精神科救急、急性期看護の理解
急性期患者への救急医療システム
急性期症状の患者は・・・
■身体的応急処置をするため、一般診療科や救急病院に一時入院することもあるが、多くは精神科専門病院に入院。
■入院医療の形をとる場合が多い。
→精神科への入院の際、看護者は患者の身近にいるがゆえに、患者の権利を侵害してしまうおそれがある。精神保健福祉法を十分理解して看護に当たることが必要。
(1)一次(ソフト)救急
■本人の自発的な意思に基づいた受診、又は家族の希望で受診し、外来診察、処置や投薬を受けて帰宅するか、または自分の意志で入院する。
■本人の意思に基づく入院であればソフト救急の範疇に入る。法律の入院形態で言えば任意入院であり、病棟の構造は開放病棟が原則。
(2)二次(ハード)救急
■緊急鑑定を必要としたり、あるいは自分の意思に反して強制的に受診に至る場合の救急のこと。
■外来での処置や投薬では治まらず、入院が必要な場合、本人の同意が得られなければ、保護者の同意で強制入院となる。
■法律の入院形態で言えば医療保護入院、病棟の構造は閉鎖病棟。
■緊急鑑定や24条通報による措置鑑定で警察官が病院へ連れてくることもある。この場合の入院形態は措置入院、応急入院が該当。病棟の構造は閉鎖病棟、時には隔離室を使用したり、身体拘束など行動制限を行う場合もある。
精神科救急への診察依頼の形態
(1)本人・家族からの診察依頼
(2)医療機関からの診察依頼
(3)第3者(警察、救急隊、保健所、福祉機関など)により診察依頼
搬送時の対応
(1)安全の確保
(2)十分な身体チェック
(3)患者の人権を尊重した看護
(1)安全の確保
■患者はもとより、その場に居合わせる医師、看護師、家族などの安全も確保する。
■暴力、破壊行為を行う患者に対しては、診療不可能状態であるため、抑制帯を使用することもあるが、その場合は身体拘束を行うことを必ず伝える。
■トラブルに繋がりそうな物は、患者の目に付かないところに移す。
(2)十分な身体チェック
■何らかの身体的リスクが潜在している可能性が高い。来院前の身体疾患を明らかにすると共に、搬送時の身体的状況もチェック。(全体的に脱水症状は非常に多い。)
■覚醒剤使用者、身元が明らかでなく病歴も判明しない患者は、肝炎、HIVなどの感染症から防御するために、医療用手袋を使用することをルーティンとしておくことも必要。
■患者の身体的状況によっては、専門科への転送やコンサルテーションが必要な場合もある。
(3)患者の人権を尊重した看護
■患者・家族への対応は無機的ではなく、診察、処置、身体拘束を行う際、きちんと説明をする。
■急性期の患者は、幻覚・妄想状態で、周囲に対する恐怖心が強い。患者の置かれている状況を理解し、丁寧で細やかな対応が必要。
■同伴した家族は、長い間患者への対応に苦しんだ末、受診に至る。ねぎらいや今後についてきちんと対応することが重要。
精神保健福祉法に基づく入院形態
(1)任意入院
■本人の同意に基づく入院
■精神障害者の定義を満たしていれば、あらゆる精神科でこれに基づいて入院することができる。
■任意入院でも、病状の変化によって精神保健指定医のにより退院制限を72時間に限り認められている。
(2)医療保護入院
■自傷他害のおそれはないが、患者本人の同意が得られない場合に指定医の診察の結果、入院の必要が認められた患者に対して、保護者、市町村長の同意により入院させる入院形態。
(3)措置入院
■入院させなければ自傷他害のおそれのある患者に対して都道府県知事の権限で行われる入院。
■2人以上の指定医が診察し認められる事が必要。
(4)緊急措置入院
■措置入院に相当するケースで、緊急に入院を必要とするが、夜間・休日などで指定医2人による診察を経て措置入院の手続きをとることができない場合のために設けられた制度。
■指定医1人の診察により、入院が可能。この入院は、72時間を超えることができない。
(5)応急入院
■本人および保護者の同意が得られないが、ただちに入院させなければ患者の医療・保護に支障があることが、精神保健指定医の診察の結果認められた場合に行われる入院のこと。
■入院先は応急入院指定病院で、期間は72時間以内と限られている。
■病院管理者は、最寄の保健所長を経て、都道府県に届出なければならない。
精神科救急における役割
(1)正確な情報把握と早急な対応
■生命に危険を及ぼす恐れがある場合は、救急処置が原則。
■問診と同時に意識障害の有無を確認。
■自傷他害の恐れがある場合は、予防策をとる。
■精神運動性興奮、激しい幻覚妄想状態の場合、静脈注射によって鎮静させてから問診を行う。
(2)現実能力適応への援助
■急性期の患者は、現実検討能力が欠如し、適応できず緊張・不安・葛藤している状態が多い。そのため、病院であることが分からない人もいる。病院であることを印象づけ、落ち着いた暖かい態度で対応することが望ましい。
■病識欠如のため、不当に扱われたと医療不信に陥ることもある。批判的な言動は慎み、水分を与えたり、身なりを整えたりすることも必要。具体的な介入が問診をスムーズにしたりする。
(3)インフォームド・コンセント
■病識のなかったり、入院を拒否する患者に対しては、病院は安全な場所であり、味方であることを伝え、入院の必要性を説明する。
■意識障害や昏迷、錯乱状態の場合は本人への説得は不可能であるため、家族など代わる者への説明、承諾が必要。
■家族は、患者の状態を理解できず動揺していることが多い。患者や家族が安心できるように、治療の必要性と入院生活について、具体的にオリエンテーションを行う。
(4)入院時の対応
■病室に入る際、安全確保のために更衣を実施し、持ち物も確認する。また、傷・打撲、覚せい剤等の注射痕の有無も調べる。
■持ち物確認の際、義歯、指輪、ネックレス、イヤリング、時計等は、トラブル防止のために外す。
■定期的なバイタルサインのチェックと入眠状態、顔色等、一般状態の観察を十分行うこと。
(5)チーム医療
■精神科の医療チームは、医師、看護師、SW、臨床心理士、薬剤師、作業療法士、栄養士など、多くの専門家から成り立っている。各専門職の役割と機能を十分に理解しておくことが必要。
■家族を含めた情報を、医療チームで共有し、相互に連携しながら治療目標達成に向けてアプローチする。
救急入院での配慮すべき点
■一時的な保護室使用、身体拘束、静脈注射を行う場合、無言で施行せず、落ち着いた口調で話し、批判的言動は慎む。中立的な態度で分かりやすく話すことが必要。
■患者が激しく暴力的な時は、物理的な距離をとること。また、直接看護介入が必要な時は、危険となる眼鏡、時計、装飾品などは外す。
■不用意に背中を向けたり、患者のもつカテゴリーに入らない。また、守りきれない約束や取引はしない。
■時間をかけて関係作りをする。
■身元不明の患者もいる。そのような患者には、身なり、所持品、頭髪、皮膚など、詳細に観察することも重要。
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