資本収支の黒字で働かなくてよくなる?
その他にも、日本は輸出の貿易は黒字ですが、もう一つ資本収支が黒字です、とんでもない金額を外国に貸しているからです。今のところ、まだ外国はまじめに利息を払い、配当を払っています。この黒字がとんでもなく大きくなってきた。
私はもう十年前に「日本人は、もうじき働かなくてもよくなる。上がりで食べていけるようになる」と言いました。その金額が二〇兆円ぐらいになるのですから、国税庁が集めている税金ぐらいは、外国から配当でとれるようになるのです。だから無税にしてもいいわけです。ただし税金は国家がとって、配当は民間がとっていますから、単純に一緒にはなりませんが、しかしトータルの数字としてはそうなるのです。
これは昔のイギリスと同じです。海外から配当が来るから、別にイギリス人は働く必要がない。これをリッチと言ったのです。リッチを英英辞典で引くと、上がりで豊かなことと書いてある。配当収入、家賃、その他、寝ていても入ってくる上がりがたくさんある人のことです。だから日本で、社長の年収が三〇〇〇万円あるからリッチだと言うが、社長は働いているのだからダメです。三〇〇〇万円あろうが、四〇〇〇万円あろうが、働いている人はレイバー(労働者)です。自分の時間がないから、心も独立していない。
ですから、英英辞典でインディペンデントというところを引いてください。独立した人、と並んで上がりのある人と書いてある。経済的に独立すると、精神も独立するというのが英語の世界です。日本語の辞典ではどうなっているか見ていませんが、おそらく今言った話は、皆さんの常識からすれば珍しいと思います。
大蔵省は社会主義者が集まっていて、インディペンデントをつくらないようにしました。インディペンデントは生意気だ、大蔵省に平気で逆らうというわけで(笑)、そういう人を絶滅させようというのが所得税と相続税です。所得税を取られ、そのうえ相続税を取られると、言論の自由がなくなる。インディペンデントがいなくなる。これは国家的な大問題だと冗談抜きで思っています。それでいいかどうかという議論がありませんね。
ところが今やインディペンデントが増えてきた。要するに収入は三〇〇万円でも暮らせるから、それ以上はあくせくしないという人が出てきた。こういう人には、収入は三〇〇万円でも私はインディペンデントと名前をつけます。しかし普通は、落ちこぼれだとか、ニートとかホームレスとか、ありとあらゆる悪口をつけている。
こんな常識では、これから豊かになっていく日本を世界に説明できないというあたりから、話は日本精神とか――日本精神というとまた国粋主義になってしまうから、そこをもう少し合理的に、普遍的に説明していく。
だから「イギリス人がそうでしたね」というふうに言う。あるいは「ギリシア人もそうでしたね」と言う方法もある。こういうのを教養と言うのですが、ところが今は国立大学改革で、教養を全滅させようとしている。とんでもないことです。教養が一番役に立つのだというあたりを言いたくなるのですが、あと二十五分では終わりまで行かない(笑)。
さらにもう一つ黒字があります。
三番目の黒字は、特許、著作権、アイデア、指導料といった知的所有権においての黒字がどんどん増えています。
これはおそらく、明治時代からずっと日本は払い続けたと思うのですが、二〜三年前から黒字になりました。「インテレクチュアル・プロパティーズ」の売買が黒字になったわけです。
これは、日本人の頭がいい、センスがいいという証明です。
その前の、上がりがあるというのは、昔働いたことの証明です。昔働いて、使わなかったという貯蓄の証明ですね。その前の貿易黒字は、今働いていることの証明です。ロボットの発明も含めていいでしょう。ロボットの発明に汗水垂らしたのも労働ですからね。
この三つとも黒字という国は、歴史上ほとんどない。ときどき、十年か二十年続くぐらいです。例えばイギリスがおそらくそうだったでしょう。
今、日本がそうなっている。
これは私は、世界最高に自慢していいことだと思います。昔働いて貯め、それを人に貸してあげ、そして今、自分はアイデアとセンスと頭脳で働いている。これで、ついに三つとも黒字になった。二十年ぐらい前は、そういうインテレクチュアル・プロパティーズで黒字の国といったら、アメリカが断トツで、あとはイギリスとフランスの合計三国くらいしかなかった。日本とドイツがじりじりと追いかけていたという程度です。それが今や、ついに――ドイツはまだです――日本は黒字国になりました。
というわけで、日本は頭がいいらしい、センスがいいらしいと気がつく。心がきめ細やかだから、その心に従って次の技術進歩がある、新商品開発がある。そう思っています。まだ私の本には小出しにしか書いていませんが、そろそろ大出しに書いてもいいのではないか。そう書いて、「納得できない」と言ってくるのは、みんな年寄りです。若い人は「そうだ」と言います。そういうものなんです。
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