3)ケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックを化学的に処理し、石油や基礎化学原料に戻してから再利用することをいい、工業原料としてリサイクルすることから、フィードストックリサイクルとも呼ばれる。
ケミカルリサイクルの手法としては、プラスチックを原料の状態にまで戻して再利用する原料・モノマー化、石油製品にまで戻す油化、鉄をつくる際の還元剤として利用する高炉原料化、コークス炉で石炭からコークスをつくる際の原料の一部として利用するコークス炉化学原料化、水素や炭素をガスの状態で回収して化学原料として利用するガス化などがあり、すでにさまざまな技術が確立されている。なお、ケミカルリサイクルでは、処理の仕方等によって副産物が生成されることがあるため、原料の効率的な回収(回収率の向上)とともに、副産物の処理が課題となっている。
(1)原料・モノマー化技術
ケミカルリサイクルにおける原料・モノマー化とは、廃プラスチック製品を化学的に分解して原料やモノマーの状態にまで戻し(解重合)、再度、新たなプラスチック製品を製造するための化学原料にする方法(技術)をいう。
マテリアルリサイクルの過程で作られるフレークやペレットは、異物の付着・混入等さえなければバージン原料と同等の品質を得ることができるが、現実には、さまざまな異物が混入しているため、再生品の品質を新品と同等に維持するには多大な手間と費用が必要となる。そこで考えられたのがこの原料・モノマー化で、回収された廃プラスチック製品を化学的に分解して合成の途中段階にまで戻し、精製した後、再び原料となる樹脂を合成するという方法である。そして、この技術の開発により、廃プラスチック製品からでも石油から作ったものと同等の品質でプラスチック原料が生産できるようになった。
原料・モノマー化技術の開発は、これまで、発泡スチロール(ポリスチレン製品)やPETボトル(ポリエチレンテレフタレート製品)など、さまざまなプラスチック製品を処理の対象として行われてきており、すでに商業化(事業化)の段階に達したものもいくつかある。最近では、廃PETボトルを化学的に分解してPET樹脂を回収し、飲料用PETボトルとして再生する、いわゆる“ボトルtoボトル”のリサイクル技術が確立しており、事業化されている(図3.2-3)。
図3.2-3 原料・モノマー化プロセスの概念図
■プロセスの概念図
参考資料:帝人(株)、(株)アイエスパンフレット
出典)「プラスチックリサイクルの基礎知識2006」(社)プラスチック処理促進協会
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(2)油化技術
油化とは、石油を原料とするプラスチックを製造とは逆のプロセスをたどることで油に戻す技術のことをいい、当初、安価な油を回収することを目的として開発が進められてきた。しかし、次第に廃プラスチックの処理に重点が置かれるようになり、現在では、リサイクルを通じて環境の保全を図ることが主たる目的になってきている。
代表的な油化プロセスは、廃プラスチックを約400℃に加熱して溶融状態にし、そこに改質触媒を投入して分解生成油を得るという方法である。ただ、この触媒処理による油化では、塩化ビニルをはじめとする塩素化合物の処理が問題となる。塩化ビニルは熱をかけると塩化水素を放出するため、その処理が必要である。塩化水素は油化触媒の被毒物質として作用するだけでなく、塩化水素が混入した生成油を燃料として使用すると、燃焼機器に悪影響(酸腐食)を及ぼす。さらに、燃焼条件によっては、ダイオキシン発生の原因にもなる。このため、触媒処理による油化では、脱塩化水素処理が欠かせず、如何に塩素分を除去するかが重要なポイントになってくる(図3.2-4)。
油化処理によって得られる油は、原料となる廃プラスチックの構成によってその組成が異なるが、良質で、収率も高く、石油化学工業用の原料にも使える。しかし、実態は、燃料として使われることの方が多く、現在の油化技術はサーマルリサイクルとしての色合いが濃くなっている。このため、最近では、ケミカルリサイクルとしての油化技術の確立に向け、分解生成油をさらに精製し、ナフサ、メタノールといった化学原料、中間製品にする技術の開発が進められている。
一方、触媒を用いない油化プロセスの研究開発も盛んに行われている。廃プラスチックにアルカリ/水を添加し、常圧分解―加圧分解―凝縮の工程で触媒を使用せず灯油、軽油、重油を得るプロセスや、最近では、超臨界水を用いた全く新しい油化プロセスの開発も進められており、後者は、水以外の触媒を使わない、反応時間が短い、油化率が高いことなどから、この先有望な処理技術として期待されている。
なお、新エネルギー・産業技術総合開発機構の「即効的・革新的エネルギー環境技術研究開発/可燃ごみ再資源燃料化技術開発」事後評価報告書(案)によれば、プラスチック油化技術は、経済性の面では、高炉原料化技術、コークス炉化学原料化技術と比べると、初期設備投資額が大きいため、製造コスト面で不利とされている。また、廃プラスチックの場合、原料収集コストが大きいため、高炉がない地域においては、トータルコスト面で競合できるケースもあると考えられてきたが、実態はプラスチック高炉原料化技術に再商品化入札で敗れるケースが多く、稼働率は低い状況であるとされている。
図3.2-4 油化技術のフロー
■油化技術のフロー図
出典:(社)プラスチック処理促進協会
出典)「プラスチックリサイクルの基礎知識2006」(社)プラスチック処理促進協会
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(3)高炉原料化技術
高炉原料化技術とは、鉄をつくる際に鉄鉱石から酸素を取り除く還元剤として用いられるコークスの一部を廃プラスチックで代替する方法(技術)のことをいう。
製鉄所では、鉄鉱石とコークス、副原料を高炉に入れ、鉄鉱石を溶かして銑鉄を生産する。この際、コークスは、熱を発散しながら燃焼し、炉内の温度を高める働きをする。また、同時に、コークスの炭素分が鉄鉱石の主成分である酸化鉄から酸素を奪い取って一酸化炭素となることから、鉄鉱石の還元剤としても作用している。そこで、プラスチックも主な成分は炭素と水素であるから、使い方を工夫すれば、コークスの代わりとしてプラスチックを利用できるはずである、というのがプラスチック高炉原料化技術の基本的な考え方である。
高炉原料化技術が開発された当初、主に塩化ビニルを除く産業系の廃プラスチックがリサイクルの対象であった。これは、塩化ビニル製品の燃焼時に発生する塩素ガスが炉を腐食させてしまうことが原因であった。しかし、最近では、塩化ビニルを分離除去する技術、塩素を分離除去する技術(脱塩素技術)が確立されたこともあって、塩化ビニル製品を含む一般系の混合廃プラスチックへの対応にもほぼ技術的な目途がついてきた。その上、除去した塩素についても、塩酸に転化し、工業用原料などとして再利用できるようになってきている。
さらに、プラスチック高炉原料化技術には、コークスの場合に比べて温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の発生が少ないという特長があり、そのほかにも、リサイクル効率が高く(80%)、ダイオキシン類の発生が少ないといった特長がある。
代表的な高炉原料化のプロセスは図3.2-5に示すとおりで、家庭や工場から排出・回収された廃プラスチックは、異物や金属などが取り除かれ、細かく破砕された後、塩化ビニル選別機にかけられる。そこで塩化ビニルを含まないプラスチックと塩化ビニルを含んだプラスチックとに分けられ、塩化ビニルを含まないプラスチックについては、造粒機で粒状化された後、コークスとともに高炉に吹き込まれる。一方、塩化ビニルを含むプラスチックについては、脱塩素装置で脱塩素化した上で、高炉に吹き込まれる仕組みとなっている。
「即効的・革新的エネルギー環境技術研究開発/可燃ごみ再資源燃料化技術開発」事後評価報告書(案)2によれば、廃プラスチック高炉原料化技術は、原料収集コストが大きいため、遠隔地になると経済的に見合わないとされている。
2第2回「即効的・革新的エネルギー環境技術研究開発/可燃ごみ再資源燃料化技術開発」(事後評価)分科会資料、「即効的・革新的エネルギー環境技術研究開発/可燃ごみ再資源燃料化技術開発」事後評価報告書(案)、平成14年12月、新エネルギー・産業技術総合開発機構技術評価委員会
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図3.2-5 高炉原料化技術のフロー
■高炉原料化技術のフロー図
参考資料:JFEスチール(株)パンフレット
出典)「プラスチックリサイクルの基礎知識2006」(社)プラスチック処理促進協会
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