氷分類(一年氷か多年氷か等)、氷厚、積雪深、およびその運動等であるが、例えば、海氷密接度をマイクロ波放射計のデータから推定するアルゴリズムも北極域海氷をもとに開発されたものがそのまま適用できないことがわかっている。また、水盤の動きのモニタは、北極域では衛星データから推定するアルゴリズムが開発されているが、オホーツク流氷は動きが速く、衛星のリターンまでにはデコリレートしてしまい、自動化した処理が非常に難しい。こうした、オホーツク海氷の特殊性を考慮したデータ解析アルゴリズムの開発が今後望まれるところである。

 今後、期待される合成開口レーダを利用した技術のひとつに、レーダサットに搭載された、ScanSARによる海氷域の広域なモニタが挙げられる。しかし、ScanSARは通常のSARにくらべ分解能が悪く、また、画面の中でレーダに近い側と遠い側で入射角が変わるというデメリットがある。海氷と海水面とのコントラストは、入射角により大きく変わるので、このことは、海氷密接度のモニタリングにとっては、好ましいことではない。30度よりも大きな入射角で観測すると、一般に海氷は海水面に比べて、散乱強度が大きく、画像では明るく写る。しかし、海水が凍り始めたばかりのグリースアイスの状態では、逆に前節で述べた油膜と同じ現象で、散乱強度はむしろ小さくなる。一年氷の多いオホーツクの海氷では、こうした入射角による効果が非常に大きなポイントとなる。したがって、ScanSARを用いたオホーツク海氷のモニタリングには、こうした課題を克服することが必要である。

 次に、最近SARの高度な解析手法として注目を集めているのは、衛星SARインタフェロメトリである。これは、同じ地域のわずかに異なるパスの映像から、地上の詳細な高度変化または位置の移動を数センチオーダーで調査することのできる解析手法である。これを用いた海氷域の運動の解析が、北極域において有効性が示されている。しかし、オホーツク海氷の場合は、海氷の変化が速く、2つの映像のコリレーションがとれないため、実効的ではない。さらに、将来合成開口レーダの特性を生かした海氷の分類に有望視されているのは、ポラリメトリである。航空機搭載のポラリメトリックSARは、米国JPLにおいて先駆的な研究がなされ、1995年のSIR−C/X−SARにおいては宇宙からのポラリメトリの実験がなされ

 

 

 

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