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第3章 数値解析方法等の検証
 前章においてHNS海中拡散に係る数値解析方法等を考察した結果、次の事項が望まれた。
 
◎海域の流動場は、事前の計算結果を利用する手法と、事故発生時に流動場を計算する手法が挙げられ、モデル構築段階で計算時間の検証が望まれた。
◎NHSの海中拡散予測には物理的な現象だけでなく、流出物質の物性を考慮したモデルの開発が望まれた。
 
 以下に各々の解析方法について検証する。
 
3.1 流動予測
 事故発生時に計算条件を設定して流動計算する手法は、計算時間が短時間であれば、最も望まれる手法である。しかし、この手法が利用出来ない場合には、事前に解析を行い、計算結果をストックする事が必要となる。
 そこで、この計算結果をストックして流動予測する手法が妥当なものであるかについて、以下に検証する。
 
 対象海域の境界部(例えば、内湾ならば湾口部)に潮位条件を設定しての潮流計算は、これまで数多く実施されている手法である。
 これにより、各計算格子での潮流が計算され、さらにその結果より各格子の潮流の調和定数を得る事が可能となる。
 この調和定数を用いた潮流の予測は、主要な航路や海峡で「潮流の予報」として以前より実施されている。
 例えば、海上保安庁海洋情報部では、図3.1.1に示す様に東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の内湾の他、九州中南部海域そして沖縄海域の潮流予測を行い、ホームページ上で公開している。
 しかし、瀬戸内海の来島海峡や鳴門海峡そして明石海峡などの狭水道では、潮汐表や潮流図等による潮流予測情報が取得されていても、船舶の衝突や乗り上げ事故が発生していたため、潮流予測の更なる精度向上が望まれた。
 そこで、(財)日本水路協会では「強潮流域の面的潮流観測及び予測システムの構築」として、海洋短波レーダーによる面的な詳細観測を実施している。この観測結果より500m間隔で設定した格子点の潮流の調和定数を求め、それにより潮流予測を行い、情報の提供システムを構築している。
 この成果は、日本財団のホームページ(日本財団 図書館)にて公開されており、予測システムによる流況再現と現地観測結果との整合は良好であった、とされている。
 以上の様に、海域の潮流の調和定数を整備して、潮流を予測する手法は広く利用されており、本数値解析においても利用が妥当と考える。ただし、これら知見は何れも海表面(上層)の潮流場を予報したものであり、上層から下層に至る三次元的な流れ場を予測したものでない事に留意が必要である。
 
図3.1.1(1)海上保安庁海洋情報部が公開している潮流予測海域
 
図3.1.1(2)海上保安庁海洋情報部が公開している潮流予測海域
 
図3.1.1(3)海上保安庁海洋情報部が公開している潮流予測海域


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