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日本刀によく似た柔構造
 では、平安時代に入ってからはどうかを簡単に言えば、平安で人間の大移動がない。そのころ日本に外国から人は入ってきたが、小規模にぽつぽつ来た。つまり大規模な軍事力が来たことはない。
 だから文明文化は連続していて、しかもちょっとずつのショックがあった。
 これが鍛錬になるわけです。外来の文明・文化・思想を順次消化した。仏教も儒教も景教も、みんなほどほどに消化してしまった。それが日本の姿です。
 アメリカのことを人はよくサラダボウルだと言いますね。昔は「人種のるつぼだ」と言ったが、それは違う。サラダボウルの中のトマトやきゅうりと同じで、絶対にお互いに溶け合わない。黒は黒、白は白、赤は赤だが、しかし同じサラダボウルの中に入っているという表現です。
 それに比べて煮込みシチュー、ごった煮が中国人、ヨーロッパ人、日本人だという解説です。
 民族として一体になっていて、心情がほとんど共有されている。常識によって統一されている。それのシンボルが天皇ならば、それはそれでいいと思うんですね。ただ個人的には、天皇陛下にはもう少し楽をさせてあげないと、誰もなり手がなくなるだろうと思っています。
 日本は、日本刀みたいなものです。「玉鋼(たまはがね)」と言いますが、砂鉄をとってきて木炭で一週間ぐらい熱して溶けたのを、今度は叩くんです。鍛造して、叩いて、叩いて、叩いていると、不純物が端のほうに寄ってくる、それを捨てる。不純物は叩いて、叩いて、端へ寄せて、捨てる。しぼり出す。出来上がりを玉鋼と言う。これで日本刀をつくる。
 日本刀をつくるときは、柔らかい鉄とかたい鉄とを重ねる。最初は二層ですが、叩いて、叩いて、延ばしておいて、また折るんです。何回か折っていくと四層とか八層になる。一番外側はかたい鉄にして、中にやわらかい鉄を入れておくから、ポキッと折れないようになる。日本刀とはそういう重層構造になっている。
 最後に焼き入れをするわけですね。焼きを入れるとかたくなる。一番かたいところは刃のところで、その刃のところだけ焼き入れをする。刀身の身のほうは、かたくなってはいけないから粘土を張りつけておいて、温度が高くならないようにして、やわらかいまま残るようにする。刃だけ真っ赤に焼いて、水にジュッと入れるとかたくなる。
 それを焼き入れと言います。焼き入れをしても、すぐには刃を砥石で研がないんです。研いだら減ってしまいますからね。日本刀は細いですから、やたら研いだらなくなってしまう。だから、そんなに研ぐものではない。いよいよ明日は戦争だというときに、慌てて刃をつける。そのときやっつけ仕事で刃をつけるのを寝刃(ねたば)を合わせると言います。
 そんな、いろんなことがありますが、何となく日本刀と日本民族とはよく似ているなと思います。
 
日本精神のほうがずっと上
 さて、日本精神というのを、大昔にさかのぼってずっと説明しましたが、これにどういう名前をつけていいかわからない。しようがないから日本精神と言っていますが、私は世界の例えばキリスト教とか、ユダヤ教、イスラム教などに比較すると、こちらのほうが良いところが全部入っていると思います。何しろ四枚重ね、八枚重ねになっていますからね。そして悪いものは入っていない。捨ててある。
 それは日本人が選んだのです。日本人は何を選び取って、何を捨てたかという研究をすればいいんですね。外国にはあるが日本にはまるでないもの、ということを書き挙げると、それは捨てたものなんです。日本は遅れた国だからあるべきものがないというのは見当違いではないか。明治政府が江戸時代以前を否定して、自分の文明開化ぶりをほめただけではないか。
 例えばアメリカの大学に行ってみると、アメリカは民主主義だというが、教授専用のエレベーターや専用の食堂がある。その食堂の名前がまたfaculty、才能がある人という意味です。自分で自分のことをfacultyと言うとは(笑)。日本人は謙虚だからそんなことは言いません。
 学生に、講義が終わって何か質問ありますかと言うと、熱心な学生がくっついてくる。歩きながら話していると、そのうちエレベーターの前に来る。二人一緒にエレベーターに乗らない。先生はエレベーターに乗って、学生は階段を走ってのぼる。全部の大学がそうなっているわけではありませんけれどね。
 日本から行った留学生はそれを見ていても、日本国内で同じことをやろうとはしません。なぜでしょうか。そのくらい、アメリカでは権威を見せつけて押さえつけないと、学生の元気がよ過ぎて秩序がもたない。つまり非文明人。それで弾圧のための道具立てがいっぱいある。
 ところが日本にそんな荒っぽい学生はいないから、民主的にやっていても大丈夫なんでしょう。というようなことで、アカデミックな制度も日本に来ればまた変わっています。その他、そういう話はたくさんあります。
 日本は男尊女卑で野蛮だと言いますが、彼らの家庭は男尊女卑です。そして全体が階級格差社会です。会社でも上司は個室に入ります。軍隊でも将校は兵士と別の食事をし、夜は将校クラブヘ行き、女性の兵士に酒をつがせます。そして兵士には女性兵士と口をきいてはいけないと規則を定めます。女性兵士は従軍慰安婦もどきです。
 このへんの雰囲気は日本人には想像がつかないと思います。そこで公民権法という革命がありましたが、その中身は日本に比べると五百年か千年遅れています。その昔、中川八洋氏が『超先進国日本』という本を書かれましたが、そのとおりだと思っています。なぜ中川説は広まらないのか不思議です。


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