高機能自閉症スペクトラム障害(ASD)に生じやすい精神・行動上の問題
●暗黙の了解や言葉の裏の意味が分からない
●文法的には正確な文章を話すが、話が通じにくい
●相手の反応や場の雰囲気にかまわずに一方的に話す
●自分の興味のあることについてはきわめて詳しいが、一般常識に欠ける
などの独特の行動があり、集団から浮いてしまって、いじめの対象になりやすい
明確ないじめの有無にかかわらず、相手の気持ちが読み取れないという不全感を認識できるようになると、被害的になりやすい
また、しばしば心気的にもなる
自閉症スペクトラム障害(ASD)とAD/HD
ASDであればAD/HDとは診断されないとの取り決めがある
しかし ↓
●ASDの中には年齢や発達水準を考慮しても不注意、多動性、衝動性が著しくてAD/HDを併発していると考えて対応した方が適当な場合がある
“AD/HD症状を持つASD”
●高機能ASDではAD/HDとの鑑別が難しい。
幼児期早期に対人的相互反応の障害があっても家庭内では気づかないことがある。集団参加によって気づかれる場合もあれば、「ユニークな子としてあまり問題にならない場合もある。大人との関係では問題になりにくいが、小学校高学年以降で同年齢集団での交流の困難からASDと明らかとなることもある
自閉症スペクトラム障害(ASD)の疫学
●自閉症の頻度は200〜500人に1人くらいとされており、ASD全体では100人に1人くらいとさらに高率とされる
●ASDでは女児よりも男児が多く、アスペルガー症候群では特にその傾向が強いとされる
自閉症スペクトラム障害(ASD)の疫学的所児の変化
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従来の報告 |
最近の米英幼児・学童の報告 |
自閉症の頻度
(10,000人あたり) |
4、5〜約7 |
17〜40↑ |
自閉症以外のASDの頻度
(10,000人あたり) |
約2〜約5 |
27〜46↑ |
ASD全体の頻度
(10,000人あたり) |
6、7〜約12 |
63〜67↑ |
精神遅滞を伴う割合 |
75〜80% |
22〜49%↓ |
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自閉症スペクトラム障害(ASD)の頻度の増加の背景
ASDの頻度の増加には以下の要因が関与している可能性がある
●ASDの概念が広がり、軽度の障害であっても含まれるようになったこと
●ASDの診断や評価の方法がより正確になったこと
●ASDが広く知られるようになり、医療機関を受診しやすくなったこと
さらに、ASDの認定を促進する行政や法律の変更が関係するとの指摘もある
この他に、環境要因によってASDがより発症しやすくなっていないかの検討も行われている
自閉症の病因と病態
●親とりわけ母親の性格や育て方が原因であると誤解された不幸な歴史があるが、現在では本人の生物学的要因に基づく障害との認識が確立している
●双生児研究や家族研究などから遺伝的要因の関与が示唆されているが、いわゆる遣伝病ではない。多数の遺伝子がかかわる素因と環境要因が絡み合うと想定されている
●脳画像研究が進むにつれて様々な部位(小脳、頭頂・側頭葉、扁桃体など)の異常が報告されているが、自閉症全体を説明できる結果は得られていない
自閉症の神経心理学仮説
●心の理論
人が他者の意図や信念を把握する能力
自閉症は心の理論の障害によると仮説されたが、心の理論課題を通過するかは認知発達に依存する
●実行機能の障害
計画立案、目標指向性の行動、認知の枠組みや柔軟性の保持、衝動性のコントロール、注意と意欲の保持、自己統制を含む
常同的・反復的な行動様式を説明するには好都合だが、必ずしも自閉症に特異的とは言いがたい
●全体的統合の障害
情報の解析にあたって、全体的な情報処理よりも部分的な情報処理が優先されるという認知のあり方をさす
自閉症の弱点のみならず長所も説明できるのではないかと考えられているが、実証に乏しい
自閉症で簡単に越えにくいことがある発達の節目
定型発達の子どもで認められる認知発達の節目であるが、自閉症でしばしば簡単には越えにくいものがある
(1)手段と目的の分化の節目
(2)名前の発見の節目
シンボル機能の獲得へ
(3)概念形成の節目 ←この前で留まっていると自閉症的な印象が色濃くなる
概念的思考の始まりへ
比較的知能の高い自閉症での特異的認知障害
●WISCで動作性
IQ>70での特異的なパターン
→上図の通り
●概念形成の困難
→関係の概念(比較、空間、時間)の障害
●動作模倣の障害
→部分模倣
自閉症者のWAIS-Rのプロフィール
20歳以上でPIQまたはVIQが70以上
HST: Stage V以上 LST: StageIII-2またはIV
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自閉症スペクトラム障害(ASD)の理解
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