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【質問】 今、Suicaのカードのお話をなさいましたが、JRは何年か前から使い始めました。最近は、コンビニエンスストアとかで、ほんの数百円の少額の買い物でもピッと使えるようになって、最初はちょっと抵抗があったのですが、まどろっこしさがないものですから、どんどん体がなれていって、同じようなものを買うときでもSuicaが使えるコンビニエンスストアに体が自然と向かうようになりました。
 すると、さんざん言われていることですが、日本の小売業、小店舗や家族でやっているようなところは、Suicaのシステムを導入するには、フランチャイズのチェーンほど資金力もノウハウもない。さらに今からオーナーの人が新しい機械を導入して学ぶかといえば、年がいった人はやりにくい。ということを考えると、最後の日本のファミリービジネスとしての小売業へのとどめが、「Suicaで楽をする感覚」を消費者が身につけてしまうことではないかと思うのですが、先生は地域開発にもご発言されていらっしゃいますけれど、その辺、どうお考えでしょうか。
【日下】 いいお話ですね。そう思います。
【質問】 そうすると、生き延びるとかではなく、絶滅してしまったらどうなるでしょうか? その先が、予想がつかないんですね。
【日下】 そうですね。農家の方も年が七十歳ぐらいになってしまいましたからね。これも絶滅寸前です。
【質問】 小銭を出すなんて数秒のことですけど、一度なれてしまうと、ほかが嫌になってしまうんです。
【日下】 そうです。あなたはまだ若いから、その先を考えて、何か儲けなきゃ。
【質問】 それを考えたいんです。ええ、ぜひ儲けたいです。
【日下】 ねえ。そうすると、Suicaのカード、日本中それ一本になったら、そこに蓄積されたマーケット情報というのはものすごい。世界最高のマーケット情報をSuica会社が握ることになる。これを生に出すとプライバシー侵害ですが、分析した結果はマーケット情報として売れるんです。これは前例がありますから、Suicaの場合もそうなるかなと思ってます。
【質問】 日下先生がゆえに、ちょっとお聞きしたいことがございまして、外国のどこへ行っても、このごろカラオケがある。あれは文化と言えるんでしょうか、言えないのでしょうか。イエスかノーか、一言お聞きしたいのです。
【日下】 イエスと言います。
【質問】 もう一つ、よろしいでしょうか。おもしろいお話をたくさんお聞かせいただいた中で、お話の背景として、宗教的にどの辺に思いがおありでしょうか。仏教か、あるいはキリスト教なのか。
【日下】 急に日本人が宗教的に考えるようになりましたね。私自身は、今、心に決めていることは無宗教ですね。わからないから決めない、ということです。これまでの間は、多少決めたような状態があります。その影響は残っています。
 小学校のころは香川県にいましたから、あそこは弘法大師の教えが町中に残っています。それは体の中に残っていますので、残っていない人を見ると、あれ、自分と違う人がいたと思うのです。それから、中学校はキリスト教の学校でしたから、そこでもいろいろなものを身につけました。友達は誰も信者にはならなかったのですが。しかし、キリスト教の教えだけは山ほど聞かされたので、そこは普通の日本人とちょっと違っているかもしれませんし、たいして違っていないかわかりません。
 例をあげれば、聖書の中に、「すべてのこと、我にとりてよからざるなし」というのがある。「神与え、神とりたもう、神の名はほむべきかな」というのがある。神様はくださるし、神様はとっていくし、でも、すべてのことは私にとって悪くない。そう思える人が信者になる。そういう人が先生などにいて、聞かされて、半信半疑で卒業した。だけど、それがキリスト教信心の根本らしいな、ということは友人、私も意見が一致した。だけど、別に答にはなりませんね、そういうのは。
【質問】 今日の一番最後で、アイデンティティのお話がございました。アメリカ人は敵をつくることで、みずからのアイデンティティを保っているということでしたけれども、実は最近、アメリカ人から本をもらったんです。オバマという上院議員で、民主党から今度は大統領候補になるんじゃないかと言われている人が書いた本を読んだところ、一九五〇年代、六〇年代、七〇年代は民主党と共和党の間は意見が対立しても、どこかで妥協を見出して一致点を見つけてやっていた。ところが、最近、それがなくなったから問題なんだという書き方をしているんです。ですが、アメリカの場合には、共和党の議員であっても民主党の議員であっても、民主党の提案を民主党の議員が反対投票することは自由にできるんですね。
 ところが、これからが質問なんですが、日本の場合には前回の選挙のとき、郵政の法案に反対した自民党の議員が全部離党させられた。それをまた復帰させるかどうかで、がたがたしていますが、議員が自分の意見で投票することぐらいは認めるのが本来の日本の社会ではないのかなと思います。それがアメリカよりも、より厳しいことをやっているのはどうだろうかという点について、ちょっと伺いたいと思います。
【日下】 直感的な答で言えば、政党助成金というのができまして、あんな金を国民が認めたものだから幹事長が偉くなって、国会議員一人一人の独立性がなくなってきたと思います。それから、今、事務所経費の問題で、政治家というのは金がかかるものだとテレビで威張っている人がいますが、何に金がかかるかといったら、自分が再当選するためにかかるんですね。そんな金を国民からもらおうというのはけしからん話です。そんなのは自分の金を出すべきで、ですから、国会議員一人一人が経済的に独立していない。だから、党議拘束とか何とかになるのではないか、とまあ、経済学部的な答でございます(笑)。
【質問】 今のお話の続きで、きのうですか、イギリスでブレアが新しい核のスキームの法律を提案し、それが通りました。ご存じのとおり、日本とイギリスは同じ議院内閣制です。ところが、この法案は保守党の賛成が加わって、ようやく通った。ということは、ブレア内閣の側である労働党から多くの反対者が出たんです。イギリスの場合には、これを是としているんですね。日本は、さまざまな点でイギリスの制度を取り入れているわけですが、大統領制のアメリカと比べると、議員の独立性はアメリカのほうがはるかに制度上も確保されているわけです。
 議院内閣制は、総理を選択する選挙になりますので、政党の意思決定にある程度従わなければいけないということがあるんですが、その本家であるイギリスでも、今申し上げたように大変重要な法案を、労働党政権でありながら保守党の賛成者が加わって通ったという案件がきのうですか、あったんですね。ですから、そのことと比較すると、今の先生のお話とあわせて大変興味深いご判断がいただけると思いますし、また、今後の日本の国政のあり方ということも、やっぱり考えていかなければいけないのではないかなと思います。
 なおかつ、果たして自民党にかわる野党が日本の場合にいるのかということです。イギリスでさえも労働党と保守党という二大政党になっているわけですが、残念ながら、日本はずっと自民党、ほぼ一党支配で戦後来ているわけですから、このことをよほど真剣に考えないと、今後の日本の活力というのは阻害されるのではないかと思います。
 もう一点、私は地方議会の議員なものですから、数日来、予算特別委員会というのがございました。さまざまな議員がいろいろな質疑をしたのですが、その中で、私も知らなかったんですけれども、荒川区は図書館で年間五〇〇〇冊の本がなくなっている。荒川区の場合には、中央館が一館と地域館が四館あります。中央館には電子式チェックをしないで持っていくと鳴る装置がついているのですが、地域館四館にはついてない。ですから、大多数は地域館から紛失をしている。はっきり言えば、持っていかれている。このことも大変な驚きなんですが、その処置をどうしているかというと、仕方がないということで、ずうっと今日まで来ているそうです。新聞記事で、図書館で本が窃盗されて、それで訴えたということを一度も目にしたことがありませんので、多分、皆さんがお住まいの地方自治体でも同種のことが行われているのではないかと思います。どこまでディスクローズされるかわかりませんけれども、ぜひご確認をいただくと、おもしろいと思います。
 それと、つい先ごろ、給食費の未納問題でいろいろ議論がございましたが、実は一般会計と、荒川区の場合には健康保険、介護保険、老人保健の特別会計、つまり一一般会計、三特別会計があるのですが、このうち、一年間で大体四〇億円ぐらいの未収入金というのがございます。これは当該年度に入らないというお金です。予算規模で言いますと、三つ合わせると一〇〇〇億円です。そのうち四〇億円が未収入金で、おおむね三割から四割は完全に焦げつくということのようです。しかし、実態はまだ明らかではなくて、総額がようやくはっきりしたというだけですので、これもぜひ皆さん、お住まいの地方自治体でお聞きをいただいて、ちょっと関心を持っていただければと思います。できれば予算、決算の特別委員会に傍聴に行っていただけると、議会の活性化とまともな議会運営につながりますので、ぜひ行っていただきたいと思います。
【日下】 ありがとうございました。では、この場の活性化のために私から質問をさせていただきます。ただいまおっしゃったことが問題だというのは、これまでの建前によれば、税金で買った本は一冊もなくなってはいけない。みんな読んだら返すべきである。市役所の人は、それをきちんと管理しなくてはいけないという建前が、そのとおりになっていないというお話ですね。
【質問】 いや、そうではなく、納税者の信頼ということを考えると、例えば本一つとっても、税金を納めていただいた方のお金を使ってやっているわけですから。
【日下】 はい。そこで区議会議員でいらっしゃるあなたは、その制度から変えようとお考えになったらどうかをお聞きします。例えば図書館にある本を、なくなってはいけない本と泥棒してでも読みたいのならどうぞという本と、二種類に分けてしまうのはどうでしょうか。なくなっても構わない本を決めれば、その問題はなくなりますね。制度による解決です。
 いや、何でこんな変なことを考えるかというと、私は経済学部出身ですが、デパートはちょうど今ごろから水着について、今年の夏の水着はこうだ、と考えるが、試着室というのがありますね。女性がいくつか持って入って、それから出てきて、これは買わない、要らないと言って帰っていくのが商売上、大変重要な情報であるという。特にそのとき、女性が万引きして帰った水着はどういうデザインかというのが貴重なんです(笑)。


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