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10.3 かごの構造
 段差解消機は,速度が遅いこと,昇降行程が大きくないことから,かごの構造はエレベーターのかごと異なり,天井を不要とするなどの緩和が図られている。
 以下,段差解消機のかご構造の要件を述べる。
1)側壁
 出入口の部分を除き,高さ1m以上の丈夫な壁,囲いで囲むこと(平成12年建設省告示第1413号第1第七号イ)。なお,挟まれるおそれのない側壁面は,車いすの脱輪等を防止するかご床面から高さ15cm以上の立ち上がり部分(せき)を設け,その上部はかご床面から高さ1m以上の丈夫な手すりでもよい。なお,車いす1人乗りで,昇降の操作を管理者がかご外から行うものでは,高さ65cm以上の大きな壁,囲いでもよく,かご床面から立ち上がるせきの高さは7cm以上(出入口間口80cm以下では6cm以上)でよい。また,定員が2名のかごで,車いすを使用しない高齢者,身体障害者等身体機能の低下した利用者のための折りたたみいすをかご側壁部に設けることができる。
 昇降行程1m以下の段差解消機のかごは,かごの側壁部分に高齢者等が立った姿勢で利用する際の安全を確保するための手すりを設け,他の側壁部分に車いすの脱輪等を防止する高さ75mmの立上り部分としてもよい(図101に昇降行程1m未満の鉛直型段差解消機の一例を示す。)。
2)出入口
 かごの出入口には戸又は可動式手すり(遮断棒)を設け,床からの高さは,戸にあっては70cm以上,遮断棒にあっては,おおむね70cmの位置とする。出入口の数には制限はないが,車いす使用者の利便性を考慮すると,貫通2方向とするのが一般的である。
 なお,遮断棒を設ける場合には,かご床からのはみ出しを防止するため,出入口床面に高さ10mm程度の車止めを設けることが望ましい。この車止めは手動又は自動の跳ね上げ式渡し板で兼用してもよい。
 昇降行程1m以下の段差解消機は転落による危険性が小さいため,かごの戸又は遮断棒及び車止めを設けなくてもよい。なお,遮断棒の代わりに鎖,縄等の非剛性材は使用すべきではない。
3)操作盤,標識
 車いす使用者が容易に繰作できる位置(床面より高さ1.0m前後)に繰作盤を取り付けること。また,かご内の見やすい位置に用途及び積載量並びに最大定員を明示した標識を掲示する必要がある。なお,車いすを使用できないものや管理者が昇降させるものについては,その旨の利用上の注意標識及び災害時の注意標識も必要に応じて掲示することが望ましい。
 
図101 昇降行程1m未満の鉛直型段差解消機の例
住戸内を除く昇降行程1m未満の段差解消機(鉛直型)の例
 
住戸内のみを昇降する昇降行程が1m未満の段差解消機(鉛直型)の例
 
4)床面積
 定員1名のかごの床面積は2m2以下で,車いす使用者がかご内で90度の転回運動を行って乗降するために必要なかごの大きさは間口1.4m,奥行き1.4m(面積1.96m2),かご内を直線運動で乗降する構造のかごの大きさは間口0.8m以上,奥行1.25m以上(面積1.0m2)が望ましい。
 かごの床面積が2m2を超え2.25m2以下のものは定員2名と規定されている(平成12年建設省告示第1415号第五号二)が,車いす使用者と付添い者が同時に利用できる面積を確保するためであり,車いすを90度の転回を行って乗降するのに必要なかごの大きさは,間口1.5m,奥行1.5m(面積2.25m2),かご内を直線運動で乗降する構造のかごの大きさは,間口1.15m以上,奥行1.8m以上が望ましい。車いすの転回運動とは,側壁の一方に出入口を設け,かごの乗降に車いすを90度転回する動きである(図102参照)。また,床面積が2m2以下でも,積載荷重を2,400N以上とすれば付添い者が同時に利用することができる。
 なお,車いすが移動しないように,かご床は停止時及び昇降時とも,常に水平を保つ構造とすること。
 
図102 90度転回運動
車いす使用者のかご内90度の転回運動
 
10.4 昇降路の構造
 昇降路とは,かご又はつり合おもりがガイドレールに沿って昇降する部分をいい,昇降路外の人又は物が昇降路内を移動するかご又はつり合おもり,あるいは安全装置に触れるおそれのないよう,昇降路を他の空間と仕切る必要がある。そのため,昇降路の壁,囲いその他の部分に用いる材料は,人や物による衝撃に耐えられるよう十分な強度を有するものとすること(平成12年建設省告示第1413号第1第七号ハ)。
1)斜行型段差解消機の昇降路の構造
 斜行型の昇降路は,当咳階段の側壁又は囲い,階段,床等であり,側壁の高さは階段踏面先端から1.1m以上とすること。
 ただし,かごの底部と昇降路(壁,囲い,階段,床等)との間に,人又は物が挟まれたことを検知してかごを停止させる装置(障害物検知装置)を設ければ,昇降路の壁又は囲いを設けなくてもよい。折りたたみ式又は着脱式段差解消機はこの障害物検知装置を設けて,昇降路の部分を通常は階段として利用していることが多い。
 また,かごに天井がないものが多いので,かご昇降全域にわたり,かご床面から建物の天井又ははり下までの高さを2.0m以上確保すること。2.0m未満の場合は,利用者に危害が生じないような適切な措置を講じること。
 昇降するかごの勾配は,利用者の心理的影響を考慮して,おおむね45度以下とする。
2)鉛直型段差解消機の昇降路の構造
 鉛直型の昇降路は,下部乗場から上部乗場までの部分であり,高さ1.8m以上の丈夫な壁又は囲いを設けなければならない。ただし,かご内側壁(手すり)から建物の床,はり等の障害物までの水平距離が0.5m以下の場合,かごが上昇時にかご内の人又は物が挟まるおそれがあるため,その全域を連続した段差のない壁又は囲いを設けること(図103参照)。
 
図103 鉛直型段差解消機の昇降路
 
 上階部分は挟まれるおそれはないが転落のおそれがあるため,転落防止の高さ1.1m以上の丈夫な壁又は囲いを設けること。
 かご床下にスカートカード等を設けるか又は障害物検知装置を設けることにより,下部乗場出入口を除く昇降路の壁又は囲いの高さを1.8m以下とすることができるが,かごの直下に人の進入を防止するための高さ1.1m以上の丈夫な壁又は囲いを設けること。
 なお,昇降行程1m以下の段差解消機は,下部乗場及び上部乗場の昇降路の壁又は囲い及び出入口の戸を設けなくてよい。
 また,上部乗場停止時のかご床から昇降路天井までの高さは2.0m以上とすること。2.0m未満の場合は,利用者に危害が生じないような適切な措置を講じること。
3)昇降路の出入口
 出入口には高さ0.7m以上の戸を設け,昇降路外の人が昇降路内に入り難い構造とすること。戸には引き戸,開き戸,折り戸及び伸縮度等を使用してもよい。
 また,戸の代わりに取付け高さが0.7m程度の遮断棒でもよい。
 ただし,昇降行程1mを超える鉛直型段差解消機の上部乗場出入口には,人又は物等の落下による被害が想定されるので遮断棒ではなく,床面までカバーする高さ1.1m以上の戸とすること。
4)かご床先と出入口床先間の水平距雌
 かご床先と出入口床先間のすき間の寸法は,人又は物が昇降路内に落ち込むことを防止するため,出入口有効幅の範囲では4cm以下とすること(平成12年建設省告示第1413号第1第七号ハ(2))。
 ただし,かご又は乗場に渡し板が設けられて,人又は車いす使用者が円滑に乗降できる場合には4cmを超えてもよい。この場合すき間から人が落下することを防止するため,12.5cmは超えないようにする必要がある。渡し板はかごに設けられ昇降中は車止め機能を持たせ,停止時に手動又は自動で遮断棒と連動で動くものが多い。
 なお,鉛直型段差解消機でかごの出入口に遮断棒を設ける場合,かごから飛び出した部分が上部乗場床先に挟まれないようにするため,上部乗場床先と昇降行程全域にわたり段差のない連続した壁とするか又はフェッシャープレートを設けること。
 
10.5 乗降ロビー
 乗降ロビーには,車いす使用者が容易に操作できる位置(床面より高さ1.0m前後)に乗場操作盤を設けること。
 乗場操作盤には,通常,電源スイッチ,係員呼びボタン,かご呼びボタン,かご送りボタン,非常停止スイッチが設けられている。
 また,乗降ロビーは,車いす使用者がかごへの乗降に支障がないように,適切な広さが確保されていること。
 
10.6 安全装置
 段差解消機には,次の安全装置が設けられていること。
1)ドアスイッチ
 かご及び昇降路すべての出入口の戸又は遮断棒が閉じていなければ,かごを昇降させてはならない。
 ただし,昇降行程1.0m以下のもので,出入口を省略できるものはこの限りでない。
2)乗場戸のロック
 乗場戸は,戸開き状態での床合わせの場合を除き,かごがその階に停止していない場合には鍵がかかっていることが望ましい。
3)停止スイッチ
 かごの制御装置その他の故障でかごの走行が止まらなくなったような非常の場合,かご内及び乗降ロビーで動力を切るスイッチが必要である。この停止スイッチは自動復帰しないものとし,非常ブザーと連動することが望ましい。
 また,保守点検時,救出作業時などに不用意に動力が入って,かごが動き出さないように動力を切るスイッチも乗降ロビーに設けること。後者の安全スイッチは,停止スイッチと兼用してもよい。
4)電磁ブレーキ
 昇降中に段差解消機の動力が断たれたときには,速やかにかごを停止させ,かつ,停止中のかごを安全に保持しなげればならない。ブレーキの保持力は定格積載荷重の1.25倍までの荷重を積載した状態でかごを安全に保持する能力が必要である。
 駆動方式が油圧式の場合は,逆止弁がこの役目を果たす。
5)リミットスイッチ
 上及び下の停止位置近くで作動するリミットスイッチを設け,このスイッチを開くことによってその方向への段差解消機の運転を停止すること。リミットスイッチは一般的には昇降路側に設けられるが,かご側に設けることもある。さらに行き過ぎて緩衝器又は緩衝材に衝突する前にかごの走行を制止するためのスイッチが必要である。
6)緩衝器・緩衝材
 万一,かごが昇降路の底部に衝突した場合でも,かご内の人が安全であるように衝撃を緩和する緩衝器又は緩衝材が必要である。
7)外部連絡装置
 非常の場合,かご内から外部へ連絡するための通信設備が必要であり,予備電源を持ったインターホン又は警報ベル等を備えて,地震・火災・停電等の災害時にかご内と管理責任者との連絡が取れるようにしなければならない。
8)障害物検知装置
 斜行型段差解消機では,昇降路の壁,囲い等を乗り越えて昇降路に侵入した人や,昇降路内に投げ入れられた物が,かご枠と床,階段等との間に強く挟まれたときに,かごの昇降を自動的に制止する装置が必要である。「強く挟まれたとき」とは,接触式検知器(機械式)の場合であり,おおむね100N以下の力で挟まれを検知して直ちにかごの昇降を停止させる。この接触式検知器に代わり光電管,超音波センサー等の非接触式検知器を用いてもよい。
 鉛直型においても,昇降路壁,囲い等を高さ1.8m未満とした場合には,かご床下にこの検出装置を設ける必要がある。
 なお,昇降路全体が完全に仕切られ,昇降路への侵入や物が投げ入れられるおそれのない場合は,この安全装置は省略できる。
9)非常時かご外救出装置
 非常の場合,かご内の人を安全に救出することができる手段,方法又は装置を設ける必要がある。
 救出には,ターニングハンドル等を用いた手動操作による救出,補助バッテリー電源での操作による救出,油圧式では手動降下バルブの操作による救出,斜行型段差解消機では階段を利用した救出方法等があり,各駆動方式に適した救出手段,方法又は装置でよい。
10)かご着脱式,かご折りたたみ式の安全装置
 かご着脱式の段差解消機には,レールに設けられた結合装置とかごの結合装置が確実にロックしていなければ,かごの運転回路を作動しないようにするインターロックスイッチを設けなければならない。
 電動でかごを開閉する折りたたみ式段差解消機は,開閉中のかごに挟まれた場合,あるいはかごに人がいる場合には開閉を阻止する装置を設けなければならない。
11)駆動方式に即した制動装置,安全装置
 その他,駆動方式に異常が発生した場合に,安全にかごを減速・停止させる必要があるので,各駆動方式に即した制動装置,安全装置を装備する必要がある。
12)過荷重防止装置
 住戸内のみを昇降するもの以外に,積載荷重がおおむね定格積載荷重の110%で作動する過荷重防止装置を設け,かつ,過荷重を検知すると,ブザー等で乗り過ぎを警告するとともに,段差解消機が昇降しないようにした場合,係員の立会いなしに自由に使用することができる。
 
(出典:国土交通大臣指定 昇降機検査資格者講習テキスト2004)


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