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わかりやすい自閉症基礎講座
〜自閉症スペクトラムの基本概念と対応〜
自閉症に対する基本的理解
1)発達障害
2)診断と分類
3)伴いやすい精神・行動上の問題
4)疫学
5)病因・病態と認知の特徴
自閉症のアプローチの基本(支援)
1)支援の基本的な枠組み
2)発達的観点からの支援
3)薬物療法
自閉症の家族への支援Q&A
1)家族への支援の考え方
2)診断をめぐって
3)行動上の問題への対処
4)将来に向って
 
治療のための要因の整理
 
自閉症の治療における2つの働きかけ
 
自閉症の治療の基本的な構成
 
妥当な治療教育の現在的要件
 
(1)発達的観点が必要
(2)積極的な働きかけと、適切な教材の系統化とほどよい物理的環境の構造化が大切
(3)異常行動の減弱だけが主要な目的ではなく、必ず適応行動の獲得のプログラムを用意
(4)行動の変容は、原則的には普通の子どもで適応できる範囲から逸脱しないようにして、非嫌悪的接近を行う
 
自閉症児の理解と支援
 
一人ひとりに適合した支援は適切な理解から
●年齢と発達水準を組み合わせることによって、子どもの行動、気持ち、考えを推察することができる
●感覚や運動機能の問題、併発する精神・行動上の問題、さらには成育過程で身につけてきた行動パターンなども総合する
 
発達水準の把握の手立て
定型発達の子どもでも認められる認知発達の節目であるが、自閉症でしばしば簡単には越えにくいものがあり、発達水準の把握の手立てとなる:
(1)手段と目的の分化の節目
(2)名前の発見の節目
シンボル機能の獲得へ
(3)概念形成の節目
概念的思考の始まりへ
 
発達の節目と太田Stage分け
(シンボル表象機能の段階分け)
 
Stage I(シンボル機能が認められない段階)の特徴
<健常児では乳児から1歳半くらいに相応>
言語理解
物に名前のあることに気づいていない
言葉かけへの反応が乏しい
状況に即した言葉かけで行動できる
言語表出
有意味語はない(ごく稀に即時エコラリア)
対人・コミュニケーション
視線が合いにくい、孤立している
要求を伝える程度(クレーン現象が中心)
生活習慣
多くの直接的な介助を要する
集団参加
参加できないか、介助を受けて一部参加
異常行動
生活リズムの乱れ、情緒不安定
感覚の異常、感覚刺激的行動、常同的行動
こだわり(物、場所、配列など)、自傷
 
Stage Iの日常の働きかけのねらい
 
(1)親を始めとして身近な人との安定した関係を育む
(2)意欲を育て、要求手段を引き出す
(3)物やおもちゃに関心を持つ
(4)言葉かけで日常場面での行動がとれる
(5)物に名前のあることに気づく
(6)生活のリズムを整える
(7)身辺処理のスキルを身につける
(8)初歩的な家事のスキルを習得する(学齢児以上)
 
Stage Iの日常の働きかけの留意点
 
(1)構造化された場所や場面での適応
(2)短い言葉かけで物や行動と言葉を一致させる
(3)繰り返し根気のよい働きかけ
(4)療育者からの安定的な働きかけ
 
Stage Iの家族の支援における配慮
 
●Stage Iでは発達が遅々として変化が乏しいことが多い
→Stage Iの範囲でのちょっとした進歩を的確に察知して家族の根気よい働きかけをねぎらうことも大切である
●Stage I-2で年齢が低くて視知覚系が優れている場合には家族としては遅れや障害を実感しにくいことがある
→家族の思いを念頭に置きながら状態像と働きかけのポイントを伝えて子どもへの理解を促す
 
Stage II(シンボル機能の芽生えの段階)の特徴
<健常児では1歳半から2歳くらいに相応>
言語理解
限られた物の名前が分かるようになり、シンボル機能の芽生えが見られ始める
名詞のラベリング的理解
言語表出
単語、即時エコラリア
対人・コミュニケーション
孤立が目立つが、慣れた特定の人とはパターン的な関係を持つ
クレーン現象、指さし、単語で要求を伝える
生活習慣
直接的な介助、または一部介助を要する
集団参加
参加できないか、介助を受けて一部参加
異常行動
生活リズムの乱れ、情緒不安定
常同行動、儀式的行動
こだわり(物、場所、日課など)、自傷・他害
 
Stage IIの日常の働きかけのねらい
 
(1)物に名前のあることの理解を確実にする
(2)遊びや興味の範囲を広げる
(3)言葉かけで日常行動ができるようにする
(4)家族や身近な大人とのコミュニケーションを楽しむ
(5)運動のスキルや、やりとり遊びを育てる
(6)身辺処理のスキルを確実にし、よい生活習慣を確立する
(7)家事のスキルを身につける
 
Stage IIの日常の働きかけの留意点
 
(1)限られた部分的理解であることに留意する
(2)分かりやすい環境を整え、よい行動パターンを身につける
(3)適切な対人関係を育てるようにする
 
Sage IIの家族の支援における配慮
 
●Stage IIになり言語が分かりかけたり言葉を話し出したりすると、家族の期待が高まり課題を詰め込みすぎることがある
→パターンの習得に終わらないように、課題の量が多すぎないように気をつけて支援する
●Stage Iの時には非定型的に見えたのにStage IIになりむしろこだわりが強まり、自分の好まない人からの働きかけを避けるようになって自閉症の像が明確になることがある
→家族の不安に共感しつつも発達的意味を説明して支援する


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