日本財団 図書館


国民の気持ちをそのまま書き出せばいい
 しかし、いよいよ議論する時が来た。
 国民の気持ちをそのまま書き出せばいいのです。たとえばODA五原則をつくるとすれば、それは国民が考えているとおり言えばいい。
 まず第一番、独裁政権のところにはやりたくない。民主主義と言論の自由のあるところ、人権尊重のあるところにはまああげましょう。
 第二番、隣の国と紛争をしている国、領土問題を持っている国、そういうところにはあげるのはやめましょう。今はなくても軍事予算をどんどん増やしている物騒な国、そんな国には援助するのはやめましょう。これを裏から言うと、軍事予算を減らしたら、ご褒美をあげてもいいですよ、となるんです。
 結局ここで書き上げることは、いま日本自身がやっていることなんです。それをそのとおり書けばいいだけです。「あなたの国も日本みたいになりなさい。なるんなら奨励金をあげますよ」ということを素直に書けばいいと思います。
 次はそれを監視しなければいけませんね。だから、約束を守らないのなら来年はもうゼロとか、そういうコントロールをするなら首相直属の機関でやる意味がある。
 これまでは、英米仏がやっているからとか、先進国の義務であるとか、金持ち国の義務であるとか、国際貢献であるとか、日本は金持ちなんだからまだ少ないだとか、まあそういうことを言われ続けてきた。またそれに、外務大臣はずっと賛成してきた。なぜかと言うと、金を配るのは楽しい仕事だからです。「日本国民よ、もっと出せ。国際貢献だ」と言うと通る。なんだか知らないが貢献したい人が多いらしい(笑)。こんな国民は他にいません。
 これはまあ、深く考えないのがいいところなんです。考えなくてもわかっている。というのは、日本人は今つくりあげたこの日本が、世界で一番すばらしい国だと思っているから、気の毒な国には応分のお見舞いをあげようと思っている。湾岸戦争のときの一三〇億ドルは「火事場の見舞金」でした。ただし、世界の国は別のことを考えている。気の弱い国からは取ってやれ、金持ちからは取ってやれ、騙されやすい国からは取ってやれ――等々です。
 
行動心理学的に日本を見ると
 行動心理学というのがありまして、行動にあらわれた心だけ取り上げようという心理学です。これはアメリカで発達した心理学ですが、アンケート調査をすればみんな口では美しいことを言う。人が言っているのと同じことを言う。
 だけど行動していますか? というわけで、行動にあらわれた分だけがその人の心だと判定する。つまり実験心理学というのは、そこから来るんですね。例えばアメリカ人が歩いていて、ベトナムから来たボートピープルがかわいそうな暮らしをしているから、まあ五ドル出したとする。その次、別の所に行くと、目が見えない人のために一〇ドル出しなさいというのがあったとする。一〇ドル出したとする。すると、ベトナムの問題は半分しか評価していない。それは五ドルと一〇ドルにあらわれている。行動以外はだめで、アンケート調査なんてものはあてにならない。行動に出た分だけを取り上げようという心理学が、もう何十年も前にできた。これは、日本の場合にも半分必要だと思っています。
 つまり、日本人はみんな建前を話すのはうまいからです。だから、アンケート調査なんか日本ではやめろと言っている。シンクタンクはそればかりやっていますし、お役所はそういうところに委託調査を出していますが空しい。
 そんな調査を見てなにか感心することがありますか。ほんとうに聞くのなら、もっと行動心理学的な質問をつくらなければいけない。例えば、小泉首相を支持しますか、支持しませんか、と、こんなのは○×つけるだけですから深みが全然わからない。だから、深みをつけるための質問を考えなければいけない。
 例えば「テレビでニュースをつけたら、小泉さんがパッと映った、もうちょっと先を見ようと思いますか」。さっと変えるなら、ほんとうの支持率は落ちている(笑)。
 行動心理学的に考えると、日本人の心は複雑で深いから、それを潜在意識から掘り起こしたらどうなるのか。日本人は外国を一体どう考えているのか。外国政府というのをどう思っているのか。
 それから実話をたくさん教えないといけない。「南米諸国は日本の援助についてこう言っています」という実例を見せられると、日本人はちょっと考え直しますね。
 このごろ、中国についてはいろんな実例が出てきた。例えば、金持ちが腎臓や肝臓が欲しいというとき、香港かアモイのマフィアに頼むと、配達してくれる。その仕組みは、中国奥地の地方政府や共産党幹部に「フレッシュな腎臓が欲しい、お客が一〇人いる」と言うと、その一週間の間に人を捕まえて死刑にしてしまう。それを届けてくれる。これは十何年も前からアメリカの新聞には載っています。いくらでも書いてあります。
 インドはまだましで、お医者さんが貧乏人に「腎臓が二つあるだろう、一つ売りなさい」とお金を払って買い集めて持ってくる。しかし中国は「死刑囚から同意を取っている」と言うんですね。昔は同意なんて取っていません。アメリカからあまり批判されるものだから、同意書にサインがあると言うようになった。死刑になったのが不当か正当かは、まあそこまではアメリカは言わない。
 アメリカの新聞には書いてあることが、なんで日本の新聞には載らなかったのか。必ず中国大使館が来るからですね。「そういうことを殊さらに書くな」と。
 だから、日本人はみんな知らなかった。知らなかったけれども、噂でも何でも知ってみればだんだん嫌な気持ちがして、「あまり援助するものではないな」「あんまりつき合わないほうがいいな」「ほどほどでいいな」と気持ちが離れてきた。
 すると向こうが急に日本を追いかけてくる。こちらが離れると、急に手のひらを返して日本様様と言って追いかけてくる。もうこの数カ月それが始まっています。
 
金を配って恨まれるのはなぜか
 いろんなエピソードを知れば知るほど、日本人が考えているような友好親善は、そう簡単には得られないもので、ましてや金を配れば得られるというものではない。
 金を配ると相手が腐敗堕落する。やがて革命が起こって、向こうで新政権が誕生すると、新しい政権の人はもちろん感謝しないし、むしろ日本を恨む。日本があの軍事政権をずっと援助したおかげで、我々はたいへん苦労した。「だから援助でもらった融資は返さない」となる。
 例えばフィリピンのマルコス政権がなかなかしぶとく続いて、アキノさんの奥さんが新しく大統領になった時、彼女は「日本を恨む」と言いました。日本がマルコスにたくさん金を渡したから、それで地盤を培って、フィリピン人民全部はたいへん迷惑をしたと言った。ではもう日本からの援助は断るんですねと誰かが言うと、いやいや引き続き私にはもらいたい(笑)。いや、そうなんですよ、世界中でこんなことをしているんです。
 一番いい例はミャンマーです。スー・チーさん一派は、軍事政権に日本が援助をすると、我々が政権を取れないから援助は断ると言った。日本の援助でミャンマーは飛行場をつくっている。軍事政権の人は感謝しているが、スー・チーさん一派はやめてくれと言っている。やめるとミャンマー経済はとまるが、一度とまってみんな貧乏になってくれたほうがうれしい。そうすると、軍事政権を倒すことができるから、と言っています。日本はそういうことに巻き込まれているのです。
 これも塩川正十郎さんの話ですが、彼は外務大臣をしたことがあって、そのとき「政局不安定な国に対する援助は見直したらどうか」と言ったら、なるほどそうだと動く官僚がいて、翌年から七三〇億円減った。だから、大臣が一言いえば外務省にも心ある人がいて、そういうふうに減るのです。塩川さんがそう言っていました。
 なんでそう簡単に減らないかというと、官僚はなるべく減らしたくないからです。外務省の人に意地汚いぞと私が言うと、彼らは「いやいやこれは自民党からの命令です。自民党の国会議員が日本フィリピン友好議員連盟、日本中国友好議員連盟、日本チュニジア友好議員連盟、まあとにかく全部の国についてある。そこからピンはねしているかしていないか知らないが、要するに減らすな減らすなと自民党の先生が言う。大臣も普通の大臣はそう言うから、我々は命令に従っているだけです」と言っていました。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION