II 沈降性物質の回収等に関する新技術の研究(HNS流出海域における採水、採泥及び採気手法の開発並びにモデル分析)
1 目的
HNS(有害危険物質)が海域に流出した際、流出海域における汚染範囲や汚染状況を把握し、沈降性物質の防除手法を確立するため、沈降性物質、浮遊性物質、海水溶解性物質を含んだ海水の採水、海底の泥の採泥手法の開発を行うとともにモデル分析について調査研究する。また、簡易な採気手法について検討を行う。
採水、採泥手法の開発及びモデル分析は、図II-1 作業フロー図に従い実施した。
図II-1 作業フロー図
(1)安全な採水、採泥及び採気手法の開発及びマニュアルの作成
HNS流出海域において、人体に有害な蒸気を発生している物質を含んだ海水・海底泥のサンプルを船上で安全に採取収納し、分析機関に輸送するための手法について、以下の項目を考慮しサンプリングマニュアルを作成した。
(1)サンプル採取(採水、採泥)から分析に至るまでの手順及び注意事項
(2)船上での採取時の作業員の安全対策
(3)サンプル採取時の記録方法及び記録用紙、保管容器のラベル
(4)水深100m程度までの適用可能な採水及び採泥装置の組み合わせ
(5)各機器(採水、採泥装置)の取扱い方法
(6)採取した海水、海底の泥のサンプル保管容器、輸送容器
(2)実海域におけるサンプル採取実験及びモデル分析
開発した手法を用いて実海域において海水及び海底の泥のサンプル採取実験を行い、モデル分析を行った。
モデル分析は、海水溶解性物質(アセトン)、浮遊性物質(キシレン)、海底沈降性物質(クレオソート)の3検体について実施した。添加するHNS物質は(独)海上災害防止センター提供のものを用いた。また参考値として、クレオソート油に含まれる発がん性物質のベンゾ(a)ピレンについても添加実験を実施した。各々の添加量は以下のとおりである。
アセトン:純度99.5%のアセトンを海水に添加し、7.9g/lとした。
キシレン:純度80%のキシレンを海水に添加し、10g/lとした。
クレオソート:クレオソートを底泥に添加し、1.4mg/kg乾泥とした。
ベンゾ(a)ピレン:ベンゾ(a)ピレンを底泥に添加し、130mg/kg乾泥とした。
分析方法はパージアンドトラップ−ガスクロマトグラフ質量分析法を用いた。
なお複合物質であるクレオソートの前処理については、「要調査項目等調査マニュアル(水質、底質、水生生物)平成15年度版(環境省環境管理局水環境部企画課)の多環芳香族炭化水素(PAHs)の分析法」に準じた。
3 HNS流出海域における採水及び採泥マニュアルの作成
実海域実験の状況及びアセトン、キシレン、クレオソートの3検体の分析結果を具体例として写真とともに記載し、HNS流出海域における採水及び採泥マニュアルを作成し、別紙に取りまとめた。
沈降性物質、浮遊性物質、海水溶解性物質を含んだ海水、海底の泥、大気の採水、採泥及び採気に関わる作業手順を定める。
試料採取器具一覧表を表II-1に示す。
3.2.1 試料採取器具の管理
(1)試料採取器具の管理責任者は、技術管理者とする。
(2)水底質の試料採取に用いる器具は専用のものを用い、ラベルを貼ることによって他の器具と区別する。
3.2.2 器具の洗浄及び保管方法
(1)試料採取器具
(1)中性洗剤を用い、水道水で器具の表面付着物を除去・洗浄する。
(2)試料に直接接する部分は、洗浄瓶を用いて蒸留水をかけ流す。
(3)洗浄完了後、汚れが付着しないように注意してしばらく放置し、乾燥させる。
(4)洗浄した採取器具は、専用の箱またはポリエチレン製袋等で保護し、汚れが付着しないようにして保管する。
(5)保管は専用のコンテナ内で行い、他の器具との接触を避ける。
(2)試料容器
試料容器は、分析機関が当該機関の手順に従って洗浄および保管したものの提供を受けて使用する。
(1)専用のブラシを用い、洗剤を使って容器内側の付着物を除去・洗浄する。
(2)水道水で充分に洗剤を洗い流した後、蒸留水を用いて容器の内壁をまんべんなく濯ぐ。これを3回繰り返す。
(3)洗浄が完了したら、開口部をしたに向けて汚れが付着しないように注意し、速やかに乾燥させる。
(4)洗浄した採取容器は、蓋を閉めて汚れが付着しないようにして保管する。
(5)保管は専用のコンテナ内で行い、他の目的の容器としての使用を避ける。
表II-1 試料採取器具一覧表
区分 |
採水 |
採泥 |
採気 |
海面浮上性物質
水中浮遊性物質 |
海底沈降性物質 |
海面浮上性物質 |
対象物質の例 |
キシレン
ベンゼン
スチレン |
クレオソート |
ベンゼン
キシレン
アセトン |
ベンゼン
キシレン |
アセトン
メタノール |
使用する器材 |
ニスキン型採水器
(1.2L) |
スミスマッキンタイヤ型採泥器
(小型1/20m2) |
フレックスポンプ
(若しくはゴム球) |
吸引ポンプ若しくはガス検知器 |
吸引ポンプ |
付属具 |
メッセンジャー
クレモナロープ
(100m)
表層採水用バケツ
(ステンレス)(2L)
ステンレスロート
ステンレススパチュラ
(300mm)
ピンセット(210mm) |
バット
(ステンレス)
338×482×80mm
ショベル(小)
クレモナロープ(100m) |
乾電池
(単1×2本)
シリコンチューブ
(8×11Φ) |
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試料容器 |
広口ビン
(500ml)
(フッ素加工樹脂) |
広口ビン
(500ml)
(フッ素加工樹脂) |
テドラーバッグ |
活性炭捕集管 |
シリカゲル捕集管 |
温度計 |
デジタル防水型温度計 ±0.5℃(-20〜90℃) |
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3.3.1 採取地点・採取位置の検討
HNS流出事故の状況および天候等の条件を踏まえた上で、試料採取の可否、試料採取時刻、採取地点、採取位置、試料採取の手順、その他確認すべきと判断された事項について打合せ・協議を行い、その内容を「打合せ・協議記録簿」に記録する。
3.3.2 現地における確認事項
試料採取にあたっては、事前に以下の事項について確認を行うものとする。
・調査地点の水質外観(浮遊物、色相、濁り等)
・HNS流出発生源との位置関係等の情報
・試料採取地点の確認(おおよその水深、流速、波高、構造物の状況等)
・採取作業に必要な作業スペース、採取作業の可否の確認、安全確保
・その他の周辺の状況(工事の有無、船舶航行の有無、復旧作業等への影響)
・追加事項(気付いた特記事項)
・周辺図の記入及び周辺写真の撮影
事前確認の状況は「HNS試料採取に係る事前調査記録票」に記録する。
なお、事前確認が困難な場合は、その旨を「HNS試料採取に係る事前調査記録票」に記録する。
3.3.3 試料採取の実行に係る判断
採取担当者は当日の天候、HNS流出事故の状況等を踏まえ、試料採取の実行の可否判断を行う。判断材料は安全を第一とし、安全な作業が行えない可能性がある場合は否とする。可否判断のうえ、可とした場合に試料採取を行う。
試料採取の実行に係る判断の経過を「HNS試料採取に係る事前調査記録票」に記録する。
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