はじめに
マンガ・アニメは内外でクールな日本文化として積極的に受け入れられています。当財団では、兼ねてよりマンガ・アニメの感性や原作力は、日本の大きな競争力であると主張してきました。勉強会やシンポジウムの他、教育の機会を促進したり普及啓蒙的な活動を続けて参りました。
文化現象が世界規模で普及していくことは、歴史上、各地で起こっています。日本からも十数年に1回起こっています。30年前はカラオケと人前で歌う文化、20年前はウォークマンと歩きながら音楽を聴く文化、10年前は家庭用TVゲームとリセットする文化、そして今は、マンガ・アニメのキャラクターがCoolだという文化です。文化的影響力の強いものにシフトが起こっているようです。例えば、NYタイムスの記者、ダグラス・マグレイ氏が外交専門誌「フォーリン・ポリシー」2002年6月号に、日本はポップカルチャーの面で新たなスーパー・パワーになったと称揚しています。日本の文化的パワーを国内総生産(GDP)になぞらえてグロス・ナショナル・クール(GNC)と呼び、世界に対する文化的影響力の強さが新しい国力となることを、説明しています。これがJapan Coolブームの火付け役になりました。
2005年度は、普及啓蒙活動から次の段階に進めました。マンガ・アニメの根本にある日本の思想哲学を考察して、それを学術的に言語化し、つまりマンガ・アニメの文化的な普遍性を突き止められれば、それだけ説得力をもって日本というものを巧く示すことができると考えられます。日本に対する公正な理解が進めば、それだけ日本が世界の役に立てる場面が増えてくると考え、ご参加頂いた各先生のご理解をいただいて、本研究会をスタートすることができました。
日本では、文字領域とは別の伝達手段として、マンガ・アニメが発達してきました。古来日本には文字が無く、語り部や語り場、物語力が根本にありました。漢字伝来以降も平仮名、片仮名を開発し和の言語、文化を守りました。一方で大和絵、歌舞伎、文楽などの伝統分野から、マンガ・アニメ、ゲーム、フィギュアなどの先端分野にいたるまで、造形、映像の文化における大衆の創造力は、日本のマンガ・アニメの根本を多様な視点から考察し、世界の中心で日本文化を普遍的な言葉で語るために、様々な分野の有識者、経験者の先生方にお集まりいただきました。
研究会では、参加者による熱い討論が交わされました。初期の目的の通り、マンガ・アニメの根底にある普遍的思想を探るとともに、新しい日本(人)論に発展できる種を蒔くことができました。本報告書は先生方の全9回の発表部分をまとめたものです。多くの方に活用していただければ幸いに存じます。最後に、本研究会の成果発表会を2006年1月22日、逓信総合博物館で開催し、好評を博しましたことをご報告いたします。
東京財団情報交流部
谷川彰英(国立大学法人筑波大学 理事)
1945年生まれ。東京教育大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
現在、国立大学法人筑波大学理事、附属学校教育局教育長。最近の著書に、『マンガ 教師に見えなかった世界』(白水社)『地名の魅力』(白水社)『京都地名の由来を歩く』(ベスト新書)『死ぬまでのいちどは行ってみたい66カ所』(洋泉社新書)など。
松谷孝征(手塚プロダクション社長、日本動画協会理事長)
神奈川県出身。マンガ雑誌編集者時代(実業之日本社)に手塚治虫番を経験後、73年手塚治虫のマネージャーとして、(株)手塚プロダクション入社。85年同社代表取締役社長になり、現在に至る。カラー版「鉄腕アトム」「三つ目がとおる」等テレビシリーズ、劇場版アニメーション「火の鳥2772」「ジャングル大帝」等のプロデューサー。03年より中間法人日本動画協会理事長。
弘兼憲史(マンガ家、作家)
1947年(昭22)9月9日、山口県岩国市生まれ。血液型B。早稲田大学法学部卒。大学時代は漫画研究会に所属する。卒業後松下電器に就職し3年勤めた後、73年退社。74年「ビッグコミック賞」で佳作入選。「風薫る」で漫画家デビュー。「人間交差点」で小学館漫画賞、「課長 島耕作」で講談社漫画賞、「黄昏流星群」で日本漫画家協会大賞、文化庁メディア芸術祭優秀作品賞を受賞。他に「ハロー張りネズミ」「加治隆介の議」「ラストニュース」等。
日本漫画家協会理事。21世紀コミック作家の著作権を考える会理事。
布施英利(東京芸術大学助教授 美術評論家)
1960年群馬県生まれ。美術評論家。東京芸術大学大学院美術研究科博士課程終了。東京大学医学部養老孟司研究所助手を経て、現職は東京芸術大学美術学部助教授。著書に、『脳の中の美術館』(筑摩書房)、養老孟司氏との共著『解剖の時間』(哲学書房)、『マンガを解剖する』(筑摩書房)など多数。
タケカワユキヒデ(音楽家、マンガ収集家)
1952年埼玉県生まれ。1975年東京外国語大学在学中にソロでデビュー。翌76年ゴダイゴを結成。ヴォーカリスト兼作曲家として『ガンダーラ』、『モンキーマジック』、『銀河鉄道999』『ビューティフルネーム』などのヒット曲を生む。現在は音楽活動のほか執筆活動、テレビ・ラジオヘの出演や公演・コンサート活動などマルチアーティストとして幅広く活躍中。
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