日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 哲学 > 心理学 > 成果物情報

新規範発見塾 Lecture Memo vol.28

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


日本には「許し、世間様、お上」がある
 欧米には自我があり、インドには輪廻があり、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教には最後の審判があるが、日本にはないという話をしました。
 では日本には何があるか。まず許しがある。過去は水に流してしまおう、そして現在を楽しく暮らそうじゃないかという知恵と技術と思いやりは、世界最高に発達している。これが世界最高に発達しているということを、特に近頃の外国人はわからなくて、封建的だとか、非合理的だとか、あいまいだとか、なれ合いだとか不透明だとか、手持ちの悪口を日本にぶつけてくる。
 ところが、江戸時代、明治時代に来た外国人は、長く住み着いたから、そんな手持ちの悪口では当たらないと理解した。だから長く住んだらわかる。長く住まなければわからない。これはやはり長い歴史とか伝統とか、島国だからということがある。
 それからもう一つ、日本人の常識の中には、ありとあらゆる世界の思想と宗教が入っている。全部ミックスされて、ハイブリッド化されている。いいところだけとって、少しずつ入って、五目飯になっている。それを外国人はわからないだろうし、こちらもわからせるのはくたびれます(笑)。
 許しの次は世間様というのがある。先ほどから言っているように、世間様のほうが一人ひとりの個人よりも大事である。人間関係が大事です。これが一番よくあらわれているのは、襲名制度です。五代目菊五郎とか言うでしょう、お父さんは四代目菊五郎。私が五代目を継ぎまして菊五郎ですと言うと、周りは安心します。ああ、お父さんと一緒か。人間は入れかわったけれど、社会的役割とかつき合いは全部引き継いでいる、と思う。だから安心してつき合えます。四代目菊五郎とつき合っているときに、金を貸しておいても、次が返してくれるなと安心できる。四代目によくしておいたら、またその次が返してくれるという、長い縦の決済関係ができます。
 この襲名制度というのは、外国でもないことはない。リチャード三世、リチャード四世とか。しかし日本では、一般国民にまでそれがある。私の友達でも、中小企業の社長が悩んでいた。親父の名前を継ごうかどうか。菊五郎商店という名前の会社で、親父が死んで社長になったら、やはり菊五郎にならないといけない。なっておけば、古くからの得意先、地元の人はみんな安心するというのはわかるが、自分にも多少は自我があるから・・・という悩みでした。
 養老孟司さんが辛らつなことを言っていましたが、襲名制度に似ているのは名刺であるという。日本人は名刺が大好きですぐ出します。何々局何々課長であるというのを見せる。見るほうは、名前のほうはどうせまたすぐ変わるからと、あんまり見ていない。何々局何々課長のほうを見ている。だったら名刺のつくり方を変えて、何々局何々課長だけ大きく書いておけば、名前なんかどうでもいい。隅っこに小さく書いておけばいい。真ん中に職名を大きく書いておいたほうがいい、と、養老さんが言っていました。
 たしかに、そういうことがあります。つまりこれは世間様があるということです。
 
「しゃくし定規ではない日本のお上」が意味するもの
 日本にあるものは、許しである、それから世間様がある。
 その上にお上というのが乗っかっている。お上は合理主義による制度です。人情はシャットアウトして“決まり”の管理をする制度です。これを立てておかないと、大規模集団はもたない。ある権力制度を長い時間をもたせるには決まりが必要である。
 たとえば大宝律令などが、中国のマネをして聖徳太子のころ日本に入ってくる。これでお上の決まりをみんなが承知した。承知したが、なるべく守らないからだんだん消えてしまう。消えたらまたつくるのです。決まりにも新陳代謝がある。お上の中身も少しずつ新陳代謝するわけで、そこがまた日本がうまくいっているゆえんだと思います。
 この間、元裁判所の所長さんを虎ノ門DOJOにお呼びして、裁判のやり方を話してもらいました。懲役三年以上にすると執行猶予がつかなくなる。そこでどうしても執行猶予をつけてあげようと思ったら、三年以上にはしないで懲役二年半になる罰をさがし出して当てはめる。それ以上の罰は探さないそうです。それはインチキだと思って質問したら、「お上にも涙はある、法にも情けはあるのです」と、たいへん日本的なことを言っていました。
 判事が直感的に決めた刑罰から犯罪の事実を逆算するとは変ですが、私はそれでもいいと思っているんです。社会は日進月歩でいろいろですから、法律が追いつかなくても当然です。ただ、時折変な偏った判事が出ると困る。それをチェックするために日本は一審、二審、三審まである。それから裁判は公開で傍聴を許す。だからそこで傍聴した人が意見を言えばいいわけです。それが間もなく導入される裁判員制度です。また、マスコミがもっときちんと論評しなければいけない。そういういろいろなチェック方法があっての決まりなんです。
 ソクラテスが死刑になった。その罪名は、若い者を惑わした罪です。いろいろなことを話して若い者を惑わしたから、死刑という判決が下った。そして、ソクラテスはほんとうに毒を飲んで死んだ。そのころの実状をある本で読むと、死刑囚はいくらでも逃亡できたのだそうです。牢屋の番人にちょっとワイロをやれば、すぐ鍵を開けて逃がしてくれた。だから気安く死刑の判決を出したらしい。
 しかしソクラテスは、意地っ張りで逃げ出さずに死んだ。どうもあれは当てつけに死んだらしい。という目で見ると、確かにそういう言葉を残しています。最後の言葉は「長くもない時間を待てずに、自分に死刑の判決を下した。私はもう年老いている。もうすぐ死ぬのに、市民はなんで死刑の判決を下すのか」と、意地悪市民への当てつけを言ってもいます。どうせ長くないのだから、法を守る英雄になろうと考えたのかもしれません。
 ともあれ、そういういろいろな社会の実状があり、その上にお上がある。日本のお上はあまりしゃくし定規ではない。それをみんなが認めているということに、日本精神とは何かが現れていると思います。
 我々の心の中に、昔からのセンスとか常識とでも言うしかないいろいろなものが残っていて、それが今、地下のマグマから噴き出してきたのではないかというのが、今日の結論です。ご清聴ありがとうございました。


前ページ 目次へ 次ページ





サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
4,432位
(31,818成果物中)

成果物アクセス数
964

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2020年3月21日

関連する他の成果物

1.2001年度『シンポジウム「心に残るこの一冊」』
2.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第1回“マンガで育つ人間力”?
3.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第2回“うちの学校ではマンガが正課”?
4.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第3回“マンガを使った魔法の(チャレンジ)授業”?
5.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第4回“マンガの光と影・害悪、影響も考える”?
6.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第5回“マンガ館の教育的活用・学社融合の要”?
7.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第6回“NHK子どもがつくるキャラクター・課外授業ようこそ先輩より”?
8.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第7回“パソコンでマンガを描こう! 日本の絵筆が世界標準! デジタルコミック展開!”?
9.マンガフォーラム「知識教育とイメージ教育の両立」?第8回“マンガは世界に何をプレゼントできるか?”?
10.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第1.2回“マンガ学科のシミュレーション及びモデルケース”
11.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第3回“マンガ・アニメグローバル戦略と新ビジネス構想”
12.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第6回“マンガ教育論”
13.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第7回“新文化外交論”
14.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第8回“マンガリーテラシー論”
15.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“アニメプロデューサー論”
16.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“産業論”
17.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第9回“マンガ編集論”
18.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第11回“新マンガ時代論・コンテンツ産業論”
19.2003年度「ENTERTAINMAENT GOES POP」
20.マンガ・アニメ造形ビジネス学科設立事業セミナー 第10回“モデル人材論”
21.2005年度キャラクター創造力研究会翻訳
22.2005年度マンガ・アニメ学術的研究会翻訳
23.SYLEF Newsletter No.15,No.16,No.17
24.日本の知的・文化的国際協力に関する総合戦略
25.日越関係発展の方途を探る研究
26.「日ロ関係打開の手法?好手と禁じ手」に関する研究
27.大学初年次における「自己表現・評価トレーニング」の導入に関する緊急提言
28.日本にとっての難民・避難民対策の研究
29.北方4島「ビザなし交流」専門船の建造と活用法に関する提言
30.ベトナム戦争と文学?翻弄される小国
31.延辺朝鮮族自治州と北朝鮮東部経済に対する日本の政策研究
32.中国の海洋政策と日本 ?海運政策への対応?
33.フィリピン日系人支援の方策についての研究 ?両国におけるアンケート調査を通じて?
34.戦略的広報外交のすすめ ?中国のプロパカンダへの対応を中心に?
35.大都市の危機管理体制(町守同心)のあり方に関する研究
36.小国の地政学 ?秘境・ブータンはなぜ滅びないか?
37.港湾?河川における水上交通創出のフィージビリティーモデル研究
38.民からのローカルガバナンス研究 ?地方再生に向けた政策連携の胎動?
39.文化産業を育成する知的財産に関する調査研究
40.団塊世代をはじめとする市民力の活用による作業所ビジネスの活性化方策研究
41.若手コミュニティ・プロデューサーの実態と活用に関する調査研究 ?若者が育ち活躍する地域のパワーを育てるために?
42.トルコの西ユーラシアにおける外交政策と戦略 ?中東の平和構築における日本・トルコの協力関係を模索する?
43.パラオ共和国における廃自動車適正処理の推進と自動車輸入管理システムの確立
44.次期政権に対する外交・安全保障政策に関する緊急提言
45.地域金融と地域づくり
46.南・北朝鮮、同時崩壊か?
47.日本の難民受け入れ過去・現在・未来
48.「日本人のちから」Vol.32(2006年5月)特集「ご破算力」
49.「日本人のちから」Vol.33(2006年6月)特集「評価力」
50.「日本人のちから」Vol.34(2006年7月)特集「対決力」
51.「日本人のちから」Vol.35(2006年8月)特集「家族力」
52.「日本人のちから」Vol.36(2006年9月)特集「牽引力」
53.「日本人のちから」Vol.37(2006年10月)特集「先手力」
54.「日本人のちから」Vol.38(2006年11月)特集「実行力」
55.「日本人のちから」Vol.39(2006年12月)特集「伝達力」
56.「日本人のちから」」Vol.40(2006年最終号)特集「日下公巻頭言集」
57.SYLEF The First Twenty Years
58.Proceedings SYLEF Program Administrators Meeting
59.2005年キャラクター創造力研究会報告書
60.2005年度マンガ・アニメ学術的研究会報告書
61.新規範発見塾 Lecture Memo vol.26
62.新規範発見塾 Lecture Memo vol.27
63.鎖国前夜の海の物語
64.巨大船沈没す
65.海賊 村上一族 盛衰記
66.北前船奔る 日本海自由経済圏を創った男たち
67.琉球の時代 大交易立国の輝き
68.マラッカ海峡 世界が出会う海の交差点
69.波濤の先を見た男 海の民・ジョン万次郎の旅
70.海駆ける千石船 現代の商品経済は江戸の海で始まった
71.黒潮紀行 POWER of TAIWAN
72.完全密着! 海上保安庁24時
73.消える九十九里浜 死に瀕する日本の渚
74.日本をひとつに 流通革命を起した河村瑞賢
75.国境の島・対馬 海峡の攻防二千年史
76.海上自衛隊24時 インド洋派遣と初の戦時下活動
77.検証!北朝鮮工作船
78.サムライたちの小笠原諸島 幕末の外交決断
79.松陰、ペリー暗殺を謀る 黒船来航150年目の真相
80.もう一つの日本海海戦 -アルゼンチン観戦武官の記録-
81.大陸の発想VS島国の発想
82.2007年度犯罪被害者に対する直接的支援活動の普及と定着
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から