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マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第2回“うちの学校ではマンガが正課”?

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所


【科目「マンガ」開講5つの目的】
 纐纈――本校は、岐阜県南東部の東濃地区に位置する土岐市南部の丘陵地にあります。素晴らしい環境に恵まれています。東濃地区は岐阜県が首都機能移転の候補地として名乗りを上げているところです。
 本校は、昭和37年4月に土岐市立土岐高等学校として開校し、45年に県立に移行し、平成9年に普通科から総合学科に改編し、校名も土岐紅陵高等学校に改めました。総合学科になったことが、マンガを取り入れた事と密接な関係があります。全校で12クラス、480名という小規模校ですが、総合学科特有の系列(いわゆるコース)が6系列あります。
 総合学科は平成6年度以降設置されるようになり、設置校は初年度に7校開校し、13年度には160校以上に増えています。総合学科というのは、普通科と職業学科を総合したような新らしい学科で、文部科学省は「21世紀の新しい学科」と呼んでいます。総合学科では、「将来の職業選択への自覚を深めさせる学習や主体的な学習を通して、学ぶ楽しさを体験させる学習などを重視したり、制度を弾力的に運用したり、多様な教科・科目を開設すること」が求められています。つまり、マンガを科目として取り込むための下地が十分に整っていたと言えます。
 
 本校では、科目「マンガ基礎」「マンガ応用」が開講されています。以前より、岐阜県では「マンガ立県」が提唱され、梶原知事自らこれに力を注がれていましたし、平成12年、本校の地元の県会議員で翌年(平成13年)に県会議長を努められた宮嶋県議の強いご支援をいただき、当時の校長が科目「マンガ」の開講を決心しました。
 すでに述べたように総合学科の高校として総科目数120余という幅広い選択科目を開講していた事が、「マンガ」開講の1つの理由ですが、そればかりでなく、マンガ制作によって多才な能力の育成が可能だと判断したからにほかなりません。
 私たちが考えた科目「マンガ」開講のメリットは次のようなものです。
 (1)総合学科の本校では自己表現力の育成を教育目標の1つとしているが、科目「マンガ」を通してこの能力を養うことが出来る。また、美術・工芸系列の選択科目として開講出来ることも有利な要素となる。
 (2)情報化時代の中で、文字とともに画像分野における情報量も確実に多くなっている。一見して即座に意味内容を判断出来るイラストなどに対するニーズの高い時代である。
 (3)本県では、マンガの持つ優れた情報伝達力を各方面で活かす方針で「マンガ立県」を打ち出しており、教育現場でもその一翼を担う事が出来る。
 (4)進路面で、生徒が自己のセールスポイントの1つとして活かす事も出来る。特技として自己をアピールし進学に活かす事も出来るし、就職後、職場でその特技を活かす事も出来る。
 (5)創造(想像)力や発想力の育成が出来る。ストーリーを作り、構築する中で、本当の自分が見えてくる可能性もある。
 大垣女子短期大学に「マンガコース」「コミックデザインコース」が設置されていますが、そこの篠田教授から多大な援助をいただきながら、13年度後期から試行的に、美術・工芸系列の科目「素描」の受講生を対象に科目「マンガ」を開講することになりました。幸い、美術・工芸系列の主任の町内に若手漫画家がおられたので、講師を依頼しました。13年度後期から2年生の科目「素描」の選択者18名を2グループに分けて、各9名を3ヶ月ずつ指導していただきました。
 これは新聞に取り上げられるなど、地域への広報となりました。岐阜県消費者センターの広報誌のイラスト制作を委託されたり、本校の中学生向けスクールガイドでもマンガの手法を使って6つの系列を紹介しています。13年度は、県の能力開花支援事業を利用して、里中満智子氏を招いて1年生を対象に講演会を開催しました。これもマスコミで取り上げられ、科目「マンガ」の開講を県下に知らしめ、全国的にも注目を浴びるようになりました。14年度の正式開講を前にこの科目に対する問い合わせがかなりあり、14年度入試の志願者も多くなりました。
 14年度からは、2年次生の16名を対象に「マンガ基礎」2単位、3年次生の12名を対象に「マンガ応用」4単位を開講しています。テレビ局の取材も受け、生徒の意欲は高まっています。また、市内の小学5、6年生と中学生を対象にした8回完了のマンガ講座を夏休みに開講したところ、11名が応募してくれました。これは、開かれた学校づくりと、美術・工芸系列の将来への布石の両面を考えた企画です。
 最後に、今後の課題を挙げますと、まず第一に、現在の講師が名前が売れて中央へ進出された場合に後任を選ぶのが難しいこと、第二に、科目「マンガ」のゴールをどこまで求めていくかを学校として明確にする必要があると考えています。
 授業の内容等については、講師からご説明いただきます。
 
【科目「マンガ」では学習効果が目に見える】
 佐藤――マンガの授業では、プロのマンガ家としてやっていけるだけの技術はもちろんのこと、デザイナーやイラストレーターなどの職業に就いた場合でも技術を活かし、絵によって自分の意思を伝えることが出来るような豊かな表現力の向上を目指すとともに、マンガ独自の発想や創造力、奇抜で独創的なアイデアを生み出す力を養えるように心がけています。
 2年生のマンガ基礎では、マンガ独自の道具――スクリーントーン、Gペン、丸ペンなど――の活用法や、静止画であるマンガにいかにして動きやスピード感をつけるか、キャラクターの感情をどう表現するかなど、絵による表現力、技術力の向上を中心に授業を進めています。最終的には、自分の主張、思想を決められたコマ数の中でどう表現するかという構成力、4コママンガを制作できる技術を身に付けたいと思っています。
 3年生のマンガ応用では、建築物や人体の構造を学んだ上で、ギャグマンガやストーリーマンガの構成を論理的に学び、絵だけではなく、例えば最も短い言葉でものを伝えるにはどういう言葉を使うべきか、また、複数の人物が登場した時にどういう言葉の掛け合いが自然なのかといった、文章での表現力も学んだ上で、複数ページのストーリーマンガを制作する技術を養います。
 2年生も3年生も絵を描くことが好きでこの授業を選択した生徒ばかりなので、僕の説明には静かに耳を傾け、自分の世界に入り込むかのように黙々と作業に取り組みます。生徒には個性があるので、作業過程を見ながら個人個人に指導しています。すでに自分の「色」を確立している生徒もいます。3年生の中には去年から授業を受けていた生徒が5人いますが、前に描いたものは恥ずかしくて見られないと言います。短期間に自分の技術力が高くなっていることを自覚しているからです。私の目から見ると、あと少しでプロとしてやっていけると思えるほどの技術力を身に付けた生徒もいます。
 マンガの授業では年間目標を立てていますが、生徒の作品から力を見極めて、臨機応変に授業内容を変えることがあります。常に心がけているのは、1つ1つの課題に意味があり、楽しくて覚えやすいということです。楽しみながら学ぶ事が出来る授業を、今後も続けていきたいと思います。
 
 谷川――最も短い言葉で語るということと、マンガはどう繋がるのでしょうか。
 
 佐藤――食べやすいものがおいしいように、マンガは読みやすいものがおもしろさに繋がります。ストレートにものを伝えるために、台詞などを長々と書くのではなく、できるだけ短い言葉でまとめるように教えています。
 
 谷川――続いて東京都立芸術高等学校の黒田校長にお願いします。
 
【「マンガ」で生まれる活気や共感がエネルギー源】
 黒田――本校は普通科とは違いまして、音楽と美術の表現力と技術を身に付けることが目的です。知識や教養はその表現力に厚みを加えるものです。昭和25年に都立駒場高校に芸術科ができ、それが35年前に分離独立して本校が誕生しました。音楽科と美術科があり、それぞれ1学年40名ずつ、学校全体では240名余りという、規模は小さい学校です。公立高校で芸術を専門にしている学校は、本校と大分県立芸術文化短期大学附属緑ケ丘高等学校の2校しかありません。そういう意味ではたいへん特異な学校です。音楽科では、ピアノ、バイオリン、打楽器、声楽等、それぞれに生徒が自分の得意なものを選んで勉強しています。例えばバイオリンは、1対1で週1時間はレッスンを受けられます。オーケストラまたは合唱を週2時間というように、集団で演奏することも取り入れています。
 美術については、油絵、日本画、彫刻、デザインのうち、生徒が自分で選んだものを3年間やっていきます。ただし1年の時は、他の科目も勉強します。非常勤講師が多いものですから、美術科の場合も専任の先生と複数によるチームティーチングができます。作品ができるごとに講評会を開いて、1人1人に細かい指導ができるようになっています。新しいカリキュラムでは高校3年間で87単位となっていますが、そのうち35単位前後は専門の科目を学びます。
 卒業後の進路は、ほとんどが美術大学、音楽大学に進学し、国公立の教育学部の美術、音楽系列に進む生徒もいます。最近は、大学でやっていない事を勉強したいというので、専門学校に進む生徒もいて、少し多様化してきています。
 生徒の作品を発表する場を積極的に設けていて、美術科では、作品展を年間5回から6回、音楽科では、大きい演奏会を年に3回、プチコンサートを月1回程度開きます。
 本校は小規模ながら特別活動が非常に活発で、空手部はかつてインターハイで全国優勝したこともありますし、マンガ研究会はマンガ甲子園には3回出場して最優秀賞をいただいたこともあります。マンガ研究会のほか、生徒会活動、図書委員会の活動において、生徒が自主的にマンガを取り入れて、コミュニケーションの媒体として活用しています。特に広報的な活動において、まず視角に訴えていくということです。このようにマンガやイラストを活用することによって、生徒間のコミュニケーションが非常に広がっていく感じがしています。従って活気が生まれる。生徒間の共感が生まれ、それが生徒会活動などを活性化させるエネルギーになっていると感じます。
 なお、本校は将来的に、映画、コンピューターグラフィックス等のメディア芸術科を新たに設置し、また演劇を加えていくということで、芸術的な面でニーズの多様化に応じて、我々も多様化していかなければならないと思っています。
 以上が本校の概要ですが、具体的な活動について末房先生からご説明します。


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