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“ジャパーン カムバック”
 脱却力について書いてみよう。
 
一、脱却力が一番必要な人は、口下手でそれから実力十分の人である。
二、脱却力が一番必要な人は、争いごとを好まぬ人である。
 俗に言う「金もちケンカせず」がこれに当たる。
 
 現在の日本にピッタリ当てはまる。日本は最高に幸福なので、周囲からタカられたり、ゆすられたり、ナンクセをつけられたりするが、ではどんな対応があるか。
 
三、口下手ではすまないのだから、積極的に日本の立場・信念を説明し、日本の成功に学びたい国には指導を惜しまない。
四、ただしそれは内政干渉に及ぶから、あらかじめ同意をとる。
五、だがそれでも日本と同じ努力をつくして同じ成果を上げられる国はなかなかない。
六、おそらく、五十年の時間が必要である。
七、その途中、相手は“恩を仇でかえす”ようなこともする。近道を通って日本並みの成功を得ようとするが、そんな近道はないからである。
八、歴史を見れば分かるとおり、どこの国も他国に学ぶことと自国のプライドを守ることの両立に苦しんでいる。
九、プライドは情である。情をコントロールする知性がなくてはその国は他国に学ぶことはできない。
十、知性がたくさんあれば、たくさん学ぶことができる。さらにたくさんあれば自ら先端開発国になれる。
 
 だがしかし、そんな国は日本しか見当たらない。日本が口下手であるホントの理由はこれで、最高の知性、最高の品性、最高の幸福は口では言えない。
 
十一、日本はその高い品性によって千年も前から武力なき社会を求め、ほとんどそれを達成した。
十二、それにつけこんで武力で恫喝するのは品性がない国である。
十三、この日本の品性が、グローバル・スタンダードになるには一〇〇年かかる。
十四、それまでの間の経過措置として世界の歴史が発明した国際関係は、「お互いに距離を置く」ことである。――無闇に国際親善を説く国はぶら下がってトクをしようと思っている国である。
十五、適正な距離を保つために必要な力は“接近力”と“脱却力”である。
 
――これでようやく掲題の脱却力にたどりつくことができた――
 
十六、日本は長い間後進国だったので接近力の開発と育成に努力してきたが、その結果それはすでに過剰になった。
 これからは“拒絶力”またはその一歩手前の脱却力の開発が急がれる。日本の国際地位の向上は日本人が考えている以上に急進展しているからである。
十七、小泉改革の仕上げについても同じことが言える。古い日本の古い体制は改革するより廃止してしまうのが簡単である。
 新体制の姿や形まで企画立案しようとするのは余計な苦労である。特殊法人も特別会計もそんなものはなかった昔にもどすことにして、根拠法を廃止!サヨナラ!――というのが脱却力である。
十八、国際関係も同じである。国連からはサヨナラして新国連を日本の力でつくる。多分、アメリカは日本についてくる。
十九、脱却してゆく日本の後ろ姿を見て、多くの国は初めて日本のこれまでの国際貢献の偉大さに気がつく。
 
 そこでそれぞれの国の正常化が始まる。心から日本に学ぶ気持ちが芽生える。――何だか映画のラスト・シーンのようですね。
 “ジャパーン カムバック ジャパーン”という声が聞こえるという初夢でした。
(二〇〇六年二月「脱却力」)
 
独走日本の独立力
 今、日本国家に求められる独立力は外国からの干渉に対する独立力である。
 今、政治家に求められる独立力は“カネと女”の誘惑に対する独立力である。
 会社員は、沈没してゆく会社からの独立心と独立力である。
 高齢男性の場合は妻に対しての独立力で、それがまるでないのを女性がなげいている。
 
 政治家は政策立案と法案作成の仕事をまるごと官僚に握られて、自ら立法に当る意志と能力がない・・・にも拘らず政策立案に関する補助金は、たっぷり国民からとっている。
 裁判所はマスコミの評判から独立していないし、マスコミは視聴率から独立していない。
 国民は相変らず官庁の“ご指導”に対して独立心がなく、官僚は天下りの魅力に己を見失って、行政の独立を業者に安売りしている。
 
 以上書き出せばキリがないが、日本はこのように独立力不要の“相互依存社会”を国内に完成している。そのプラスとマイナスを論ずる評論家やマスコミや学者がいないのは、彼らも真理の探求や批判の精神という自らの立脚点をどこかに置き忘れているからである。
 
 こう考えると、“独立自尊”の精神と“千万人といえども吾往かん”という気概が全国的に消滅しているのが問題の根源だと分かる。それがあれば、誰でも問題の発見、対策の研究、実行力の錬磨と話がつづいて、その人は自然に“独立力”の持主になることができるのに・・・と残念である。
 
 最近、世の耳目をひいているものを列挙してみよう。秋葉原に集まる“萌えーっ"の若者、“スポーツ界の女性”、“小泉純一郎”、“平沼赳夫”、“ホリエモン”――これらはいずれも独立独歩を実行した結果、良い意味でも悪い意味でも世評をつくる存在になった人達である。「単なる協調から独立へ!」に憧れが高まっている。
 
 では、独立力のつけ方を教えよう。
 根本は世評に流されない自分をつくることだから、まず子供のときは、学校などは卒業すれば無縁の存在と心得て、小学校時代は好きな本を乱読する。中学校時代はスポーツに明け暮れ、高校時代は珍しいアルバイトを探して歩く。
 そして大学生になったら“酒と女”に徹底する。将来、高級官僚になったときに誘惑に負けないよう我が身をあらかじめきたえておくのである。
 “カネ”の世界も体験しておかねばならない。まず麻雀をして勘と度胸を養い、それから友人に売れるもののブローカーをし、株を買う。
 “人付き合い”にも慣れておく。隣に座った人にはどんな人であれ、必ず話しかけて、体験を聞こう。若いうちの特権である。
 
 これだけのことをしてから社会に出れば、自分のまわりの人との距離が調整できる。時にはまわりを感化して自分に都合よく改革することもできる。周囲の改革に成功すればもはや“独立力”は不要で、そのままそこに居ついて主(ぬし)になればよい。"随所作主”である。
 
 国際問題で日本はたくさん失敗した。日本国内と同じような相互信頼と相互依存の関係が外国とも築けると考えたからである。
 大失敗を重ねたが、しかし、国内の高度相互依存社会は健在で極めて効率がよい。その上そこから高品質の製品やサービスがつぎからつぎに誕生して世界をリードしている。
 その独走が独立に通じているが、この独立は孤立ではない。今年はそうなる。
 
 英語でリッチとは不労所得がたくさんある人のことだが、その人はインデペンデントとも呼ばれる。働いている人はいくら高収入でもインデペンデントとは言ってもらえない。
 
 ところで、日本は勤勉によって高収入の国から、働かなくても高収入の国への移行をはじめている。貿易黒字は前者で、利息・配当収入や特許権、商標権、著作権、及び技術指導料などの黒字は後者である。
 
 両方が黒字の日本は、経済的にはまさに世界最高のインデペンデントだが、なぜか精神は世界最高のデペンデント(家来、従者)で、これは世界七不思議の一つである。
 今年はこのアンバランスが是正されるべき年である。
(二〇〇六年三月一日「独立力」)


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