日本財団 図書館


日本に生まれるとセンスがよくなる
 ところで、一昨夜、『国家の品格』という本がヒットしている藤原正彦先生と浜田麻記子さんのパーティで一緒に食事をいたしましたら、あの人がすごいことを言ったんです。「日本人の若者はたいへん頭がいい。数学に関しては断然、世界を抑えている。もし数学にノーベル賞があるとすれば、いずれ皆、日本人の若者がとってしまう」と。そんな気もしていたのですが、国際派で専門家の藤原さんが言えば人は信用します。
 あの人はアメリカに長くいた。「アメリカに行ってみると、すごい人は確かにいる。しかし大部分はたいしたことがない。日本の数学者のほうが、よほど層が厚くて、次から次へと新しいことをやっていて、これからやっていく新しい数学の分野は日本人が皆独占するであろう」と言っていました。
 その先、暗号の話になりました。アメリカは暗号開発が世界一だと思っているから、何でもかんでも暗号をかけています。例えば、偵察衛星が偵察したことを、暗号をかけているから傍受してもわからない。日本の自衛隊も解読できませんから、高いお金を出して買いましょうと言っている。私は、そんなはずはない、あんなものぐらい解読できるだろうと思っていたら、藤原さんが力強く「やる気になればすぐ解読できます。アメリカの暗号なんか全部解読できます。中国のは暗号でも何でもありません、子供の遊びです。だから日本の外交官を籠絡して聞き出さなければいけないのでしょう」と力強くおっしゃった。こういうのは普通、聞かない話です。しかし探していけば方々にあるんだろうと思います。
 日本は三つの黒字になっている。まだ続くでしょう。「それを実現した日本人が、頭がいいとか、センスがいいとかいう話は、なぜか論理的にきちんと聞いたことがない。なぜでしょう」と尋ねると、藤原さんは力強く「日本は景色がいいからだと書いたのです」とおっしゃった。インドでも、景色のいいところがあって、そこから著名な数学者が固まって発生しているそうです。そういうことを力強くお書きになったから、みんな喜んで『国家の品格』がベストセラーになったのでしょう。
 私もほんとうにそう思っているんです。日本に生まれると、ともかくセンスがよくなることは確かです。ヨーロッパ、アメリカに行ってみればわかります。「なんだ、こんなもの」とほんとうに思います。ルネッサンス、ミケランジェロ、「うわ、すごい」と言いますが、まあ確かにエネルギーがすごいとか、執念深いとか、いろいろ感じます。しかし、それはそれ、日本は日本と思って帰ればいいのです。
 普通そういうふうに教えません。「ルネッサンスはすごい、世界の人間の財産だ」と言うから、「奈良、京都は片隅なのかな、到達した水準はまだ低いのかな」と思ってしまう。そのマインドコントロールがこのごろ解けてきたようです。田中英道さんというルネッサンスの専門家が、『国民の芸術』という本で、奈良、京都は負けていない、むしろ上だと書いている。私はかねてよりそう思っていましたが、ルネッサンスの専門家が言ってくれたので安心しました(笑)。
 こういう自信が湧いてくると、これから京都や奈良の学生がすごいことを始めるでしょう。「世界は怖くない、自分の力で歩いていってかまわないんだ」という若者が、奈良と京都から出てくるでしょう。東京は出てこないんじゃないかと思います(笑)。東京の秀才がどんなものかは、皆さんもよく知っていますね。いつも怖がっています。前へ出ると怖くなって、後ろを振り返る人たちが多いですね。まあ、それはそれでいいとも言えます。失敗が少ないという長所があるんです。ただ、クリエイティビティはない、インディペンデントではないということです。
 
日本精神をめぐる議論がまるで変わってくる
 というようなことで、日本精神についてそろそろ考え出したところへ、天皇制の問題が起こってきた。これは面白いというか不思議というか、みんな議論したいらしい。
 実は、虎ノ門DOJOで今まで話してくださった先生方は二〇〇人ぐらいいるのでしょうが、その人たちで集まって何か雑談しましょうというので、三〇人ぐらいお集まりになった。たまたま事が雅子さまと紀子さまの話になると、全員が発言した。それでびっくり仰天です。それが全部、各種各様です。ともかく全員が、それぞれ思いを込めて発言した。へえーと思いました。
 というのは私の経験では、今までの流れでいうと、インテリは「天皇には興味ない」などと言っていたのです。そう言っているほうが賢そうに見えた。ところが今は、そうでもないらしい。要するに突然、日本人のマグマが噴き出す。どういうマグマがどんな形でというのは、私にはわかりません。ともかく噴き出してきた。
 これは、日本全体を変えるでしょう。それでこの後、日本精神とか、日本国家の正体、本質に関する議論が、まるで変わって、まるで違うのが出現してくるでしょう。それについていけない人は、評論家としては脱落すると思っています。
 今、日本国民が求めているのは、十年ぐらい、あるいはいっそ百年ぐらいの長期展望です。今までそういう話を全然してこなかった。誰かしてくれないかな、という気持ちだと思います。
 そこで、日本をどう見るか、どう心得るか。今までは、日本は世界の片隅だとか、悪口ばかりだった。それを逆にして、日本人は頭がいい、独創性もある、センスがいい。しかもそれは付け焼き刃ではなくて、この風光明媚な日本列島がつくったセンスである。しかも二千年の年月がかかっているから、それが我々のエチケットとか、マナー、身の回りの道具とか、いろいろなところに全部ある。それが欧米には、あるようでない。ないと言い切ると、いや、その割にはあるとなるのですが(笑)、ともかく日本については、そういう議論ができるようになるだろうと思っております。
 そういうところから、ブッシュ大統領を見る、小泉首相を見る、というか、その後の新首相を見る。
 そのときは、日本も発言している時代です。日本も発言している時代に、ポスト・ブッシュの世界では何をするのか、何を考えるのかです。
 
日本が「世界の二十一世紀精神」を主張すればよい
 かくして日本は、国際社会の一員としてではなくて、リーダーの一員になる。
 サミットに呼ばれたなんて言っている場合ではない。サミットを日本が招集しなければいけない。そこをもとにして、国連を変えていかなければいけない。「入れてください」ではなく、「国連をこう変えろ、変えないんだったら日本は拠出金を出さない」とか「脱退する」とか、いきなり総理大臣が言うと事が大きいから、いろいろな人に言わせるんです。揺さぶりというのは、外交の重要な手段ですからね。
 そうやって国際社会そのものを変えて、自然にリーダーの中に収まっていく。我々は口べたですから、口の上手な人を連れてきて言ってもらってもいい。アメリカ人の中にも、イギリス人の中にも、日本のことをわかっていて口がうまい人がいますからね。
 そういうとき、日本人は今まで国際社会ではアメとムチのアメばかり使ってきた。「日本はムチは使わない」と見透かされていますから、これからはムチも使ったほうがいい。正しい日本理解を話した人にはアメをあげて、曲がった日本論を展開した人は罰しなければいけない。
 美しい日本には、仕返しとか、罰するとかの心が薄いのですが、生きていくためには必要なことですから、上品な仕返しとか、上品な反駁、美しいブレーキとか、これも昔からあることですから、そういう勉強をして日本は両方をやっていく。
 日本には外交三原則というのがあります。ご承知のとおり、一番は日米同盟が基軸である。二番目は、国際社会の一員であることを肝に銘じて暮らす。これは、この前の戦争でひどい目に遭ったからです。世界中を敵に回すようなことをした。実は日本はあのとき、世界を敵に回していないのです。世界が日本に怒っただけなんです。日本は自分の分だけしか、戦争していない。しかし、ともかくそれに懲りてしまって、世界のことに口出しはしません、世界がお決めになったら、それについていきますというのが、外交原則の二番目です。
 ところが三番目に、アジアの一員であることを忘れるな、というのがついている。
 この外交三原則をつくったのは誰か知りませんが、もう何十年も前です。そのとき、三番目にアジアの一員であることは忘れないというのがついた。
 私は、このとおりやればいいと思います。ところが、いつの間にか一番のアメリカベったりだけになってしまったのはイージーだったと思います。
 「外交三原則」ではなく「外交一原則」になってしまった(笑)。だから、きちんと三原則に戻しなさい。そして、日本がリーダーシップをとりなさい。日本が「世界の二十一世紀の精神はこれだ」と主張するようになるのが、日本の自信回復の三階です。
 一階が経済で、二階が国家です。今から三階目に入る。これは精神です。
 三階は精神の独立で、世界に向かって教えるということです。よい精神のあり方を、日本が世界に教える。これを普及するためには、アメとムチを使うぞ、と、これでワンセットそろうわけです。
 「普通の国になれ」という言い方がありますが、あの普通の国というのは、自信のない日本人を相手にして、「いや、これが普通なんだ。突出していないんだ」という言い方なんです。それはもう、これから無用になるでしょうと言っておきます。
 ここから先はまたあるのですが、それは二十一世紀に日本が世界に教える精神とは何かということです。それはそのうちでき上がったら、またお話しします。ご清聴ありがとうございました。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION