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5. 漁網のリサイクル法:リサイクルエネルギー消費とコスト
 漁網はポリエチレンやナイロン、ポリエステルなど単一素材から成るものが多く、他の繊維製品(衣料、布団、カーペットなど)に比べてもリサイクルがしやすい製品である。廃網のリサイクル技術としては、
(1)廃網を溶かしてペレット化し、他のプラスチック製品として再生する方法(マテリアルリサイクル)
(2)化学的に分解(解重合)して元の原料モノマーにまで戻し、再度重合して新品のプラスチックや繊維(網)を製造する方法(ケミカルリサイクル)
(3)高温で熱分解し、燃料油(重油、ガソリン、軽油)として利用する方法(ケミカルリサイクル)
などがある。
 廃漁網のリサイクルを推進するためには、リサイクルにともなう省資源・省エネルギー効果だけでなく、経済性も考慮する必要がある。近年、資源の循環的な利用の観点から、製品の生産から消費、廃棄に至る全過程における環境影響評価手法としてLCA(ライフサイクルアセスメント)分析が広く行われており、この手法を用いた各種繊維製品(衣料、カーペット、布団、漁網など)のリサイクル技術の定量的な評価が試みられている1)
 図5-1にナイロン繊維製品を例とした製品の生産→消費→廃棄→リサイクルの各過程におけるエネルギー消費量と製造コストの見積もり(LCA解析結果)を示した。
 
図5-1 ナイロン−6のリサイクルフローと累積エネルギー1)
 
 
 例えば、ナイロン漁網について、バージン原料(ナイロン樹脂)から新品のナイロン網を製造した場合と廃ナイロン網を溶融再ペレット化したリサイクル樹脂から製造(マテリアルリサイクル)した場合の製造エネルギーを比較して見ると(図5-1)、バージン原料によるナイロン樹脂の製造エネルギーが16.0×106Kcal/トンであるのに対し、マテリアルリサイクルによりナイロンに再生した場合のエネルギー消費量は2.2×106Kcal/トンと低い値となっている。つまり、ナイロン樹脂の場合、石油原料から新規にナイロン樹脂を製造するよりも再生ペレットからナイロン樹脂を再生(マテリアルリサイクル)した方がエネルギー的に有利であることを意味している。
 一方、廃網を熱分解して原料(ナイロンモノマー)にもどしてから再度ナイロン樹脂を合成するリサイクル法(原料化:ケミカルリサイクル)の場合、熱分解によりナイロンモノマーに戻すのにかかるエネルギーは9.2×106Kcal/トンである。それに対して石油からナイロンモノマー(ε-カプロラクタム)を製造するのに必要なエネルギーは14.0×106Kcal/トンである。この場合もリサイクルの方がエネルギー消費量が少なくてすむ。
 このように、マテリアルでもケミカルでも、石油原料からナイロンを製造するよりリサイクルにより再生、製造した方がエネルギー的には有利なことがわかる。マテリアルとケミカルの両方のリサイクル法を比較した場合はどうであろうか。
 消費エネルギー的にはマテリアルの方(2.2×106Kcal/トン)がケミカル(9.2×106Kcal/トン)に比べて有利であると考えられるが、リサイクルにより得られるポリマー(ペレット)の性状が両リサイクル法で大きく違っているため単純には比較できない。通常、マテリアルリサイクルでは加熱溶融処理によりペレットが酸化劣化してしまうため、バージン品に比べ再生ペレットの物性(品質)は劣るとされている。
 ポリエステルについて同様なリサイクル法による製造エネルギー消費量の比較をしてみると、石油原料からバージンポリマーを製造するのに必要なエネルギーは6.3×106Kcal/トンで、それに対してマテリアルリサイクルにより再生ペレットを製造するのに必要なエネルギーは2.2×106Kcal/トンである。一方、石油原料からポリエステルのモノマーを製造するのに必要なエネルギーは4.3×106Kcal/トンであり、ケミカルリサイクルによりモノマーに戻すのに必要なエネルギーは4.4×106Kcal/トンである。ナイロンと同様、マテリアルリサイクルでは、ポリエステルを石油原料から製造するより再生ペレットから製造する方が少し有利(6.3>2.2)となるが、その差はナイロンほどは大きくない。逆に、ポリエステルのケミカルリサイクルでは、リサイクルして原料モノマーに戻す方が石油からバージン原料を製造するよりもエネルギー消費量がわずかに大きい(4.4>4.3)。ポリエステルの場合、マテリアル法でもケミカル法でもリサイクル化の方がエネルギー消費の節約には有効でないことがわかる。
 上述のように、マテリアルリサイクルではナイロンもポリエステルもリサイクル品の方がエネルギー消費量の面では低く、有利であることがわかった。しかしながら、リサイクル法の適否は製造に必要なエネルギー消費量の大きさだけでは判断できない。マテリアルリサイクルで再生された樹脂(ペレット)は着色や不純物の混入や熱劣化などにより品質(物性)の低下が起こるため、バージンペレットに比べて樹脂の価値(価格)が低い。
 ナイロンのマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルのリサイクルコストを比較してみると、マテリアルリサイクル(ペレット化)の場合、先に述べたように熱劣化による品質低下のため再生ペレット品の価格はバージン品の3割〜4割程度の価値しかないとされている。原料ペレットの価格面からはリサイクル品の方が不利となる。一方、ケミカルリサイクル(原料化)の方は、熱分解して再度純粋なナイロンモノマーに戻すため品質の低下は起こらず、またナイロンモノマーは汎用の樹脂の中では価値が高いため、コスト的にリサイクルでも十分採算がとれる。しかしながら、同じケミカルリサイクルでも、ポリエステルの場合には原料モノマーの価値がナイロンほど高くはないためコスト的なメリットは少ない。
 表5-1にナイロンとポリエステルの各繊維製品の各リサイクル法についてエネルギー消費量とコスト解析の結果の比較を示した。
 
表5-1 リサイクルの評価1)
品目 繊維 原料化 ポリマー化 固形燃料
衣料
(一般品)
複合品 ×× ×× ×〜△
衣料
(易リサイクル品)
NY ○〜△
PET ○〜△
漁網 NY ○〜△
PET × ○〜△
◎エネルギー:(バージン)≧(リサイクル)
コスト:(リサイクル品の価値)>(リサイクルコスト)
◎エネルギー:(バージン)≧(リサイクル)
コスト:(リサイクルコスト)−(リサイクル品の価値)≦(廃棄コスト50円)
△エネルギー:(バージン)<(リサイクル)または
コスト:50円<(リサイクルコスト)−(リサイクル品の価値)<100円
×コスト:(リサイクルコスト)−(リサイクル品の価値)>100円
 
 繊維製品の中でも、一般の衣料製品の多くは複数の素材から構成されているため、その場合繊維のリサイクルはペレット化(マテリアルリサイクル)も原料化(ケミカルリサイクル)も技術的には不可能である。したがって、一般の衣料製品ではリサイクルメリットはほとんどない。衣料品の中でもリサイクルを目的として単一素材で構成された易リサイクル製品や、同じように単一素材から成る漁網の場合にはリサイクルが可能である。特に、繊維の中でもナイロンの素材から構成されている製品(漁網を含む)の場合、ペレット化も原料化もリサイクルのメリットが大きく、とりわけ原料化のメリットが最も大きい。これは、原料化では純粋なナイロンモノマーにまで戻してから新品と同じ性質のナイロンポリマーが製造できることと、ナイロン樹脂の価格が他の樹脂に比べ高いことによる。ペレット化の欠点は、先述のようにナイロンを加熱溶融して再ペレット化するため、ポリマーの品質低下が起こり、再生したナイロン樹脂の価格が安くなるためである。ポリエステルの場合には、原料(モノマー)そのものの価値がナイロンに比べ低いため、リサイクル(ケミカル)メリットがあまりない。ペレット化においても同様に、ポリエステルのリサイクルメリットはあまりない(ポリエステルのリサイクルペレットの価値はナイロンに比べ低い)。
 コスト、エネルギー消費ともリサイクルが有利となるのはナイロンのケミカルリサイクルのみである。
 
6. 廃網リサイクルの課題
 前述したように、漁網はほとんどが単一素材から出来ており、他の繊維製品(衣料、布団、カーペットなど)と比べてリサイクルしやすい製品である。リサイクル技術もすでに確立されており、ナイロン漁網のようにコスト的に採算が取れるものもある。しかしながら、現状を見ると廃網のほとんどが焼却、埋立て処理されており、リサイクルされているものはほんのわずか(約10%程度)にすぎない。リサイクル化が進まない大きな原因は、廃網が全国に散らばっているためリサイクルが円滑に推進されるだけの廃網量を安定的に集めるのが困難なためである。
 今後、廃網のリサイクル化を進めていく上で重要となってくるのは:
(1)良質な(汚れの少ない)廃網の確保
(2)分別(単一素材)
(3)廃網の安定的な供給(量的確保)
(4)廃網の回収システムの確立(全国から)
(5)リサイクルコストの低減化
(6)リサイクル品の用途・市場開発
などである。
 
7. 発泡スチロールリサイクルの現状
 2005年の発泡スチロールの生産量は187,000tで、このうち回収対象量(国内流通量)は170,000tとなっている。流通量に対し回収リサイクルされている量は121,000tで、発泡スチロールのリサイクル率は現在71.1%に達している。リサイクルされず単純焼却あるいは埋め立て処理されている量はそれぞれ13,600t(8.0%)及び35,500t(20.9%)となっている。発泡スチロールのリサイクル率は年々増加している(ちなみに、1991年の国内流通量は171,000万tで、リサイクル率は12.6%であった)。
 121,000tのリサイクル量の内訳は、マテリアルリサイクル(プラスチックの原料に再生利用)が71,000tでリサイクル全体の約6割(58.7%)を占めており、サーマルリサイクル(発電などに利用)が残りの約4割(49,500t、40.9%)となっている。ケミカルリサイクル(ガスや油などの燃料化)の割合はリサイクル全体のわずか2%程度(2,500t)にすぎない。
 発泡スチロールの主要なリサイクル法であるマテリアルリサイクルでは、熱や溶剤により一旦減容してからインゴッドやペレットに再生する方式が中心(マテリアルリサイクルの約90%を占める)である。一旦減容化したインゴットや再生ペレットは家電品部材や文房具、擬木などの用途に再生利用される。
 発泡スチロール製品は農水産用容器や食品カップ、緩衝材、断熱建材などのほかに漁業用のフロートとしても利用されている。
 漁業用に使用されている発泡スチロール製フロートは、従来使用されてきた硬質製フロートに比べ軽量で安価であるため、近年、養殖用を中心として全国各地で大量に使用されるようになってきた。漁業(養殖)用に使用されている発泡スチロール製フロートの生産量は数百t程度で、発泡スチロール製品の全生産量(187,000t)に占める割合はわずかにすぎないが、使用後の廃フロートは回収・処理されないまま放置されているものが多く、海洋に流出して海岸に漂着したり、無数に砕片化して海岸に散乱しているなどの環境汚染を引き起こしていることが指摘されている。一旦海洋に流出し、破片化したフロートはまったく回収することができず、海岸に半永久的に残ってしまう。早急に発泡スチロール製フロートの使用の見直しや破砕し難いフロートへの改良、排出されてしまった廃発泡スチロール製フロートの回収・リサイクル化の検討が必要とされている。ここでは、海洋ごみとしての廃発泡スチロール製フロートのリサイクルの現状と問題点について述べる。
 発泡スチロール製フロートのリサイクルにあたって最も重要なのは廃フロートの回収・運搬にかかるコストである。特に、フロートは重量が軽い割には非常に嵩張る(99%が空気で構成)ため運搬費が非常に高くかかる。リサイクル化の費用の大半を運送費が占めるといっても過言ではない。運搬費を安くおさえるためには現地での減容化が必要となる。
 現在、発泡スチロール製フロートのリサイクル法として、熱や溶剤により溶かして数十分の一の大きさにまで減容してから再度プラスチック原料に再生するマテリアルリサイクルと、機械的に圧縮減容してコークス用燃料として利用する方法(サーマルリサイクル)が水産庁により検討されている。
 マテリアルリサイクルの中の熱による減容法と溶剤による減容法の違いについて以下検討する。


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