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分かりやすい自閉症基礎講座
−基本的理解−
2006.10.28
ペアレントメンター養成講座
大阪市立中央青年センター
東京都立梅ヶ丘病院 市川宏伸
 
軽度の発達障害とは?
発達障害とは?
・永続的な心身の機能不全がある。
・発達期に生じ、一生持続する。
・日常生活に制限があり、治療やケアを受ける必要がある。
軽度の発達障害とは?
・知的障害はほとんどないか、あっても軽微である。
・発達期に明らかになるが、対応によっては、援助が不必要になることもある。
・経過によっては、思春期以降に、社会生活が困難になることもある。
 
児童青年精神科と発達障害
・精神遅滞(軽度、中度、重度、最重度)
・広汎性発達障害(自閉症、非定型自閉症、レット障害、アスペルガー障害)
・学習障害(読字障害、書字表出障害、算数障害)
・運動能力障害(発達性協調運動障害)
・コミュニケーション障害(表出性言語障害、受容−表出混合性言語障害、音韻障害、吃音症)
・(注意欠陥多動性障害)
 
最近の疾患の変化
・受診者の増加
・発達障害(外来)の増加
学童期(男子)の増加
「落着きのなさ」、「興奮・衝動性」、「対人関係の問題」、「集中力の欠如」などの増加
「不登校」、「幻覚・妄想」などの減少
・発達障害(入院)の増加
学童期、男子病棟で増加
 
広汎性発達障害(PDD)の変化
PDDの増加?
高機能群の著しい増加
中・低機能群の増加
初診年齢は違う
男女比は同じ
 
自閉症は幅が広い
・最近は、自閉症を広汎性発達障害の一部としてとらえることが多い
・広汎性発達障害の中に自閉性障害、アスペルガー障害などがある
・以前は、知的障害を伴うカナー型自閉症が代表的と考えられていた
・最近は、知的障害がない高機能自閉症やアスペルガー障害が注目されている
 
疫学的報告
1 発症率
・20年以前:4000〜6000例に一人
・最近:500〜1000例に一人
地域による報告の違い
・文部科学省の調査
対人関係に問題をもつ子ども
通常学級の0.8%(担任による)
・梅ヶ丘病院の統計
新患の15%、最近の倍増
 
1 発症率の増大
症状の軽症化との関連
地域性との関連
・男女比
・双生児研究
・長期予後
楽観論の否定
2 男女比
3〜5対1(男子に多い)
地域性と無関係
3 双生児研究
一卵性と二卵性の比較
遺伝子研究
4 長期予後
楽観論の否定
カナーの報告
 
自閉症は本当に増えているのか
・自閉症についての一般人口の統計はない
・医療関係者からの報告では、その比率は増加している
・医師が診断する、保護者の意識が変わった、操作的診断基準の採用などが関係している?
 
自閉症の本態をどうみるか
自閉性障害の本態に関する考え方の変化
・19世紀末より:「小児精神病」と分類(モズレーら)
・1940年代:情緒的障害とする(カナーら)
・1960年代:親の育て方とは関係ない(ラターら)
・1970年代:自閉症と小児期分裂病の分離(コルヴィンら)
・1970年代以降:カナー型自閉症はスペクトルの一部分(ギルバーグら)
・1980年代以降:操作的診断基準の一般化
・自閉症スペクトラムとしての位置づけ(ウィングら)
 
広汎性発達障害と特徴
自閉性障害 レット障害 小児期崩壊性障害 アスペルガー障害
発症年齢 ほぼ3才までに 4才以前
(5月は正常)
10才前
(2年は正常)
就学前に気付く
有病率 1〜2人/1000人 0.5〜1人/10000人 自閉症の1/15〜1/40? 報告が少ない
男女比 3〜5:1 女子のみ 男子に多い 8:1
精神遅滞 正常〜重度 重度 中度〜重度 ほぼ正常
身体面の障害 特にはない 頭囲成長、歩行 特にはない 不器用が多い
言語面の障害 軽度〜重度 重度、持続 重度、持続 ほぼ正常
対人面の障害 ほぼ全例、持続 経過の早期に発症 重度、持続 相互的社会性、持続
行動面の障害 常同、多動、衝動的 手揉み、過呼吸 常同反復、排泄 常同反復、衝動的
情緒面の障害 狭い興味、音に過敏 周囲への反応低下 狭い興味、執着傾向 思春期に精神症状
脳波 約20%にてんかん 脳波異常・けいれん 脳波異常・けいれん 時に脳波異常
予後 全体としてよくない よくない 持続してよくない 症状は一生続く
 
自閉症の診断
1 操作的診断基準
DSM-IV(米国精神医学会)
ICD-10(世界保健機構)
・広汎性発達障害の中に分類る
2 自閉症スペクトラム
・連続したものとして考える
 
広汎性発達障害(操作的診断基準)
1)自閉性障害
・発達のいくつかの面における重症で広範な障害によって特徴づけられる
(1)相互的対人関係技能、意思伝達能力、常同的な行動・興味・活動の存在
(2)これらの質的障害は、発達水準・精神年齢に比べて明らかに偏っている
自閉性障害
・レット障害
・小児期崩壊性障害
アスペルガー障害
特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症含む)
 
自閉性障害の診断基準
A. 1)、2)、3)から合計6つ以上。うち、少なくとも1)から2つ、2)と3)から一つずつの項目を含む。
B. 3才以前に始まる以下のうちの、少なくとも一つの機能の遅れまたは異常:
(1)対人的相互作用、(2)対人的意思伝達ための言語、(3)象徴的または創造的遊び
C.レット障害、小児期崩壊性障害ではない
 
1)対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも2つによって明らかになる
a)目と目で見詰め合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互反応を調節する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害
b)発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗
c)楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有することを自発的に求めることの失敗
d)対人的または情緒的相互性の欠如
2)以下のうち、少なくとも1つによって示される意思伝達の質的な障害:
a)話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如
b)十分な会話のある者では、他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害
c)常同的で反復的な言語の使用または独特の言語
d)発達水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性をもった物まね遊びの欠如
3)行動、興味および活動が限定され、反復的で常同的な様式で、以下の少なくとも1つによって明らかになる。
a)強度または対象において、異常なほど、常同的で、限定された型の、1つまたはいくつかの興味だけに熱中すること。
b)特定の、機能的でない習慣や儀式に、頑なにこだわるのが明らかである。
c)常同的で反復的な衒奇的運動
d)物体の一部に、持続的に熱中する


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