司会: それでは家庭、社会、学校という流れで話を進めますがPTAというのは中心になると思います。親でもあるし学校にも社会にも関係するので新しいPTAを作るというのも一つの発想になるのではないでしょうか。まずは家庭に関しての話をしていきたいのですが何故、こんなに親力、親の教育力というものが減退しているのでしょうか。私が問題視しているのは三十代前半の男性既婚率が四十七パーセント、逆に言えば五十三パーセントは未婚だという事です。出生率は一.二六で韓国は一.一で日本は実際には結婚して子供を生んでいる女性は一.八くらいです。それでも少ないのですが本当の少子化問題というのは実は三十代前半の男性が結婚しない、出来ないのかも知れませんがその部分が非常に大きい問題なのではないでしょうか。結婚されていない方が必ずしもそうだという意味ではないのですが自分だけ楽をしたいとか家庭を持つという事に対して距離を置きたい人達が非常に増えていて父権、父親としての父性というものが失われている背景に全て繋がっているような気がします。何故、親の教育力や躾力あるいは道徳観というものが段々落ちてきているのだと思われますか。
長田: 何故、結婚をしないかという答えは簡単で「親が子供を離さない」という理由があると思います。子供などは一度捨てなければならない、うちは立派な子供を育てている訳ではありませんが十八になったら出て行けと言っていますから容赦なし、男の子は一度捨てないとろくなものにならないと思っていますが今の日本人は幾つになっても子供を育てています。私は子供に「給食のおばさんでも召使でもない」と言っていて十八歳になってからはご飯を作りません。二人の子供は九歳も離れていますので義務教育を二回やりましたし弁当も十二年詰めました。男の子は二十歳になっても二十五歳になっても母ちゃんの方がいいに決まっていますので一つの大きな原因はそこにあると思っています。子は親離れしたいと思っていても親が子を離さない、したいと思っているけれどさせないのではないでしょうか。子供というのは必ず親から離れたい時があるのですが、その時に親が離さないと離れて欲しいと思った時には離れない子供になってしまうのです。
原田: 三十代男性が半分も結婚しないという原因はモデルがないからだと思うのです。子供達にキャリアの職業教育をやった事があるのですが、その時にサラリーマンについてどう思うか尋ねてみると「ペコペコしている」「給料安い」「しんどい、休みがない」「夢がない」というような答えが返ってきました。そこで伝説のサラリーマンと呼ばれるおじさんに登場してもらい生徒達に質問をさせました。彼は「仕事はきつくない」「給料が安いと考えた事がない」「休みたくない」と全く違う答えが返ってきました。「結婚したら気を使って子育てが大変で仕事に負担があって奥さんにお金を持っていかれてしまう」というイメージが知らない内に蔓延しているのではないでしょうか。本当は結婚生活の中に素晴らしい愛情があるというプラス面が世間の情報として出てきにくくなっている気がします。マイナスのモデルに流されないで幸せに生き生きしているという生活モデルをもっと勇気を出して若者に提示して結婚はいいものなのだと見せてやればいいのではないかと思いました。
川口: 私は高校の教員をやっていた時も学会で論文を発表していましたので家には全くいない亭主で三人息子がいるのですが多分、動物園に連れて行ったのは一度くらいしかないと思います。ところが小さい頃からお父さんごっこでは机で勉強する姿をやっていたと家内から聞きまして感動した覚えがあります。夜は飲み屋に行って土日は野球部の顧問と研究で家には全くいませんでしたが、しゃべらなくても子供は感じるものがあるのだなと思いました。三男が私と同じ歴史をやりたいと言ってくれた時には感動しました。小さい頃からほとんど口も利いた事がなくて帰ると子供達は寝ていましたのでビデオカメラに向かって「皆、元気?」と吹き込んだ事もありました。私の父は明治四十三年生まれで大東亜戦争の影響で昭和二十六年にシベリアから帰ってきたものですから私も未だに息子達へ「俺が正しいと思うのだから黙って聞け!」と言います。見ていると子供達も友達に偉そうな事を言っていますので、そうやって悪いDNAというものは繋がっていく、でもそれでいいと思っています。格好つけて偉そうな事を言う必要はなくて「お父さんはこれでいく、文句のある奴は言ってこい!」、教員をやっていた時もこれでやっていて色々あったので強くは言えませんが。
長田: そこに賢い嫁がいたからよかったのです。「俺の言う事を聞け!」という事に対して「何よ、あんなお父さん!バカよ」と言ったら駄目だったのですから嫁のお陰だと思って感謝して下さい。
吉田: 私は結婚してまだ十四年ですが、やはり妻には感謝しています。それは中一、小六、小二の子供達がしっかりと育っているのは妻のお陰だと思うからです。長田先生の講演でもありましたが私自身も肝っ玉な母から教育を施されました。豪華ランチを食べに行ったかどうかは定かではありませんが母は本当に父親を立てていて今、父親を見るとそんなに完璧ではないな、やる事はやっているなと考える事もあります。私の妻も同じような事をやってくれているお陰で子供達は今のところ素直に育ってくれています。自分の妻とか奥さんという以前に人ですから人を尊敬する、理解するという気持ちが子供に伝わっていっているのではないかなと思います。
原田: 我が家は教師二十年のうち、前半の十年間に付いていたあだ名が「動く母子家庭」でした。もちろん家や嫁さんが嫌いだという訳ではなくて右も左も分からなかったので現場で夢中でやっていたという状況がありました。中三と小二の娘達は私の事が好きと言ってくれるのですが関わりの回数や時間がたくさんあるから上手に育つというのではなくて関わりの質やちょっとした工夫、ポイントを捉えていったら忙しく仕事にまい進している中でも育ってくれているのかなと思います。
長田: どんな団体でも会社でも女房役の腕がよろしければ上も下も育つ、腕が悪ければ上も下も育たないのです。
司会: ホンダは女房役の藤沢武夫さんという名副社長がいたからホンダになったと言われていますし、ソニーも盛田昭夫さんという女房役がいたから井深さんは好きな事が出来た、そういう要素が強いのでしょう。親力をどうやって高めるかは、よき女房をもらうという事なのでしょうか。しかし今は「私は専業主婦だけど家事もフィフティーフィフティーだよね」と言う人がいますね。
長田: それは女がアホ、それなら最初から子供など産まなければいいのです。女は子供を産んでご飯を作るのが楽しみなのですから文句があるならハナから親になるなと言いたいです。こういう会に参加していらっしゃる方はいい親ですが来ていない人に聞いて頂きたいのです。
司会: きちんとした親だからこういう会に来ているけれど、きちんとしていない親は来ていないので皆さんの役目は周りに影響を与えて下さいという事です。この会は無料ですから無料という事は責任があるのです。得た事を必ず周りの人に、まずは家庭に伝えて下さい。
ある統計によりますと今現在、結婚している六十パーセントくらいのカップルが「出来ちゃった婚」で、それはそれでいいのですが、やはり離婚率が高いのです。
長田: テレビで離婚を勧めるバカな女がいますから困るのです。私のメンタルケアでは母子家庭の問題は治せない、私では無理です。酔っ払いでも何でも子供が問題を持ったらやはり男は必要です。
司会: 要するに子供に対する教育というのは「父親、母親、兄弟姉妹」という構造の中の一つのヒエラルキー(階層)が必要だという事ですか?
長田: 色々な考え方があると思うのですが私のメンタルケアにおいてはお父さんと組むからです。お父さんは一度考えを決めたら動かないからでお母さんはウロウロ動きます。親父と私が一つに組んで問題を直していくとすごくよいのですが母ちゃんと私が吠えても子供は聞きません。
司会: 三十代前半の男性が結婚しないのと同じように父親としての尊厳や威厳といったものに対して今の三十代、四十代の男性も含むかも知れませんが、そういう思考はないのではないでしょうか?父親というよりも子供に対して嫌われたくない、普段いないからますます叱りたくないという構造があるように思うのですが。
長田: 男が最近、弱すぎるので少しは格好つけろと言いたいです。やはり家庭を顧みないで社会のためにバリバリ働くのが男だと私は思います。旦那が女房を大事にすれば子供は放っておいても女が育てます。男が子育てに手を出す、出さないは自由ですがピリッとしたものを家庭の中に持ち込む、締めるのは男なのです。
司会: 最近は両方を女性がやっていますね。
長田: もちろん両方持っていますし私は男っぽいですが私自身の子育ては親父が心配して買ってやれと言ったからお前に買うのだと言っていましたし旦那にサプリメントを買う時は子供が心配していたと真ん中に入って嘘をついていました。だから仲の良い息子と旦那を見て達成感に浸る事が出来る、これが女の幸せです。私が言っていなかったら多分、両方で吠えまくっていたのではないでしょうか。女はそんな知恵を持って家庭の上と下を取り持つのが使命だと考えています。
司会: 基本的に長田家というのは本当の階層は上が長田さんで子供に見せる時の階層は父親を強いものとするという事ですね。
長田: 女は基本的に家庭の中では強いものですが父親の悪口を言うなという事です。
吉田: もちろん個々の家庭において実質は違うと思うのですが大切なのは「役に徹する」という事ではないでしょうか。例えばお母さんは母、妻、女性と色々な顔があり専業主婦といっても色々な役をこなしています。男も社会で仕事をしていて父親、男とやはり何役もこなしています。それを自分個人のアイデンティティとして完璧にやろうとしたら精神障害を起こすのではないでしょうか。今は母親役という女優なのだ、という「背中のスイッチ」のような考え方が男性にも必要になってきた社会なのではないかと考えています。
親の教育力というのは家庭の教育力だと思うのです。家庭とは社会の最小単位だという風に言われますが、それは男と女が好きあって結ばれ、この時点では嫌いになったら簡単に別れられて独身に戻れ自分の好きな選択肢に進めます。しかし子供が出来ると昔から「子はかすがい」という言い方をするように、そこで思考が働くのです。「その子のため」か「自分のため」なのか、私は学ぶ機会が生まれてきていると考えていて、そこをスルーすると結局は自分の人間としての成長もスルーする事になるのではないでしょうか。家庭の教育力とは家庭の教育の中で培ったものが次のもう少し大きい社会に行った時に人間関係、コミュニケーション能力や色々なものに派生して行くのではないかという気がします。
司会: 家庭の中での役割を言うのは、やはりお母ちゃんなのでしょうか。役割分担をやらせる事が大切なのですね。
原田先生、先生にとってみると子供はかわいそうだ、この親は駄目だよなという時、「駄目親」に対してどういう教育をすればいいのでしょうか?
原田: これも地域によって差はあると思うのですが大阪という街はえげつない人がたくさんいますのでパチンコに連れてきていた赤ちゃんが駐車場の車の中で熱中症になって死んでいたという業務上過失致死という事故がありますが、そうなると分かっていて殺している親もいます。但し私達は駄目な親だからといって攻撃すれば結局は向こうがますます硬化して足を引っ張り動いてくれませんからもっときつくなりました。最終的な苦肉の策で子供の教育に徹して「冷静に見させる目」を育成して親を冷めた目で見させて乗り越えさせるという教育をやりました。もう一つは親の人間関係を使って言う事を聞かせられる人から攻めてもらうという形をとりました。生徒をしっかりと教育して親を乗り越えさせ自立させるのには時間はかかりましたが実りがあったのではないかと感じています。
司会: 長田さんは埼玉で「家庭からの教育再興プロジェクト」を師範塾の理事長である高橋先生と一緒に実施されると伺いましたが概要を教えて頂けないでしょうか。
長田: 母親を教育するための全国的な講演活動で親の会の方を引き連れて色々なところで講演し事実を話すというものです。
司会: それでは次に社会教育についての話題に移ります。家庭ならびに学校教育は問題になっていますが一番問題になっているのが社会教育のように感じます。企業の教育という意味ではなくて地域社会という事ですが電車内で化粧をしているのはどうかといった事に文句は言うけれど注意していないとかタバコを吸っている高校生を見てもなかなか注意が出来ない、注意をしたら殺されるというような事件も起こっていますが、ここでは特にPTAに注目したいと思います。今のPTAは皆が嫌がっていて活性化していませんがどうしてでしょうか、吉田さんも元々は嫌だったと言われていましたね。
吉田: 嫌々でもやってみたら実は楽しかったのです。やはり、人と関わり合いたくないという人も多く、それは関われば責任が発生するからです。でも人のためにやっている事が最後には自分のところに戻ってきているのです。ボランティアとは元々「志願兵」という意味で「自分でやりたい」と手を上げてやるので強制するものではないのです。最初は人のために、つまり仕方がないからですが結果、誰が何を一番得たかと言えば自分が色々なものを教わっているのです。しかしそれは目に見えないものですし時間もかかりますので敬遠されるのではないかと思います。
司会: 一般的には企業における庶務的な業務や子供が何かあった時に守るため、イベントがあった時には駆り出されるというような形でPTAは捉えられているようですがPTAは親が学ぶ場であるからアフタースクールの中に親が入っていって教育というものを皆でやろう、子供が勉強している期間は親も一生懸命に勉強しようという新しいPTA像というものはありえないのでしょうか?
吉田: 私がPTAに入って一番よかったと感じるのは普段、子供と接する時間がないのですが強制的に学校へ行かなくてはならないので学校内の子供の姿が見えるという点です。また学校現場に入るとがんばっていらっしゃる先生は本当にがんばっているのが分かります。でも表面上はがんばっていない先生との区別はつきませんし、むしろそういった先生の方が保護者受けよくやっているという事もあります。それが見えてきて企業の場でもそうだと思うのですが現場がどうなっているのかを把握しない限り手が打てないと思うのです。現場に入れば問題意識が生まれますし具体的な行動が起こせるので意識改革が出来ればと思います。PTAが先生をバックサポート出来る組織になれるのがベストなのではないでしょうか。
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