(2)よだれと清潔
よだれは、口唇を閉じることが上手になるとコントロールされてきます。しかし、遊びに夢中になったりするとまた出てきます。脳性マヒ児の緊張性不随意運動型の子どもや知恵遅れの子の場合は、幼児期を過ぎて大人になってもよだれのコントロールができず、まわりで気配りをしてあげなければならない場合もあります。
発達途上にある乳幼児期の子どもの場合は、清潔感を意識づけ、身につけさせることや、発達を助けるコツを覚えて、できれば自分でコントロールできるようにさせてあげたいものです。乳児期はともかく、離乳食がすすんで何でも食べるようになりますと、よだれも粘着度を増し、臭いが出てきて、他人にも不快感を与えやすくなります。したがって自分でコントロールできない場合には、よだれが出そうになったら口を押さえたり、出てしまったら拭いたり、自分でできない時には頼んで拭いてもらうなどの習慣を身につけさせ、清潔感を養うことが大切となってきます。
よだれのコントロールは本人の意識が最も優先されます。よく、子どもの意志とは関係なく、さっさと拭いてあげているお母さんがいますが、乳幼児期には特にていねいに育てていただきたいと思います。よだれのコントロールの仕方のコツは次のようにします。試してみて下さい。他の方法やお母さんの工夫も加えて試みて下さい。
口を閉じられるようにする
口唇を閉じていられるようになると、よだれのコントロールは8割方成功といえます。口を閉じるとよだれが流れ出ないというだけではなく、口の中にたまったよだれを口の奥の方へ舌で吸い込むように送って、喉に達した分から順に飲み込むことができるようになります。もちろん、口腔内清潔にも役立ちますが、食事や言語にも影響する基礎ともなり、大変重要なことです。
口を閉じていられるようにするコツは、「口を閉じて!」「よだれを吸いなさい!」と口で注意するだけでは改善されません。むしろ、抱き方の工夫をしたり、椅子やソファー、室内用車椅子を工夫して全身の緊張が緩む姿勢に日頃から馴染ませることから始めます。次に顎や口唇のコントロールがしやすいように介助して、食事をしたりおやつを食べたり、水や牛乳を飲んだりする時に自然に子どもに馴染ませておきます。
●全身の過緊張の緩め方
全身の緊張を緩めるポイントは、股関節を90度より鋭角に曲げることが第1ポイントです。股を外側に開かせることもより効果を高めます。ソファーや椅子を用いる時は膝の下にまるめたバスタオルを入れたりして工夫します。車椅子を作製してもらう時は、シートの張り方を次のようにしてもらって下さい。
まず、お尻が乗る部分のシートをゆるめて張ってもらいます。次に、膝の裏側が当たる部分は横にピーンと引っぱってしっかり張ってもらいます。できれば二重にその部分(10〜15cm幅)を重ねて強化してもらいましょう。さらに、膝の裏側が高く臀部が低くなるように、シートを30度傾斜させて張ってもらうと、より効果的になります。三角マット様の特注円座で代用することもできます。その姿勢が保ちやすいように、シートの側部や腰部にタオルやバスタオルを詰めて上体がグラグラしないように固定してあげるのも一つの方法です。それでも、車椅子からズリ落ちるほど緊張が強い時には、股のつけ根を固定する股ベルトか胸ベルトで安全のために固定します。
緊張を緩める第2のポイントは、頸の角度です。頭が後ろに倒れて顔が上向きにならないように日頃から注意して下さい。望ましい頸の角度は、やや前傾位にします。つまり、顎を胸の方に近づけるとそうなります。車椅子に脱着可能な枕を取り付けて調整します。
第3のポイントは、肩や上肢(手の位置)です。緊張が強い子どもの場合は肩をすくめるように上に上げ、後ろに引き、腕・肩を内側に捻っています。これと逆の肢位をとらせると望ましい姿勢になります。つまり、肩は下方に引き下げ、前方に出させ、腕を腋の下のあたりで外側に回してあげます。
この3点を整え、姿勢を直してあげると全身の緊張が緩まり、本人も楽になります。5分くらいで整えられます。詳しくは、図1-15を参照して下さい。
図1-15 全身の緊張を緩めるポイント
●顎や口唇のコントロールの仕方
よだれが流れ出ないようにし、飲みこみ方を覚えるためには、顎や口唇のコントロールをしながら練習をします。
上唇と鼻の間にお母さんのひとさし指の指腹部を平らに置き、ギューッと5〜10秒押してあげるのも1つの方法です。下顎が上ってきて口が閉じやすくなります。よだれを飲みこむ時に喉のあたりを上から下に撫でおろしてあげると飲みこみやすくなる子どももいます。これも1つの方法です。
次は顎のコントロールの仕方です(図1-16)。顎はもともと抗重力筋のため自然に閉じるものですが、顎が脱臼するくらい強く開口する子どももいます。調整の仕方を覚えておくと役立つこともあるでしょう。
この方法は、食事指導に関する専門家向けの本に多く載っています。御家庭で実際になさっているお母さんもいます。顎や口唇の支え方、押さえる時の力の入れ方などについては専門家や先輩のお母さん方から教えてもらって下さい。
図1-16 顎・口唇のコントロールの仕方
前方からの介助
側方または後方からの介助(1)
(親指と人差指で口唇をはさむ場合)
側方または後方からの介助(2)
(人差指と中指で口唇をはさむ場合)
以上の方法を試す時には、子どもに理由や方法を説明し、浄瑠璃の黒子のように自然に介助してあげたいものです。テレビをみている時などに試してみて嫌がる時や他の遊びに夢中になっている時などはやらないようにして下さい。
●爪切りの介助の仕方
爪は普通に生活しているだけでも、1週間に1度の頻度で切るくらいに生えてきます。緊張の強い子どもは、手のひらに爪がくいこむほど固く握りしめていることが多く、切ってあげるのに苦労します。そのため、伸びっぱなしになっていることも少なくありません。爪切りとあわせて、手のひらや指の間も時々拭いて清潔にしてあげたいものです。どのようにしたら介助が楽になるか、その方法を2〜3紹介します。
第1のポイントは、全身の緊張を緩め、安楽姿勢に整えます。(図1-17参照)。第2のポイントは、腕を伸ばして外施(外に捻る)させると手指が伸ばしやすくなります。第3のポイントは、手のひらを開かせ、手指を延ばし、爪を切りやすくするために、介助をして手首を下げて掌屈させてあげて下さい。
そこまで準備してから切ってあげましょう。その場合、テレビを見せたり、好みのオヤツを与えてから切ったりしていたお母さんがいましたが、むしろ、本人に説明して他人ごとではなく自分のこととして自覚を促し、清潔感を身につけさせてあげていただきたいと思います。
図1-17 手指を伸ばし、開かせ、爪を切りやすくする方法
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