6.「親が変われば子供は変わる」講演録
講師:長田百合子
2006年 師範塾親学フォーラム・イン秩父 講演
「親が変われば子供は変わる」
塾教育学院メンタルケア部門代表 長田 百合子先生
皆さんこんにちは、名古屋の母ちゃんがやって来ました。私は大学教授でもありませんし医者でも学校の先生でも学者でもない、ただのおばさんです。私は二十九年前から問題を持っていない子の塾を始めました。私は教育の機関において学校はトップであるべきだと考えていて学校よりも先に授業を進めてはならないと思っていますので学校の教科書を持って来させて今日は何ページまでやったかを聞いて解っていないところを教え込んでいくというような補修形態の塾を今まで愛知県内に二百八十件以上開設してきました。その傍らメンタルケアをやっているのですが何故そういう事になったかというと塾の営業形態が変わっていて普通は新聞広告にチラシを入れるのですが私共は土曜日と日曜日、夏休みや冬休み、春休みに各家庭をご挨拶回りしてきました。家庭に塾を選ぶ権利があるように受け入れるこちらにも選ぶ権利はある訳で安かろう悪かろうではまずいので先生と生徒の気持ちが一つにならないと何をやっても無駄ですから、そういった意味で無理のないように私が一軒一軒ご挨拶回りをしてお越し頂いているので非常に和気あいあいとやってきました。そうやって二十九年前からご挨拶回りをしていたら既に不登校の子がいました。私自身、中学校三年間はいじめられ続けた人間で友達が一人もいなくて、その反動で今度は高校一年生から二年生まで岐阜県内の各所から見物人が来るほどのワルになりました。時効だから言えますが酒は飲むタバコは吸う、シンナーも吸うといった具合でしたが学校には遅刻も早退も欠席もせず行く、でも勉強は何も出来なくて数学などは特にひどくて百点満点中十点以上取った事がないというようなバカでした。そして高校二年生の終わりに今の旦那に会った事がきっかけで更生していった訳です。だから問題を持っている子を見ると人の何倍も燃える性質になってそういう家に何度も足を運んでいるうちに講演やテレビ出演の依頼が来るようになり現在に至っただけの話でメンタルケアをやろうという目的があってやってきたのではありませんでした。ただのおばさんではありますが現場に関しての自信はあります。子供の問題は診察室や相談室、フリースクールなどで起きているのではなくて家庭という現場で重苦しく生々しく起こっているのです。相手が子供ですから体(てい)のいい事を言っても動く訳がない、人間の心に効く薬は人間の心なのです。そして心というのは人情であったり熱意、真啓であったり親心といったもので私は立派な人から見れば「アホかお前は」と言われるようなところで生きてきましたし子供の問題は哲学的なもの、口だけではなくて子供と共に具体的に動いてあげて初めて子供がやらなくてはならないと動いていくと考えています。私はほとんどの引きこもりの子供は病気ではないと思っています。要は熱い、弾力のある毅然とした態度でグイグイと引っ張ってくれる知恵のある大人を子供は待っているのに誰もいないからです。今の世の中の大人は何だか知らないけれど体がよくて優しくて関わりを持たなければならない時に逃げる人が何と多くなった事でしょうか。そんな中で子供が歩き出すきっかけや知恵がないから引きこもっているだけなのです。それを病気だの好きなようにさせてあげましょう、ゆっくり時間をかけて見守ってあげましょうと言う、見守るというのは子供がここでスタートを切ろうとした時に余計な事を言うと自立のためにならないとぐっと我慢して後ろから注意して見ておこうという事であって部屋の中でイライラして肩を落としている子供を見守るというのは変なのです。
それから「全てを受け入れるように」と言いますが病気になろうが不登校になろうが「やってはいけない事はやっては駄目」と教えるのが親である大人の責任なのです。先日、テレビを見ていると心理学者が「万引きをやった子を怒ってはならない。心理学的な裏付けがある」と言っていましたから、こういうバカな学者が日本を駄目にすると私は思いました。日本人の昔からの伝統、道徳といったものを子供に熱意を持って真剣に毅然とした態度で教えるのが親である大人の態度なのに子供の人権とは何でしょうか。私だってちゃんと人権を持っているから子供を熱意で見られる、偏った人権を与えているから学校の先生は授業が出来なくなってしまっています。子供は半人前以下の人間なのですから叱らなくては教育が出来ないのです。それを親や人権団体がうるさいから先生は叱れなくなってしまうのです。私共の塾でも遅刻してくる子供や宿題をやってこない子がいますので居残りさせると親から「うちの子だけ居残りさせるのは恥ずかしいから止めてくれ」と電話がかかってきます。それなら遅刻させるなとこちらが言いたい、そういう風な中でとにかく人権と言う、ただいたずらに人権を与えてもやる気の出ないような社会なら子供は困るのです。そんな小難しい事ではなくてさわやかな思いで生きられるような、やる気がどんどん出てくるような社会を子供は願っているのです。私は一度だって子供に殴られた事はありません。何故なら「社会は子供が思っているほど甘くはない。私が今、お前についていてあげられる時期に悪いところを直してあげなければ社会に出て行った時に苦しいんだ、だから真剣になって怒っているのだ」と言うからです。今までこうやって怒った人間がいたか、私はお前がかわいいから怒っているんだ、そういう人間を殴れるなら殴れ、でもそんなお前のために泣く人間がいるかと叱ってきました。子供は少しでも自分の将来を思って親心を持って叱ってくれる大人にはかかってきません。それよりも体のいい事なかれで妙に優しい大人の態度に傷付くのです。
自由にしても裏返せばそれは責任なのです。結婚一つを取ってみても親が違う、育った環境が違う、性別が違う、その男と女が結婚するのです。女はいつの間にか召使い扱いですし男は日曜日に小さい思いをしながらゴルフに出かけなくてはならない、それでもまだ足らないと子供を作ります。子供など作ればもっと不自由で毎食ご飯を作ってやらないといけないし洗濯物は増える、旦那は子供が生まれた途端に威張り始めて冗談ではありません。でも何故、そんな不自由な生活を多くの人が求めてやまないのか、それはその生活の中に人間関係が生まれるからこそ幸せがいっぱい見つかると知っているからなのです。だけど人権や自由といったとにかくひどい中で教育が成り立たなくなっていってしまったのです。いつも三時間目くらいに登校するヤンキーの子が二時間目くらいに登校したら「今日は早かったね」と言う情けない先生もいて普通は金髪に腰履きパンツのヤンキーだったら校則にあった格好で出直して来いと言うべきなのに翌日、親が「うちの子供にも人権があるのに。訴えてやる!」などと偏った考えで騒ぎたて、あるいは心の病気だと言えば勝つ時代になってしまったのです。私が化粧を落として髪の毛を振り乱して精神科や心療内科に行って「最近、肩が凝って毎朝、起きるのが辛いし仕事に行くのが嫌だと思うようになりました」と言えば人格障害という名前が付くと思います。インターネットを開けば「生活保護110番」というようなHPがありますが、そこには「精神科などで病名が付いた人に関しては生活保護を受給する権利があります」と書いてあるのです。また、ひきこもりが作っているサイトには「あそこの精神科に行けばすぐに病名が出て診断書を書いてもらえば簡単に生活保護が受けられるよ」というような書き込みもあり年金よりはるかにすごい生活保護がこれからドンドン増えると思います。それは我が子を自立させられない親の尻拭いを私達の子供や今の若い子達がしなければならないという事なのです。そんな事実を黙って見ているのか、こんな世の中で若者はどうやってやる気を持てるでしょうか、だから私は声を大にして言っているのです。確かに子供に人権はあるけれど生きていれば皆に権利があるのです。日本人は権利を頂いているという考え方だったのに、これからは子供の問題が増えるばかりだと思います。それから不登校になったら心療内科へ行くというコースも出来ています。病名が出れば薬が出る、向精神薬(こうせいしんやく)というのは薬物なのです。『警察白書』にも掲載されているのですが覚せい剤、マリファナ、シンナー、トルエンなどは薬物、向精神薬とは睡眠薬や精神安定剤です。例えば子供が不登校になって一日中、引きこもれば「寝られない」と言いますので睡眠薬が出ます。人間も動物ですから動いて疲れるから眠れるし動かなければ精神的に不安定になるに決まっているのにイライラすれば精神安定剤、だから通院すれば多くの子は薬を飲んでしまうのです。私は向精神薬の詳しい事は分かりませんが二十歳以下の心の形成も成り立っていないような子供が飲んでしまうと薬を飲んでいる子と飲んでいない子では全く違ってきます。私は向精神薬を飲んでいる子は対応しません。先日もテレビで「二十歳以下の子供に向精神薬を飲ませると自殺する確率が高くなる」と言っていましたが私は昔からそう思っていました。
それでは具体的な不登校はどういうものかについて少しご説明したいと思います。私は相談室に呼ぶというような事はせず全て家へ赴いて現場で子供達を見ています。寮も開設しているのですが、ここでは親と暮らしているよりは預かって訓練してやればいいという子のための施設です。訓練の内容は「学力、体力、性格、生活」の四つの改善を直接的にやっています。社会に出すためには野菜などを作らせるのも一つの手ではありますが学校へ帰れば勉強が遅れている訳ですから、まずは学力の改善を図ります。私は非行に走りましたのでヤンキーなどの子は得意なのですが相談は受けても世話はしません。不登校の子供を立ち直らせるのが一番上手いのは不登校から立ち直った子供しかいませんのでメンタルケアの現場には経験者の子供を連れて行きます。とにかく非行に走っている子供は手がかかって仕方がないので鳶や大工などの現場仕事へ出してボランティアで預かって頂きます。それから潰れすぎていて大自然の中で立ち直らせるしかないような子は北海道の牧場に預かって頂いて馬や牛などの動物と関わりながらメンタルケアを行うのです。私が直接やっているのは不登校、引きこもりの子供で二十歳以上の子供は親の質がよければ預かりますが二十歳以上の子供もなかなか直りませんので二十歳以下の薬物を飲まない、覚せい剤なども絶対にしないような子供達を預かっています。
十五歳で入所した子は当初、体重が九十キロありました。私共は入寮して二日目に健康診断を行うのですが彼は肥満度四十二パーセントと言われました。次に採血をしようとしたのですが体中が脂肪だらけで血管を見つけられなくて採血が出来ませんでした。私は医者ではありませんので理由は分かりませんが動きが悪くなるとアトピーがドンドン出てきます。十人中五人から六人が生活習慣病かその予備軍です。例えば脂肪肝、「食っちゃ寝」の生活をしていますから肝臓周りに脂肪が付く、それから高脂血症は血管の中が脂肪でドロドロになっている状態です。高尿酸症、アレルギー性の病気も多く見られます。そして骨の成長が著しく影響を受けるようで先日も十一名の子を検査しましたが股関節がすごく弱くなっていました。
次に入寮前における親の報告書に「母親がひどく言い過ぎて包丁で刺されるところでした」「アトピーがひどくなった」という子をご紹介します。元々太っていたのですが段々と太ってきた子で勉強が大嫌いで何もしていない、起きたら食事をしてテレビを見てゲームをするという繰り返し、性格は自分勝手でワガママで自己中心的という子でした。この子は寮に連れてきて二年経つとだいぶ痩せました。入寮すると理由ははっきりしないのですがアトピーは治ります。朝六時に起きてずっとスケジュールを組んでありますので忙しく過ごすからではないでしょうか。痩せた引きこもりと太った引きこもりは、はるかに太った子の方の問題が深く、それは「皆は社会に行っているのに僕は出られない」という罪悪感の中ではあまり食欲は湧かないものですし、もう一つは普通はいつ誰が誘いにくるか分からない、どんなきっかけで出られるか分からないから子供なりに太らないようにと、ある程度の健康状態をするのですが平気で食べて太れるという事は自己管理が出来ないという意味なので問題が深いのです。今、彼は三食摂ってすごくよい健康状態なのですが一年位前までは何度言っても夜、盗み食いをして食欲が止まらないくらい旺盛でした。それから引きこもりの子はすぐに寝る事が出来て授業中などに居眠りを注意すると謝るのですが、またすぐに睡魔が襲ってきます。現在、彼はコンビニでひと月十六万くらいを稼ぎながら愛知県で一番の県立の夜間高校に通っています。
C君は入所当時十五歳、体重が百十五キロで健康診断において尿が要検査になりました。備考欄には「脂肪肝によると思われますが肝機能に異常あり、治療要」とありました。実はこの子は父親が医者でしたので知り合いの医者と相談して入院させた事があったそうですが入院しても治らなかったのです。引きこもりの脂肪肝は身体を動かさなくてなったものですから運動しないと治らない、でもお医者さんが動こうねと言っても動かないのです。それからGOT基準値が八から三十八なのに対し五百三十七、GPTは基準値四から四十三に対し六百七十五という数値でした。この子がきちんと生活をし運動も行うと三ヵ月後にはGOT三十一、GPT四十六とめざましく改善が見られましたので若いとはこういう事なのです。いかに子供が動く事が必要か、動かなければならない時にやらないと病気を招くのだという事を頭の中に入れて頂いて皆さんの周囲に引きこもりの子供がいらっしゃいましたらお父さんやお母さんにこういう事実を伝えて頂くと大変よいと思います。お医者さんも「規則正しい生活と適度な運動がいかに子供に大切か勉強になりました」とおっしゃっていました。以上、規則正しい生活をして三食バランスの取れた食事をすれば子供の体などはすぐに治ってしまうのに一たび歯車が狂えば恐ろしいという例でした。
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