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新規範発見塾 Lecture Memo vol.28

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


アニメとマンガが伝える日本の思想
 敵と味方を分けるのは、これは言葉の世界なんですね。「あいつは敵」だと、デカルトみたいな頭でっかちの人が言ったら、その言葉から続けていろいろなことを言い始めます。味方と言ったらその後いろいろ言う。
 同盟とはなんぞやというのも、理屈は通っているが、実際からどんどん離れたことを言う。中国もそうです。これが大陸に住む人のかわいそうなところです。
 日本人は、そういうのはそもそも言葉を立てるのがいけないんだと、直観力でお互いにわかる。そんなに力んだってしようがない、という日本の心をマンガとアニメによって世界の人にわからせていく。日本の優しい心は彼らに言葉ではわかりません。特に英語やフランス語はもともとが「ケンカ用語」です。または「契約用語」ですから。慰め合うとか察し合うとかの言葉はないらしい。
 だから言葉で言っても駄目だが、マンガ、アニメにはまず絵がある。絵を見ればかわいいとか潔いとか、負けないぞとか、こういうのはみんな顔に出る。それがキャラクターになっている。この人はこういう人、というのをキャラクターに分けて描いて、それがストーリーになって延々と続いていく。
 アメリカのマンガは四コマのようにコマが少ない。ストーリーマンガというのはない。あれは日本人の発明なんです。欧米にあるストーリーマンガは、イエスキリスト一代記です。これはあります。教会に行くとステンドグラスに描かれている。有名なエピソードを場面にしてありますが、それで終わっています。
 一方、日本では誰でもストーリーの主人公になれる。絵で見せて、キャラクターで見せて、ストーリーで見せて、最後の決着で見せる。
 すると言葉を超えてわかるものがある。「かわいい」というのはそういうことなんだ。「やさしい」とはそういうことなんだ、とわかる。かわいいという英語はありませんでした。しいて言えばlovelyとかPrettyですが、やっぱりちょっと違います。それで「かわいい」をそのまま使うようになった。中国人も使うようになった。かわいいというコンセプトを日本人に教えてもらって、それから改めて五〜六歳の少女を見ると、「ああ、こういうのがかわいいのか」と思う。
 欧米では、そういう「かわいい子供」というのは成長途上、未発達段階であって、だから手早く直そうとする。知能指数という考えがそうですね。単にマセているのを賢いと思うとはどうかしてます。その点日本は、直さなくてもいいんだ、あわてて教育する必要はない、と考えます。そういう日本人の考え方や暮らし方がマンガ、アニメによって自然に伝わった。
 そういう日本の思想を教えたので、アメリカにも少しずつ日本風の自我というのか、何と呼ぶべきかわかりませんが、そういうものが広がりつつある。日本にも自我がまるでないわけではありませんからね。それが世界に広まりつつあるわけです。ただし、母国語のボキャブラリーが足りないから、日本語のたとえば「かわいい」をそのまま使うことによって、彼らのコンセプトが豊かになりつつあるわけですね。中国でもそうです。
 ですからあまり通訳を使わないで、どんどんしゃべればいいと思っています。日本語のままでいい。それで向こうがわからないと言ったら、今度来るまでに勉強しておきなさいと言えばいいのです。ほんとうですよ。
 
自我がない、そして輪廻がない
 さて、二番目は輪廻がない。輪廻はインドでは実感します。インドは北のほうは乾燥地帯で、南は森林です。ジャングルつづきで、小動物がいっぱいいる。これがお互いに食い合いをしていますから、食われてまた生まれ変わる、という輪廻を実感する。
 これが中国へ行くと、中国人はあまり実感しません。ですから仏教も、チベットのほうへ布教していく途中で変わるんですね。新学説が出る。「空」の思想です。悟りを開きたいというのは、輪廻の輪から逃げたいという意味です。もうどこにも生まれ変わらないのを「成仏した」と言う。
 では、どうすれば成仏できるか。ヒンズー教は「難行苦行をすれば、ある日できる」と言ったのを、お釈迦様はやってみた。最高に難行苦行をしてみたあげく、釈迦は「難行苦行をしても無駄だ。そんなことをしなくても成仏できる」と言った。では、どうやって成仏するのかということが、その後三百年、四百年続く仏教の後輩たちのテーマになりまして、それで「一切皆空」という学説ができました。宇宙的存在にいちいち意味なんかない、物があると思うな、理念があるとも思うな、精神があると思うな。一切皆空である、そう思ったら救われる。成仏できる。それが成仏である、と。
 輪廻を超えるためには、輪廻がないと思えばいいわけですね。何もないと思えばいい。だから輪廻を超える方法は、何もないと思うこと。これは私の解釈で、簡単に言いすぎると叱られるかもわかりませんが。これが中国へいって割と気に入られた。日本へ来ると禅宗になる。日本へ来たときは鎌倉武士の時代で、武士は殺し合いをしていた。だから武士の気風に合って広がる。武士は一切皆空、身を捨ててこそ名誉が残る。潔く死ね、というので気に入ったのでしょう。禅宗は武士に広がった。その下の庶民には浄土宗、浄土真宗でした。こちらは空とは言っていません。これもまた新発明の仏教なのです。
 そんなことがありまして、日本に来た仏教は悉皆成仏と言う。一切皆空と言ったのがインドと中国で、それが日本へ来たら、日本人は現実主義で「空」では困る。それで悉皆成仏、山川草木はすべて仏であると、むちゃくちゃを言うようになりました。輪廻どころか全部仏だという仏教になる。
 これは日本仏教の特徴というか、大発明です。みんな平等である。この辺が「みんな仲良く」の淵源だと思います。あるいは「みんな仲良く」というのがもともとあったから、そういうふうに仏教を変えてしまったのかもしれない。その前後関係はわかりません。
 どちらにせよ、これが日本人の精神だろうと思います。これを具体的に言いますと、我々は例えば人事カードというのにあまり熱心ではない。近頃なんとかしてつくりますが、あまり本気で書いていないし、会社も本気で見ていません。最初ちらっと見るだけで、面接して決めます。会社の中ではおおむね評判で決めます。もしも人事カードでやっている会社は滅びます(笑)。滅びないのは金融、証券だけ。
 要するに、成果が数字で出るような商売をやっているところです。金融、証券、保険は諸外国と競争をするのだから、そういうところは外国式でやりなさい。だが、他の会社は、マネしてはいけない。人事カードにやたら熱心なのはアメリカと中国ですね。北朝鮮もそうです。この人はどういう人間か、というのをみんなカードに書いてしまう。ヨーロッパのエリートはそれほどでもない。貴族同士の評判です。つき合う人数が少ないからだろうと思います。
 日本では人事カードをつくらない。それからもうひとつ言えば、お役所の人は自分の人脈を引き継がない。例えば大使が自分の開拓した人脈は、次の人には教えません。けしからんと思います。せめて何か書き残して置いていけと言いたい。自分の財産だとして引き継がない。また新しくつくればいいという態度です。
 それから残していくと、自分に不利益があるかもわからない。悪用されるかもわからない。田中均さんが、北朝鮮のミスターXと交渉したということは一切記録が残っていない。こんなけしからんことはない。けしからんというのは、官僚制度の考えから言えば、官僚一人一人には自分の名前がない。何々局長として誰がやってもしかるべきことをしている。それなら記録は残しておかなければいけない。要するに日本国としての行為なのだから、日本国の記録に残っていなければいけないのです。
 それが一切残っていない。田中均さんは何をしていたのか。個人的な仕事をしていたのか。お金は外務省のお金を使っただろう、時間も使っただろう。何をしたか何も書いていない、残っていない。これでは国民裁判で呼び出して、金をみんな返せと言わなければいけない。
 これが官僚制度の考えです。私は無条件でこれがいいと言っているわけではありません。曖昧でもいいと思っています。ただ目に余ると言っている。この辺が純日本人なんです。目に余るだろう、自分だってわかっているだろう、と言いたいのです。
 
「最後の審判」がない、仲間が見張っている
 そんな曖昧模糊とした中でも、日本はうまくやってきたのです。そこにアメリカ式を取り入れて、その通りやる人がいて、それに負けて気おされて引っ込む人が多かった。何で引っ込むのか。それは勉強のしすぎです。生粋の日本人のままでいればかえって反論できるのです。
 何で彼らは個人カードを大事にするかというと、「最後の審判」を考えるからなんです。キリスト教もユダヤ教もイスラム教も、最後の審判があると思っている。最後の審判の法廷に立つのは一人一人ですから。そのときに、みんなでやりましたという言いわけは通らない。私だけではありませんと言ってもダメ。「ともかくおまえはこうだ」と言われてしまう。相手は神様ですから、全然ごまかせない。「あなたは地獄行き」と言われてしまいます。この欧米式を日本でやっているのは交通警察の取り締まりで、だから評判が悪い。
 それが個人主義です。個人情報は最後の審判のために必要なんです。それを考えれば、人はあんまり悪いことはしないだろうということで、ヨーロッパは千年ぐらいうまくいった。その後、フランス革命以後はそういう宗教をあまり信じなくなり、近代的自我を持った人があらわれてきた。「合理主義でいきます。神様などは迷信」と言った途端に、ヨーロッパはむちゃくちゃになった。その人たちがアメリカへ渡って行ったから、その人たちはとても世界をまとめる資格がない。
 要するに、自分で自分をとり締まる規律がないのです。最後の審判があればいいが、それがなくなったらみんなエゴイストになってしまった。
 その点、日本は仲間がみんな見張っている。みんなに見られて、最後の審判どころか現在の審判があるわけです。明日すぐばれる(笑)。だから行いを慎むということがありまして、これはこれでうまくいっています。
 だから日本には最後の審判の考えがない。必要ないからです。また個人情報の流出問題をこんなに騒いでいるのはおかしいですね。多分悪い政治家が週刊誌から身を守るために火をつけたのだと思いますが、政治家の悪とは何かについても日本的な庶民の考えが別にあります。それは「政治家とは何か」にまでさかのぼる問題です。
 もう一回まとめて言うと、日本では自我がない、輪廻がない、最後の審判がない。
 それでもうまくいくのはなぜですか、ということです。実際にうまくいってきた。「うまくいくはずはない」と言う人がたくさんいたが、そんなことはない。市場原理主義がいい、個人主義がいい、合理主義がいい、アカデミックにやれ、科学的にやれと言っている人は、日本ではあまり恵まれなくて、それでアメリカに行って帰ってきた人。
 という言い方は極端ですが、しかしアメリカに行って、なぜそんなに嬉しかったのかということです。
 日本で不幸せだったからアメリカに行って嬉しかったのでしょう。日本で幸せなら行く理由がありません。もし行っても、「アメリカ人の考え方はこんなものか」と思うはずで、その淵源を考えるとこんなことが思いつかれます。


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