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6)堆積
 水中の有害物質は基本的に懸濁物質に吸着し、懸濁物質の沈降とともに海底に運ばれるとしている。吸着態の濃度(Ca)と溶存態の濃度(Cdis)の比率は、標準的な平衡理論式を用いて計算される。
 
Ca/Cdis=KocCss
 
 ここで、Koc: 吸脱着係数(無次元)、Css: 懸濁物質の濃度(mg/l)である。
 
 懸濁物質に吸着して沈降する汚染物質は、水中の全汚染物質に係数(Ca/(Ca+Cdis)をかけたものであり、この量が沈降速度VSで沈降する。
 モデルの設定では、スピルの継続時間は底泥からの拡散時間(年単位)に比べると短期間(すなわち、日単位)であるため、底泥からの消失も含む底泥からの拡散は、次式で計算される。
 
 
 上式を汚染物質量Qについて解くと、次式になる。
 
 
 ここで、Q: 単位面積あたりの汚染物質負荷量(t/m2)、Dbio: 生物による底泥の攪乱速度(m2/day)、t: 時間(day)、z: 底泥の深さ(m)、k: 分解速度(/day)である。
 
 底泥表面に堆積した汚染物質は、溶出によって再び水中に回帰してくる。物質の溶出量の計算は、Thibodeaux(1977, 1979)の式を使用している。
 
 
 ここで、h: 汚染物質の移動係数(m/day)、Ac: 対象とする底面積(m2)、CS: 底質中の濃度(t/m2)、Cw: 底層水中の濃度(t/m2)である。
 汚染物質の移動係数hは、次式で計算する(Thibodeaux, 1977, 1979)。
 
h=0.36(VL/ν)0.8(ν/Dν)0.33Dν/L
 
 ここで、V: 鉛直流速(m/sec)、L: 有効距離(m; Ac=L2)、Dν: 底層水中の拡散係数、ν: 海水の動粘性係数である。
 
(2)主な計算条件
 参考としたNRDAM/CMEモデルを利用する時の主な計算条件は、流出物質名と流出量である。流出物質が指定されれば、既にモデルの中で整備されているデータベースより対象物質用の各係数値が設定される。
 表2.2.1には、横浜沖荷役錨地におけるHNS取扱量の上位3種(エタノール、二塩化エチレン、メチル・エチル・ケトン)を例として、NRDAM/CMEモデルで設定されている主な係数値を示す。
 
表2.2.1 NRDAM/CMEモデルで整備されている各物質の係数値
項目 単位 エタノール 二塩化エチレン メチル・エチル・ケトン
モル分子量 g/mole 46.070 98.960 72.107
密度 g/cm3 0.789 1.250 0.805
溶解度:25℃ mg/l 4.371E+05 8.500E+03 1.819E+05
蒸気圧:25℃ atm 5.260E-02 1.083E-01 1.316E-01
水中での劣化速度:25℃ /day 1.131E-01 1.131E-01 1.131E-01
底泥中での劣化速度:25℃ /day 1.131E-01 1.131E-01 1.131E-01
吸脱着係数 - 1.622E+01 1.349E+02 3.020E+01
粘性:25℃ cp 4.709E-01 7.998E-01 4.766E-01
 
 HNSの海中拡散を計算するためには、上記各係数値の他、対象海域の懸濁物質濃度を設定する必要がある。これは、「堆積」過程の計算時に必要となる条件であり、各海域で観測されているSS濃度を整理する事で設定が可能となる。
 
2.3 数値解析方法の考察のまとめ
 以上、既存モデルから得た知見等をもとに、HNS海中拡散予測モデルの数値解析方法について考察した結果を以下にまとめる。
 
◎流動計算
 対象とする事象が、HNSの海中拡散であるため、上層から下層までの流速分布が得られるモデルの利用が必要であり、次の2種類の手法が挙げられた。
 
手法1: 事前の計算結果を利用する手法
手法2: 事故発生時に流動場を計算する手法
 
 これら手法のうち、どちらを利用してシステムを開発するかは、今後のモデル開発する際に、計算時間の検証を行い決定する必要がある。
 次に、海中に流出したHNSの挙動、特に沈降や浮上には、海水密度が大きく影響する。そのため、流動計算時に水温・塩分の拡散計算も実施する事が必要と考えられた。
 ただし、実海域の水温・塩分は、時々刻々と変化する項目である。この様な水温・塩分をリアルタイムに予測する事は計算条件の取得の上からも困難である。
 そのため、例えば「夏季の平均場」という様に、或る平均状態を仮定して対応する事が適当と考察された。
 
◎HNS海中拡散計算
 海中に流出したHNSは、流動場だけでなく海水の比重との関係も含めて、沈降や浮上しながら拡散する。沈降した場合は底泥への堆積を計算する必要があり、浮上した場合は海表面での拡散を計算する必要がある。そのため、これらの各過程のモデル化が必要であるが、NRDAM/CMEモデルがそれぞれを考慮している。そこで、このモデルを参考とし、更にモデル開発者達が参考とした知見も収集して、システム設計に役立てる事が妥当と考える。


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