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3 原因分析と事例
(1)飲酒と海難原因の状況
飲酒の時期は、発航前10隻、釣り中7隻、花火見物中6隻、クルージング中6隻など「飲酒は間接原因や背景要因に過ぎない」といえども、被害は甚大
飲酒が海難原因とされた海難事件の状況は、直接原因となった事件は1件、間接原因となった事件は5件、背景要因と考えられる事件は24件の合計30件となっている。
図36 飲酒が海難原因とされた事件の内訳
飲酒が直接原因とされた事件1件((ア)事例−1)は、衝突で、飲酒運航を取り止めなかったことを指摘している。
飲酒が間接原因とされた事件5件のうち、乗揚2件((ア)事例−2)((イ)事例−1)は居眠り運航の要因の一つとして飲酒を指摘し、衝突(単)2件((ア)事例−5)((イ)事例−3)は船位不確認となった要因として飲酒を指摘し、転覆1件((オ)事例−1)は飲酒により判断力が低下し、発航を取り止めなかったことを指摘している。
なお、ほろ酔い期以上の13件の裁決事例をまとめると次のようになり、発航する予定であることを承知の上で発航前に飲酒をしたケースが最も多く、次いで釣り中及び花火大会見物中に飲酒しているケースが多い。
航行中の飲酒は水上レジャーの楽しみの一つと認識していたケースがほとんど
また、飲酒した場所を陸上・海上別でみると、陸上(発航前の自船内での飲酒を含む。)での飲酒が14件、海上での飲酒が16件とほぼ同数となっており、陸上での飲酒は「夜間に発航を予定するなか、発航直前まで友人達と自船のキャビン又はマリーナの施設等で飲酒」のケースが多く、発航前、同乗予定の友人等が集合した時点で『水上レジャー』が開始されているものと推察され、また、海上での飲酒は「釣り又はクルージングを楽しみながら昼食時等に海上で同乗者と一杯」のケースが多く、飲酒が水上レジャーの具体的な楽しみの一つとなっている状況が伺われる。
これらのことから、プレジャーボートを利用した水上レジャーにおいて、船長及び同乗者のほとんどは飲酒行為が安全運航に大きな支障を来すことを認識しておらず、それどころか船長は、アルコールを船内に積極的に持ち込み、そして航行中に率先して飲酒している事例が半数を超えている状況となっている。
他方、プレジャーボート船長の職業、航海頻度及び船長との関係をみると、会社員14人、自営業10人、企業経営者5人などとなっており、航海頻度は月1〜3回が4割強を占め、月1回未満(年1〜5回)の者を加えると6割のプレジャーボート船長が航海回数月3回以下となっており、更に船長と同乗者の関係をみると友人・職場仲間、知人が大半を占めている。これら各職業、航海の頻度・熟練度及び船長と同乗者との関係と飲酒運航に至った関係をみると、他のプレジャーボート海難と同様な傾向を示しており、飲酒運航を行った船長について、特定の傾向や特徴は見当たらず、すべての船長にわたって共通していると言える。
プレジャーボートの飲酒運航防止については、小型船舶操縦士免状更新等に際して、更新テキスト等を用いた指導教育が行われているにもかかわらず、海難事例のとおりの飲酒が原因等となる海難を引き起こしているのが実態である。
したがって、今回の船舶職員法の一部改正により、酒酔い操縦の禁止が明確化されたことを踏まえ、今後、プレジャーボートの操縦者に対して飲酒運航の危険性を認識させるために、一層の指導教育を図っていくことが必要である。
表37 船長の職業と航海頻度
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会社員 |
自営業 |
企業経営・役員 |
学生 |
職業計 |
月に1回未満
(年に1〜5回) |
月に1〜3回 |
月に4〜5回 |
月に6〜10回 |
ほぼ毎日 |
不詳 |
航海頻度計 |
| 船長 |
14 |
10 |
5 |
1 |
30 |
5 |
13 |
6 |
2 |
1 |
3 |
30 |
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図38 船長と同乗者との関係
(2)飲酒が海難発生にかかわった事例
(ア)発航する予定であることを承知の上で発航前に飲酒した例(5件)
事例−1 酩酊状態で運航を取りやめず衝突
[飲酒の状況]
船長は、自分の経営する会社において土曜日の仕事を終え、15時30分から18時まで従業員とマージャンをしながら500ミリリットル入りの缶ビール1缶と小ジョッキに5分の2ほど入れたウイスキーを水割りで飲んだ。その後、係留地に向かったが、途中18時10分酒店に立ち寄って約30分間再び飲酒し、18時40分ごろ係留地の自船に到着した。
[飲酒に関する船長の認識など]
船長は、「近くの酒店に立ち寄り、再び飲酒したのち自船に戻ったが、酒店の店主が私が酔っぱらっているので心配して船まで付いてきた。自分では大して酔っていないと思っていた。あとで思うと方向、物標及び相手船など分からないことばかりなのでかなり酔っていたのだと思う。」と証言している。
[発生に至る経緯及び海難原因]
船長は、飲酒したのち、飲酒運航を取りやめず、1人で乗り組み、酒店で初めて知り合った人1人を乗せ、釣りの為の回航目的で、19時30分発航して進行中、酩酊していて接近する旅客船に気付かず、同船の前路に進出する状態となり、20時22分半同船と衝突した。
[船体損傷]
(自船)左舷外板に破口、(相手船)右舷船首部損傷
[推定される飲酒との関係]
酔いの状況:酩酊期
飲酒の影響:警戒心の低下、判断力の低下
事例−2 居眠りして乗揚
[飲酒の状況]
船長は、前夜、帰宅後21時半から翌日01時まで妻と話をしながらビールの大びん5本を飲み、その後、2時間半睡眠をとったのち家を出て船だまりに向かった。
[飲酒に関する船長の認識など]
船長は、「船だまりに着いたとき、頭がすっきりした状態ではなく、酒が残っているような感じだった。」と証言している。
[発生に至る経緯及び海難原因]
船長は、1人で乗り組み、釣り仲間4人を乗せ、釣りの目的で、04時14分発航したが、発航した際、睡眠不足と完全に酒気が抜けない状態で、居眠り運航に陥るおそれがあったものの、釣り仲間を操舵室に呼び入れて2人で見張りに当たるなど居眠り運航防止措置をとらないまま単独で操船中、居眠り運航となり、04時45分埋立地の護岸周囲の消波ブロックに乗り揚げた。
[船体損傷]
(自船)船底中央部に破口を生じ浸水、沈没、のち廃船
[推定される飲酒との関係]
酔いの状況:酩酊初期
飲酒の影響:警戒心の低下、眠気を催す
事例−3 無灯火で航行中に衝突
[飲酒の状況]
船長は、発航前、00時から02時まで日本酒4合を飲んだ。
[発生に至る経緯及び海難原因]
船長は1人で乗り組み、日出前の05時15分釣りの目的で発航し、自船には購入時から灯火設備がなかったことから自身で取り付けた両色灯のみを表示して進行した。05時27分ごろ同灯火が故障により無灯火の状態となったが、速やかに錨泊するなど日の出を待たずに続航し、出航する無灯火の漁船を認めないまま進行中、05時37分同船と衝突した。
[死傷及び船体損傷]
(相手船)同乗者1人死亡
(自船)左舷船首部に亀裂、(相手船)左舷船首部及び左舷船尾部に亀裂
[推定される飲酒との関係]
酔いの状況:酩酊初期
飲酒の影響:警戒心の低下、判断力の低下
事例−4 相手船に気付かずそのまま衝突
[飲酒の状況]
船長は、発航前、19時から21時まで1人で食事中、ビールの大びん2、3本を飲んだ。
[発生に至る経緯及び海難原因]
船長は1人で乗り組み、23時15分発航して進行中、翌00時01分半見張り不十分で、左舷船首方1海里のところに前路を右方に横切るプレジャーボートの灯火を視認し得る状況となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、見張り不十分で、これに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航し、00時05分同船と衝突した。
[死傷及び船体損傷]
(相手船)同乗者1人死亡、1人重傷
(自船)船首部及び推進器損傷、(相手船)大破して転覆、のち廃船
[推定される飲酒との関係]
酔いの状況:ほろ酔い期
飲酒の影響:注意力の低下
事例−5 船位を確認しないで防波堤に衝突
[飲酒の状況]
船長は、発航前、19時から20時までビールをコップ1杯、日本酒2合を飲んだ。
[発生に至る経緯及び海難原因]
船長は、1人で乗り組み、友人3人を乗せ、湾内遊覧の目的で、22時00分発航し、湾内遊覧中、船位不確認で、00時14分防波堤に衝突した。
[死傷及び船体損傷]
(自船)船長軽傷、同乗者3人重傷
(自船)左舷船首部圧壊、のち廃船
[推定される飲酒との関係]
酔いの状況:ほろ酔い期
飲酒の影響:注意力の低下
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