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 三歳の子供が生まれて初めて蛍を見た時、右脳左脳とも非常に活性化しています。自然と触れ合うと前頭前野が非常に活性化するのです。同じ子にアニメを見せた時は脳がほとんど働きませんでした。小さい頃からアニメーションを見せるという事は子供の脳の働きにはあまりよくないのです。ベートーベンやモーツアルトを聴くと前頭前野が活性化して夢を見るような部分が動きやすくイメージ化しやすいのです。読書を十五分、三十分するという事は脳が非常に活性化するという事を意味しています。特にこの場所は善悪の判断を決定する部分ですので普段でも音楽を聴く時間を作られるとよいと思います。手塚治虫さんはベートーベンを聴きながら作画したそうですし発明家のドクター中松さんも閃きはベートーベンを聴いて得るそうですから、そういった意味でも前頭前野は活性化しているのだろうと思われます。黙読でもブロー下野(言葉を作り出す場所)が働いています。ゲーム脳タイプの人はしゃべりませんから読書をさせる事によって黙読でもこの部分が活性化されますので会話が出来るようになるのではないでしょうか。
 前頭前野は一つに「不適切な行動を抑制する」という働きがあります。例えば相手を殴ろうとする行動に対してブレーキの役割を果たすのです。それから突発的な状況から瞬時にどういう手順で逃れたらよいか、あるいは目先の事に捕らわれずに長期的な利益を選択する場所です。二つ目は「物事を頭に浮かべて計画や概念を作り出す」、三つ目は「感情を体験して知覚に意味を持たせる」、四つ目は「注意、集中」、思考に波長を合わせて物事を深く考える場合に関与してきます。だから前頭前野とは「人間としての行動を規制している場所」だと言えます。具体例を挙げると一八四八年九月十三日の夕方四時頃、イギリスで鉄道工事の主任をやっていた当時二十五歳のミスターゲイルさんが爆発事故に巻き込まれ鉄の棒が吹き飛んできて頭に穴が空いてしまいました。一八四〇年代当時は医学界においておでこの部分の脳がどういう役割を果たしているのか全く解っていなかったのですが、この事件によって人格に関する場所だと判明したのです。事故の記録を読むと「両脇を抱えられて歩いて病院に行った」と記載されていますので前頭前野は歩行には問題はない場所という事になります。そして知能指数も変わりなかったそうですが人間性、人格が大きく変わったそうです。事件前、彼は真面目で勤勉、人柄が良かったそうですが事故後は「会社は行かない、全くやる気がない、無計画、汚い言葉を吐く、突然切れる、顔が子供っぽく変容した」と記載されています。そして十年間生存した後、三十五歳で全身痙攣して他界したそうです。この人の頭蓋骨と鉄棒は医学史上、貴重な事故だったという事でハーバード大学医学部の博物館に永久保存されています。前頭前野というのは人格、行動も含めて非常に大切な場所だという事が解ったのです。そこで今、我々が開発した機械で前頭前野の活動を記録しているのですがベータ波は前頭前野が他のどの部分においても一番活動が高いです。前頭前野というのは人間の司令塔ですから、いつも働いていないと咄嗟の事に関して状況判断出来ないのです。それが認知症になると活動低下してアルファー波と重なり無表情、笑わない、注意欠落という事が起きてきます。認知症の七十八歳になる女性に「何歳ですか?」とお尋ねしたら「十八歳です」と答えました。それ以上の記憶がなくなっていてお会いして五分後、再び会っても会った事すら記憶にないという状態でした。
 クボタ先生が本の中でこんな事を書いていらっしゃいます。「知らない間に四つの能力を磨くゲーム脳の魅力」と絶賛しているものです。「テレビゲームは非常に優れた道具だ。脳に利益をもたらす事はあっても害を及ぼす事はないとまず断言しておきたいと思います」というもので「テレビゲームは脳に害を及ぼす事はあっても利益をもたらす事はないと考えている人はテレビゲームに熱中している子を叱る前に自分の能力が低下している事を考えた方がよいのではないでしょうか」、要するにゲームは素晴らしいのでたくさんやりなさいと推奨しているのです。何を根拠にこういう事を書かれるのか脳化学者で著名な方ですのでびっくりするのですが、あるゲーム会社と関係があるのではないかと疑ってしまいます。元々、子供は皆がいい子ばかりなのです。それがゲームなどに依存症になってしまっておかしくなってしまっているのです。ゲーム中は認知症と同じ状態の脳になり止めれば戻ります。依存度が高いほど認知症でも考えられないほどのアルファー波の低下が認められます。笑わない、しゃべらない、忘れ物が激しい、そしてスイッチが切り替わったように突然、豹変します。わめいたり壁をけったりと突然、暴れだすのです。ゲームをした事によって変わってしまうので「ゲーム脳」と名付けたのです。
 目から入った情報は「視覚野に入って空間位置関係を認知して前頭前野→形、色を認識して側頭連合野→運動連合野から運動野に入って脊髄を通って手が動く」というのがノーマルな状態です。しかし人間には適応能力がありますから目から入った信号は視覚や形、空間位置関係を認知して脊髄を通ってすばやい動きが出来るのは神経回路が重複するからです。前頭前野が使われなくなると発育不全をおこして扁桃体に焼き付けられて目から入った信号は視床を通って一気に扁桃野に入って行動をとります。だからホームレスを見ると何だかムシャクシャしたから簡単に殺すという事も出来る訳です。それは行動が監視出来ない状態になっていて動物と同じように本能的に行動しているのです。大人を含めてこれが今、増えてきたという事が言えます。視覚の影響を受けるものは極力避ける、私もパソコンは一時間以内にしていますがゲーム脳の場合は目から入った情報はウェルニッケまでで後は行かない、ノーマル脳の場合は更に信号が行ったり来たりして声を出すという行動になるのに脳のネットワークが視覚的なものによって作られない、堀江さんは捕まって狭い部屋で本をたくさん読んだから心が働くようになったと思うのです。そして外に出たら山に行きたいと言ったそうですが自然に触れたいというのは人間の本能なのです。出所してから手書きの文章を出した、文字を書くというのは人間の原点なのです。最近はIT化されて文字を書かない事が多いのですが漢字は確実に忘れていきます。だから一日一回は日記を書く、それも筆圧、スピード、美的感覚が養われる罫線のない日記帳に縦書きで書いた方がよいのです。そういう事をやっていかないと長い人生においてますます日本人は漢字が書けなくなっていきます。今の世の中は非常に便利になっていて携帯電話でのメールも一度打てば学習能力機能がありますので文章が残りますから段々と脳を使わなくなってしまうのです。そういうものを子供の時から使っていると大人になってからいざという時に適応出来ないという問題が出てくる可能性が高くなります。
 アジア各国でゲームをやりすぎて死んだという例があります。日本ではまだ亡くなってはいませんが殺人者は出ています。そういう風に人間をおかしくしてしまう可能性が非常に高いという事です。赤ちゃんの脳は細胞体だけでほとんど枝が出ていませんが二歳頃になると枝があちこちに伸びてネットワークを形成しています。発達曲線に注目すると三歳で七十パーセントくらい出来上がりますので「三つ子の魂、百までも」という諺がありますが三歳までの育児は非常に重要なのです。私は二〇〇二年八月に地方のテレビ局で生放送の番組に出演したのですが「一歳半からゲームをやらせています。現在八歳でゲームをやるたびに口から泡を吹いて手足が痙攣しますが、どうしたらよいでしょうか」という相談がありました。病院で六回も脳の検査をしたけれど全て正常でした。大体、十歳で脳の九十五パーセントが出来上がるのですが、こういう時期に脳をどう使ったらよいでしょうか。子供時代から漢字を調べる時は電子辞書、文字を打つ時はパソコンであったら脳は完全におかしくなってしまいます。だから物を考えるという事を十代の間にしっかりとやっておかなくてはいけません。育児は遺伝的要素が六十パーセント、環境的要素は四十パーセントと言われています。推定八歳のオオカミ少女は村に連れて帰られてからも食べる時はオオカミと同じように皿に口をつけて食べ、歩く時は手と膝をついて歩いていました。この子が二足歩行出来るようになったのは五年後の十三歳で十七歳まで生存したそうですが覚えた言葉は四十語足らずでした。普通、三歳児で九百語くらいを覚えるのですが人間としての生活がなかなか出来なかったそうです。二歳までテレビを見せたら駄目だというのはこれ以上、脳のネットワークが作られなくなるからです。見たものが何であるか理解出来ない、脳がおかしくなるだけなのです。聴く耳を持たなくなりテレビをつけると落ち着いて消すと落ち着きのない子供に成長します。聴く耳を持つためには語りかけ、たくさん本を読んであげる事が重要です。象さんは鼻が長いと語りかけると赤ちゃんでもウェルニッケ(言葉をファイルしたり記憶したりする場所)とブロー下野(言葉を作る場所)、それから運動野のネットワークが働きます。目を見て語りかけてあげると赤ちゃんは母親の口元を見て自分も一生懸命に声を出そうと努力します。それは赤ちゃんなりに脳のネットワークを作ろうとしているからなのです。アメリカで日本人の父親と韓国人の母親との間に生まれた十四歳の医学部学生はIQが二〇〇ありました。妹もIQ二〇〇で、どういう教育をされたかというと生後八ヶ月の時から毎日十冊ずつ本を読んで聞かせていたのだそうです。つまり聴く耳を持っているという事で、小さい頃は語りかけが大切だと思います。これがテレビ漬け、ビデオ漬けで育つと幼稚園になっても落ち着きのない子になって言い聞かせても聴く耳を持たない、だから語りかけは重要なのです。絵本を見せて「象さん、鼻が長い」と語りかければ脳にファイルされてネットワークが作られていくのです。
 生後八ヶ月の子は生後四ヶ月から毎日四時間、テレビとビデオを見せてから笑わなくなったのだそうです。脳波を撮ってみると右脳の動きが低下していたので、それ以後はゼリークッションというもので運動をさせるようにしました。今は三歳六ヶ月なのですが脳波を測るとアルファー波もベータ波も非常に安定しました。そしてテレビをつけていると「テレビ、ねんね」と自ら消してしまうそうです。赤ちゃんなりに刷り込みをされますから、ある意味ではきちんとすべきだと思います。それからセロトニン欠乏、無表情、姿勢困難、痛みに過敏になる、不眠症、自律神経の乱れ、集中力低下などを引き起こしますので運動は非常に大切なのです。セロトニンをしっかりと出して脳の働きを調節する事が大切です。私の話はこれで終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。


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