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3.会議報告(かいぎほうこく):2)日本(にほん)からの発表(はっぴょう)
11月(がつ)7日(か) 分科会(ぶんかかい) 社会(しゃかい)へのインクルージョン促進(そくしん)における高等教育以降(こうとうきょういくいこう)の役割(やくわり)
東京大学(とうきょうだいがく)と知的障害者雇用(ちてきしょうがいしゃこよう)
東京大学大学院経済学研究科特任助教授(とうきょうだいがくだいがくいんけいざいがくけんきゅうかとくにんじょきょうじゅ)
全日本(ぜんにほん)手(て)をつなぐ育成会国際活動委員長(いくせいかいこくさいかつどういいんちょう)
長瀬 修(ながせ おさむ)
 
 11月(がつ)7日(か)に「社会(しゃかい)へのインクルージョン促進(そくしん)への高等教育(こうとうきょういく)の役割(やくわり)」という分科会(ぶんかかい)で勤務(きんむ)する東京大学(とうきょうだいがく)での知的障害者雇用(ちてきしょうがいしゃこよう)に関する(かんする)報告(ほうこく)を行い(おこない)ました。
 東京大学(とうきょうだいがく)は障害者雇用促進法(しょうがいしゃこようそくしんほう)を遵守(じゅんしゅ)するために、2005年度(ねんど)から知的障害者雇用(ちてきしょうがいしゃこよう)を開始(かいし)しています。
 2004年(ねん)4月(がつ)に国立大学(こくりつだいがく)は法人化(ほうじんか)されました。それに伴い(ともない)、各国立大学(かくこくりつだいがく)は従来(じゅうらい)のように文部科学省管轄下(もんぶかがくしょうかんかつか)の公務員(こうむいん)として一括(いっかつ)して雇用率(こようりつ)を計算(けいさん)するのではなく、個別(こべつ)の大学(だいがく)として雇用率(こようりつ)を計算(けいさん)することとなったのです。しかも、教員(きょういん)と医療職員(いりょうしょくいん)も雇用率(こようりつ)の対象(たいしょう)になるという変化(へんか)も生じ(しょうじ)、そのために、2004年(ねん)6月(がつ)時点(じてん)の実雇用率(じつこようりつ)は1.46%と、規定(きてい)の2.1%から大きく(おおきく)落ち込んで(おちこんで)しまいました。その後(ご)、法律(ほうりつ)に基づいて(もとづいて)、2007年末(ねんまつ)までに雇用率(こようりつ)を達成(たっせい)する計画(けいかく)を策定(さくてい)し所轄(しょかつ)の飯田橋(いいだばし)ハローワークに提出(ていしゅつ)しました。
 学内(がくない)では(1)障害学生支援(しょうがいがくせいしえん)、(2)障害教職員支援(しょうがいきょうしょくいんしえん)、(3)障害者雇用(しょうがいしゃこよう)を担当(たんとう)する「バリアフリー支援室(しえんしつ)」が雇用率(こようりつ)の達成(たっせい)に向けて(むけて)の取り組み(とりくみ)を開始(かいし)することとなりました。支援室(しえんしつ)は副学長(ふくがくちょう)・理事(りじ)を室長(しつちょう)とする約(やく)20名(めい)の各部局(かくぶきょく)の代表(だいひょう)から構成(こうせい)される政策決定機関(せいさくけっていきかん)としての性格(せいかく)と、5名(めい)の専任職員(せんにんしょくいん)からなる現業部門(げんぎょうぶもん)という性格(せいかく)と両方(りょうほう)を持って(もって)います。私(わたし)は、このバリアフリー支援室(しえんしつ)が正式(せいしき)に発足(ほっそく)した2004年(ねん)4月(がつ)当初(とうしょ)からの室員(しついん)であり、2006年(ねん)4月(がつ)からは、アドバイザーも兼ねて(かねて)います。
 その関係(かんけい)もあって飯田橋(いいだばし)ハローワークに足(あし)を運び(はこび)、いろいろと障害者雇用推進(しょうがいしゃこようすいしん)に関する(かんする)助言(じょげん)をもらいました。まだまだ取り組み(とりくみ)が遅れて(おくれて)いる知的障害者雇用(ちてきしょうがいしゃこよう)をそこで勧められ(すすめられ)ました。しかし、当初(とうしょ)は具体的(ぐたいてき)にどういう形(かたち)で進め(すすめ)ればいいのか見当(けんとう)もつかない状態(じょうたい)でした。
 しかし、2005年(ねん)2月(がつ)に、東京都育成会(とうきょうといくせいかい)が運営(うんえい)を担って(になって)いる世田谷区知的障害者就労支援(せたがやくちてきしょうがいしゃしゅうろうしえん)センターすきっぷと私(わたし)の出会い(であい)が全日本(ぜんにほん)手(て)をつなぐ育成会(いくせいかい)を通して(とおして)あり、そこから道(みち)は大きく(おおきく)開け(ひらけ)ました。
 経済学部(けいざいがくぶ)はそれまで障害者雇用(しょうがいしゃこよう)の実績(じっせき)がゼロでしたが、バリアフリー室員(しついん)の松井彰彦(まついあきひこ)教授(きょうじゅ)の提案(ていあん)で、東大(とうだい)として初(はつ)の知的障害者雇用(ちてきしょうがいしゃこよう)を実現(じつげん)したのです。すきっぷから紹介(しょうかい)された方(かた)が、実習(じっしゅう)を経て(へて)経済学部(けいざいがくぶ)に職員(しょくいん)として採用(さいよう)されたのは、2005年(ねん)11月(がつ)でした。研究論文(けんきゅうろんぶん)の入力作業(にゅうりょくさぎょう)など主に(おもに)パソコンを使う(つかう)業務(ぎょうむ)です。次(つぎ)に同じ(おなじ)経済学部(けいざいがくぶ)の事務(じむ)の別(べつ)の部門(ぶもん)で2006年(ねん)2月(がつ)に二人目(ふたりめ)の知的障害者(ちてきしょうがいしゃ)の採用(さいよう)がありました。こちらは、郵便(ゆうびん)の仕分け(しわけ)の仕事(しごと)です。
 さらに、2006年(ねん)4月(がつ)には、施設部保全課(しせつぶほぜんか)が環境整備(かんきょうせいび)チームを発足(ほっそく)させ、10名(めい)の知的障害者(ちてきしょうがいしゃ)が雇用(こよう)されました。本郷(ほんごう)キャンパスの清掃(せいそう)と理学部図書館(りがくぶとしょかん)の蔵書(ぞうしょ)へのICタグの貼付(ちょうふ)を担当(たんとう)しています。また、同年(どうねん)6月(がつ)には教養学部(きょうようがくぶ)が図書館(としょかん)の仕事(しごと)でさらに1名(めい)雇用(こよう)しました。東大(とうだい)には全部(ぜんぶ)で13名(めい)の知的障害職員(ちてきしょうがいしょくいん)がいます。
 
環境整備(かんきょうせいび)チームと総長(そうちょう)が赤門(あかもん)をバックに写って(うつって)いる「学内広報(がくないこうほう)」表紙(ひょうし)
 
 学生(がくせい)と、新た(あらた)に東大(とうだい)に加わった(くわわった)知的障害職員(ちてきしょうがいしょくいん)の交流(こうりゅう)も行って(おこなって)います。私(わたし)が経済学部(けいざいがくぶ)で開講(かいこう)している「障害学(しょうがいがく)」の講義(こうぎ)の一環(いっかん)として、環境整備(かんきょうせいび)チームをゲストとして迎えた(むかえた)ほか、学生(がくせい)が知的障害職員(ちてきしょうがいしょくいん)の指導(しどう)のもと、「清掃実習(せいそうじっしゅう)」として半日(はんにち)、清掃作業(せいそうさぎょう)を行い(おこない)ました。学生(がくせい)にとって、知的障害職員(ちてきしょうがいしょくいん)と一緒(いっしょ)に仕事(しごと)をする貴重(きちょう)な機会(きかい)となりました。
 東京大学(とうきょうだいがく)は引き続き(ひきつづき)「多様性増進(たようせいぞうしん)」と「障害者(しょうがいしゃ)の職域拡大(しょくいきかくだい)」を基本方針(きほんほうしん)として、知的障害者(ちてきしょうがいしゃ)を含む(ふくむ)障害者雇用(しょうがいしゃこよう)に取り組んで(とりくんで)います。
 
11月(がつ)7日(か) 分科会(ぶんかかい) 家族(かぞく)の運動(うんどう)の将来(しょうらい)と兄弟姉妹(きょうだいしまい)の役割(やくわり)
「家族(かぞく)が家族(かぞく)でありつづけるために」
全国障害者(ぜんこくしょうがいしゃ)とともに歩む(あゆむ)兄弟姉妹(きょうだいしまい)の会(かい)
河村 真千子(かわむら まちこ)
●全国障害者(ぜんこくしょうがいしゃ)とともに歩む(あゆむ)兄弟姉妹(きょうだいしまい)の会(かい)
 “ひとりだけで苦しむ(くるしむ)のはよそう、ひとりだけでぼそぼそ言う(いう)のはよそう、なぜならそれは皆(みな)の苦しみ(くるしみ)なのだから、
 生きて(いきて)いて本当(ほんとう)に良かった(よかった)と、きょうだいと障害者(しょうがいしゃ)がともに言える(いえる)社会(しゃかい)を創ろう(つくろう)!”
 この呼びかけ(よびかけ)がきっかけとなり、きょうだいや応援者(おうえんしゃ)が全国(ぜんこく)から集まり(あつまり)、1963年(ねん)に「全国障害者(ぜんこくしょうがいしゃ)とともに歩む(あゆむ)兄弟姉妹(きょうだいしまい)の会(かい)」ができました。
 
●障害者(しょうがいしゃ)のきょうだい
 障害(しょうがい)のある人(ひと)の一生(いっしょう)を考えた(かんがえた)とき、親(おや)は先(さき)に亡くなり(なくなり)専門家(せんもんか)も入れ替わる(いれかわる)中(なか)、きょうだいの存在(そんざい)は大変(たいへん)意味(いみ)があります。同じ(おなじ)時期(じき)に人生(じんせい)を過ごす(すごす)きょうだい同士(どうし)、仲良く(なかよく)互い(たがい)に自立(じりつ)して暮らせる(くらせる)ことが一番良い(いちばんよい)形(かたち)だと思い(おもい)ます。互い(たがい)に自立(じりつ)して心(こころ)が通い合う(かよいあう)きょうだい同士(どうし)ということです(自立(じりつ)とは、いろいろな支援(しえん)を受け(うけ)ながら自分(じぶん)で自分(じぶん)のことを決定(けってい)して生きて(いきて)いくことです)。
 障害(しょうがい)のある人(ひと)が人生(じんせい)の各(かく)ステージごとに問題(もんだい)があることと同じ(おなじ)で、きょうだいも少なからず(すくなからず)その影響(えいきょう)を受け(うけ)、各(かく)ステージごとに問題(もんだい)を抱え(かかえ)ます。
 大部分(だいぶぶん)の親(おや)は子供(こども)に障害(しょうがい)があると言われる(いわれる)と、戸惑い(とまどい)の中(なか)で時間(じかん)が過ぎて(すぎて)しまいます。障害(しょうがい)のある子供(こども)のことで気持ち(きもち)が一杯(いっぱい)で、他(ほか)のきょうだいに目を向ける(めをむける)余裕(よゆう)がなくなることも多い(おおい)でしょう。
 きょうだいの多く(おおく)は幼い(おさない)ころからさびしい思い(おもい)や、辛い(つらい)思い(おもい)をすることがあります。偏見(へんけん)やいじめを受け(うけ)たり、障害(しょうがい)のあるきょうだいとの関係(かんけい)や将来(しょうらい)のことを考え(かんがえ)悩んだり(なやんだり)、親亡き後(おやなきあと)に障害(しょうがい)のあるきょうだいとどのように関わって(かかわって)いけばよいかと悩む(なやむ)場合(ばあい)が多く(おおく)あります。実際(じっさい)、親(おや)が亡くなる(なくなる)と、在宅(ざいたく)でも施設(しせつ)でも「保護者(ほごしゃ)」とみなされる場合(ばあい)が多い(おおい)です。
 
兄弟姉妹(きょうだいしまい)の会(かい)の会員(かいいん)
 
 
 
 きょうだいの多く(おおく)は、同じ(おなじ)問題(もんだい)があることさえ知らず(しらず)、自分(じぶん)だけの問題(もんだい)と思い込み(おもいこみ)、普通(ふつう)に社会生活(しゃかいせいかつ)をしています。もちろんきょうだいの会(かい)の存在(そんざい)や活動(かつどう)、その必要性(ひつようせい)も知り(しり)ません。しかしそんなきょうだいが集会(しゅうかい)に来る(くる)と、堰(せき)を切った(きった)ように自分(じぶん)の身の上話(みのうえばなし)をしたり、時(とき)には涙(なみだ)を流し(ながし)ながら告白(こくはく)する人(ひと)もいます。自分一人(じぶんひとり)ではない。同じ(おなじ)境遇(きょうぐう)の仲間(なかま)がいる。自分(じぶん)の思い(おもい)をわかってくれる人(ひと)たちがいる。気(き)が楽(らく)になったと笑顔(えがお)になる人(ひと)たちが多く(おおく)います。親(おや)たちの親(おや)の会(かい)が必要(ひつよう)なように、きょうだいたちにも「きょうだいの会(かい)」が必要(ひつよう)なのです。
 
●きょうだいの会(かい)の方向性(ほうこうせい)
 きょうだいの会(かい)は、障害(しょうがい)のない自分(じぶん)の課題(かだい)とともに、障害(しょうがい)のあるきょうだいの課題(かだい)の解決(かいけつ)を目指して(めざして)活動(かつどう)しています。障害(しょうがい)のないきょうだいが安心(あんしん)して生活(せいかつ)するためには、障害(しょうがい)のあるきょうだいが自立(じりつ)して生活(せいかつ)できることが必要(ひつよう)です。そのような環境(かんきょう)が整って(ととのって)こそ、互い(たがい)にいい関係(かんけい)を作る(つくる)ことができます。そういう意味(いみ)で、障害(しょうがい)のある人(ひと)の活動(かつどう)と方向(ほうこう)が一致(いっち)します。
 一方(いっぽう)、私達(わたしたち)は障害(しょうがい)のある当事者(とうじしゃ)とは違う(ちがう)視点(してん)からの活動(かつどう)となるので、障害関係(しょうがいかんけい)の運動(うんどう)の視点(してん)が広がる(ひろがる)ことになります。特(とく)に、私達(わたしたち)は支援(しえん)の対象(たいしょう)を「家族全体(かぞくぜんたい)」に求めて(もとめて)います。それは、きょうだい自身(じしん)が愛情豊か(あいじょうゆたか)な環境(かんきょう)の中(なか)で育ち(そだち)、自分(じぶん)の幸せ(しあわせ)なくして障害(しょうがい)のあるきょうだいの本当(ほんとう)の幸せ(しあわせ)を求める(もとめる)ことはできないと思う(おもう)からです。その結果(けっか)、私達(わたしたち)の主張(しゅちょう)は「家族(かぞく)のあり方(かた)」についての問題(もんだい)につながっています。「家族(かぞく)のあり方(かた)」とは、障害(しょうがい)のある人(ひと)も無い(ない)人(ひと)も、その家族(かぞく)が互い(たがい)に自立(じりつ)しながら思い(おもい)支え合う(ささえあう)事(こと)の大切さ(たいせつさ)です。家族(かぞく)が本来(ほんらい)の家族(かぞく)らしくいられるためには、障害者(しょうがいしゃ)のいる家族(かぞく)には支援(しえん)が必要(ひつよう)です。
 多く(おおく)の福祉(ふくし)・教育関係者(きょういくかんけいしゃ)・何(なに)よりまだきょうだいの会(かい)の存在(そんざい)すら知らない(しらない)多く(おおく)のきょうだいたちに、きょうだいの会(かい)の存在(そんざい)や意義(いぎ)、活動内容等(かつどうないようとう)を知って(しって)もらいたいと思い(おもい)ます。


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