日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 哲学 > 心理学 > 成果物情報

新規範発見塾 Lecture Memo vol.28

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


不幸の予防と幸福の開拓
 次は第二番目の、情です。情のパワーと価値を知る人になる。情はみんなに備わっているから、特に教育する必要もない、増やす必要もないと思われています。けれども、このごろだんだんわかってきたことは、お母さんが愛情たっぷりに育てなければ情は育たない。情愛欠如症という人間になる。情愛欠如症の人間は情緒不安定症になって、過剰反応をするようになり、周りの人と暮らしていけない。会社に入って、周りの人が優しく教えてあげても、それを曲がってとる。素直にとらない。扱いにくい人になります。情愛が欠けている人に対してそれを補うのは大変です。ほとんど不可能に近い。もう一回赤ん坊からやり直してもらわないといけない(笑)。
 そういう情愛欠如症の人間がアメリカに大量に発生した。これはアメリカの不幸であり、また世界の不幸である。それはなぜかというと、スポック博士が『科学的育児法』という本を書いて、ベストセラーになった。博士が言うなら間違いないと、その手抜き肯定の育児法を実行したら、赤ん坊はみんな変になってしまった。二十年後にそういう人が社会に出てきて、会社経営がやりにくくなって、スポック博士を死刑にしろという運動が一時ありました。科学者というのをあまり信用してはいけない(笑)。
 日本にもそういう人は増えたと思います。特に昭和四十何年ごろからマイホームができたとき、個室をつくるのは近代的でいいことだという流行がありました。私は当時、住宅産業の本を書く人間でしたから、「子供に個室をつくってはいけない。子供の勉強は、茶の間におりてきて、お母さんが台所で働いているのを見ながらするのが一番いい。個室にこもって勉強がうまく進むなどとは信じない。それは十九、二十歳ぐらいになってからの話である」と、孤軍奮闘した思い出があります。
 情が豊かな人間になりますと、不幸とは何ぞやがわかる、幸福とは何ぞやもわかる。わかるということは、不幸を予防し、幸福を開拓することについて、新しい方法を考えられる人になることです。そして、人の情愛に共感できる人間になる。共感から始まる世界をつくれる。理屈から始まる世界ではない。
 
情が人を動かす力の大きさ
 東京財団に佐々木良昭さんという中東研究家がいます。雑談していると、おもしろいアラブの冗談を教えてくれるのですが、臓器移植のために脳みそも売っている。ほんとうは売っていませんが、冗談でそういうマーケットがあると思ってください。「この前頭葉は優秀だよ。買いなさい。日本人の前頭葉だよ。ただし使い過ぎて、古くなっている。安くしとくよ」(笑)。「こちらのは?」「あっ、こちらはエジプト人」。アラブ人はエジプトと仲が悪いですから、「こちらは全然使っていないから、新品同様。高いよ」という冗談が、アラブではやっているそうです。
 つまり日本人の前頭葉は使い過ぎで、ちょっとくたびれている。それはうまい使い方を知らないのだと思います。情、意、行動などとセットでないといけない。知だけ、前頭葉だけでやっていると、おかしくなる。これは養老孟司さんが毎回言っていることです。ただし、「脳の働きはすばらしい」というほうで世の中にデビューした。「使い過ぎはいけない」というほうはお呼びが少ないらしい。実際は、あまり脳だけを使っていると発狂してしまいます。
 それはともかく、あることに興味を持ってやめられないというのは、アカデミズムをやる人の性質です。それが突然大化けすることがある。その辺をある程度わかる金持ちがいて、この資金と設備を使いなさい、と提供する。こういうことで人類のサイエンスは進歩してきた。
 それと同じことを社会主義や官僚主義のもとでやれますか。やれないでしょう。例えば文部科学省に科学技術会議というのがある。ここの委員になるとたいへん名誉らしい。何百億円かの予算があって、これを大学へ配る。集まっている人を見ると、ノーベル賞すれすれという人がずらっといる。そこに専門外の私が一人いるのは、今だと女性を一人混ぜておこうというのと一緒だと思いますが。そこの委員をしていて私が「まだ世に出ない天才というのがある。そういうのを見つけ出して、お金を配ろうというので我々はやっているんでしょう」と言うと、みんな深くうなずく。
 ところが実際に話が進むと、そんな精神はどこかへ行ってしまって「彼は自分の弟子だ」とか、「これはアメリカで褒められている研究だ」とかになるから、どこがアカデミズムなのかわからない。
 そういう経験がありますから、まずは大金持ちをつくって、その大金持ちが「よし、おまえに頼む」と言わなければ、思い切った研究のスタートはできないものだと思っています。そして思い切れる力は、知だけでは出てこない。前頭葉だけでは出てこない。情と意が必要です。ところが、情をどうしていくかというのはあまり教えていない。
 そして、情がない研究は行き詰まる。情がない行動は失敗する。情が人を動かす力はほんとうに大きいのです。不思議なことですが、誰かがある研究をしていて、お金をくださいと言って歩くとき、情に訴えるとお金が出ます。「これは大変いい研究です」といくら言ったって、相手は専門的過ぎてわからないのだから。それよりも人情で訴えないと仕方がない(笑)。
 
行動の重要性を体得する
 次は第三番目、行動しなければいけない。行動の重要性を体得することです。体得が伴わない理屈だけではだめです。それは行動すればわかることですが、この新規範発見塾では座学方式なので、仕方がないから行動の成功例を教える。そうすると、たいていは「わかった、聞いた」で終わりなんです。でも、時々は自分も行動してみようかなという人がいる。
 「機能快」という言葉を教えてくださったのは渡部昇一さんですが、多分もともとのドイツ語があるのでしょう。それは人間の体にはいろいろな機能が備わっている。その機能を発揮すると快感がある。筋肉がある人は筋肉を使ってみたい。跳べる人はちょっとでも高く遠くへ跳んでみたい。跳べたら快感なんです。そういう機能快というのがある。
 それは、さっき言った前頭葉も同じなんです。前頭葉にも機能快がある。
 それから、集団行動の機能快。人が集まって、太鼓をたたいて踊っているような状態がそうです。集団機能快という。みんなとリズムをそろえて運動していると、大変な快感を感じます。集団行動の集団麻痺現象、集団催眠術現象というのがあります。
 これを日本人は広げます。動物と共生するとか、植物と共生するとか。地球の生き物はみんなつながっているといったように、日本人は考えが広がっていきます。ところが、ヨーロッパ人は広がらない。これは聖書が悪いんです。聖書の中に、神様は人間を特別につくったと書いてある。人間と動物とは違うとはっきり線を引いていますから、その影響がずっと常識の世界にまで来る。
 集団行動の機能快で、日本人は線を引かない。みんな一緒くたであいまいで、総合的に考えるから、日本社会はいろいろな面倒を起こさないでこうやって暮らしていくことができる。それは「一神教はだめです、多神教のほうがいいです」とか、「あいまいのほうがいいです」とかの話になりまして、これが一番上の知のほうへ行くと、知を追求するときに何でアナリシスだけでやるのかという話になる。アナリシスというのは分析ですね。分けて、分けて、分けて考える。それも一つの方法です。
 
入ってしまうと日本は世界で一番自由
 ソクラテスの頃から物事を知る方法は二つある、それはアナリシスとアナロジーである。アナロジーで物事を知ることができる。ただし、これはうまく言えないときもある。
 アナロジーとは、「あいつはオオカミみたいなやつだ」というような表現です。譬え話ですね。これでピシャッとわかることがある。しかしオオカミを見たことがない人にはわからない。あるいは、日本のオオカミは大して怖くないが、ヨーロッパのオオカミは怖いとか、そういうふうに話がこじれていきます。それならもうちょっとはっきり分析して、箇条書きに書いていったほうが通用するというのがアナリシスであり、サイエンスであり、インテリジェンスとか知の世界になっていきます。
 日本人は、それもやったのです。やらないわけではない。やったけれど、邪魔くさい。ケジメを立てると真実から離れると考えて、みんなが「なんとなく、そうだ」と言ったら、それで答にする、という社会をつくった。それは、もともと同じような人間ばかりで暮らしているからです。これがまた良いことか悪いことかと言うと、よその国とつき合ったときには悪くなる。日本の中だけでつき合っていればこれでいい。
 アメリカはどうか、中がいろいろ混ざっている。だから、他の国とつき合うときは具合がいい。それから外国人がアメリカに行くと「住みやすい」と言う。日本の野球選手もアメリカに行くと結構住めると言う。だけど本当は、アメリカの中は住み心地は悪いのです。周りが違った人だらけですからね。だから、クラブをつくって、住んでいる場所も変えて集まる。アメリカに行って旅行すると不愉快なのは、エグゼクティブクラスの人はこちら、ファーストクラスの人はこちらとか、やたら人間を分けるでしょう。ああいうことをしなければ暮らせないとは気の毒だが、そうすればいろいろな国から他人が入ってきても暮らせる。
 日本は他人が入ってくるときは大変厳しい。入国審査は日本が一番厳しい。しかし入ってしまうと日本は世界で一番自由がある。アメリカは入国審査は自由です。ところが、入ったらものすごく規制が厳しくて、まるでヒトラーのドイツヘ来たような気がする。例えばアメリカヘ入ってから、「ブッシュは嫌いだ」とは言えない。そんなこと言ったら大変なことになる。「ジャップ、冗談じゃない。あっちへ行け」と言われてしまう。すぐ入れるが、中ではお行儀よくしていないといけない。日本は入るときちょっと厳しいが、入ってしまうと、この国は何を言ってもやってもいい。
 さて、これをどう考えればいいと思いますか。この答は知で出そうと思っても、なかなか出ないと思いますね。情で出すと、私は日本人だから、「日本がいい」と言います。ただそれだけのことです。そのように人間の粒をそろえるところから国づくりをしたからです。
 ところが第二次世界大戦以降、「アメリカの価値観が最高である。だから世界中こうなるべきである」というのをやり出すと、軍事力があるものだから、それが通ってしまいます。金もあるものだから、普及宣伝活動をいたしまして、そうかなと思った人が日本人の中にもたくさんできてしまった。これを、どうしますか? このままで行きますか、巻き返しますか。
 この二、三年の日本を見ていると、反発も湧いてきた。これから当分、反発期ですね。英語を使うなと言っているでしょう。安倍首相の施政方針演説に、わけのわからない片仮名を言うなと反発が強い(笑)。
 前回、ケンブリッジ英語とアメリカ英語を使いこなせる友人の話をしましたね。結論は「日本式英語を使っているのが、先方にも自分にも一番よい」ということでした。この話がピンと来るというのは、英語とか、普遍主義に対する疑問が出てきているからです。


前ページ 目次へ 次ページ





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
4,432位
(31,818成果物中)

成果物アクセス数
964

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2020年3月21日

関連する他の成果物

1.2001年度『シンポジウム「心に残るこの一冊」』
2.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第1回“マンガで育つ人間力”?
3.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第2回“うちの学校ではマンガが正課”?
4.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第3回“マンガを使った魔法の(チャレンジ)授業”?
5.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第4回“マンガの光と影・害悪、影響も考える”?
6.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第5回“マンガ館の教育的活用・学社融合の要”?
7.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第6回“NHK子どもがつくるキャラクター・課外授業ようこそ先輩より”?
8.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第7回“パソコンでマンガを描こう! 日本の絵筆が世界標準! デジタルコミック展開!”?
9.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第8回“マンガは世界に何をプレゼントできるか?”?
10.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第1.2回“マンガ学科のシミュレーション及びモデルケース”
11.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第3回“マンガ・アニメグローバル戦略と新ビジネス構想”
12.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第6回“マンガ教育論”
13.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第7回“新文化外交論”
14.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第8回“マンガリーテラシー論”
15.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“アニメプロデューサー論”
16.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“産業論”
17.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“マンガ編集論”
18.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第11回“新マンガ時代論・コンテンツ産業論”
19.2003年度「ENTERTAINMAENT GOES POP」
20.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第10回“モデル人材論”
21.2005年度キャラクター創造力研究会翻訳
22.2005年度マンガ・アニメ学術的研究会翻訳
23.SYLEF Newsletter No.15,No.16,No.17
24.日本の知的・文化的国際協力に関する総合戦略
25.日越関係発展の方途を探る研究
26.「日ロ関係打開の手法?好手と禁じ手」に関する研究
27.大学初年次における「自己表現・評価トレーニング」の導入に関する緊急提言
28.日本にとっての難民・避難民対策の研究
29.北方4島「ビザなし交流」専門船の建造と活用法に関する提言
30.ベトナム戦争と文学?翻弄される小国
31.延辺朝鮮族自治州と北朝鮮東部経済に対する日本の政策研究
32.中国の海洋政策と日本 ?海運政策への対応?
33.フィリピン日系人支援の方策についての研究 ?両国におけるアンケート調査を通じて?
34.戦略的広報外交のすすめ ?中国のプロパカンダへの対応を中心に?
35.大都市の危機管理体制(町守同心)のあり方に関する研究
36.小国の地政学 ?秘境・ブータンはなぜ滅びないか?
37.港湾?河川における水上交通創出のフィージビリティーモデル研究
38.民からのローカルガバナンス研究 ?地方再生に向けた政策連携の胎動?
39.文化産業を育成する知的財産に関する調査研究
40.団塊世代をはじめとする市民力の活用による作業所ビジネスの活性化方策研究
41.若手コミュニティ・プロデューサーの実態と活用に関する調査研究 ?若者が育ち活躍する地域のパワーを育てるために?
42.トルコの西ユーラシアにおける外交政策と戦略 ?中東の平和構築における日本・トルコの協力関係を模索する?
43.パラオ共和国における廃自動車適正処理の推進と自動車輸入管理システムの確立
44.次期政権に対する外交・安全保障政策に関する緊急提言
45.地域金融と地域づくり
46.南・北朝鮮、同時崩壊か?
47.日本の難民受け入れ過去・現在・未来
48.「日本人のちから」Vol.32(2006年5月)特集「ご破算力」
49.「日本人のちから」Vol.33(2006年6月)特集「評価力」
50.「日本人のちから」Vol.34(2006年7月)特集「対決力」
51.「日本人のちから」Vol.35(2006年8月)特集「家族力」
52.「日本人のちから」Vol.36(2006年9月)特集「牽引力」
53.「日本人のちから」Vol.37(2006年10月)特集「先手力」
54.「日本人のちから」Vol.38(2006年11月)特集「実行力」
55.「日本人のちから」Vol.39(2006年12月)特集「伝達力」
56.「日本人のちから」」Vol.40(2006年最終号)特集「日下公巻頭言集」
57.SYLEF The First Twenty Years
58.Proceedings SYLEF Program Administrators Meeting
59.2005年キャラクター創造力研究会報告書
60.2005年度マンガ・アニメ学術的研究会報告書
61.新規範発見塾 Lecture Memo vol.26
62.新規範発見塾 Lecture Memo vol.27
63.鎖国前夜の海の物語
64.巨大船沈没す
65.海賊 村上一族 盛衰記
66.北前船奔る 日本海自由経済圏を創った男たち
67.琉球の時代 大交易立国の輝き
68.マラッカ海峡 世界が出会う海の交差点
69.波濤の先を見た男 海の民・ジョン万次郎の旅
70.海駆ける千石船 現代の商品経済は江戸の海で始まった
71.黒潮紀行 POWER of TAIWAN
72.完全密着! 海上保安庁24時
73.消える九十九里浜 死に瀕する日本の渚
74.日本をひとつに 流通革命を起した河村瑞賢
75.国境の島・対馬 海峡の攻防二千年史
76.海上自衛隊24時 インド洋派遣と初の戦時下活動
77.検証!北朝鮮工作船
78.サムライたちの小笠原諸島 幕末の外交決断
79.松陰、ペリー暗殺を謀る 黒船来航150年目の真相
80.もう一つの日本海海戦 -アルゼンチン観戦武官の記録-
81.大陸の発想VS島国の発想
82.2007年度犯罪被害者に対する直接的支援活動の普及と定着
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から