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特集
交通機関の更なる安全確保を求め運輸安全一括法が施行されました。
近畿運輸局総務部 安全防災・危機管理調整官
伊藤 隆
 
運輸安全マネジメント評価制度の導入
 皆様には平素より近畿運輸局の行政にご理解、ご協力を賜り厚くお礼申し上げます。
 さて、近畿運輸局は近畿二府四県の鉄道、自動車、船舶の公共交通機関を所管する役所でありますが、昨年は航空も含め公共交通機関における安全・安心の信頼が大きく揺らいだ年でありました。
 国土交通省は失った信頼を早急に取り戻し、安全・安心の公共交通機関として利用頂くため、新たな制度を導入することとなりました。
 この度、この紙面をお借りしまして、制度導入の背景、輸送の安全の確保に関する新たな制度の概要等につきましてご説明します。
 
ヒューマンエラーが背景と見られる事故・トラブルが多発
 公共交通機関の安全の確保は最も基本的なサービスであり、様々な輸送サービスの向上も安全が第一でなければなりません。
 しかしながら、最近、交通の各分野において数多くの事故・トラブルが相次いで発生しています。
 鉄道分野では終端駅に列車が衝突する事故や有人踏切において列車接近中に遮断機を上昇させ通行者が亡くなるという事故をはじめ、JR西日本・福知山線の列車脱線事故では死者一〇七名、負傷者が五〇〇名以上という大惨事となる事故が発生。また、自動車分野では高速バス横転事故、トラックによる列車との踏切衝突事故等、更に、海事分野のフェリー防波堤衝突事故、航空分野の管制指示違反、非常口扉の操作忘れ等数多くの事故・トラブルが発生しています。
 これらの事故・トラブルには、現在、事故原因を調査中のものもありますが、その多くにおいて、共通する因子としてヒューマンエラーと事故との関連が指摘されています。
 
 
 
 
 
 国土交通省では「公共機関に係るヒューマンエラー事故防止対策検討委員会」を設置し、ヒューマンエラーを要因とした公共交通機関の事故・トラブルについて、交通モード横断的にヒューマンエラー発生のメカニズムを検証するとともに、その取りまとめを行いました。
 国土交通省としては、公共交通機関におけるヒューマンエラー等に起因する重大事故やトラブルの多発を踏まえ、安全最優先の企業の「安全風土」の確立を図るため、事業者による安全マネジメントを運輸の全分野に導入することとなりました。
 これに伴い、「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律」(いわゆる運輸安全一括法)が今年三月に成立し、平成一八年七月一四日付けで関係省令等の改正がなされたところです。
 
輸送の安全の確保に関する新たな制度の概要
(1)安全管理規程の作成・届出の義務付け
(1)「安全管理規程」とは、運輸事業者において、輸送の安全を確保するために遵守すべき輸送の安全を確保するための事業運営の方針、事業の実施及びその管理の体制、事業の実施及びその管理の方法等に関する事項を定めるものであり、運輸事業者に作成が義務付けられます。
(2)安全最優先の方針の下、経営トップから現場まで一丸となった安全管理体制の構築を図ることを目的としており、図のようなPDCAサイクル(輸送の安全に関する方針等の策定、実行、チェック、改善のサイクル)を経営トップ主導で適切に機能させ、輸送の安全のための取組みを継続して向上させることが求められます。これにより、事業者内部全体に安全風土、安全文化が構築・定着し、安全最優先の原則と関係法令等の遵守の徹底が図られます。
(3)この新しい制度については、この一〇月から施行されましたが、事業者にあっては、安全管理規程に基づく経営トップ主導の新たなメカニズムを組み込むことにより、経営トップから現場までの一体的な安全最優先原則の浸透・継続を実現していくこととなります。また、国にあっては、事業者に組み込まれた安全管理体制が適切に機能しているか、安全最優先の原則が浸透しているかを評価することとなります。
 
 
(4)運輸事業者においては、改正事業法等及び同施行規則に従い、以下の事項を含む安全管理規程を作成しなければなりません。
(1)輸送の安全を確保するための事業の運営の方針に関する事項
(2)輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の体制に関する事項
(3)輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の方法に関する事項
(4)安全統括管理者の選任及び解任に関する事項
(5)(4)の記載事項のほか、海事部門については、既存の運航管理規程の記載事項を、鉄道については新たに運転等に関する事項を安全管理規程の内容として記載することとなります。なお、航空の運航・整備規程(設定・認可)、自動車の運行管理規程(設定)の取り扱いについては従前と変更はありません。
(6)安全管理規程を作成又は変更しようとする際は、所轄の地方運輸局等に届出なければなりません。(航空運送事業者の場合は、本省又は地方航空局になります。)
 
 
(2)安全統括管理者の選任及び届出の義務付け
(1)「安全統括管理者」とは、安全管理規程に記載された安全管理体制を統括管理する者です。具体的には、以下のような業務を行うこととなります。
(1)安全管理体制に必要な手順及び方法の確立、実施、維持
(2)安全管理体制に係る施策等の実施状況及び改善の必要性の有無等の経営トップヘの報告
(3)関係法令等の遵守と安全最優先の原則の事業者内部への徹底
 
(2)安全統括管理者は、各事業法令に従い、取締役クラス以上で、一定の業務経験(三年以上。鉄道については一〇年以上。)を有する者を選任しなければなりません。
(3)安全統括管理者を選任し、又は解任した場合は、所轄の地方運輸局等に届出なければなりません。(航空運送事業者の場合は、本省又は地方航空局になります。)


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