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経済的に日本は独走している
 もし日本と中国の貿易が断絶したらどうなるか、という分析がこのごろ出てきて、もう言わなくてもわかることですが、中国は中級品を安くつくってアメリカやEUに売っている。それで儲けている。先端開発はまったくしていません。先端開発の部分はマネしているわけですから、日本と切れたら何もかも止まってしまう。金も行かない、技術も行かない、新製品開発のアイデアもない。
 私はまだその先も言いたいのです。中国の国内市場がだいぶ豊かになってきたから、例えば昔サントリーがビール工場をつくったときは、できたビールはみんなアメリカに売ってくれ、と最初はそんな話でした。しかしこの頃は中国人がたくさん飲むから、輸出はやめてくれというぐらい国内マーケットができてきた。
 では日本との関係が止まれば、国内マーケットがどうなるか。だんだんしぼむ? あるいは、ほんとうに自力で発展するのですか? というあたりが、これからの関心事になる。
 アメリカのシンクタンクが言っているような、中国のGDP統計をずっと右上に伸ばすと天まで届くというトレンド予測が当たるはずがない。その途中で必ず折れるんです。折れてから、またもとへ戻る力はどこにあるかという構造分析を、エコノミストはやらない。やれない。内輪話ではやる。しかし表向き発表するときは、天まで届くトレンド予測を発表して、人騒がせなことをして儲ける。そしてワシントンからお呼びがかかるのをひたすら待っている。誰かにお呼びがかかって華やかにやっていると、足を引っぱる(笑)、と、学者の世界はどうもそうらしい。そんなことについて書いた本が幾つか出てくるようになりました。
 経済的に日本は独立しているというよりは、独走している。
 この独走をきちんと見ろと言いたいのです。独走の結果は、孤立になります。金メダルを目指して先頭を走っている選手は一人で孤立している。それを怖がっている人は、いったい何だと言いたいですね。独走したら不幸になるぞ、と迷信のように思っています。しかし独走して幸せになった人はいっぱいいるんです。
 さらに言えば経済的に日本が、実は単にボリュームで巨額であるとか、黒字であるとかを超えて、質的に独立しているのです。そういう独走であるという経験を、イギリス人はたくさんしています。フランス人もしています。日本人は、そういう経験は不足な人が集まって議論しているのかなと思います。
 
最先端情報の世界もけっこう怪しい
 何か言うと、すぐ数字を挙げろと言う人がいる。しかし、統計に出てくるときにはもう遅い。だから大まかなストーリーをお話ししている。未来予測というのはこういうふうにやるものです。根拠薄弱ですから、みんなにつつかれるに決まっています。だから、地位、身分、格式のある人は、未来予測をやりません。それは世界中そうです。やって何の得があるか、になってしまう。
 だけど、欧米を見ると、ホームパーティというのがたくさんあって、お互いの家に呼んだり呼ばれたりする。そういうところでは役に立つんです。面白い人だ、また呼んでやろうと言われるときの話のネタには、将来へのストーリー展開をマンガチックに目に見えるようにしゃべらないと人気者になりません。なった人は、また相手からもそういう話が聞けます。方々のホームパーティに呼ばれて歩いていると、やがて大統領補佐官に来てくれということもある。あるいはスタンフォード大学へ来てくれということもある。
 だからあれは全部、自分の地位や収入のための宣伝ビラを配っているようなものです。そういう人に会って話をすると、実に話は面白い。売り込みもひどい。しかし私が突っ込んだ質問をすると、「ここから先は私のぺーパーがあるから読みなさい」とか何とかで、要するにもっと金を出せば教えてやる(笑)。タダでは教えないぞというのは、つまり研究発表はみんなビラなんです。
 でもビラだけでもいいんです。ああ、今のアメリカではこういうビラが受けるのかなというのを見るだけでも面白い。「日本ビラ」というのが一時売れたことがあって、ちょうど私はそのときワシントンにいたから――私の力ではなく、日本が話題だったから方々に呼ばれて――そういうものかなと思いました。
 そういう物語をつくる能力が私にあるかどうかはともかく、日本人の多くは言わないからいけないのです。その点、アメリカ人は大げさに言う。私は失って困る地位も名誉もないから、思いついたことをパッパッと言います。それを時には大政治家が聞いてすぐ受け売りをする。これがまた、永田町は話が早くて、三〜四日のうちにぐるっと回ってしまうらしい。
 ということに気がついたのは、一度私が二桁ぐらい計算を間違えて、「こんなもんだよ」という話を大政治家に言った。それを彼はすぐ官庁に確かめた。官庁は、そういうことを大胆に言うのは日下ぐらいだろうと思って私のところへ電話をかけて、こういう話を聞いたがご意見はと言うから、「それはおかしいね。結論が二桁ぐらい違っている」と言ったら「それを聞いて安心いたしました。しかしこの火元はあなたではないのですか?」と(笑)。
 最先端情報の世界というのは、けっこう怪しいもんです。その反対に、ほんとうにすぐれた話がやがて確認されて世の中に出てくるまでには、五年か十年かかるという経験もしました。
 
これからどんどん日本ブームになる
 ともかく、日本経済を論ずる論じ方も変わってくる。自信がつけば変わってくる。自信のない人の細かい議論は、もう国民が飽きている、というのが言いたいことです。
 そこで日本が積極外交をするようになる。今までのような事なかれ外交ではなくて、ある程度はしゃべる人がポツポツと出てきました。外務省の人にも出てきました。そういう積極外交をすると、向こうのほうで「日本見直し論」が出てくる。
 しかし、そのときどうするかという用意まではない。それが私は情けないと思っています。ビル・エモットさんがさっそく『日はまた昇る』と書きました。あの人とは前からつき合いがあるので、またやっているなあという感想です。まだやっているなあとも言えます。しかしエモットさんが偉いのは、最初に書いていることです。「あそこに書いてあることぐらい、私でも知っている。私でも書ける」という人が、これから続々と出てくるでしょう。では、何で自分が最初に書かなかったんだ、ということです。
 ともかく、外人から日本見直し論が出てきたとき、こちらにどんな用意がありますかというあたりが関心事です。
 さらに私は、それを超えて、日本ブームが起こると思っています。日本のことなら何でもありがたい、何でも尊い。日本は世界を救ってくださるという本が、必ず欧米で出ます。「日本が世界を救ってくれる。その実例は」というとき出てくるのは、私が新規範発見塾で、この何年間も言ってきた話と同じでしょう。それはそうです、実例なのですからね。ただ、それを取り上げて盛り上がるかどうかの話です。つまり評価の問題、エバリュエーションの問題です。
 エバリュエーションのコツは、ほとんど度胸です(笑)。しかしその度胸のもとは、広く取材して、かなり昔から考えているかどうかです。昔から考えていると、同じことはフランスでもあったとか、中国でもあったということが、自信になってくる。
 これからどんどん日本ブームになります。それに乗っかって言えば、通るんです。だから日本の外務大臣が向こうへ行っても、言えば通る。「え、通ってしまった、どうしよう」という、実は選挙区向けに格好づけにやったことが通ってしまったという実例が、これから始まるだろうと思います。
 
ポケモンで説明した方が通ずる
 言えば通るというときの「話し方」について触れておきたいのですが、たとえばアカデミックに話せばいいとか、アメリカ人にわかるように話せとか、そういう助言、忠告をたくさん受けます。「アメリカ人にわかるようにしゃべるとは何か?」と聞くと、ロジカルにとか、データをつけてとか、あるいはせいぜいのところギリシア神話を例に挙げてとかです。
 しかしそういうのは古いと思うんです。アメリカ人が聞いても、古いと思うだろうと思います。
 私はそんなことより、「ポケモンで」と言ったほうがよほどいいと思います。ポケモンブームも始まって十何年たっていますから、あのころの子供が既に大学院にいる。その子供の親が今や四十歳、五十歳になって、ひとかどの地位にいるのですからね。
 今から十何年も前の話で言うと、ある外国人のお父さんが出張ばかり。「少しは家にいてくれと、子供から言われてね」とホームパーティで私に言った。その話に続きがあって「実はこの前、お父さんが今度行く国はポケモンの国なんだよ。日本ってポケモンの国なんだよと言ったら、子供が大喜び。それなら行っていらっしゃい。ポケモンのぬいぐるみを買ってきてちょうだいと、家中総出で送り出してくれた」という話を聞いたのが十年以上前の話です。
 今や日本の外務大臣が国連総会で演説して、ポケモンの国は日本だと言えば通ずる。そのあと「ポケモンに流れている哲学はこうです。それは、半分はキリスト教と同じだが、半分は違う。どんでん返しがこうなっている。これを、あなたがたの子供はもう全部身につけた。ポケモンの精神は子供たちにはもう浸透済みです。うそだと思うのなら、うちに帰って聞いてください」と話せばいいのです。
 つまり、ある物語をつくってオチをつけるとき、キリスト教的なオチと、ポケモン的なオチはまったく違う。あなたがたの子供は、もう別人になっている。ポケモン的なオチというのは、みんなで話し合って、わかり合って、許し合って、涙を流しておしまいというオチになる。日本人がつくれば、悪だからと退治して、皆殺しにはしない。手をとってお互いにわかり合うというオチになる。


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