侵入犯罪防止対策
警視庁刑事部捜査第三課技能指導官 富田 俊彦氏
皆さんこんにちは。貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。皆様方には警察行政、特に防犯については深いご理解とご協力とお力添えを賜りまして、本当にありがとうございます。皆様は防犯のリーダー、特に全国から選ばれた方ということで私もちょっと緊張しています。
皆様はあまり泥棒とのお付き合いはないと思いますが、私は長いこと泥棒捜査をやっていまして、かなり親しくしています。今日はその辺を具体的に、皆さんにはあまりなじみがないかも知れませんが、いろいろな手口の写真を用意して参りました。ぜひご覧いただいて、皆さんのこれからのリーダーとしての活動にお役に立てれば幸いに存じます。
皆さんのお手元に官民合同会議の防犯性能の高い建物部品についてのパンフレットを5団体の方からいただいて参りました。皆さんにお渡しして参考にしていただければと思います。私はそこの試験の指導員をさせていただきました。手口に基づいた対策ということで、その辺もぜひ後で資料としてお使いいただければと思います。
そして「青春」という詩があります。これから団塊の世代の方がどんどん地域に復帰してきます。退職されて地域に戻ってきます。皆さんがこれからご指導いただいて団塊の世代の人達にぜひ防犯にも参加してもらいたい。実はこの「青春」という詩ですが、私は63歳になりますけれども、高校時代の先生がお前にやるよと言われて貰いました。その時は高校を卒業したばっかりで内容はあまり分かりませんでしたけれど、今見るとこれが非常に役に立っというかよく理解できます。
「青春」という詩はサムエル・ウルマンという方の作で、訳したのが岡田義夫さんという方です。私の英語の先生で柔道の監督でした。お前にやるよと言った時には何故か分かりませんでしたが、今はこのことがすごく分かるような気がします。参考にしていただければと思います。
もう一つ、「子は親の鏡」という詩があります。ドロシロー・ノルトさんの作で皇太子殿下が愛子様のご誕生日の時に、この話をされました。今求められているのが、こういう子どもに対する思い。子ども達がこういう大人たちの中で育っていってもらいたい。親の姿を見てということですけれども、最近の親の姿勢がちょっとどうかなというところもあります。これから子ども達を育てていく上で、こういうところにヒントがあるのかなと思います。参考にしていただければ幸いに存じます。
早速いきます。松原専務さんからお話がありましたけれども、私は趣味でちょっとマジックをやりますが、眠くなったらマジックやりますので、その時はちょっと起きてください。ぜひお願いします。
私の長年の泥棒捜査の経験から泥棒といろいろ付き合った中で考えることは、泥棒も安全を考えているのです。皆さんと同じ安全です。これは字では同じですが泥棒の安全は捕まりたくないという安全です。泥棒とか犯罪者は捕まるのが一番怖いのです。自分の都合ばかりを考えている安全です。皆さんは街全体の安全です。
この辺は安全ではないと泥棒に悩ませること、侵入するのに容易ではない、困難だと思わせること、このことが防犯にはすごくヒントになると思います。そのためにどう対策を立てるかということです。
この家をご覧になったことはありますか。これは茨城の取手にある家なのです。6号線の水戸街道沿い。これは泥棒の家なのです。泥棒が泥棒に入られない家を考えたらこうなっちゃいました。これはどれぐらいすると思いますか。5,000万円です。
20年間捕まらなかったYという泥棒です。団地だとかマンションの共同の郵便受けから合鍵を探して入る泥棒の家です。家の後ろに回ったらこうです。実は窓がないですから入りようがないですよね。防犯と言うと、ただ強いものとか強固なもの、それだけが防犯という意識がすごく強い人がいるのです。ガードを固めればいいという防犯ではなくて、私たちは日本人ですから日本人としての防犯というのを、皆様はリーダーですから、ぜひ考えていただきたいと思うのです。
やみくもにこういう強いものがいいのではなくて、お金をかけて強固なものにすることだけが防犯ではないということをぜひ今日は頭に入れて欲しい。自分達はどうあるべきか、これから将来的に子ども達、孫達の代まで今の防犯を継続していかないといけませんけれども、そういうことも考えて欲しいということです。
この泥棒の家はワンドア、スリーロックなのです。防犯カメラもあります。これがいいのではないということです。この泥棒は合鍵を探して侵入します。20年間捕まらなかったというのは、われわれの手中の中に入らなかったということです。
ある団地の奥さんが洗濯物をしていたら突然、このYという泥棒が入ってきて、騒がれたので包丁で奥さんを殺してしまいました。泥棒が殺しはやらない、強盗はやらないのではないのです。われわれが知らなかっただけなのです。これは時効が来てしまって事件は解決しませんでした。16年目に分かったことです。
そしてピッキング事件ということで、これは警視庁管内のデーターですが、全国的にも大体同じです。平成7〜8年が100件だったのが平成10年は1,000件、一番ピークが平成12年の1万1,000件です。これ以降ずーっと減ってきました。皆さんが頑張っていただいたお陰です。ピッキングが出来ないというシリンダーも普及したこと等が理由です。ずーっと減少して来ましたが、昨年が何と309件。これだけを見たら収束状態ですよね。ピッキングはもう日本には考えなくてもいいよと言えるかも知れません。
皆さんは、数字だけでその辺をあまりうのみにしないで欲しい。その中に何があるのかなというのがすごく重要なことです。それを警察からいろいろな情報として聞いて欲しいと思います。数字だけ見たらこれはもう良かった、手を打ってめでたし、めでたしです。
けれども、昨年は年間309件だったのが今年の9月末、ピッキング事件がまた増えてきました。486件です。昨年の年間をもう9月で上回っていまして、これが伸び続けています。なぜか。まだまだピッキングできる、泥棒から見たらピッキングしやすい鍵が、錠前が付いているということです。それが今狙われてきているなという気がします。
これはピッキングの道具ですが、ちょっとご覧ください。フォークだとかこういうのは泥棒が工夫しているのです。これはダブルクリップといって皆さんが使いますよね。これを曲げてテンションというのに使うのです。シリンダーに回転させるもの。
実はこういうのを持っていると「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」で検挙できます。この法律は、平成15年9月1日から施行されたものです。国会議員の先生方が全会一致で党派を超えて、可決成立した法律です。
こういうピッキングの道具を持っていたら1年以下の懲役、50万円以下の罰金なのですが、これは非常にいい法律です。皆さんが犯罪抑止のために頑張ってくれているけれども、こういう法律というのはすごく重要なことで、ピッキングの道具を持っていただけで捕まってしまいます。警視庁管内にどれぐらい検挙があるかといいますと今年は235名検挙しています。
これは泥棒かばんというのですが、このかばんの中に何があるかということで侵入手口が分かってきます。こちらは軍手と懐中電灯、ピッキングの道具です。ピッキングできなければどうするかというとクリックボールというものを使うのです。このサムターン回し。こちらにはバールを持っています。かばんの中にこれがあるのです。もちろんこれらの用具を持っていれば検挙できます。業務とか正当な理由がないと、検挙できるのです。
これは非常にいい法律だということで、これからもやはり皆さんが頑張っていただくと同時に警察もこういうこともきちっと法令の中で決めてもらって、取り締まりもきちっとしていこうということで頑張っているところです。
平成13年ピッキングがどんどん減ってきました、逆にサムターン回しがこんなふうに増えてきましたよという図です。赤いのはガラスの焼き破りです。逆にピッキングだけ見たらオーケーだけれど、やはり泥棒は手を替えている。なぜかというとワンドア、ツーロックですけれどもツーロックにしてピッキングできないシリンダーが付いていてもドアに穴が開いているのです。
軽量のドアは、厚さ1ミリないのです。今マンションとかでは耐火とか耐震的なことは対応していますが、このサムターンがどこに行っても同じであるということで泥棒がこの穴を開けてサムターン回しを行うようになってきたということです。この例で言うとそんなに厚くありません。簡単にできます。このクリックボールでこの前実験した時に16秒あれば穴があいてしまいます。
私は警察官に話す時に手口はオールジャパンで考えないといけないよと言っています。こちらの針金は平成15年の1月9日の日に神田署で初めて押収されました。
同じ平成15年の1月28日、広島で奥さんが居留守を使ったのです。どうも何かガサガサやっているなと思って、ピンポン鳴ったけれど、おかしいと思って玄関に出て行ったら、この針金がこんなふうにかかってしまっているのです。「誰」と声をかけたら、これを置いて逃げたというのです。
同じ1月28日に奈良の高田署で、これを持っていた犯人が、上海人グループですが捕まりました。これを使用した手口が今、一挙に増えているのです。やはり、このサムターンが便利さを追求してきた日本の錠前のちょっと欠陥的なところです。今ひも付きの針金が非常に多くなっております。ひも付きでどうするかというと。(実演)
今まではこういうものをサムターンにカバーしておけばいいというのが防犯の対策でした。やはり、考えないといけないことは、今どうしたらいいのかということです。
実は私はマジシャンですから二つ三つやりますのでちょっと見てください。ここに花があります。瞬間でワンツースリーとシルクになります。普通拍手があるんですが。(拍手)実は泥棒がマジックをやるのです。どういうことかというと、ここがゴムになっていまして、これに袖を通していますから、これを離すと同時にこうなります。
泥棒はこんなことをやります。これはピッキングの道具なのです。原理はおなじで私はこれを見た時に、まさにマジックだなと思ったのです。泥棒はマジックをやるとびっくりしました。
実際にやってみますと、これはテンションといいましてシリンダーに回転力をかける道具ですが、携帯電話なんかを使って、誰か来たぞと連絡があると、これを離すのです。警察官はこんな所を触っても全然分からないです。こんな工夫をしているのです。
ドアのこの部分にシールが張ってあるというのはドアに穴を開けるということなのです。ここにシールが。これはシールを貼ってあるからおかしいと思って欲しい。丸い、黒いシールを貼るやつがありますが、くまのプーさんのシールとかいろいろあります。
ドアに16秒で穴を開けたらこういう状態でサムターン回しの用具を入れていきます。ひもを引っ張って、用具を回転するとサムターンが回転します。
今はこの針金使用の手口が多いのです。日本のドアの場合には外開きですから意外と簡単に針金が入るのです。ハンドルを下げながら針金を差し込み、こうすると開きます。皆さんの家は大体これで開きます。
これは郵便受けから狙ってきます。郵便受けから用具を差し入れて、こうすると開きます。ではどうすればいいのでしょうか。防犯とはお金がかかる、安全は買う時代といわれますが、どこにかけるか。子ども達のためにどうリフォームするか。どういう家を作るのか。確かなところにお金をかけるというのは重要なところです。これはやはりぜひ考えて欲しいことです。
実は泥棒は鍵を締めて行くって知っていますか。
こちらはサランラップです。茨城の古河警察署の方がこれを押収してくれました。この手口の最初のヒントは茨城の古河警察署の方がこれは何に使うかという疑問からです。これは新宿署で実際にあったビニールテープです。ドアや錠前には何にも痕跡がないわけです。気が付かない。どうやって入ったか分からない。
これはやはりきちっと見ないと。皆無締りとか合鍵になってしまいます。今無締りが多いからこの対策をしましょう。じゃあ、無締りが多いのだったら戸締りの運動をすればいいということになります。泥棒はそんなレベルではないということです。
実はこうして外へ出ます。こうやって締めて帰ってしまいます。
このような手口で侵入して、預金下ろしをする泥棒は物色しません。実はスキャナーでスキミングしてカードを元に戻します。アジトでカードを作ります。皆さんの暗証番号は生年月日、電話番号、車のナンバー、住所ではないですか。絶対駄目ですよ。泥棒は手帳に4けたの番号があったら、それをもう暗証番号だと思っています。リーダーの皆さんは厳しく自分で管理して欲しいなと思います。
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