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1.2 欧州のセキュリティ対策の動向
1.2.1 セキュリティ対策の経緯
 欧州連合におけるセキュリティ対策の経緯は、以下のようになっています。
1)2003年2月、海運セキュリティ(船舶及び港湾施設)向上方策、COM2003(229)(2002年12月議決のIMO改正SOLAS及びISPSコードの欧州連合への適用に関する措置)
2)2003年12月23日、貨物セキュリティに関する提案書
(事故、盗難からテロ対策までの対応策)
3)2004年5月25日、加盟国及び産業界とのテロ対策のための合同会議開催
4)2004年10月、港湾セキュリティ向上方策、COM2004(0031)COD(上記1)をふまえた具体的措置)
 この間、フランスの重油輸送タンカー、エリカ号の座礁事件(1999年12月12日発生)を契機とした事故防止措置が平行して進められています。
 
 また、上記のセキュリティ対策は、旅客及び貨物の双方にわたって検討されています。税関分野では米国と以下のような連携を図っています。
1)1997年5月 欧州連合と米国、税関問題に関する相互支援協定締結
2)2003年11月 欧州連合と米国、輸送のセキュリティに関する協定締結(24時間前ルール)
3)2004年4月 欧州連合と米国、CSIに関する合意締結
4)2004年11月16日、欧州連合と米国、セキュリティ強化に関する新協定締結
 
1.2.2 改正関税法
 欧州共同体(EU)では2003年以来、EU関税法(Customs Code)改正の検討を進めてきましたが、2004年2月、欧州議会で関税法の改正が承認されました。
 改正EU関税法(The Amended Customs Code)では、米国の24時間ルールやC-TPATと同様の貨物マニフェスト事前申告ルール、オーソライズド・エコノミック・オペレーター等サプライチェーン・セキュリティ強化プログラムが規定されるとともに、EU加盟国の税関間での電子的な情報の共有等貿易円滑化を支援する規定も含まれています。
 EU(欧州連合)においては、EC関税法が平成17年5月に改正され、平成18年12月には実施規則が発表されました。今後、AEO(Authorized Economic Operator)制度が平成20年1月より施行され、また、平成21年7月以降、米国同様、EU域内に持ち込まれるコンテナ貨物については、原則、船積み24時間前までに貨物情報を電子的に提出することが義務付けられることとなり、これらはWCO(世界税関機構)基準の枠組みに整合的なものとなっています。
 また、IMO(国際海事機関)においては、MSC(海上安全委員会)及びFAL(簡易化委員会)の両委員会で海上輸送におけるコンテナセキュリティ強化とコンテナ輸送円滑化の両立に関する議論が行われており、平成18年7月のFAL33及び11月のMSC82では、合同WGの設置について合意がなされ、海上輸送コンテナのセキュリティ確保に関する具体的な検討が今後行われることとなっています。
 
1.2.3 セキュリティ対策の概要
 
1.2.3.1 概要
 欧州共同体(EU)のホームページにおいて公開されているセキュリティ対策の概要を港湾・海運関連について整理すると、以下のようになっています。
 2001年9月11日の同時多発テロ事件の発生以降、欧州連合は、航空及び海運のセキュリティを向上させるための法制度や品質管理・検査体制の整備を図ってきました。
 ただし、これらの制度を再評価し、セキュリティ対策が競争条件を歪める場合には、一定の措置が必要になると考えています。
 また、セキュリティ施策は、都市交通や鉄道駅を含む陸上交通や、ドアツードアのインターモーダルのロジスティクスチェインにまで拡大する必要があるとされています。
 さらに、重要な交通基盤施設の機能確保に関するリスクの詳細分析が必要とされています。重要な交通基盤については、すでに、欧州重要基盤保護(European programme for critical infrastructure protection: EPCIP)の枠組みがあります。
 同時に、不要な努力や費用のかかる重複管理を回避するために、世界的な標準構築のための国際協力を考慮すべきであるとしています。
資料:欧州委員会、「Keep Europe-Moving, Sustainable mobility for our continent, Mid-term review of the European Commission’s 2001 transport White Paper」2006年
 
1.2.3.2 法制度
 海運・港湾分野における欧州連合施策は、以下の3つの規則から構成されています。
・欧州委員会通達、2003年5月
・欧州委員会規則725/2004、2004年3月31日制定
・欧州委員会規則884/2005、2005年6月10日制定
 各規則の概要は、以下のとおりです。
(1)欧州委員会規則725/2004
 本規則は、船舶及び港湾の施設保安基準を定めています。
・国際的な非合法活動、特にテロ行為は、欧州連合の基礎となる民主主義と自由、平和に対する脅威になります。
・欧州連合の保安確保は、これらの脅威から市民を常に守るために必要です。
・特に化学物質、放射性物質等の危険物輸送において、これらの脅威は深刻です。
・2002年12月12日のIMO総会において改正SOLAS条約とInternational Ship and Port Facility Security Code(ISPS Code)が承認されました。
 この措置は、国際船舶及び関連する港湾施設の安全性の向上を意図しており、強制的な遵守事項、欧州連合が規定・勧告すべき内容、欧州域内において規制すべき内容を含んでいます。
 このため、欧州連合加盟国の法制度との整合性を図りつつ、欧州連合における保安上の措置を行う必要があります。国際用の船舶・港湾の保安確保は、欧州域内における保安確保にも貢献します。
 なお、保安措置の適用が、公正な競争条件を歪めることがないかどうかを確認するための分析を行うこととされています。
 欧州委員会規則725/2004付則では、同規則が、海運だけでなく航空分野にも適用されることと、欧州保安規制委員会(Maritime Security Regulatory Committee: MARSEC Committee)が、運用上必要な技術的仕様を作成することとされています。
 
(2)欧州委員会規則884/2005
 本規則は、海運の保安措置を定めています。この規則の発行日から6ヶ月後に欧州委員会の検査を行うこととされています。
 この措置を実施する欧州海運安全局(The European Maritime Safety Agency)は、欧州委員会規則1406/2002にもとづいて設置されています。同局は、検査に必要な支援措置も実施します。この規則では、そのための手続き・規格を定めています。
 同検査は、海運保安措置の品質管理、手法、手続き、体系を確認します。
 
(3)欧州DIRECTIVE 2005/65(2005年10月26日)
 本法は、港湾セキュリティの向上を図るための法です。2004年の欧州委員会規則は、船舶及び港湾のセキュリティ確保を定めています。
 同規則で定める海運の保安措置は、海運関連の輸送における適切な保安措置の確保に限定されており、船舶と直接の港湾インタフェースに限定されています。
 海運と港湾の完全な保安措置を実施するために、欧州域内にある関連の全ての港湾について保安措置を適用します。
 加盟国は、保安措置の評価を行い、正確な保安関連港湾区域を設定し、適正な港湾保安措置を実施する必要があります。保安措置の内容は、港湾におけるリスクの多様性を反映して設定される必要があります。
 また、加盟国は、港湾保安計画を承認する必要があり、さらに、計画の実行と実施内容の記録が必要になります。特にRORO船は保安上の課題が多いと見られていますので、特段の措置が必要になります。
 
1.2.3.3 国際連携
 セキュリティ確保を適正かつ十分な水準で行うために国際連携が必要だとされています。このため、IMO、ICAO、IAEA、G8、OSCEといった国際組織と連携を図っています。また、UIC及びUITPのような専門組織による活動を支援しています。
 双務的な輸送安全WG(Transport Security Working Groups)が設立され、米国、日本、韓国、中国及びロシア諸国との間で研究が進められています。カスピ海や地中海沿岸諸国も同様の活動を始めています。
 輸送安全WGの目的は、以下のとおりです。
・セキュリティに関する共通認識を図ること
・セキュリティ分野に関する経験とベストプラクティスを共有すること
・セキュリティの実務に関する国際標準化を促進すること
・重複活動を避けるため相互認証などのセキュリティ協定を作成すること
 
1.2.3.4 重要社会基盤の確保
 セキュリティ対策の一環として、交通基盤施設をはじめ、発電施設などのエネルギー関連施設を重要社会基盤(Critical infrastructure: CI)と定義し、その保安措置を図ることとしています。その具体的内容は米国の施設保安措置と類似しています。
 この実行計画は、European Programme for Critical Infrastructure Protection(EPCIP)と呼ばれています。同計画は、欧州委員会の2005年11月17日COM(2005)576のグリーンペーパーにまとめられています。
 その想定する脅威は、市民の生命、財産を保護するために、テロだけでなく、自然災害、事故による破壊、破損からサイバーテロまでの広範囲に及んでいます。
 特にマドリッドやロンドンで発生した爆破事件によってテロの脅威は欧州連合においても同様に存在することを明記しています。このため欧州委員会は、重要社会基盤のセキュリティ確保に関する要請を2004年6月に欧州議会に対して行っています。また、2004年10月には、航空輸送分野の保護計画を作成しています。さらに同12月には一層広範囲の対策を作成しています。
 また、この一環として、重要社会基盤警報ネットワーク委員会(the Commission of a Critical Infrastructure Warning Information Network: CIWIN)の設置が承認されています。さらに広報活動として、2005年6月6日と7日にセミナーを開催しています。第2回のセミナーが同9月12日と13日に実施されており産業界からの関係者も参加しています。
 EPCIPの目的は、重要社会基盤に関する適切な水準の保安措置を講じ、その損害を最小限にとどめ、迅速な復旧を可能にすることにあります。
 計画の主要なポイントは以下の点にあります。
・基本的な実行責任は、加盟国に依存しますが、その実行を支援するための補助政策が予定されています。
・同計画は既存の各種施策に対する補完的位置づけとされています。
・同計画の有効性を高めるための信頼できる情報共有が重視されています。
・同様に、産業界、標準化団体からユーザにいたる関係者の協力・協調が必要とされています。
・リスクの内容に応じ、費用対効果を考慮した適正な保安措置が講じられるべきだとしています。
 
 参考資料として、以下に、ロッテルダム港におけるX線透視装置の状況を掲載しておきます。


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