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−日中医学協会助成事業−
絶食マウスにおけるリンパ球の性状及び機能の経時的解析
研究者氏名  瀋 継偉
中国所属機関 黒竜江省医院消化器外科
日本研究機関 新潟大学大学院医歯学総合研究科免疫・医動物教室
指導責任者  教授 安保 徹
共同研究者名 任 宏偉、富山 智香子、神田 泰洋、飯合 恒夫
 
要旨
 低栄養状態は従来より、免疫機構に不利になると考えられてきた。しかし、我々は低蛋白食を与えたマウスは移植された腫瘍を拒絶すること、およびマラリア感染に抵抗性を持つことを報告している。そこで、短期絶食における免疫機構への影響を調べた。材料と方法:成体C57BL/6マウスに飼料のみを与えず、飲水については自由とし、絶食モデルを作成した。絶食後1、2、3日後に、肝、脾、胸腺、小腸から常法にて単核球を分離し、各臓器より分離した単核球をフローサイトメトリーにて細胞表面抗原の解析を行った。細胞傷害活性を測定するために、4時間51Cr遊離試験を行った。標的細胞はYac-1及びB6胸腺細胞を用いた。また、絶食マウスにおける細胞内サイトカイン染色を行い、フローサイトメトリーで解析を行った。結果と考察:全単核球数について、絶食期間が長くなる毎に明らかな減少を認めた。フローサイトメトリーによる細胞表面抗原の解析では、肝臓のCD3intIL-2Rβ+細胞が増加し、その中でもαβTCR+NKT細胞の割合が顕著であった。小腸ではCD8αα+B220+γδTCR+細胞の割合の増加が認められた。細胞内サイトカインの解析については肝及び脾臓NK、NKT細胞は絶食1日目でIFN-γ及びIL-4が増加したものの、2、3日目では低下した。さらに、細胞傷害活性試験においては、肝のみ絶食1日目で活性が最大となり、2、3日目では減少した。以上の結果より、一時的な低栄養状態では免疫能の低下ではなく、逆に増強していることが示唆された。
 
Key Words 絶食、肝臓、細胞表面抗原、細胞傷害活性、自然免疫
 
緒言
 栄養状態は生体防御機構である免疫機能に大きく影響を及ぼしていることが知られているが、摂取する食物の量や質、あるいは栄養状態によって免疫機能が強く影響を受けることが明らかになってきた。従来より、低栄養状態(栄養失調状態)になると、免疫力が低下し、基礎疾患などがさらに症状を悪化させるという悪循環に陥る可能性が出てくると考えられてきた。
 しかし、筆者らの研究室はマウスに低蛋白食含有の餌を与え、腫瘍への抵抗性及びマラリア感染防御に対する影響ということを報告している1)-5)。低蛋白ダイエットにより、胸腺萎縮が誘導されてメインストリームのT細胞が抑制され、逆に肝臓における自然免疫を活性化することが明らかとなった。その結果、低蛋白ダイエットにより、移植された腫瘍を拒絶した。そして、非致死性のみならず致死性のマラリア感染に抵抗性を獲得した。NK、NKT細胞の機能が増強し、自然免疫を増強した5)-9)
 そこで、本研究では、短期絶食におけるマウスリンパ球のphenotypeと機能の点を中心に解析して、免疫機構への影響を調べた。
 
材料と方法
1、マウス
 8〜12週齢のC57BL/6(B6)を用いた。上記マウスは新潟大学動物実験施設にてSPF環境で飼育されたものである。
2、絶食モデルの作成
 マウスに飼料のみを与えず、飲水については自由とし、絶食モデルを作成した。
3、単核球の調製
 絶食後1、2、3日後に、定法にて肝臓、脾臓、胸腺、および小腸上皮より単核球の分離を行った10),11)
 マウス胸腺、肝臓と脾臓を細切後、200ゲージのステンレスメッシュを通し、Eagle's MEM(Nissui Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan)で洗浄後、胸腺の単核球を分離した。脾臓は0.2%NaClで溶血させ、単核球を分離した。肝臓は35%percollで比重遠心した後、0.83%NH4CL-Tris buffer(ph7.6)で溶血させ、単核球を分離した。
 小腸はPBSで腸管内容物を洗い出し、パイエル板を切除した。その後、腸管を長軸方向に切開し、約1.5センチの長さに裁断しながら、20mlのskating-water (Ca2+ - and Mg2+ -free Dulbecco's PBS containing 5mM EDTA) の中に移し、分間培養した。液体が白濁しているのを確認した後、腸管を除けながら、上清を取り出した。25分間40%80%percollで勾配遠心した後、interfaceを採取した。MEMで洗浄後、単核球を分離した。
4、フローサイトメトリーによる解析
 マウスより分離した単核球を抗マウスモノクローナル抗体で二重及び三重染色し、フローサイトメトリーを用いて解析を行った12)
 Fluorescein isothiocyanate(FITC)、phycoery-thrin(PE)及びbiotin標識された以下の抗マウスモノクローナル抗体を使用した。FITC-conjugated anti-CD3(145-2Cll)、anti-CD8α(53-6.7)、PE-conjugated anti-NK1.1(PK136)、anti-IL-2Rβ(TM-β1)、anti-CD45R/B220(RA3-6B2)、anti-CD4(PM4-5)、anti-CD8β(53-5.8)、biotin-conjugated anti-TCRαβ(H57-597)、anti-TCRγδ(GL3)mAbs(BD PharMingen Co., San Diego, CA)を使用した。
5、細胞内サイトカインの解析
 絶食マウスにおける細胞内サイトカインIFN-γ及びIL-4の染色を行い、フローサイトメトリーで解析を行った。実験前2時間、ConA(Sigma, USA)を刺激物として、i.v.で200μg/mouse投与した。
6、51Cr遊離法による細胞傷害活性解析
 常法にて4時間51Cr遊離試験を行った13)。標的細胞はYAC-1及びB6胸腺細胞を用いた。Effector細胞には肝臓、脾臓から得た単核球細胞を用いた。
 
結果
1、絶食後各臓器の単核球数の変化
 絶食後1、2、3日目、全単核球数について、対照群と比べ、絶食期間が長くなる毎に有意に減少を認めた(図1)。肝臓、脾臓、小腸は絶食後3日目で全単核球数が約対照群の四分の一に減少したが、胸腺は約八分の一に減少した。(n=4, P<0.05)
 
図1.各臓器の単核球数を示す。
Total lymphocytes
 
2、細胞表面抗原の解析
 絶食後マウスのNKT細胞の変化を比べるために、対象群と絶食群マウス肝及び脾単核球を、抗CD3及びIL-2Rβ、CD3及びNK1.1の二重染色で解析を行った(図2)。肝の胸腺外分化T細胞はIL-2Rβ+CD3int細胞として同定できる。IL-2Rβ+CD3-はNK細胞であり、IL-2Rβ-CD3high細胞が胸腺由来T細胞である14)。NK細胞及び胸腺外分化T細胞は肝に豊富に存在するが、脾に少ない。対照群と比べ、絶食群マウスの肝臓のIL-2Rβ+CD3int細胞及びNKT細胞の比率は絶食期間が長くなる毎に増加した。脾臓のIL-2Rβ+CD3int細胞は顕著な変化が認めなかったが、増加傾向を示している。
 
図2.  肝臓、脾臓の単核球をCD3、IL-2Rβ及びNK1.1により二重染色で解析を行った。図中の数値は各サブセットの比率を示す。
 
 続いて、CD3+αβTCR細胞を確認するために、抗CD3及びB220、αβTCR及びγδTCRの二重染色で解析を行った(図3)。その結果、絶食群マウスは対照群と比べ、肝、脾共に経時的にCD3+αβTCR細胞の比率が明らかに増加した。
 
図3.  肝臓、脾臓の単核球をCD3、B220、αβTCR及びγδTCRにより二重染色を解析した。図中の数値は各サブセットの比率を示す。
 
 小腸のリンパ球のphenotypeも、絶食の前後で検索した(図4)。この検討の結果では、B細胞(B220+CD3int)(48.3%→50.7%→57.5%→62.8%)、γδTCR+αβTCR-細胞(42.4%→51.9%→53.7%→55.6%)、CD8+CD4-細胞(78.4%→83.9%→86.7%→90.1%)、CD8αα細胞(56.8%→62.1%→68.1%→77.4%)の比率が絶食期間が長くなる毎に増加した。
 
図4. s-IELの単核球の二重染色を示す。
 
 各臓器の各分画細胞は絶食に対抗能力を比べるために、各臓器の各分画の絶対数を計算した。総単核球は著明な減少を認めたが、肝内CD3int及びNKT細胞絶対数の減少は緩やかであった(data not shown)。


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