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新規範発見塾 Lecture Memo vol.28

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


第121回 自由討論の試み
(二〇〇七年三月十五日)
新規範発見塾の目指したもの
 どうもこんにちは。ようこそおいでくださいました。
 最終回だからといって、特別何を言うこともないのですが、まとめを作ってお手元にお配りしてあります。何を目指して新規範発見塾をやってきたかを述べました。
 しかし皆さんご存じのように、私は何かを目指してやるとか、努力をするという人間ではない(笑)。ただ勝手にやっている。言いたい事がたまってしまうから、出している。だから、話したことに何だかんだ能書きは言いません。それでも聞いてやろうという人がいるのは有難いことです。
 そこで皆さんに私がお勧めしたいのは、皆さんもそういうふうにしゃべりなさい、そういうふうに勉強しなさい。そうすると、世界が新しく見えますよ。見つかったものは意外に簡単なことです――ということです。
 私が目指してきた、というより自然にやってきたことの第一は「知る」ということです。「知の人」になる。
 それから、二番目には「情の人」になる。情けがわかる人になる。自分が知りたがる人間だということを情でコントロールする。情がなければ知も進まないし、自分の情もコントロールできない。
 それから、三番目には行動しなければいけない。行動すると、また次の世界が見えてくる。行動することは大体ヤバいことですから、ヤバくてもやろうというのは意思や意欲ですね。「意の人」に皆さんなってください、ということです。
 四番目には、こんなことを三つともやると、自分の世界ができてしまう。それは閉鎖的にこもった世界ではなく、三番目に行動せよというのが入っていますから、行動を越えて自分の世界ができる。ということは、仲間もできているのです。自然にできています。社会との一体感が自然にできます。ですから、これは行(コウ)の人、「行いの人」になる。
 ほんとうはあまりこういう理屈は言いたくないのです。私は話したいから話しているだけですが(笑)、あえて整理して言えばこんな四つのことを目指して話してまいりました。
 
発見や知る喜びを体感してほしい
 これをもう少し詳しく説明いたします。
 まず第一番目「知の人」の補足ですが、知るということには価値がある。これは学校でさんざんそう言っています。しかし言いすぎるから、副作用がある。知るとそれだけで偉くなったような気になる。これは弊害です。学校公害、教育公害というのがある。間違った人間をつくってしまう。知恵、知識を自慢する人をつくってしまう。
 これはみんな気付いています。だから「学校秀才は要らない」という言い方をします。
 そもそも知るということは、それだけで嬉しいことなのです。それだけで価値のあることです。だから学校で一生懸命教えるのは、本当は新しいことを発見する喜びとか、おもしろさを体感してほしいと教育しているのです。しかし学校がそれをすると、普通の人が体感するのは、テストに書いたらいい点をもらったという体感です。それはテストの体感であって、知る喜びからは少し外れます。
 ただ知るだけでもいいではないかというのは「アカデミズムの世界」といいます。ギリシャでアカデミーというのがあった。それは、貴族だから働く必要がない、儲ける必要がない、友人も名誉もこれで十分という人が集まって、むだ話をしている世界です。
 宇宙の根源は何だ。光と闇だ。いやあ、二つではおかしい。火も、水も、土も入れよう。というような議論の世界を展開していたとき、幾何の世界がありますね。たとえばピタゴラスという人が出てきて、直角三角形においては、長辺の二乗と短辺の二乗の和は斜辺の二乗に等しいと発見する。こういうのは真理で、いくら疑ってもやはり真理にはかなわない。では、こういう真理をたくさん見つけようじゃないか。一つでも増えたら嬉しい。と、これは嬉しいだけで、何の役に立つかはわからない。少なくともギリシャでは。
 エジプトでは、ピラミッドをつくるときの土木工事に要る。あるいは暦をつくるときに要る。実用的な理由があるから発達したという事情がある。しかし、ギリシャの貴族のサロンヘ来ると、実用性はない。実用性はないが、知る喜びで幾何学をやる、そういう世界がありました。それを「アカデミー」と言った。
 これはやがてすたれてしまうが、その後、ルネッサンスのころになり、イタリアでは大変経済が豊かになりました。豊かになった人は趣味へいく。この世の贅沢をし尽くした人にとって、残った贅沢は頭で考えること。これだけが残る。お釈迦様もそうです。王子様に生まれて、十五、六歳ぐらいから結婚して、美女に囲まれ、みんなのあこがれるようなことは全部し尽くしてしまって、あとは難行苦行をするのが楽しみになる。そして、宇宙の根源は何かとかを悩むようになる。
 ある問題について悩んでも分からないと分かるところまで努力すると、その人は“知らざるをもって知らずとせよ。これは知の始まりなり”と言うようになる。“無知の知”とも言います。つまり、謙虚になります。前頭葉活動の限界を感得します。
 
知は前頭葉へのエサ
 前頭葉という、要らないものが人間にはついている。
 学問とか勉強、知識というのは、すべて前頭葉に食わせるエサです。前頭葉というのはやたら大食いで、どれだけ食わせても食ってしまう。もっとよこせと言うから、パズルとか、クイズ、ゲームとか、役にも立たないことを何時間でもやる。体を壊してでもやる。これは前頭葉を野放しにした報いで、その人は生き物としては滅びる。
 しかし前頭葉がある以上、適度にエサを食べさせないといけない。食わせないのもやはりノイローゼになる。適度に食べさせるのに何がいいか。これは人にもよるわけです。碁、将棋とか、数学とか、クイズ、ゲームとか、いろいろある。そして、アカデミーもそのうちの一つにすぎないんですが、金持ちがやっていると何となくカッコいいように見えるところがある(笑)。
 金持ちが学者を世界中から呼び集めてきて、そのエッセンスを取って楽しそうに偉そうにしゃべるから、周りの人は尊敬してしまう。そのとき、イタリア人はギリシャ哲学の伝統を我々は復活させたと考えて、その活動にアカデミーとかアカデミアとかの名称を復活させた。それがルネッサンスですが、かくてアカデミズムは尊敬されるようになった。しかし、やがて金持ちがいなくなって、暇な人がいなくなれば、滅びてしまう。
 その次はフランスで、高度成長して、金持ちができて、何とか周りに差をつけて賢いふりをしたいと思ったとき、フランスからイタリアを見ると、負けているのは芸術とアカデミズム。それでフランスでも学士院とか、科学研究所とか、大学みたいなものにはイタリアをまねして名前を「アカデミー」とつけた。
 
自分で足跡をつくるという人間に
 この、何にでもアカデミーとつける流行が、その後イギリスヘ行き、アメリカまで行っている。日本まで来なくてもいいと思うのですが(笑)。日本でも「アカデミー」と言えば賢そうに思う人がいて、それが流行しましたが、国立大学が独立行政法人になるとき、なんと一瞬にして崩壊しましたね。
 文部省が補助金は、これから「年に一%ぐらいずつ減らします。足りない分は自分で儲けなさい」と言った瞬間、東京大学の教授は九割方、プラグマティズムヘ行って、アカデミズムを一瞬にして捨ててしまった。
 簡単に言いますと、儲かっても、儲からなくてもやる学問は理学部ぐらいです。地球物理学とか数学とか、そういうところに行く人は、初めからそういうことが好きでやる。将来は学校の先生ぐらいです。そのほかの学部は大体職業に役立つんです。法学部も、経済学部も。文学部はあまりならないですけれども。だから、アカデミズムで言うなら、理学部が一番、その次が文学部。医学部も基礎医学以外は儲かりますから、職業になります。
 というようなことで、一斉にみんな金儲けに走りました(笑)。それでも構いませんが、アカデミズムを守る人がゼロでは困りますね。それこそ、国家が税金を投じてでも続けてもらいたいものがあるはずです。例えば原子力は、一〇〇年前は役に立つとは何にもわからずにやっていた。そうしたら原子力発電とか、爆弾とか急にすごいものになった。今でもそういうものはいっぱいあるはずです。
 たとえば遺伝子、免疫、更生医療からその先は不老不死の実現ですが、でも、それを基礎的にやっている人は、どこからもお金はもらえない。だから今は国家が出しているが、ルネッサンスのときは成り金が出してくれた。それよりもとは貴族が自分のお小遣いでやっていた。
 今、日本にはお小遣いを出してやろうという金持ちがいない。これが社会主義の完成した姿ですね。大蔵省が財産税をかけ、累進所得税をかけて、自分の儲けを自分が使うことができない社会にした。
 まあ、何もしない人が儲けるのはおかしいが、いろいろやってリスクをとり、しかも儲けている人もいます。それはその人に使う権利がある。累進所得税で取って大蔵省の人が使うのは、そのほうがよほどおかしいというのが私の気持ちですが、それはともかくアカデミズムを全滅させるのがいいことだとは思えません。
 ただし、それを誰の金でやるかが問題です。私の生い立ちから言えば、それは自分が儲けて、貯金がたまってから自分で研究すべきだと思います。自分の金で思う存分好きな研究をする。誰かに頼むなら、「金は私が出す」と言え。これが一番まっとうだと思っています。しかし、そう思っていない人は多いですね。
 多くの学者は、自分は立派なアカデミズムの研究をしているのだから、国家は金を出すべきであると言う。それから大企業を回って、「黒字なんだから、出すべきである」と言う。東京財団へもたくさん来ました。まあ、いい研究をしてくれれば出してもいいですよ。そこで、いい研究とは何かというところが、難しい議論になります。簡単に言えば、「誰もまだ知らないことをやるのだからいい研究だ」という説明は正しいと思います。実社会的応用は後で考えればいいということです。しかし、たいていの人は社会的評価がすでに定まっているテーマを選びます。それは数年で流行遅れになります。
 ところで、お金をもらいに来る学者、その他の方に言いたいのは、知の探求をするについての方法は何ですかということです。新しいものは方法も新しくなければできません。それをわかっていない人が多いのです。二流、三流の学者は、先生から教わった方法をやっていれば、前進できると思っている。先生の足跡をまた踏んだって、それはたいして知の探求をしたことにならない、学問が進歩したことにならない。
 自分で足跡をつくるという人間が知の探求者です。学術用語はすべて誰かの足跡ですから多用する人は二流です。


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