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◆事例報告 ―ピンピンコロリ―
千葉 奥州市前沢区の千葉と申します。よろしくお願いします。
 写真だけで申し訳ありません。前沢牛と奥州牛です。この前沢町は今年の2月に合併をしまして、奥州市前沢区となりました。役所は対等合併だったものですから、総合支庁をとりまして、本庁とそれぞれの五つの旧市町村が支所というかたちで来ています。それで私の名刺は、前沢支所の生涯学習課ということになっております。
 位置的には岩手県の南です。天気予報を見るときは宮城県を見ることになっていますが、この辺は米処で、もちろん前沢も含めまして、いわゆる特A米・「ひとめほれ」の産地になっています。
合併の経緯
 合併の経緯なのですが、これ間違っていますけれども、2006年の2月20日に合併したのは確かです。上の申請が間違っています。駆け込みだったものですから、準備期間は一般的に3年必要だと言われるところを10ヵ月で合併したという経過がありまして、とんでもない不完全な事務事業調整になっております。
 これは恥ずかしいのであまり言えませんが、例えば、旧市町村ごとの税制がまだバラバラのままです。不均一税制のままです。さらに教育委員会ですと、例えば図書館長、公民館長の報酬がバラバラです。前沢が一番低くて、公民館長は月6万8千円です。隣の裕福な水沢市は月12万円、倍ぐらい違います。これは今年、何とかしなきゃいけないなというのが私の課題であります。
 そういうことで、もちろん職員の給料もまたバラバラです。去年までは隣の水沢市の同級生と4万円の月給差がありました。もちろん今も直ってないということであります。たまたま私は組合の委員長もやっていまして、今まで二十数回にわたる団体交渉を、仕事終わってからやってきております。全く話が違ってしまいました(笑い)。
 これは合併前の、字が小さくて見づらいのですが、五つの市町村です。向かって左から、旧胆沢町、その下が衣川村、一番小さい菱形のが前沢町です。その長いのが水沢市、一番でかいのは江刺市です。この前沢と水沢、この旧市町の自治体でチャレンジデーをやってきていました、今までも。もちろん今年も水沢は水沢区として、前沢は前沢区として実施しました。
 
 
 この辺は見てご覧の通り地域が狭いものですから、とても地理的に取り組みやすいという感じです。この江刺・胆沢の両隣は山が多くて、江刺も散ばっているところですし、胆沢、その他も散ばっているところですね。さすがに前沢と水沢は田んぼなものですから、山がなくて、地理的にとてもまとまりやすいというか、取り組みやすいということになっています。
前沢ブランド
 すみません、前沢牛のコマーシャルをさせてください(笑い)。前沢牛というのは、もう皆さんご存じだと思いますが、前沢で育った牛が全部前沢牛ではありません。なぜかというと、ちょうどこの握り寿司の写真の上のほうの寿司のサシの具合、脂肪の入り具合がA4になると思うのですが、いわゆる上質の肉を決めるにいろんなランクがあるのですが、A5がトップ、A4はその次、A4以上の格付けになったものだけが前沢牛になります。
 
 
 前沢牛はブランドとしても新しいのですが、農協の関係者から聞いたところによりますと、もともと松坂牛の名前で売っていたものだそうですので、肉質が松坂牛に劣らないということになっています。それでやっとこのごろブランドが確立されたものであります。参考までに、奥州市になりましたけれども、前沢牛の商標はそのままです。その他、水沢でとれた牛、江刺でとれた牛は奥州牛だそうです。そこまでお知らせしておきます(笑い)。
 もう一つコマーシャルですが、さきほどの地図の前沢の下には平泉町があるのですよ。有名な中尊寺、毛越寺がありまして、世界遺産に向けて行政も地域も取り組んでいるところですが、このコアゾーンの中の1カ所が前沢の白鳥舘(しろとりだて)遺跡、この写真なのですが、北上川に囲まれた大きな天然の要害がありますが、ここが遺跡になっておりまして、もちろんここも平泉文化圏になっておりますので当然のことなのですが、平泉の文化遺産のコアゾーンに前沢町の遺跡が入っているというかたちになっています。対策室をつくりまして、今、学芸員が頑張ってやっているところです。
取り組み
 チャレンジデーに戻りまして、今年のチャレンジデーの取り組みなのですが、先程お話ししました通り、旧水沢と旧前沢が取り組みました。水沢市さんは6万以上のいわゆる都市部で、12回のベテラン、大先輩であります。私のほうは人口1万5千ちょっと程度の地帯で、まだ5回目ということです。
 特徴的な部分は、私どもは「世帯カード回収方式」というのをやっていまして、それを若干、せっかくですのでお知らせをします。
 その前に、財団さんのほうから宿題がありまして、「旧体制での取り組みとなった訳を話しなさい」ということなのですが、至って簡単であります。急な合併だったものですから、合併協定の中で、「旧市町村の事業は」、これは教育委員会にかかわらずですが、「すべて新市に引き継ぐ」という文章がありましたので、チャレンジデーをやっているところはやる。やってないところはやらないという経過があり、水沢は水沢、前沢は前沢で取り組んだということです。もちろん、私たちは奥州市全体としてやってなかったものですから、水沢の課長がたまたま前沢出身の方なのですが、「奥州市全体でやりませんか」という話を本庁に申し上げたのですが、体制が整わないということで実現はできませんでした。
 これは前沢の取り組みの例です。こういうチラシ、これは表面でこっちが裏面なのですが、これをチャレンジデー前の4月でしょうか、夜、全世帯配布をします、行政主導なものですから。これは当日、「申し込みをしますね」ということで区長さんを通して配付するものです。
 ちょっと見えづらいのですが、これあたり参考になればと思いましてお話ししますが、前沢にでっかいジャスコがあります。駐車場を持っているでかい店舗なのですが、このジャスコさんの協力をいただいて、ジャスコの正面玄関に大きなスペースをいただきまして、「チャレンジデー」という横断幕を掲げまして、買い物に行くお客さんを捕まえて、玉入れかなんかしてもらって粗品をあげるということもやっています。
 これが結構、大きい店ですからお客さんも集まりますし、喜んで参加してくださっているようです。土日だとむしろ混んでそのスペースは取れないのですが、「平日だからこれはいいですよ」ということで、店長さんの了解を快くいただいてやっているものです。
 それと参加率を上げるための工夫の部分なのですが、右上、これは「行政区対抗参加率チャレンジ」と書いてありますが、前沢は50の区がありまして、それぞれ区長があります。その50区の区同士で参加率を競わせているものですので、一生懸命な区では区独自のちらしを区長さんが手書きで書いて、「何時、どこに集まれ」なんていうことをやっています。お互いの作戦をお互いに教えないとなんていう過熱ぶりもあります。ここら辺が特徴的なものかと思います。
 
 
 これが「カード回収方式」のカードです。これは記入例なのですけれども、全世帯に配布したものを、それぞれの家庭で、お父さんはどこで何をした、地域とか学校とか、区内・区外とあるのですが、これを全部手で集計するということを夜やります。このカードの回収が当日の夜7時半に50人の区長さんに対して、役場のほかの職員を何人か捕まえてきて、もちろん職務として捕まえてきて、夜、回収して歩かせます。それを回収して持ってきたものを午後8時ごろから、これも役場の中で職員を捕まえたのに全部計算機を持たせて、世帯ごとに全部計算していくのですね。ここは何件、ここは何件、何人、何人参加。もちろん、ダブルカウントを防止するための策として、区外に付けるものは全部落としています。それで区内に付けたものだけを全部拾ってカウントするという作戦をとっています。
 大体計算が終わるのが、今年は早くて9時15分に全部の計算が終わりました。これは世帯を、全戸配布したものが返ってくるので、これとは別に企業とか学校とかは別の様式で報告をもらいます。それはごく簡単なもので、町内から何人参加したか、町外から何人参加したか、それで町外だけをあとで足すというカウントをしています。
 これはご参考までですが、ローカル紙です。これは私が書いたものではありませんが、「前沢区、高々に勝利宣言」、そういうことで載っております。あるいは「水沢区は惜敗」って載っていますね。今日は水沢の方は会議で来られないそうです。
 これに書いてあるのですが、記事の中で前沢の対戦相手は久留米市の宮ノ陣校区さん、今日もいらしていますけれども、チャレンジの数字としては私どもが勝っているのですが、これだけ行政が力を入れてやった前沢は、数字の高いのは当たり前だと思います。宮ノ陣校区さんは地域総合型として対戦をしてくださっていまして、私たちは数字上では勝ちましたけれども、祝勝会の中、相手の取り組み方のほうが上だなということは、職員として確認をしました。明らかに、行政から独立した取り組みで、敬意を表したいと思います。
行政主導
 前沢の取り組みの背景、行政主導とありますけれども、これは首長の熱い思いというのがありまして、どれだけ熱いかというと、言いづらいのですが、現職の課長にいた今の町長が、現職の町長のやり方がおかしいということで、課長の職を投げ打って対抗したのですね。それぐらい熱い町長で、結果として町を二分する戦いになったのは田舎でよくありがちなことなのですが、結果として勝たせていただきました。「勝たせていただいた」という言い方は私もかなり応援をしたということで(笑い)、助役に呼ばれて注意まで受けました(笑い)。それぐらい熱い町長です。
 その町長の思いが、当時54歳でしたけれども、「ピンピンコロリ」、これはいわゆる普段の生活をきちんとしておけば生活習慣病なんかならないので、「運動して、80歳、90歳までピンピンしていて、コロリと逝ってくださいよ」という(笑い)、これです。ほかの自治体でも結構やっているところがありますが、うちの町長もこんなことを言い始めていました。
 そのためには「町民みんなスポーツだよ」ということをいろんな会合で言って歩きました。もちろん、チャンレンジデーのコマーシャルもさまざまな場で言って、チャレンジだということで宣伝部長みたいになってやってもらっていました。
 それはそれでいいのですが、よくケツを叩かれまして、「参加率は100パーセントだ、100パーセントを目指す。」と。いくら田舎でも町議会議員の選挙でも85パーセントがせいぜいです。100パーセント目指せと。町外から呼べばできると、とても熱い町長でした。こういう背景があります。
 今日、たまたま東京に来ていまして、帝国ホテルにいるらしいのですが、「こういう発表するよ」という話をしたら、「ぜひ俺も聞きに行きたいから、場所教えろ」とかいって、絶対に教えてきませんでした(笑い)。
今後にむけて
 これからの取り組みなのですが、先程の図です。今取り組んでいるのは真ん中の小さい水沢と前沢だけですので、これを全部の市も、山を含む広い面積を持っている胆沢、江刺に広めるということは、事務方としては至難の業と考えています。これも笹川スポーツ財団からの宿題で、「新市でのチャレンジデーの扱いはどうするのだ」という質問が入ってきまして、公式な見解は、これも本庁の課長の口から出たのですけれども、「合併後、新市において検討する」だそうです。とても淡白な回答です。
 来年についてはこういう状況ですので、もちろんこれからの検討となります。これだけでは終われませんので、思いとしまして、チャレンジデーの効果、私は5回のうち3回やったのですが、やっぱり、「やって良かったな」という声が聞こえてくるのですね。チャレンジデーをやってウオーキングに参加したおかげで、個人的に「友達も動き始めましたよ」というおばちゃんがいて、農村部のほうに「ボール送り」という種目を競争させてやるのですけども、こう反るのですね。そうするとおばさんたちが、「久し振りに腰伸ばしたね」って。とてもいいことだと思います。
 
 
 一つの運動の機会で、いくつも効果があったよということですし、もう一つは地域の潤滑油ということで、田舎ですが、ジャスコの効果で、ここは「ジャスコ城下町」と言っていますが、結構新築の家が出てきてきまして、その地域でだれが住んでいるのか分からないという部分がやっぱり出てきていました。
 「朝、ラジオ体操するよ」という積極的な区長の取り組みがあると、「もうしょうがないなあ」って、若い人たちも出てくるのですね。「普段顔を合わせてない方と話ができた」「こんな人もいたのだね」という、とてもいいコミュニティづくりの効果もあると思います。
 今、200ちょっとの事業所に協力をもらっていますが、半分以上がゴミ拾いです。自分の工場、敷地の周りとか道路とかやっています。これはとてもいい取り組みだなということで、区長もとてもびっくりしています。区長というのは、町長がいなくなったものですから、当面4年間だけ置いた。今までで言えば町長の席が今、区長ということになっています。区長はとても喜んでいます。
新市として
 それで今後どうするかということなのですが、新市での取り組みの構想、全く私の勝手な思い込みなのですが、旧5市町村の対抗チャレンジデーをやろうと考えています。先程の発表で旧5町の対抗意識を払拭しようという話もあったのですが、全く逆になるのですけれども、それぞれまだ田舎町ですから、「前沢だ」「胆沢だ」という思いがあるのですね。その思いがあるうちだったら対抗させて、「よし、前沢には負けない」「江刺に負けない」というチャレンジデーをやったらいいのかなということを考えてみました。
 いきなりはできませんので、確認ということで、運動会はどこでもやると思うのですが、これに、共通種目、共通種目というのは、いわゆる笹川さんがなさっている共通種目でなくて、奥州市として、「これをやりましょう」という共通種目をどこかに入れようかなということを考えました。これは去年も考えたのですが実現しなかったのですけども、必ずこの種目を入れてもらって、運動会でチャレンジデーのコマーシャルをやりたいなと思っています。
 先程うちの町長の熱い思いもお話したのですけれども、今の国の問題、よく言っていますが、「少子化・ニート2007」とよく言うのですけれど、これに田舎町の場合は「高齢化」が入るのです。「高齢化」が入るというのは、ピンピンコロリをしないと、ということは寝込むと、1人寝込むと、行政の方はいっぱいいらっしゃいますからご存じと思いますが、1人の方が寝込むと、その自治体に2千万円の負担がかかると言われています。
 私も行政の人間ですからそういうことを考えると、チャレンジデーはチャレンジデーとして、1日のイベントではありますけれども、これをきっかけにして、やっぱり新しい町でもピンピンコロリのために、前沢では健康づくり・コミュニティづくりなどもやっていますけれども、そういう取り組みを続けていきたいなという思いです。
  以上、簡単ですけれども、前沢の事例発表にさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
 
佐藤 どうもありがとうございました。次に、今紹介をいただいた二つの自治体に新たに三つの自治体の方々に参加をいただいて、五つの自治体の方々でパネルディスカッションを始めたいと思います。
 私のほうでアナウンスしますので、前にお座りいただきたいと思います。今お話いただいた奥州市の千葉様、先程お話いただきました甲賀市の安田様、雲南市教育委員会保健体育課の小林様、志布志市企画部企画調整課の田村様、それから、阿波市教育委員会社会教育課・出口様の5名の方々よろしくお願いいたします。
 
(休憩)


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