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日本は明治以来、援助をもらっていない
 その他、アメリカは終戦処理費という名目で、日本の国家財政の四分の一を巻き上げた。「終戦処理費」というタイトルが日本の予算には書いてあるが、アメリカは「占領経費分担金」と言っている。アメリカの兵隊がありとあらゆる贅沢をしているが、その金を日本人は払え、と向こうの法律はそういうことになっています。
 それで、日本銀行はたくさん印刷して金を渡した。だから昭和二十一年から猛烈なインフレになるわけです。戦後の超インフレは戦争が終わったからではない。アメリカ兵が来たからです。物価がどんどん上がった。あれは戦争に負けたからだと思っている人ばかりだが、違うのです。マッカーサーが金をこっちに回せと言い、日本銀行がやたら印刷して渡したからです。
 それでインフレになって、アメリカ国会でも問題になった。「世界で一番豊かな国の兵隊が、世界で一番貧乏で焼け野原に住んでいる人から金を巻き上げて遊んでいる。自分たちの家まで日本につくらせている。メイドの金まで日本政府に払わせている」と、アメリカ国会でそういう問題になり、マッカーサーをワシントンに呼べとなった。これは秘密でもなんでもないが、もちろんマッカーサーはこういうことを日本人には教えません。「書いた新聞社はちょっと来い」と言う。「日本とアメリカは友好親善でなければいかん。逆らう気か」と公職追放です。だからみんなおとなしくなっていた。
 なぜこういう話をしているかというと、中国も日本に対して「日中友好親善にあなたは賛成ですか?」と最初に聞くわけです。それで「賛成だ」と言うと、「それでは北京に特派員を置いてよろしい、あなたとつき合いましょう」となる。「ただし、中国の悪口をあなたの新聞は書かないと約束しなさい」と言うと、日本人は「はい、もちろんです」と一札書いてしまう。中国の悪口は書きませんと一札入れたら、それを四十年も守るとは、こんな美しい国民はないのです(笑)。
 韓国も同じです。「日韓友好親善が大事ですか」と聞かれれば、みんな「私もそう思います」と返事する。その後、「竹島は日本領だと言うと韓国の人の心がいらつきますから、言わないでください」と言われると、「まあそれもそうですね」と言って帰ってくる。
 そんな実情ですから、私は韓国へ行っても中国へ行っても、どこへ行っても「友好親善が大事です」と言われたら、「私はそう思いません」と答えるのです。「そういうことは、お互いの間の問題が全部解決してなくなったら自然にそうなります。だから、まず問題を解決しましょう」と言うのです。
 アメリカに行っても言われます。「日米はきずなが深い、もう結婚した夫婦のようなものだ」と。その後、冗談として「どちらが男か」と言う(笑)。すると日本人は、「もちろん男はそちらです。我々は女です、貞淑な妻です」などとバカなことを言って帰ってくる。ほんとうにそう言っていますよ。日本のインテリはそんな人ばっかりです。
 だから私は最初に「日米友好親善は、問題がなくなれば自然にそうなります。問題があるときはそうなりません。私が考えている問題は、別にわざわざ言うこともない。聞かれれば言ってあげます。あなたが考えている問題を言ってごらんなさい」と言うと、「日本は儲け過ぎる」と言いますよね。「損得の話ですか。商売の話ならソニーの盛田昭夫さんが言っているように、日本は強制的にアメリカに売りつけたことはない。アメリカ人が喜んで買っているだけです。何でそんな問題にワシントンが出てくるのか。ワシントンが出てくるから、日本はアメリカ嫌いになる。友好親善を阻害しているのはワシントンである」と言うと、だいたいみんな「はい、そうです」と言います。その辺はアメリカ人は率直でたいしたものです。
 
相手は感謝していない
 話をODAに戻しますが、日本人は天にも地にも人にも感謝するのがクセですから、相手もしているだろうと思ったら大間違いです。相手は「もらったものは自分のもの」と思っています。「日本人はなぜか知らないが出したいんだろ、ではもらっておけ」です。
 これがわかるのが国際感覚というものです。わかったからどうするかはまた別の問題です。中国は感謝していない、それでももっと続けるという考えがあってもいいんです。日本人の美しい心から言えば「感謝するまでやり続ける」(笑)。向こうがびっくりするまでやり続ける。これも日本人の普通の心です。そう決めてもいいのです。だから対中円借款はまずカットだなんて言っている日本人は卑しい日本人です・・・と思っている日本の普通の人がたくさんいるはずです。
 なんでそういうことを言うかというと、実例を言いましょう。ある日本へ来た中国人の留学生ですが、一生懸命勉強するからたいへん秀才で、真面目にやるからきちんと大学を出て、日本の会社にも雇われた。しかしもっと儲かるところはないかとアメリカヘ行く。そういう人と話をすると、日本へ来たとき、あまりにも日本人が自分に親切なのでびっくり仰天したという。中国にいるとき教わってきた残虐で意地悪な日本人なんか一人もいない。威張っていて傲慢で中国を見下すと教わってきたが、そんな人には一人も会わない。みんな私に親切で優しくて、困っていると言えば何かしてくれた。
 そこで私が質問したことは、しかしアパートだけは別だったでしょう、ということです。朝日新聞が書くときは、いつもアパート問題が出てくる。例えば外国からの留学生といえば色の黒い人もいます。そういう人が日本へ来て何を悩んでいるかというとき、アパートを貸してくれないという話が出てくる。むしろそれしか出てこない。他は何にも困っていない。こんな優しい国はない。ただアパートだけは差別されると言っている。というのを朝日新聞その他の新聞記者が書いていた。まあ、十数年前ですけれどね。
 そのうちに、彼らも勉強したのでしょう。そういう人がアパートで差別されるのは世界中のことであって、別に日本だけのことではない。日本人も向こうへ行ったら差別されている。なかなかアパートは借りられないものなんです。
 借りてみると、それはもう昔から代々日本人になれているユダヤ人家主のところで、それはヨーロッパでもアメリカでもそうです。向こうはなれているだけではない。「日本人は気前がよい、必ず家賃をちゃんと払ってくれる。それから敷金は絶対返さなくても大丈夫。日本人はあきらめて帰ってくれる」と(笑)。そういうことに味をしめた家主のところに、みんな住んでいるんです。そういう話を日本に帰ってきてからみんな言いません。私は腹が立つから「よーし、絶対敷金を取り返してやろうか」と思ったが、三〇〇ドルとか五〇〇ドルくらいです。五万円ぐらいは日本に帰って働けばすぐですからね。そんなことでゴタゴタしているより、早く帰って次の仕事で稼いだほうが簡単だ、というのを向こうも知っている。それで「日本人大好き」と言っているんです。
 
「何も考えずに親切にしている」
 それはともかく、先の中国人が、どうしてこう親切なのか十年間わからなかった。気持ち悪いけれど、まあ私は困っていたから助かった。「どうして私にこんなに親切ですか」と聞くと、日本人は異口同音に「昔、日本は中国に対して悪いことをしたからだ」と答える。これが全然わからない。それは国家と国家の話でしょう。それを何で個人のあなたが個人の私に賠償するのですか? と、それが十年間わからなかった。
 「わかろうと努力して、最近やっとわかりました。何がわかったかというと、日本人は何も考えていないということがわかりました」と言うので、「偉い、よくわかった。何も考えずに親切にしているんだよ。親切は自分が自分で嬉しいからですよ。人に意地悪をする人間にはなりたくない。親切にしたほうが後が気持ちがいい。自分のためにやっている。だから相手が中国人でなくてもやります。だけど、中国人から聞かれたら、まあ昔戦争をしたからとかいうのは話がわかりやすい。しかし、ほんとうのところは、つまり何も考えていないんですよ」と言ったことがあります。
 ただし、アフリカの人なんかにはどうしているかというと、これは私の想像ですが、あまりにも生活習慣が違う人は入れられない。なぜかというと、入れたら日本人は家族同様に待遇しようと思っているからです。無差別平等に暮らしたいと思うから、あまりにも違う人は用心して入れないだけなんです。
 ところが、ヨーロッパやアメリカヘ行くと、無差別平等に待遇しようなんて全然思っていません。有色人種は差別するのが当たり前である。身分が違い、収入が違い、学歴が違い、違えば違うだけ待遇は違える。ということを、なんらやましいと思っていません。だから「はい、いらっしゃい」です。
 私は子供のとき経験があるのですが、神戸にいましたからイギリス人と家庭のつき合いがありました。私の母はそれに慣れていて、イギリス人の家にふらっと遊びに行くと、「やあいらっしゃい。まあお上がりなさい。お茶の一杯でも」と言って歓待してくれる。お母さんはすごいなあと思っていたが、ある時言ったのは「これはイギリスのマナーです。お客が来たら、いらっしゃい、お上がりなさいと言う。だけど、十五分たったらお客は必ず『失礼します』と言わなければいけない」ということで、子供心になるほどと思ったわけです。そもそも「ちょっと立ち寄りました、ごめんください」と言って玄関に入ったとき、絶対オーバーを脱いではいけない。オーバーを着たまま「こんにちは、お元気ですか」と言う。それはすぐ帰りますという意味です。
 ところが、日本人はオーバーを脱いで手に持って「こんにちは」と言うから、向こうはギョッとしてしまう。今日は重大な話があるのかと思って、まあお上がりなさいと言うが、十五分たったら「もう帰ります」と言い出すはずだから、満面笑みを浮かべて「紅茶はどうですか」と言っている。すると、日本人はこんなに歓迎されたんならすぐ帰っては悪いかと思って(笑)、何だかんだと長居をするからいけない。「これはマナーの違いです」と母が私に教えてくれました。
 そういうことを子供のとき経験していますから、外国人同士のつき合い方はそんなもんだろうなあと思うわけです。それがわからない日本人が多いですね。だから「援助をするとか親切にするとかについての根本が違う。日本人は何も考えていないということを発見するまで十年かかった」ということになるわけです。


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