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(1)マテリアルリサイクルにおける減容法の比較−加熱減容法と溶剤減容法
加熱減容
 廃発泡スチロールのリサイクルにおける運送費を抑えるために、減容化は最も重要な点である。発泡スチロールの減容化には加熱減容と溶剤減容の二つがある。これまでは加熱減容法が主流であった。加熱減容の熱源としては、熱風、電気ヒータ、遠赤外線、摩擦熱などが用いられている。これらの加熱減容法に共通する問題点は、高温処理によりポリスチレンの熱分解が起こることである。熱分解によるポリスチレンの分子量低下と熱処理時の臭気の発生が問題となっている。
 熱減容によって起こるポリスチレンの分子量低下の例を図5-2に示した。図中の黒塗りのプロットがそれぞれ180℃、200℃、225℃で熱処理したポリスチレンの分子量の変化を示したものであるが、10分くらいで分子量が大きく低下しており、60分では最初の分子量の1/3〜1/6にまで減少しているのがわかる。また、熱処理温度が高いほど分子量低下が大きいことがわかる。
 
図5-2 加熱時間による分子量低下
 
石油系溶剤による減容法
 最近になって、加熱減容による物性の低下を軽減する減容法として、溶剤を用いた方法が検討され始めている。溶剤を使った減容法には、石油系の溶剤を使うものと天然系の溶剤を使う方法がある。
 石油系の溶剤としては、一般的に、発泡スチロールの溶解力の高いキシレン及び芳香族系の溶剤(例えば、エコメルツ方式:日興キャスティー(株))が使われることが多い。溶剤による減容法の特徴は、破砕などの前処理が不要で、付着した異物や汚れ、塩分などが濾過により除去されることである(熱減容法では異物等の混入は避けられない)。
天然系溶剤による減容法
 近年、石油系の溶剤ではない天然の溶剤を用いた減容法も実用化されている(エコライフ土佐(高知))。天然の溶剤にはオレンジ等の柑橘類から抽出される成分であるリモネンが使用されている。リモネンはスチレンと非常に似た化学構造を持っており、発泡スチロールの溶解性も高い。リモネンを使った発泡スチロールの減容リサイクル法はソニー(株)により開発されたものである。リモネンを使ったリサイクル法の大きな特徴は、先述の加熱減容で見られるような熱による物性の低下が極めて少ないということである。先の図中に白抜きで示したのが、リモネン溶液に溶かした発泡スチロール溶液を同じ温度(180℃〜225℃)で処理したときのポリスチレンの分子量の変化を示したものである。熱減容したポリスチレンに比べ、明らかに分子量の低下が小さいことがわかる。
 一般に、プラスチックの加熱減容では熱による酸化劣化のため物性値(強度)の低下が避けられず、マテリアルリサイクルは現実には1回程度しか行えないのが実状であった。それに対しリモネンリサイクルでは、減容処理後の再生ペレットの分子量低下が非常に少ないため、繰り返しリサイクルすることが可能であるとされている。また、天然系の溶剤であるため、環境や人体に対しても安全である。
 マテリアルリサイクルとしてリモネンによる減容法の特徴をまとめると以下の様である。
(1)天然の溶剤であり、環境にやさしい
(2)加熱を必要としない減容法のため、再生ペレットの物性の低下が少ない
(3)溶剤は回収して、繰り返し使用できる
(4)1/20〜1/50に減容でき、運搬コストが軽減できる
 
(2)リサイクルの経済性及び環境評価
 マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの各リサイクル方法について、発泡スチロール製品の製造から再資源化にかかるコストと環境への影響との関係を比較すると、図5-3のような関係になる(工程別インベントリー分析:発泡スチロール再資源化協会資料より)。ここで、環境への影響はCO2排出量(地球温暖化への影響)を表している。
 リサイクルの中で、環境への影響が最も少なく、またコストが最も低かったのはリユース・軽量骨材化であった。これは、リユースが廃製品そのものを再利用するために新たなポリスチレン(バージンペレット)の製造を必要としないことによる。
 マテリアルリサイクルの中心である熱溶融・ペレット化(加熱減容)では、処理コストはリサイクル法の中では低く、環境への影響も比較的低いという結果が得られた。これは、再生ペレットに変換することで新たなペレットの使用量が削減できること、また再生ペレットが有価で販売できるという点で環境、経済性ともに高くなったものである。一方、加熱減容に対し溶剤減容では、環境への影響は同様に低いという評価であったが、減容後ポリスチレンと溶剤を分離するための蒸留プラントが必要となるためコストが高いという結果になった。この結果だけから見れば、加熱減容の方が溶剤減容よりも有利なように思えるが、得られる再生ペレットの性状に大きな違いがある。先述したように加熱減容で得られた再生ペレットは熱劣化が大きく、再生ペレットとしての価値が低い。当然、再生ペレット製品の再再生化は難しい。それに対し溶剤減容で再生されたペレットの性状はバージンペレットのそれに近いので、繰り返し再ペレット化も可能である。単純に1回のリサイクルだけでリサイクルの経済性や環境影響評価を比較することにはむずかしい面もある。
 
図5-3 リサイクルコストと環境への影響の関係
発泡スチロール再資源化段階のLCI調査結果、発泡スチロール再資源化協会、2003
 
 現在、水産庁を中心に廃発泡スチロール製フロートのリサイクル法として、圧縮減容(スクリュー圧縮)によるコークス原燃料化が検討されており、この方式はリサイクルコストが低く、環境への影響も比較的少ないという評価であった。この結果は、CO2排出量の増大につながる石炭燃料の代わりに廃発泡スチロールを利用するため、CO2削減効果が高いことによる。
 単純焼却の場合、リサイクルコストは低かったが、焼却によるCO2排出のため環境への影響は高いものとなった。
 各リサイクル手法の経済性及び環境への影響の評価を表5-2にまとめた。
 
表5-2 発泡スチロールのリサイクル化の評価
リサイクル手法 環境への影響 処理費用
RPF
粉砕後、軽量骨材化
洗浄再利用
熱減容、ペレット化
溶剤減容、ペレット化 ×
油化(モノマー化)
高炉原料化
ペレット化
セメント原燃料化
ごみ発電
コークス炉原料化
単純焼却 ×
発泡スチロール再資源化段階のLCI調査結果、発泡スチロール再資源化協会、2003
 
8. 漁業用廃フロートの処理・リサイクルの実際
 ここでは、(1)加熱減容、(2)有機溶剤減容、(3)天然溶剤減容の3つの方式によりそれぞれ廃発泡スチロールのリサイクルを実施しているメーカーの取り組みの事例を紹介し、それぞれのリサイクル方式の特徴及び問題点やリサイクルコスト等について比較を行った。
 (1)の加熱減容方式については愛媛県の漁協、養殖業者から排出される廃フロートのリサイクルを実際に行っている(株)九州化成工業の例を、(2)の有機溶剤減容方式については兵庫県の養殖用廃フロートのリサイクルを行っている(株)日興キャスティの例を、(3)の天然溶剤減容については四国高知市の中央卸売市場から排出される廃発泡スチロールのリサイクルを行っている(株)エコライフ土佐、の各取り組みの例を取り上げる。
 各リサイクル方式による事例の概要は以下のとおりである。
(1)の加熱減容方式により廃発泡スチロールのリサイクルを行っている(株)九州化成工業では、約5年前から愛媛県の漁協、養殖業者から排出される廃フロート処理を行っている。廃フロートは230〜250℃で熱溶融し、インゴッド化して中国に輸出し、ビデオテープのケースやハンガーなどとしてリサイクルしている。廃フロートのリサイクル実績では、過去5年間で3号フロートにして約1万本(約35トン、体積換算で2700m3)を処理している。
 九州化成工業では、廃フロートのマテリアルリサイクルと同時にフロートの販売も行っている。新しいフロートの購入者に対して使用済みの廃フロートを無料で引き取っている。新しいフロートを運送した帰りのトラックに廃フロートを積んで持ち帰り、工場で熱溶融リサイクルを行っている。従って、廃フロートの運送費及び処理費の負担が排出者(養殖業者)にかからないことになる(新しいフロートの購入費用にこれら運送費や処理費が一部上乗せされている)。
 廃フロートの処理は、まず1次、2次粉砕処理をした後、熱溶融する。1次、2次粉砕の過程でふるいにかけているので、フロートに付着している貝殻等の大きな付着物は除去されるが、微小片のものは除去できずインゴッドに混入している可能性がある。インゴッドは茶色に着色している。工場での処理本数は1時間当たり30本程度である。
 リサイクルにより再生されるインゴッドは20−30円/kgで中国へ輸出。ちなみにバージンペレットのポリスチレンの価格は約150円/kgである。
 魚箱もフロートも区別なく一緒に熱溶融処理できる。フロートから再生されるインゴッドと魚箱から再生されるインゴッドに差があるわけではない(インゴッドの価格も変わらない)。実際にリサイクル品を作る際にはバージン品と混ぜて製造するため値段にはそれほど影響しない。
(2)の(株)エコメルツは関西電力の社内ベンチャーとして約2年前に立ち上げ、溶剤減容法による発泡スチロールのリサイクルを実施している。リサイクル工場は姫路にある。排出される廃発泡スチロールを現地で有機溶剤に溶解、減容し、溶解したゲル状の溶液を工場に運送する。工場では、プラントでゲル溶液を蒸留して溶剤を回収し、ポリスチレンはペレットに再生、これを樹脂メーカーに販売してリサイクルしている。
 廃発泡スチロールのこれまでの実績は緩衝材(工場関係から排出されたもの)や魚箱(スーパーから回収されたもの)が中心である。
 溶剤にはキシレン、芳香族系の有機溶剤(危険物第四類第二石油類)が使用されている。使用している有機溶剤1に対し、発泡スチロールは約0.8〜1kg溶解する。実際に現地での溶解処理は200のドラム缶(溶剤入り)で行われている。溶剤の費用は600円/(ドラム缶含め)で廃発泡スチロールの排出者が負担(購入)する。トロ箱(1箱約200g)にすると、4t車トラック1台分(トロ箱1500個くらい:約200−300kg)処理できる。姫路だけで処理している。全国の発泡スチロールを処理しようとすれば、全国から回収し、姫路のプラントでリサイクル処理を行う。発泡スチロールが溶解したゲル状の溶液は工場で減圧蒸留され、回収される(回収率は約96%)。残ったポリスチレンはペレットとして再生される。
 有機溶剤溶解による方法ではフロートのように付着物や塩分、水分が含まれていてもあまり影響はないと考えられる。これまで難燃剤入りの発泡スチロールのリサイクルも行っているので、塩分を含んだフロートでも問題はないと考えている。汚れ、付着物の影響については溶解液をフィルター濾過するので問題はなさそうである。フロートについても魚箱、緩衝材と同時に溶解処理、蒸留できると考えている。
 再生したペレットは50-60円/kgで販売され、国内で再生発泡スチロールや断熱材などとして利用されている。


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