日本財団 図書館


(2)蒸発項
 蒸発は海表面での現象であり、海水密度より大きな比重を有する物質の場合、流出後直ぐに海中へ沈み込むため、影響が無い様に思われる。しかし、海上でHNS輸送船舶の事故が発生し、HNSが海面に継続して流出し続ける事も考えられる。しかも、流出物質が人体に有害な場合は、蒸発した物質の大気拡散も迅速に解析する必要があり、この蒸発項は必要な項目となる。
 感度分析は流出時間を6時間と仮定して実施する。そして、6時間後までの総流出量に占める蒸発量率を風速別、温度別、流出規模別に図3.2.2に示す。
 なお、分析計算は計算時間間隔を60秒とし、或る瞬間に流出した物質は60秒間のみ蒸発に寄与するが、次の計算時間には下層へ沈降して蒸発しないと仮定した。
 この結果、蒸気圧の大きな物質ほど蒸発量も多くなるが、最も蒸発した二塩化エチレンを見ても、風速5m/s、流出規模200mで最大となり、その量は総流出量の0.8%であった。従って、海中に沈み込む物質であっても、僅かではあるが大気中へ拡散する可能性が考えられる。
 なお、風、温度、流出規模の各影響を見ると、温度影響は小さいが、流出規模、風速が大きくなると蒸発量も増大する事が確認された。
 
図3.2.2(1)蒸発項の感度分析結果(その1)
(拡大画面:262KB)
 
図3.2.2(1)蒸発項の感度分析結果(その2)
(拡大画面:528KB)
 
(3)溶解・混入
 溶解・混入は、海表面から水中への過程であり、風の影響を受ける現象である。風以外にモデルで考慮している項目は、流出物質の粘性や溶解度そしてモル分子量の他、海表面に拡がった時の厚さである。これら項目を利用して、溶解・混入率を算出し、物質量と積算する事で溶解・混入量を求めている。
 なお、感度分析は流出物質の一部が沈降せずに海表面に存在する事を仮定して実施した。
 これにより得られた風速別、厚さ別の溶解・混入率を図3.2.3に示す。
 対象物質の中で粘性が最も大きいフェノールは風速、厚さに係わらず、殆ど溶解・混入しない事が確認された。他物質は、粘性が低く溶解度の高い物質ほど溶解・混入し易い状況である。最も溶解・混入率の高いアクリル酸の値は約0.1(風速5m/s、厚さ1mm)であり、その場に存在する物質の1割が海中へ溶解・混入すると予測される。
 また、風および厚さの影響は、風速が大きいほど、そして厚さが薄いほど溶解・混入し易い事が確認された。
 
図3.2.3 溶解・混入項の感度分析結果
(拡大画面:370KB)


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION