プレジャーボートの安全運航のために(1)
広島地方海難審判庁
プレジャーボートの海難防止に向けて
海洋レジャーの普及とともに海難も増加傾向にあり、ひとたび海難が起きれば、尊い人命や財産が失われ、さらには行政上、民事上及び刑事上の責任が問われることにもなります。
プレジャーボートの安全運航のため、船舶職員及び小型船舶操縦者法が施行され、資格区分を一級小型、二級小型、特殊小型に再編し、船長の遵守事項として、酒酔い操縦、危険操縦、救命胴衣の着用などが義務づけられています。
このような中、海難審判庁では、海難の原因を究明しその発生の防止を目的として、裁決で原因を明らかにするほか、裁決で明らかになった原因を分析し、海難事例から得られた教訓や海難防止策をわかりやすく分析集として関係者に広く利用していただくなど、一般船舶のみならずプレジャーボートを利用した海洋レジャーの海難防止に努めています。
今号では、プレジャーボート海難の原因として、最も多い衝突の「見張り不十分」について紹介します。
海難の状況
平成13年から同17年の5年間に広島地方海難審判庁で言い渡したプレジャーボートが関わる裁決は119件(163隻)あり、事件種類別では衝突が74件、原因別では見張り不十分が71原因で最も多くなっています。
事件種類別では衝突が過半数以上
衝突の原因は見張り不十分が8割
見張り不十分の理由は釣り、思い込みなど
航行中はもちろん、漂泊中・錨泊中も見張りをしっかりと!!
見張り不十分の理由は、錨泊・漂泊して釣りに熱中したこと、初認時の安易な判断から相手船が避けてくれる・無難に替わることができるなどの思い込み、他の船や一方向の見張りに気をとられたことなどが指摘されています。見張りは、航行中、漂泊・錨泊中に関わらず、全方位にわたり、常時適切に行いましょう。
海難事例
帰航中の漁船が釣りに熱中した錨泊中のモーターボートに衝突
A丸:漁船1.7トン(全長8.70m)乗組員2人
B号:モーターボート(全長6.00m)乗組員1人、同乗者3人
発生日時・場所:平成17年9月26日09時00分 香川県喜兵衛島沖合 サザエ岩南方
気象・海象:晴れ、無風、視界良好、下げ潮の末期
損傷等:A丸(船首部擦過傷、プロペラ曲損)B号(船首部大破、同乗者2名死亡)
海難の概要
A丸は漁を終えて帰途に就き、サザエ岩との航過距離に気をとられ見張りが不十分となり、錨泊中のB号に気づかず、前路に他船はいないものと思い進行し衝突した。またB号は、形象物を表示しないで錨泊して釣りに熱中し、航行中の他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを行わず、接近してくるA丸に気づかなかった。
錨泊して釣りをするときは周囲の見張りをしっかりと!!
錨泊して釣りを行う場合、見張りがおろそかになりがちです。また、相手船が避けてくれると思わず、周囲の見張りを行いましょう。また、錨泊中は形象物の表示を、相手船が接近してきたときは救命胴衣に装着されたホイッスルなどの音響信号で注意を促しましょう。
台風に備えて
広島地方気象台 防災業務課長 楠木英典
[はじめに]
台風は、たいへん大きなエネルギーを持っていまして、残念ながら毎年のように海上や沿岸などでの痛ましい災害のニュースを耳にします。
小型船舶等を操って海へ出られる方々には、ぜひ台風や気象情報のことをよく知っていただき、この台風の猛威から身を守っていただきたいと思います。
[台風とは]
北西太平洋の熱帯海上で発生する「熱帯低気圧」のうち最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。
台風は、熱帯域で暖かい海面からの熱をエネルギーにして発達しますので、たいへん大きく強いものが多いのです。
気象庁は台風のおおよその勢力を示す目安として、下表のように風速(10分間平均)をもとに台風の「強さ」と「大きさ」を表現します。さらに、強風域の内側で風速25m/s以上の風が吹いているか、地形の影響などがない場合に吹く可能性のある範囲を「暴風域」と呼びます。
これらの表現は、気象台が発表する台風に関する各種気象情報で使用していますので、しっかり覚えておいてください。
強さの階級分け
階級 |
最大風速 |
強い |
33m/s(64ノット)以上〜44m/s(85ノット)未満 |
非常に強い |
44m/s(85ノット)以上〜54m/s(105ノット)未満 |
猛烈な |
54m/s(105ノット)以上 |
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大きさの階級分け
階級 |
風速15m/s以上の半径 |
大型(大きい) |
500km以上〜800km未満 |
超大型(非常に大きい) |
800km以上 |
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[台風の発生数・コース]
では、台風は年間で何個くらい発生するのでしょうか。実は、平年でおよそ27個も発生するのです。下表に月別の発生数と中国地方への接近数を示しました。
月別では、やはり8月9月が発生数、接近数共に多いです。ただし、他の月でも西日本に接近して大きな影響をもたらすことがありますので、油断はしないようにしてください。
台風の月別発生数・接近数
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6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
発生数 |
2005年 |
0 |
5 |
5 |
5 |
2 |
2 |
23 |
平年値 |
1.7 |
4.1 |
5.5 |
5.1 |
3.9 |
2.5 |
26.7 |
中国地方への接近数 |
2005年 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
平年値 |
0.2 |
0.6 |
0.8 |
0.9 |
0.2 |
0.0 |
2.6 |
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台風のコースですが、夏が近くなると太平洋高気圧のまわりを廻って日本に向かって北上することが多くなります。また、9月以降になると南海上から放物線を描くように日本付近を通るようになります。下図は、平成16年9月の台風第18号で、暴風や高潮で各地に大きな災害をもたらしました。この台風は、東シナ海で進行方向を東よりに変えてから、上空のジェット気流に乗って急に速度を上げ、九州北部から山陰の沿岸を駆け抜けました。これにより瀬戸内地方では、広島で最大瞬間風速60.2m/sを記録するなど暴風となり、また高潮も加わって、各地で大きな被害が出ました。このように、その進路の台風から見てすぐ右側に当たる地域では、台風に巻き込む強風に進行速度が相まって、たいへんな暴風と高潮になることがあり、厳重な警戒が必要となります。加えて、9月頃の台風は、東よりに向きを変えてからはアッと言う間に来ますので、早い段階から対応することが大切です。
[台風に関する気象情報]
台風への備えは早い段階から行うことが必要ですが、そのために気象台では、各種の情報を発表しています。
まずは、台風の進路予想です。下図は平成17年の台風第14号の例ですが、ご自分の地域に大きな影響が予想される1日以上前から、おおよその見通しを知ることができます。利用に当たっては、予測にはある程度の誤差も含まれますので、予想進路の中心ばかりを見るのではなく、台風の中心が到達する可能性のある「予報円」(図の白破線円)及び暴風域に入る可能性のある「暴風警戒域」(図の赤実線円)をうまく利用して対策をとってください。
次に、各地の気象台が発表する警報等の気象情報です。気象台では、台風が大きな影響を与える半日以上前から情報を発表します。また、予想される状況によって数時間以上前には警報を発表します。それらの気象情報の内容には、「いつ」(“いつ頃から”、“ピークは”など)・「どこで」(“○○県では”、“△△地域では”など)・「なにが」(暴風や高波、高潮など)・「どうなる」などを盛り込んでいますので、うまく利用してください。
[気象情報の入手]
さて、これらの気象情報をどうやって手に入れるかですが、まずはテレビやラジオによる放送があります。それらの中で上記の情報内容が放送されますので、注意深く見たり聞いたりしてください。また、気象台からの情報伝達を受けた地元自治体から、何らかの防災情報が発せられることもあります。
[台風に備えて]
台風に関して、ポイントとなる予備知識や気象情報についてご説明しました。これらを、ぜひうまく利用して、台風に備えて対策をとってください。よろしくお願いします。
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