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はじめに
 この報告書は、当協会が日本財団の助成金及び日本海事財団の補助金を受け、平成18年度に実施した「HNS海上災害対策のための新技術等の研究・開発事業」のうち、「HNS海面・大気拡散防止策に関する研究」の結果について取りまとめたものである。
 HNS輸送中の海上流出事故時の対応策に関しては、輸送されているHNSの種類及び特性が多種多様であることから、世界的にも防除手法が確立されておらず、また、緊急時の対応策を支援するための関係情報の整備も十分になされていないのが現状である。
 特に海底に沈降する特性を持つHNSの防除手法については、その回収技術が確立されておらず海底沈降性物質の回収手法の開発が急務である。また、海底沈降性物質、海水溶解性物質及び海中浮遊性物質が流出した際、流出海域の汚染状況を把握し防除の必要性や防除範囲を特定することが不可欠である。
 さらにHNSの防除作業の実施にあたっては、現場における人命の優先、すなわち作業員の安全確保が最重要である。そのため危険範囲がどこまで及んでいるのかを把握することが重要であるが、現在のところ流出したHNSの種類や流出状況に応じて危険範囲を設定できる状況にない。
 本調査はこのような状況に鑑み、本分野に係る専門的な知見を有する独立行政法人海上災害防止センターに委託し、全面的な協力を得て実施した。
 
平成19年3月
社団法人 日本海難防止協会
 
まえがき
 この報告書は、独立行政法人海上災害防止センターが社団法人日本海難防止協会の委託を受け、平成18年度に実施した、「HNS海面・大気拡散防止策に関する調査業務」の結果を取りまとめたものである。
 
 平成18年6月14日OPRC−HNS議定書を批准するための「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律(平成18年法律第68号)」が公布され、平成19年4月1日からバラ積み有害液体物質を輸送するタンカーの船舶所有者及び陸上保管施設の設置者等に防除措置が義務付けられた。
 また、平成20年4月1日からは、バラ積み有害液体物質を輸送するタンカーの船舶所有者については、資機材の配備及び防除に関し必要な知識を有する要員の確保が義務付けられることとなった。
 一方、OPRC−HNS議定書は、平成18年6月14日15ヶ国目となるポルトガルが締結しその1年後の平成19年6月14日に発効することとなった。
 
 こうした状況の中、当センターは、タンカーあるいは陸上保管施設からの有害液体物質流出事故に対応するため平成17年度には、「HNS海上流出事故対応データベース」の内容の更新を図ったが、今年度においては、海面に浮遊する物質、海中に浮遊する物質、海水中に溶解する物質、海底に沈降する物質についてサンプリングマニュアルを作成した。
 また、有害液体物質から発生する有害蒸気の拡散範囲を現場で簡単に判断するための「防除作業実施時における危険範囲設定テーブル」を作成した。
 
平成19年2月
独立行政法人海上災害防止センター
 
I 調査研究の概要
1 調査研究の目的
 (独)海上災害防止センターでは、バラ積み有害液体物質が海上に流出した際の防除手法を確立するため、平成13年度から平成17年度までの調査研究において、「HNS海上流出事故対応データベース」を構築し、粉末ゲル化剤等あるいは高分子ゲル形成泡型消火剤(ゲル泡)を散布することにより、流出したHNSから発生する蒸気を抑制し、あるいは固形化して回収する手法を確立した。また、平成17年度には、消防船等船舶に備付けられている陸上災害支援用放水口に接続し、粉末ゲル化剤または吸収性ポリマーあるいはゲル泡原液を混合して散布するための可搬式で船上搭載が可能な散布装置の実用化を行った。
 しかし、実際に海上でHNS流出事故に対応するためには、HNSの種類、流出量、風速毎に危険範囲を設定しておくことに加え、流出海域において汚染状況を安全に把握することも必要である。
 このため今年度は、HNS流出海域の汚染状況を安全に把握し、被害の局限や防除範囲を特定するために不可欠である採泥、採水、採気などのサンプリング手法の開発及び採取物の分析に関する調査研究を行った。また、米国にて使用されている化学物質拡散シミュレーションソフトウェア「ALOHA」の日本語化作業を行い、流出したHNSの種類や流出量等に応じて危険範囲がどこまで及んでいるのかを即座に判断することができるように比較的輸送量の多い31物質について危険範囲設定のためのテーブル(拡散図)を作成した。
 
 今回の調査研究の実施が、HNSの海上流出事故時における準備及び対応能力の向上に資することを目的とする。
 
2 調査研究の内容
 平成18年度に実施した調査研究の項目は、以下のとおりである。
 
(1)沈降性物質の回収等に関する新技術の研究(HNS流出海域における採水、採泥及び採気手法の開発並びにモデル分析)
(2)防除作業実施時における危険範囲設定テーブルの作成


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