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3-2 段差解消機に関わる現行の法律・基準
 現行の建築基準法においては、鉛直方向に移動するエレベーターについては記載があるものの、斜行の階段昇降機の動きに合わせた記載はなされていない。そのため、新たな階段昇降装置の検討にあたり、既存の階段昇降機に類似した昇降装置として、段差解消機に関わる現行の法律・基準について整理を行った。
 なお、以下の記述は、「昇降機技術基準の解説」及び「国土交通大臣指定 昇降機検査資格者講習テキスト2004(財団法人日本建築設備・昇降機センター)」に基づき整理したものである。
 
3-2-1 段差解消機に関する建築基準法令
 建築基準法において、『段差解消機とは、高齢者・身体障害者等の建物内における鉛直方向の移動を容易にする目的で設置されるもので、階段の部分、傾斜路の部分その他これに類する部分に沿って昇降するエレベーター(以下「斜行型段差解消機」という。)及び同一階に床の高さが異なる部分がある場合において、当該部分に設けられる昇降行程4m以下のエレベーター(以下「鉛直型段差解消機」という。)で、かごの定格速度が15m/min以下、かつ、その床面積が2.25m2以下のものをいう。』とされている。
 
 以下に、建築基準法における段差解消機に関する記述(第1第七号)を示す。
 
七 昇降行程が2.5メートル以下の昇降機又は階段の部分、傾斜路の部分その他これらに類する部分に沿って昇降する昇降機で、かごの定格速度が15メートル以下で、かつ、かごの床面積が2.25平方メートル以下のもの 令第129条6第一号及び第129条7第四号の規定によるほか、次に定める構造であること。
イ かごは、次に定める構造であること。ただし、昇降行程が1メートル以下のもので手すりを設けたものにおいては、この限りでない。
(1)出入口の部分を除き、高さ1メートル以上の丈夫な壁又は囲いを設けていること。ただし、昇降路の側壁その他のものに挟まれるおそれのない部分に面するかごの部分で、かごの床から高さ15センチメートル以上の立上り部分を設け、かつ、高さ1メートル以上の丈夫な手すりを設けた部分にあっては、この限りでない。
(2)出入口には、戸又は可動式の手すりを設けていること。
ロ 用途、積載量(キログラムで表した重量とする。)及び最大定員(かごの床面積が2平方メートル以下のものにあっては1人、床面積が2平方メートルを超え、2.25平方メートル以下のものにあっては2人とする。)を明示した標識をかご内の見やすい場所に掲示していること。
ハ 昇降路は、次に定める構造であること。
(1)高さ1.8メートル以上の丈夫な壁又は囲い及び出入口の戸又は可動式の手すりを設けていること。ただし、かごの底と当該壁若しくは囲い又は床との間に人又は物が挟まれるおそれがある場合において、かごの下にスカートガードその他これに類するものを設けるか、又は強く挟まれた場合にかごの昇降を停止する装置を設けた場合にあってはこの限りでない。
(2)出入口の床先とかごの床先との水平距離は、4センチメートル以下であること。
(3)つり合おもりを設ける場合にあっては、人又は物がつり合おもりに触れないよう壁又は囲いを設けていること。
(4)かご内の人又は物が挟まれ、又は障害物に衝突することがないようにしていること。
二 次に掲げる安全装置が設けられていること。
(1)昇降行程が1.0メートルを超えるものにあっては、かご及び昇降路のすべての戸又は可動式の手すりが閉じていなければかごを昇降させることができない装置
(2)かごが折りたたみ式のもので動力を使用してかごを開閉するものにあっては、次に掲げる装置
(i)鍵を用いなければかごの開閉ができない装置
(ii)開閉中のかごに人又は物が挟まれた場合にかごの開閉を制止する装置
(iii)かごの上に人がいる場合又は物がある場合にかごを折りたたむことができない装置
(3)かごが着脱式のものにあっては、かごとレールが確実に取りつけられていなければかごを昇降させることができない装置
(4)住戸内のみを昇降するもの以外のものにあっては、積載荷重を著しく超えた場合において警報を発し、かつ、かごを昇降させることができない装置又は健を用いなければ、かごの昇降ができない装置
 
(注)本告示第1第七号は、平成14年5月31日付で改正されているので、改正条文については、第4部の3の該当告示本文を参照。
 
第1第七号
 本号で規定された「昇降機」とは、平12建告第1423号第6で「段差解消機」と定義されているが、本号でその構造を定めている。段差解消機は、車いすを使用している者(以下「車いす使用者」という。)を運搬することを主目的とし、「本告示に掲げる昇降行程(鉛直型段差解消機の場合)、定格速度及び床面積の範囲内で使用する昇降機」である。
 「昇降行程が2.5m以下の昇降機」とは鉛直型段差解消機(図1.3.8(a))を指し、「階段の部分、傾斜路の部分その他これらに類する部分に沿って昇降する昇降機」とは斜行型段差解消機(図1.3.8(b))を指す。それぞれの段差解消機(鉛直型、斜行型)は、速度が15m/mm以下、かごの床面積が2.25m2以下のものをいう。
 鉛直型段差解消機は、階床間を昇降するエレベーターと異なり、一つの階床内の高さの異なる部分又は吹抜き部分を移動するもので、その昇降行程は2.5m以下とされている。
 斜行型段差解消機には、直階段又は踊場付直階段に沿って昇降するタイプと折れ曲がり階段に沿って昇降するタイプがあり、昇降行程の制限は定められていない。また、専用の昇降路を設けないで、通常は昇降路の部分を階段として利用し、段差解消機の使用時に昇降路の部分にかごを構成して使用する構造の折りたたみ式又は着脱式斜行型段差解消機も一般的に使用されている。折りたたみ式はかご床、側壁、遮断捧等を折りたたむ構造のもの、また、着脱式は使用時に格納されたかごをレールに取付ける構造のものである。
 段差解消機の一般的な駆動方式には、ラックピニオン式、チェーンラックピニオン式、チェーンスプロケット式、ねじ式、油圧式及び油圧パンタグラフ式などがある。
 法(政令・告示)で強度検証法が定められている段差解消機の駆動方式はロープ式(巻胴式を含む。)、油圧式(直接式及び間接式。パンタグラフ式を含む。)及び鎖駆動式であり、それぞれ、エレベーターと同様に、平12建告第1414号第2(ロープ式エレベーターの強度検証法)又は第3(油圧エレベーターの強度検証法)により強度検証を行う。また、鎖駆動式(チェーンスプロケット式)は同告示号第4(鎖駆動式エレベーターの強度検証法)の規定による。チェーンラックピニオン式は、鎖駆動式に関する同告示の強度検証法を適用することができるが、ラックピニオン式やねじ式等、告示で例示されていない構造のものは、法第68条の26(構造方法等の認定)に基づき、指定性能評価機関による性能評価を経て国土交通大臣の認定を取得しなければならない。
 
図1.3.8 段差解消機の構造例
(a)鉛直型段差解消機
 
(b)斜行型段差解消機
 
 昇降行程1m以下の段差解消機は転落による危険性が少ないため、かご及び昇降路の構造が緩和されている。
 なお、斜行型段差解消機の下部乗場と上部乗場との鉛直距離を揚程といい、斜行エレベーターと同様、下部乗場と上部乗場間の走行距離を昇降行程という。
 かごの壁、囲いその他の部分に用いる材料は令第129条の6第一号の規定により十分な強度を有するとともに、その取付けが十分強固であることが要求され、かご内の人や物による衝撃に十分耐えられるように製作、組み立てられなければならない。
 昇降路の構造は令第129条の7第四号の規定により主索、鎖、ケーブル等が地震により揺動し、昇降路内の突出物に引っ掛かり、運行に支障を生ずることがないよう、昇降路内にはやむ得ないものを除き突出物を設けないようにしなければならない。
 なお、段差解消機には、段差解消機に関する告示のほか下記の政令が適用される。
(1)かご及び主要な支持部材は令第129条の4第3項第一号の規定により腐食や腐朽しにくい材料を用いるか、又は有効なさび止めや防腐措置を講じて使用すること。
(2)主要な支持部分で摩損又は疲労破壊を生ずるおそれのあるものは令第129条の4第3項第二号の規定により、2以上の部分で構成し、それぞれが独立してかごを支えることと規定されているが、チェーンラックピニオン式やチェーンをエンドレスに配置したチェーンスプロケット式などでチェーンの動きが軌道により規制されチェーンが切断してもかごを支えられる構造とした場合には、かごが落下するおそれがないのでチェーンを1本で構成してもよい。
(3)耐震強度は令第129条の4第3項第三号の規定により、地震力及びその他の荷重によって機器又は部材に生ずる応力度が短期許容応力度を超えないようにする。具体的な耐震設計は第2部「昇降機耐震設計・施工指針」による。
(4)滑車を使用してかごをつる段差解消機にあっては、令第129条の4第3項第四号の規定により、地震その他の震動によって索が滑車から外れないようにすること。具体的な対策は第2部「昇降機耐震設計・施工指針」による。
《設計上の留意事項》
(1)段差解消機は高齢者及び車いす利用者、身体障害者の利用を考慮している。また、車いすはJIS T 9201に定める大形車いす(手動車いす)及びJIS T 9203に定める電動車いすを対象とする(図1.3.9)。
(2)斜行型段差解消機が階段の部分、傾斜路の部分等に沿って昇降する勾配は、折れ曲がり階段に沿って昇降するタイプで昇降方向を変える部分(コーナー部分)を除き、利用者の心理的影響を考慮しておおむね45度以下とする。
 
図1.3.9 JIS車いすの寸法
(a)JIS T 9201手動車いす(大形)寸法
 
(b)JIS T 9203電動車いす寸法
 
第1第七号イ
 かごの側壁は出入口の部分を除き、高さ1m以上の丈夫な壁、囲いを設けること。この「丈夫な」とは、鋼管製手すり等、人が寄りかかっても著しい変形がなく、破損しないものをいう。なお、挟まれるおそれのない側壁面は車いすの脱輪等を防止するため、かご床面から高さ15cm以上の立上り部分(せき)を設け、その上部はかご床面から高さ1m以上の丈夫な手すりでもよい。出入口部分には、戸又は可動式手すり(遮断棒)を設けること。この遮断棒の取付高さは床面より0.7m程度が一般的である。
 昇降行程1m以下の段差解消機は転落による危険性が少ないため、かご構造が緩和されている。かごの側壁部分に高齢者等が立って乗る場合の安全を確保するための手すりを設ければ、かごの戸又は遮断棒及び車止めを設けなくてもよい。この手すりは実用上支障がなければ、かごに設けるものでなく、壁側に設けるものでも構わない。
 このほか、かご内に高齢者や足の不自由な人等のために、折りたたみいすを設けてもよい。
《設計上の留意事項》
 住戸内以外の場所に設置する段差解消機(昇降行程1m以下のものを除く。)は、不特定の高齢者、身体の不自由な者、幼児連れのベビーカー使用者等を考慮して、かご戸及び囲いはパネル状のものとするか又は目の細かい柵、金網とすることが望ましい。


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