1-4 高気圧と低気圧
周囲より気圧の高いところを高気圧といい、風は北半球では高気圧の中心から外側へ、時計方向(右回り)に吹き出している。
高気圧の中心付近では、周囲に吹き出す空気を補うため、上空から空気が下降気流となって降りる。このため、空気の温度が上がり、雲があっても蒸発して消えてしまい、湿度も低くなる。従って、高気圧に覆われている地域は一般に天気がよい。
図1-10 高気圧と低気圧
高気圧は、その構造、成因などによって次の3つに分類することができる。
夏季に日本の南方海上に発生するもので、小笠原高気圧がこれにあたる。上層まで気温が高く、湿度も低く、風も弱い特徴をもっている。
冬季に大陸が冷えるために発生する高気圧で、シベリヤ高気圧がこれに該当し、地上付近に非常に冷たくて重い空気がたまってできている。
この高気圧は背の低いものが多く、高さとともに、高気圧としての形態は薄れ、3km以上の上空では、認めにくく、むしろ周囲に比べて気圧が低くなっている。
おもに日本列島付近を移動する直径1,000〜3,000kmの比較的小型の高気圧で、春や秋によく現れる。初夏の頃、天気がよい明け方に非常に冷え込んで霜が降りやすくなることがある。
気圧が周囲より低いところを低気圧といい、風は、北半球では反時計方向(左回り)に、周りから低気圧の中心に向かって吹き込んでいる。
低気圧の所では、四方から空気が吹き込んでくるので、中心付近では上昇気流が発生し、一般に天気は悪くなる。
日本列島付近では、低気圧は西から東に移動し次の種類がある。
熱帯地方の海上で発生する低気圧を熱帯低気圧といい、これが強まって、中心付近の最大風速が17m/s以上になったものを台風という。
熱帯低気圧は、夏から秋にかけて日本列島付近に来襲することが多い。
シベリヤ、中国方面に発生する低気圧で、11月から4月頃までの冬季に多く発生し、日本列島付近を西から東に移動する。この低気圧は前線を伴い、その長軸は5,000kmに及ぶものもある。冬季に温帯低気圧が通過したあとは大陸の高気圧から強い風が吹き出す。また、春先に東シナ海や黄海方面に発生した低気圧が、急速に発達しながら日本海を東進すると、この発達した低気圧に向かって強い南風が吹き込み、「春一番」といわれる暴風となり、フェーン現象による高温と異常乾燥が発生することがある。
「春一番」について、気象庁の天気相談所では「日本海の低気圧が発達して、立春から春分までの間に、はじめて吹く雨上りの強風(東南東から西南西の風向きで8m/s以上の風速)で気温が上昇する現象」と定義している。( 参照:3-6)
地形の影響によって、主低気圧の一部が膨らんで局部的に小さな低気圧が発生することがあり、これを副低気圧といい、主低気圧が三陸沖に進んだとき日本海側の能登半島沖に発生することがある。
副低気圧は主低気圧より小さいとは限らず、ときには副低気圧の方が主低気圧より発達することもある。
天気予報で、しばしば「上空に寒気を伴った低気圧」という言葉を耳にするが、このような低気圧のことを、気象学では「寒冷渦」、「寒冷低気圧」及び「切離低気圧」と呼ぶ。
この低気圧は、偏西風の蛇行が激しくなり、低緯度への張出し部分(気圧の谷)が深くなると、この部分が切り離されることがあり、この切り離された中心に寒気を閉じこめて独立した渦で、高層天気図では顕著に表されているが、地上天気図においては明瞭ではなく、前線を伴わない小低気圧として描かれるのが一般的である。
寒冷渦では、上空に寒気が入り込むため、大気が不安定になる。この際に、下層が日射によって強く加熱されたり、下層に湿潤な大気の流入があると一層大気は不安定化する。大気が不安定化すると、対流活動が活発になり、積乱雲などの対流雲が発達する。よって、寒冷渦の周辺では、積乱雲等による気象現象である、降電、短時間強雨、落雷、突風などの激しい現象が起こる可能性が高くなる。
一般に、低気圧に向かって南からの温暖湿潤な空気の流れ込みやすい寒冷渦の南東側で、大気の不安定が強く対流活動が活発になり、スコールラインを形成することもしばしばある。また、寒冷渦の中心はジェット気流の弱い領域に位置している。そのため、寒冷渦は動きが遅く日本を通過するのに2〜3日ほどかかる。
天気図に引かれた等圧線(天気図で気圧の等しいところを結んだ線)は、地図に画かれた等高線に似ている。高気圧は山、低気圧は窪地にあたる。
2つの高気圧に挟まれた気圧の低い所を気圧の谷といい、この気圧の谷の中に前線や、低気圧が発生する。このような気圧の分布を気圧配置という。
日本付近の気圧配置は大体決まっていて、東高西低型・南高北低型・西高東低型・北高南低型などがある。特に顕著なものは冬の西高東低型と夏の南高北低型で、この気圧配置のために、日本列島では冬季には北寄りの風が多く吹き、夏期には南寄りの風が多く吹く。このように、季節によって吹く方向の変わる風を季節風という。図1-11は夏の気圧配置と季節風、図1-12は冬の気圧配置と季節風を示す。
図1-11 夏の気圧配置
図1-12 冬の気圧配置
太平洋の熱帯地方の海上で発生した熱帯低気圧が強まって、中心付近の最大風速が17m/s以上になったものを台風という。台風は1年中発生するが、海水温度の高い夏から秋にかけて最も多く発生する。
空気の渦ができ台風が発生すると、周囲から多量の水蒸気を含んだ熱帯の空気が中心に向かって吹き込んでくる。この湿った空気は中心付近で激しく上昇し、積乱雲となる。水蒸気が凝結して雨になるときには多量の熱(潜熱)を放出するため、台風内の空気はさらに暖められ、ますます上昇気流が盛んとなり、台風は発達する。
台風は性質の一様な赤道気団内で発生するため、前線をもたず、等圧線に対して同心円状に並んでいる。気圧は中心に近いほど急に低くなるため、等圧線は中心付近ほど混んでいる。
風は台風の中心に向かって時計の針の動きと反対方向(左回り)に吹き込んでいるため、風を背にして立つと、台風の中心は左手少し前方(約20度)にある。これをバイスバロットの法則という。
また、台風内の風速は台風の進向の右半円が左半円よりも大きい。これは右半円では風速に進行速度が加わるためで、このようなことから、図1-14に示すように進行方向の右半円を危険半円、左半円を可航半円と呼んでいる。
台風内では激しい暴風雨でありながら、中心に入ると風は急に弱まり、雲が切れて青空が見えることがある。これを台風の目といい、その大きさは、普通直径40〜60km位であるが、直径が200kmもある大きな目から、直径数kmといった小さなものもある。
図1-13 台風の等圧線
図1-14 危険半円
図1-15 台風の月別平均コース
図1-15は月別の台風の平均コースを示したものである。7月から8月にかけては偏西風が弱まり、反対に太平洋高気圧が強くなるため、台風のコースも西日本に偏るが、夏を過ぎて秋の頃になると、今まで夏空を運んでいた太平洋高気圧の勢力に押されて、日本の北の方に退却していた偏西風が次第に勢力を盛り返してきて南下する。一方、日本に勢力を広げていた太平洋高気圧は次第に弱まり、その勢力の中心も東の方へ後退するため、全体として台風のコースが東にずれて、本土に上陸あるいは接近する台風が多くなる。
以上は台風の平均コースであるが、個々の台風コースを見ると蛇行することが多いので注意しなければならない。
図1-16は台風の予報円(台風の中心が進行するとみられる範囲・破線で示す)と暴風警戒域(実線で示す)の表示方式で、テレビ・新聞などで報道するときに使われる。しかし台風が小さく風速25m/s以上の暴風域を持たない場合は暴風警戒域は示さない。また、台風の進行速度が遅い場合は、12時間の予報円は省略して24時間後の予報円だけを表示することになっている。
図1-16 台風の予報円と暴風警戒域の表示
台風の大きさと強さの基準を表1-2に示す。この基準表にしたがって台風の大きさ、強さの階級を区別している。
表1-2 台風の「大きさ」・「強さ」の基準
●大きさ
階級 |
風速15m/s以上の半径 |
ごく小さい |
200km未満 |
小型:(小さい) |
200km以上〜300km未満 |
中型:(並の大きさ) |
300km以上〜500km未満 |
大型:(大きい) |
500km以上〜800km未満 |
超大型:(非常に大きい) |
800km以上 |
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●強さ
階級 |
中心付近の最大風速 |
弱い |
17m/s(34ノット)以上〜25m/s(48ノット)未満 |
並の強さ |
25m/s(48ノット)以上〜33m/s(64ノット)未満 |
強い |
33m/s(64ノット)以上〜44m/s(85ノット)未満 |
非常に強い |
44m/s(85ノット)以上〜54m/s(105ノット)未満 |
猛列な |
54m/s(105ノット)以上 |
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