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長 洋弘(ちょう ようひろ)
(昭22.7.6日)埼玉県比企郡
 
 大戦後インドネシア残留を余儀なくされた元日本兵を、長期間取材してまとめた著書と写真展がきっかけとなり、残留元日本兵の日本国内における名誉の回復とインドネシアにおける地位の向上に大きく貢献した。
推薦者:角原 勝義
 
Mr. Yohiro Cho (born July 6, 1947) Hiki County, Saitama Prefecture
 
 Spurred by his writings and exhibitions of photographs from his long years of interviews with former Japanese soldiers who were forced to stay in Indonesia following World War II, Mr. Cho has made a significant contribution toward the restoration of these former soldiers' honor in Japan and the improvement of their standing in Indonesia.
Recommended by: Mr. Katsuyoshi Kakuhara
 
 中学教師の長さんは、1982年にジャカルタ日本人学校へ赴任し、84年からインドネシア全土に散らばる残留元日本兵の面接取材を始めた。車の修理を依頼した店の主人が偶然にも元日本兵で、元日本兵支援組織「福祉友の会」を紹介されたことがきっかけだった。
 インドネシアの国土は日本の約5倍の広さで、ジャワ島、スマトラ島など多くの島々からなっている。レンタカーなども無かった当時、移動手段はタクシーやバイクタクシーで、熱帯特有の酷暑の中を紹介状と重いカメラ機材を背負って元日本兵に会いに行った。行った先に宿泊施設が無い時は納屋などに泊めてもらった。強盗に襲われ、機材を奪われたこともあった。赴任期間の3年を終え日本に帰国した後も、夏休み、冬休みを利用して取材を続けた。渡航費用や現地での交通費、カメラなどの機材費、フィルムや現像費用などすべて自己負担した。
 1994年、それまでの取材をまとめて著書「帰らなかった日本兵」を刊行した。また、日本とインドネシアで、「帰らなかった日本兵」の写真展を開いた。同書と写真展は、元日本兵が祖国に帰ることが出来なかった事情を多くの日本人に知らせ、逃亡兵との誤解を解いた。また彼等がインドネシア国の独立戦争に参加し、独立に貢献した事実や、戦後の日本とインドネシアの架け橋となり経済復興を助けたことも知らせた。長さんの取材活動は元日本兵の日本国内における名誉の回復とインドネシアにおける地位の向上に大きく貢献した。
 上記著書の発表後も長さんの取材は続けられ、著書や写真集の出版が続き、2007年には追加取材にもとづく新著が出版される。
 1994年、残留日本兵の組織「ジャカルタ福祉友の会」に東京の女性経営者が協力する形で、ジャカルタに日本語学校「ミエ学園」が設立された。長さんは、教育者としての知識と経験を生かし、同校日本側事務局において、経営へのアドバイスやインドネシアと日本の教育文化交流ならびに国際交流に力を尽くしている。
 
 
受賞の言葉
 今回の受賞を心より感謝申し上げます。受賞をもっとも喜んでくれるのは、すでにお亡くなりになられた残留元日本兵の皆さんと現存する7名の方にちがいありません。私は、赤道直下に生きる150人の残留元日本兵を訪ね、写真や本によって彼らの「生きた証」をつくりました。来年の旅は「日本の皆さんはわかってくれましたよ」とお伝えする旅となりそうです。
 
スマトラの大地で無名の日本兵の墓を取材中 2005年
 
残留元日本兵(左)を取材中 1984年
 
残留元日本兵から寄せられた手紙
 
ジャカルタでの「帰らなかった日本兵」 写真展会場
 
田島 伸二(たじま しんじ)
(昭22.8.3生)東京都目黒区
 
 パキスタンの刑務所に収容され、再起のため識字と読書を渇望する子ども達のために所内に図書館を開設して彼らに知識と希望を与え、アジアの人々に紙漉きの方法を教えて識字学習に必要な紙を自ら作り出すことを可能にした。
推薦者:黒川 妙子
 
Mr. Shinji Tajima (born August 3, 1947) Meguro Ward, Tokyo
 
 Mr. Tajima has given knowledge and hope to children put in Pakistani prisons by opening libraries within the prisons. These libraries help children who yearn to make a new start by becoming literate and reading books toward this end. He has also taught people in Asia how to make paper from weeds, which has allowed them to produce the paper they need to gain literacy on their own.
Recommended by: Ms. Taeko Kurokawa
 
 教育に恵まれないアジアの子ども達のため、約30年にわたりユネスコ活動やNGO活動など識字教育を幅広く行ってきた田島さんは、社会で最も知識に飢えている子ども達に識字や読書の喜びを伝えようと、パキスタンの刑務所に収容されている子ども達(10〜18歳)を対象に「キラン図書館」を設置した。(キランとは、ウルドゥー語で太陽の光を意味する。)
 アジアの国々で刑務所に収容されている多くの子ども達の実態は殆ど知られていないが、貧困と腐敗した社会環境の中で、彼らの多くは幼時から多様な犯罪に追いやられ、家庭や社会から全く見捨てられた存在である。大人達が弱い立場の子どもに罪を被している場合も多い。子ども達は再起のために識字教育や読書を渇望している。現地でそれを聞いた田島さんは2000年からパキスタンのアディアラ刑務所、ムルタン女性刑務所、ファイサラバード刑務所、ペシャワール刑務所に4館のキラン図書館をボランティアの力で設置した。これは子ども達や関係者に大きな影響を与えた。これまで塀の中での子どもの識字教育は誰も考えなかったのである。司法当局や刑務所長を説得し、子どもの人権のため忍耐強く識字教育の重要性を訴え当局者の考えを変えていくのは困難を極めたという。
 また田島さんは、パキスタンで初めて手漉き紙の作り方を人々に教えた。貧しい農村の子ども達から学習のためにノートが欲しいと懇願された田島さんは、彼らに紙やノートその物を与えるのではなく、彼らが自分たちで紙を作る力をもつことが必要だと考えた。高価で貴重品である紙も雑草の繊維から手漉きで作る方法を学べば簡単に作れる。田島さんは、少数民族の住むカラーシャの村、NGO、貧しい農村女性達、青少年刑務所、ラオスの山村、タイの難民キャンプ、南インドの最下層カーストの女性など数千人を対象に、現地に赴いて紙漉きを教え、自立活動を支援しながら社会的に最も虐げられた人々の識字教育を行っている。
 
受賞の言葉
 これまで私はアジア・太平洋地域で、識字教育の仕事に従事してきましたが、教育の世界では、格差がますます広がっていくのを痛切に感じています。
 なかでも大人の犯した犯罪を、文字の読み書きのできない子どもに押し付けるケースが深刻で、獄中にいる子どもたちの要請に応じて、パキスタン各地にキラン(太陽の光)図書館という子ども図書館を設置してきました。これは他の国々も同様な状況です。世界中の子どもたちが、文字の読み書きなど「教育権」を豊かに享受できるよう、今後とも国際協力を行っていきたいと思います。受賞に心から感謝します。
 
パキスタンのカラーシャの子どもたちヘ自作の紙芝居を見せる
 
キラン図書館第1号館
 
紙漉きワークショップ
 
ラオスで紙漉きを教える


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