日本財団 図書館


子どもの安全対策
警察庁生活安全局生活安全企画課課長補佐 市原 昌樹氏
 
 こんにちは。ただ今ご紹介をいただきました警察庁の市原と申します。午前中の清永先生の内容も子どもですね。清永先生の話でもう言い尽くされているとは思うのですが、おまけ程度に話を聞いておいていただければいいのかなと思います。多分、現場サイドで子どもの安全対策というような観点から難しい理論的な話は抜きにして、というか話す能力もありませんので。
 今ご紹介にありました通り、私は今年の8月まで警視庁の小金井警察署の生活安全課長として子どもの安全対策なども含めまして、まさに治安の最前線で業務を推進して参りました。警察署の生活安全課の仕事というのはこれだけではないですけれども。
 そんなようなわけで本日お話しさせていただきます内容は警察庁独自の施策、あるいは関係省庁などと連携して取り組んでいる施策。それに加えまして警察署の生活安全課長としての体験などを踏まえました、多分に私見を織り交ぜてのお話になりますことをあらかじめご承知おきいただければと思います。
 さて、現下におけるわが国の治安情勢ということです。平成に入りましてご案内の通り犯罪の国際化、広域化、スピード化など。それに加えまして、言われて久しくなることですが都市化や核家族化の進展、そして他人のことにあまりかかわりを持ちたくないというような意識の高まりなどがあります。その影響も受けて、もちろんこればかりではないと思うのですけれども刑法犯の認知件数が増加の一途をたどってしまったのです。
 特に平成8年から平成14年にかけて戦後最多の刑法犯認知件数が更新し続けるというわが国の安全神話が、瓦解の危機に瀕する、まさに警察の鼎の軽重が問われる緊急事態とも言える事態に陥ってしまったのです。
 警察庁としましてはこの最悪とも言える緊急事態を改善すべく、平成15年を治安回復元年と位置付けて同年から街頭・侵入犯罪抑止総合対策に取り組みました。もちろん抑止というと防犯ばかりと考えられてしまうのですけれども、この総合対策というのは検挙と防犯両面における諸対策です。それを本日ご臨席のボランティアの方々などのご協力を始め、関係省庁等々の連携を密にして警察庁の総力を挙げて推進して参りました。
 その結果、平成15年から15、16、17と3年連続して刑法犯認知件数が減少し続け、本年に入ってもその減少傾向は続いております。12月末まで、まだ少しありますけれども4年連続の刑法犯認知件数の減少というのは、ほぼ間違いないということで確実に治安は回復の兆しを見せているということが言えるのかなというところです。
 しかしながら、治安が良いとされていた昭和40年代の刑法犯認知件数と比較しますと、まだまだ高水準にあるというのは否めない事実ですので、警察庁としましては治安回復の手綱を緩めることなく一層強固なものとしていく決意です。
 一方、このような治安の回復傾向と逆行するような子どもを被害者とした残忍、かつ凶悪な殺人事件が、特に平成17年11月以降相次いで発生しまして国民に大きな衝撃や不安を与え、皆様方の体感治安の悪化を招来している次第です。
 政府が掲げます世界一安全な国日本、この復活のためには警察の独力ではやはり限界があるのです。国を挙げての取り組みや関係省庁との連携、そして本日ご臨席の皆様方を中心とした全国民の協力を賜って初めて、この治安回復というのは成し遂げられるものです。また、そのような協力態勢を一層強固なものとしてこそ、次代を担う国の宝ともいうべき子どもを犯罪被害から守っていくことができるのではないかと思う次第です。
 それでは、始めに政府として取り組んでおります子どもの安全対策の概要について話を進めて参りたいと思います。政府は昨年12月に行われた全閣僚を構成員とする犯罪対策閣僚会議というのを立ち上げました。ここにおきまして犯罪から子どもを守るための対策の強化というものを重点課題として取り上げました。
 また本年6月に開催されました青少年育成本部犯罪対策閣僚会議との合同会議におきまして「子ども安全・安心加速化プラン」というものが了承されました。学校、警察、関係諸機関及び地域住民等が協働して子どもの犯罪被害防止対策を推進していくことの重要性が明記されました。
 さらに同会議の決定によりまして本年から10月11日という日を「安全・安心なまちづくりの日」とすることとなりました。警察庁はもとより全国警察におきまして、その前後の期間に国民各層の幅広い参加を得た取り組みを集中的に実施し、国民の防犯に対する意識と理解を一層深めていただいたところです。
 ちなみに今日ご臨席の皆様方で10月11日が今年から「安全・安心なまちづくりの日」と決まったことをご存知の方、ちょっと手を挙げていただけますでしょうか。若干いらっしゃって安心しました。
 これは正式な発表ではないのですけれども、私なりにこの10月11日、これは秋の全国地域安全運動の始まりの期間でもあるのですが10月11日、「住民皆でいい日」なんていう感じで決めたのかなと。そのように地域住民が警察とか関係省庁と協力して、いい日と覚えていただければ覚えやすいのかなと思います。もちろん、これは政府とか関係犯罪閣僚会議の正式な公式見解ではありませんので、あらかじめご承知おきをいただきたいと思います。
 しかし、国民の治安の悪化を懸念する声が依然まだ強いのです。過日実施されました内閣府の世論調査というものがあります。国民が悪い方向に向かっていると感じている分野は何ですかという問いがあります。その問いに対して2年連続、治安がトップになっているのです。このように実態としては刑法犯認知件数が先ほども申しました通り減っているのですが、国民の意識との間にこのような大きな乖離がある。
 ということで刑法犯認知件数が3年連続、4年連続で減っているといってもこれは警察の手前みそなのかなということを強く認識しました。まだまだ高いレベルの治安の良さというものを国民の皆様方はわれわれ警察に望んでいるのだなということを深く肝に銘じて今後とも国民の皆様方の体感治安を回復していただけるような治安のレベルに持っていく必要があると、この新聞記事を読んで感じた次第です。
 その中で特別世論調査という項目がありまして、本日の題にも関係がありますが子どもの関係です。国民の何と4人に3人が子どもが何らかの犯罪被害に遭うのではないかとの不安を抱いているという誠に憂慮すべき結果が出たのです。これは一連の犯罪、殺人事件の発生を受けての記憶がどれだけ国民に強い衝撃を与えたかという証左だと思われます。
 警察庁としましてはこの調査結果を重く受け止めて、国民の体感治安を一日でも早く回復していただくべく、今から述べて参ります省庁の枠を越えた諸対策を実施していくというところです。
 それでは、本日ちょうだいしました論題であります「犯罪から子どもを守るための対策について」話を進めて参りたいと思います。
 私の話の中に「子ども」という言葉が何十回となく出て来ますけれども、ここの子どもの定義は未就学児童及び小学生を対象として「子ども」と言わさせていただきますのでよろしくお願いしたいと思います。
 始めに、過去10年間における子どもが被害者となった殺人事件の認知件数の推移について見てみますと、概ね100件前後発生しています。だから、特に最近子どもが殺害される事件が激増しているというわけではないのです。認識としては何かすごくここ2、3年で4倍、5倍も発生しているのかなという認識に捕らわれがちなのです。しかし、件数自体は安定しているというと大変語弊がありますけれども、そう激増しているわけではないと言えます。
 次に全国民に衝撃を与えた、子どもが登下校途中などにおいて殺害されてしまった大変悲惨な事件を引いて最近の主な事例を述べさせていただきたいと思います。
 まず今の子どもを社会全体で守っていくのだ、守っていかなければならないのだというような現在の機運を醸成するきっかけとなった事件として、過日被告自身が控訴を取り下げて第一審をもって死刑判決が確定した事件があります。これは平成16年11月、奈良県下の新聞配達員が一人で下校途中の小学校1年生の女の子を車に乗せて連れ去り、自宅浴槽内で溺死させた事件。
 続きまして平成17年11月、広島県下、ペルー国籍の男がまたこれも一人で下校途中の小学校1年生の女の子を絞殺後、その死体をダンボールに詰めて自宅付近の空き地に遺棄した事件。これも記憶に新しいところだと思います。まだまだあるのです。
 今度はその1ヵ月後の平成17年12月、栃木県下今市市、今は市町村合併で日光市と変わったということです。これも下校途中の小学校1年生の女の子が行方不明になった事件です。翌日、茨城県下の山林の中で遺体として発見された。これはまだ犯人未検挙ですが、誘拐殺人事件として現在捜査中の事件です。
 続きまして同年同月、京都府下の学習塾、これもご記憶にあると思います。学習塾の先生が学習塾の中で、先生といっても塾のアルバイトの講師だったみたいです。小学校6年生の女の子を刃物で殺害した事件。
 本年の3月、これは神奈川県下のマンション15階通路で下校途中の小学3年生の男の子を持ち上げて地上に突き落とし殺害した事件。今年の5月、これも本当に一番記憶に新しいところだと思います。秋田県下、下校途中の小学校1年生の男の子が行方不明となり翌日能代市内の道路脇で遺体で発見された。殺人死体遺棄事件として捜査した結果、近隣の女を被疑者として逮捕した事件。
 今お話しして、まだこれ以外にも若干あると思うのですが、ずっと言っていると時間がなくなってしまいますのでこのぐらいにしておきます。
 今申し上げただけでも、このような想像を絶するような今までは考えられないような凶悪かつ衝撃的な事件が相次いで発生した。これが先ほどの国民の4人に3人が子どもが何らかの犯罪被害に巻き込まれるのではないかという意識に強くつながっているということは、もう言うまでもないというところです。
 幸いにして、この秋田の今年の5月以降、今日に至るまで同種の痛ましい事件は皆様方のご協力を得まして押さえ込んでいるというところではありますが、何時発生するとも限らない。ということでわれわれ警察はもちろんのこと、皆様方の更なる自主防犯ボランティア活動、登下校途中における見守り活動というのを継続していただいて、われわれの手で子どもを守っていくんだという気概の継続が重要になってくるのではないかと思う次第です。
 それでは本論である犯罪から子どもを守る対策というお話に進んで参りたいと思います。第一として、これはもう当然のことですが警察活動の積極的展開ということです。まずその1として検挙対策の徹底ということが挙げられると思います。われわれ警察は警察法第2条という法律で国民の生命、身体、財産を守るということが最重点の使命、責務として掲げられているのです。そのような警察が子どもを犯罪から守る対策の中核的存在を担うことは当然のことであり、また法律の要請でもあるのです。
 また、不幸にして発生した事件は即座に検挙することが国民の体感治安向上の観点からも極めて重要となっているということは当然のことと承知しております。そのためには、われわれ警察の捜査能力の一層の向上はもちろんなのです。知能犯にしてもそうです。振り込め詐欺などにしてもそうですが犯人側も手を替え品を替え、どんどん新しい犯罪を考えていく。それを上回るような対策を取っていかなければ検挙もおぼつかないということは自明の理なのです。
 そんなことで捜査能力の一層の向上はもちろんです。関係行政機関、あるいは地域住民等から寄せられる子どもに対する声掛けや、つきまとい事案に関する、いわゆる不審者情報と言われています地域安全情報です。皆様方から寄せられるこういった情報は警察にとりまして犯人の検挙はもとより、犯罪を抑止していくためにも不可欠な情報源の一つとなっているところです。
 なぜなら、この種事案はその行為自体が犯罪構成要件を充足するばかりでなく、以後に予想される誘拐事件や性犯罪、あるいは殺人事件等の重要強化事件の前兆事案、前触れ事案とも考えられるわけです。今日、私はたまたま勤務場所から出てくる時に今日発行された東京都広報というのを見たのです。それに不審者による子どもに対する声掛け事例というのが特集で組まれていました。これは全国警察ではなくて警視庁の生活安全部からの集計を得て東京都広報に掲載されていると思うのですが。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION