(4)再蒸発
再蒸発は、水中に溶解・混入した有害物質が蒸発する現象であり、温度や流出物質の蒸気圧、溶解度、モル分子量等により水中から大気への物質交換係数を求め、物質量と積算する事で計算される。ただし、再蒸発する物質は、水中に溶解・混入し海表面近くに存在しているものが対象である。
ここでは、溶解・混入し海表面近くに存在する物質量を計算しないため、各物質の水中から大気への物質交換係数を温度別に求め比較する。
求めた物質移動係数は表3.2.5に示す通りであり、二塩化エチレンが最も再蒸発し易い事が確認された。なお、エチレングリコールに物質交換係数が出力されていないが、これはヘンリー定数が3×10-7未満であったためであり、再蒸発が無視されるためである。
なお、温度が再蒸発に与える顕著な影響は見られないが、温度上昇に伴い僅かに物質交換係数が小さくなる事が確認された。
表3.2.5 再蒸発項の感度分析結果(物質交換係数;cm/時)
品名 |
温度条件 |
10℃ |
15℃ |
20℃ |
25℃ |
二塩化エチレン |
11.58
|
11.55
|
11.52
|
11.50
|
無水酢酸 |
0.30
|
0.29
|
0.29
|
0.28
|
フェノール |
0.04
|
0.04
|
0.04
|
0.04
|
エチレングリコール |
|
|
|
|
エピクロロヒドリン |
1.51
|
1.49
|
1.46
|
1.44
|
アクリル酸 |
0.27
|
0.27
|
0.26
|
0.26
|
|
(5)堆積
水中に溶解し、溶存態として存在する物質は、懸濁物質へ吸着して、懸濁物質の沈降と共に海底へ運ばれ堆積する。
懸濁物質への吸着については、海水中の懸濁物質濃度の他、各物質で異なる吸脱着係数(Koc)により決定される。選定した物質の吸脱着係数(Koc)は、表3.2.6に示す通りであり、値の大きな物質ほど吸着し易く、懸濁物質と共に海底へ堆積する事になる。
従って、対象物質の中ではフェノール、二塩化エチレン等が海水中に溶存する場合、懸濁物質に吸着し易い事が確認された。
表3.2.6 吸脱着係数(Koc)一覧
二塩化エチレン |
無水酢酸 |
フェノール |
エチレングリコール |
エピクロロヒドリン |
アクリル酸 |
1.349E+02 |
1.549E+01 |
1.380E+02 |
3.908E+00 |
1.230E+02 |
2.630E+01 |
|
前章で考察した数値解析方法について、既往知見や試解析による検証した結果を以下にまとめる。
(1)流動予測
流動予測については、事故発生時にリアルタイムの情報を計算条件として解析する事が最も望まれる手法である。しかし、解析に要する時間など、今後のモデルを開発する段階での検討が望まれた。
次に、事前に解析した結果をデータベースとしてストックする手法については、海上保安庁による潮流予報などにも利用されており、妥当な手法である事が確認された。
(2)海中拡散予測
海中拡散予測については、NRDAM/CMEモデルが約426種の化学物質を対象としており、各物質の物性に係わる係数値が整備されており、このモデルが参考になると考えられた。
次に、わが国での輸送量、取扱量が上位にあり、しかも海上で流出した場合、海中へ沈むと考えられる物質を選定して、NRDAM/CMEモデルの蒸発、溶解・混入、再蒸発、堆積の各項について検討した。この結果、蒸発には流出規模や風速の影響が強くなる事が確認された。また、溶解・混入は風速が速く、海面に拡がる厚さの薄いほど起きやすい事が確認された。再蒸発については、温度の影響の小さい事が確認された。なお、堆積についてはモデルで整備されている吸脱着係数を比較し、懸濁物質に吸着し易い物質と、そうでないものが存在する事を確認した。
以上、流動予測、海中拡散予測ともに、前章で考察した手法により、物質の挙動を表現できることが確認された。
|