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3. 事故への対応
 事故は障害があるから多いとは必ずしもいえません。いろいろな障害のタイプがありますが、寝ていることの多い障害児よりも、むしろ、ゴロンと寝返りをしたり、四つ這い、つたい歩き、バランスをとりながらやっと歩けるなど、動きのある子どもにたまに起きます。
 発達障害児の中には、知能の発達が遅れているために周囲の様子を注意深くみて、やってよいことと悪いことを判断し、ちょっと試してみて危い時にはすぐにやめるといった思考力、判断力が不足している子どもがいます。また、運動機能の発達と関係した反射の発達が遅れている場合も少なくありません。事故との関係では、自分の身を安全に守るために必要な上肢の保護伸展、立ち直り反応、平衡反応といって脳の高次の反射の発達が特に遅れがちとなります。
 上肢の保護伸展というのは、転んだ時やボールなどが顔面に突然飛んできた時、とっさに手を出して体重を支えたり腕でボールを受けたりしながら、自分の大事な顔や頭をケガから守るような反応をいいます。発達でいうと、前に手が出るようになるのは6〜7ヵ月頃、横に手が出るようになるのは8ヵ月頃、後ろにも手を出せるようになるのは10ヵ月頃となります。立ち直り反応とは、上肢保護伸展と同じくらいかやや遅れて発達する反射で、事故が起きないように自分の体を調節したり、たて直したりするといったように、やはり自分の体を守るためには大切な反射です。人間は頭の位置を常に真直ぐに保とうと無意識のうちに脳で調整されています。例えば、バスや電車に乗っていて上半身がバスの動きに合せて横に傾いたり前後に傾いたりしますが、そのような時にすばやく頭や上体を起こして、頭をまたもとのように真直ぐに立ち直らせてきます。このような反射的行動がとれないと、そのまま上半身が傾いた方向に倒れて、頭や顔を打ってしまいます。
 最も高次なレベルの反応は平衡反応です。平衡反応はバランス反応ともいいます。この反射は、自分の体が傾いたり倒れる前に脳の高次の中枢で微調整を行い、全身のバランスをとる反射です。座って食事をしたり、洋服を着たり、遊んだり、歩いたり、乗り物に乗っていたりなど、日常生活のいろいろと巧緻な動作をする場面で無意識のうちにバランスをとりながら生活をしているために、容易に転んだり、ケガをしたり、火傷などの事故に遭わずにすんでいるといえます。
 これら三つの反射は、ターニングポイントといわれる4ヵ月を過ぎて生後6ヵ月頃から徐々に出現し、大人になっても一生涯保たれる大切な反射です。ところが、脳性マヒや先天障害のある子どもの中には、普通は6ヵ月前後に消失する原始反応が長く続き、肝心のこれらの反射の発達が遅れたり、滞っていることが少なくありません。
 歩いていてつまづいた時など、未然に倒れないように防ぐこれらの反射が育っていないと、倒れた方向に手を出すことも上体を起こして立て直すこともできず、思わぬ事故や火傷などにもつながりやすくなります。このように、知的障害や反射を含めた運動発達障害があるために起きやすくなっている事故もあります。そこで、こういった事故への予防策やあわてずに家庭でできる応急手当ての仕方について説明していきます。
 
(1)顔や頭を打った時
 子どもは、転んだり、タンスや机の角に顔や頭をぶつけたりすることがよくみられるわりにはケガもせず、大半は様子をみるだけか、せいぜい冷す程度ですむものばかりです。ですから、神経質になる必要は全くありません。危険な物は押し入れにしまい、むしろ自由に生活させていただきたいと思います。
●心配がいらない打撲
 頭を打った瞬間は大泣きしても、その後は普段と様子が変わらない時には心配いりません。コブが出るくらいのケガは心配ないものです。しばらくは、寝かせたり抱っこをして安静にし、コブをタオルで冷します。あとは2〜3日家で様子をみましょう。
●病院で診てもらう打撲
 頭や顔の打撲の後で応急手当てを行い、2〜3日観察している間に様子がおかしくなった場合には、病院の診察を受けなければなりません。その時に、次の要点をメモして医師に報告して下さい。
(1)頭や顔を打った時の状況
(2)その時の症状−泣いた後は元気をとり戻して普段と変わらなかったかどうか。頭や顔に、コブや傷はなかったかどうか。吐き気やけいれんなどの他の症状がなかったかどうか。
(3)どのような応急手当てを行ったか
(4)応急手当てをした後の観察の様子
●至急病院へかけつけた方がよい打撲
 頭や顔を打った後すぐに、嘔吐、けいれん、チアノーゼ、頭痛、意識がぼんやりしている、眠っている時や呼吸の仕方がおかしい、などの症状がみられ、けいれんなどの様子もいつもと違って症状が長く続いたりくり返して起こるような場合には、至急脳外科のある病院で受診して下さい。救急車を呼んだ場合など、待っている間には、次の応急手当てをしておきます。
(1)頭を横向きにして静かに寝かせる。
(2)落ち着いて寝ていなかったり、パニック状態で不安が強い時には、添寝をするか横抱きにして気持を落着かせ、頭や患部を動かさないように保護します。
(3)患部を冷し、体は暖かくしておく。
(4)衣服やオムツはゆるめる。
(5)吐き気、けいれん、意識障害がある時は、揺さぶったり動かしたりせずに、そのままの状態で、その場所で衣服やオムツをゆるめ、体に毛布をかけ、顔を横向きにして寝かせておきます。傷が大きい時などは、清潔なタオルで傷を押えて救急車の到着を待つ。
 普段からこのような応急手当ての仕方や、家でみていてよいのか、至急病院に行かなければならない状態なのかを見分けるポイントを知っていることで、あわてず、落ち着いた行動をとることができるようになります。どんな時でも適切な行動がとれるように、実際にやってみておいた方がよいでしょう。
 また、緊急事態で急に入院する時に、あわてて入院の用意をすると忘れ物をしがちになります。保険証や印鑑など、大切な物の置き場所を一定にして、オムツ、着替え類、清潔なタオルなどもまとめておき、いざという時にはすぐに持ち出せるようにしておくのも大切な知恵といえます。
 
(2)誤飲・誤嚥
 重度発達障害児の場合は、立って歩いている子どもよりも、寝ていたり、寝返り、四つ這い、いざり移動をしている子どもの方に発生しやすい事故です。障害の有無に限らなくてもこの時期の子どもに一番多く発生するのがこの誤飲・誤嚥の事故といわれています。
 それは、歩ける子どもの場合は、床に落ちている物よりも、まわりで遊んでいる子どもや行動に興味を示し、また、自分の体を動かした遊びが楽しくて仕方がないといった時期にあるためです。一方、床面を中心とした動きをしている子どもの場合は、そこに落ちているボタンや置いてある灰皿、パウダー、化粧品など様々の物が目に入り、拾った物は一応口に入れて試したり、食べたりすることに興味を示しやすくなります。
 落ちているゴミや紙類、碁石、オハジキ、ボタン、クレヨンなどを口に入れることは日常的にみられます。しかしほとんどの場合は、食べ物とは味が違うようだ、様子がおかしいという顔をしながら口から出してきます。そのような時に大声を出して驚かせたりすると、むしろあわてて飲み込んだり、気管の方へ誤って入ってしまったりします。たとえ間違って飲み込んでしまったとしても、ほとんどの物は便と一緒に排出されますから、便の様子をみる程度で、案じる必要はありません。
 
[間違って異物を飲み込んだ時にまずしなければならないこと]
(1)何を飲んだか、どれくらい飲んだかを確認する。
(2)様子をみる。
(3)窒息しかけて、苦しがっている時にはすぐ吐かせる。
(4)吐かせてよいものかどうかを確認する(表1-14)。
(5)気道に異物が入っても呼吸ができている時には「逆さ」にすることは禁物です。症状としては、せきこんだりゼーゼーした息をして、時には2〜3日経って熱が出たりします。1歳児に最も多く発生します。豆類、アーモンド、ポップコーン、小さな玩具などが、食道ではなく気管の方に吸い込まれますが、肺は二つあるので死につながることはありません。あわてず、刺激を与えず、至急病院に連れていきます。
 
表1-14 応急手当ての見分け方
●誤飲した時の対処の仕方
 
●応急手当てで注意する点
誤飲したもの 母乳、ミルク、牛乳を飲ませていいか 吐かせていいか
普通のもの
酸、アルカリ
(うすめるため)
×
灯油、ガソリンなど ×
(吸収されにくいので必要ない)
×
 
図1-25 気道異物で窒息状態になった時の吐かせ方
(1)子どもの腹部をかかえ、頭を下げて背中を強くたたく。
 
(2)大きい子どもの場合、ひざの上にうつぶせにして、背中を強くたたく。
 
(3)後ろから抱くようにして、みぞおちのところで腕を組み、持ち上げるように強く引き締める方法もある。
 
(4)異物がとれないときは、一刻も早く病院へ。
 
[応急手当ての仕方]
 応急手当ての仕方は、飲み込んだ物や位置によって、吐かせた方が良い場合と吐かせないで至急病院で手当てを受けた方がよい場合と異なってきます。見分け方は表1-14に示した通りです。喉に物が詰まった時、気道異物で窒息状態の時の応急手当ての基本は、異物を吐かせることにあります。頭を下げるように抱いて背中をさすり下ろしたり叩いたりする方法と、みぞおちのところを強く押す方法、水を飲ませて口の奥に指を入れて舌を押し下げる方法があります(図1-25)。
 脳性マヒの緊張性不随意運動型の子どもの場合や年長で体重の重い子どもの場合は、どの方法にしても、抱き方は図1-25(2)に示してあるように、膝の上にうつぶせにさせる方法だと緊張が緩み、また、お母さんの膝でみぞおちのところを押すこともでき、さらに両手があきますから、背中を叩いたり口に指を入れやすくなります。口に指を入れても、咬反射が残存しているために咬まれるという心配もありません。いろいろと好都合ですからこの方法で行って下さい。


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