3)水温・塩分条件
海域の水温、塩分は海水の密度に影響するため、海中に流出したHNSの密度により流出物質の浮上もしくは沈降を予測するためにも必要となる。
なお、水温・塩分は流動計算開始時の初期分布条件と海域への流入条件として利用される。本来、海域の水温、塩分は時々刻々と変化する値であり、流出事故発生時の値を利用する事が望まれる。しかし、そのためにはデータ取得など多くの時間を要する事となり、迅速な対応が不可能となる。
そのため、水温・塩分条件は、各海域で実施されている公共用水域水質調査結果等の既存データより、季節毎など或る時期の平均分布(例えば過去10年間の7月〜9月平均)を求めて解析する手法が考えられる。これにより、対象時期の平均的な水温・塩分分布が取得できる事になる。
参考として東京湾、大阪湾、伊勢湾の公共用水域水質調査位置図を図2.1.2に示す。各海域ともに、公共用水域水質調査の他に、各県の水産試験場による浅海定線調査等が別測点で実施されるなど、湾全域に調査点が分布している。
図2.1.2(1)東京湾の公共用水域水質調査地点図
図2.1.2(2)伊勢湾、大阪湾の公共用水域水質調査地点図
○伊勢湾
○大阪湾
4)河川条件
河川からの淡水の流入量の多少により、海域の流動場は変化する。しかし、河川条件も前述の水温・塩分条件と同じく、時々刻々と変化する値であり、事故発生時の迅速な対応のためには、過去の統計値を利用して予め計算する事が望まれる。
国土交通省は、主に国内1級河川の直轄管理区間で観測された河川流量を整備し、過去の観測結果より「豊水」「平水」「低水」「渇水」の各流量統計値を求めている。参考として、表2.1.2に東京湾に流入する主要河川の流量統計値を示す。
表2.1.2 東京湾に流入する主要河川の流量統計値(m3/sec)
河川名 |
江戸川 |
荒川 |
多摩川 |
鶴見川 |
観測所名 |
流山 |
大芦橋 |
石原 |
亀の子橋 |
豊水時流量 |
144.72 |
21.40 |
33.22 |
6.66 |
平水時流量 |
76.95 |
10.65 |
20.86 |
4.88 |
低水時流量 |
61.45 |
6.24 |
13.33 |
4.01 |
渇水時流量 |
42.46 |
2.92 |
7.03 |
3.14 |
統計期間 |
S29〜H14 |
S41〜H14 |
S41〜H14 |
S41〜H14 |
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5)気象条件
気象条件は、水温の拡散計算時に海表面での熱交換の計算時に利用される。従って、前述の水温・塩分条件の統計期間と同じ期間の平均値を設定する必要がある。
なお、利用する項目は「風速」「気温」「湿度」「雲量」「全天日射量」であり、各都道府県の測候所で観測されている。
(1)吹送流モデルの基礎式
吹送流とは海面上を吹く風の応力によって起こされる流れのことであり、流動モデルの境界条件として設定されることが多い。
しかし、本研究ではより簡易性に優れたモデルの開発を目的としているため、HNS流出事故発生時の風向・風速、そしてその後の予報値(風向・風速)を利用して、吹送流を計算し、先に整備された潮流等と合成する事を考える。
以下に、吹送流モデルの基礎式等について述べる。
海面上に吹く風の接線応力τは一般に次式で表現される。
τ=ρaCdW2
ここで、ρaは空気の密度、Cdは海面の抵抗係数、Wは風速である。
なお、海面上の風が連吹して波浪が十分に発達し、大気から見た海面の接線応力と海面から見た大気の接線応力が等しい場合には次式となる。
τ=ρaCdW2=ρwC'dU2
ここで、ρwは海水密度、C'dは大気面の抵抗係数、Uは海表面流速である。
また、大気と海洋の境界層が相似でCd=C'dを仮定すれば、海表面流速は次式となる。
上式は合成ベクトルの流速値を表すが、風による海面の接線応力には東西方向や南北方向に加わる力がある。各成分を次式に示す。
流出したHNSが、海中から海表面へ浮上した場合、上記の様にして得られた風による海表面の流れと潮流等との合成ベクトルにより、海面を移動することとなる。したがって、事前に潮流等の流れの結果を準備する事で、これをもとに風の影響を考慮した移動予測が可能となる。
(2)主な計算条件
吹送流モデルの主な計算条件は風向及び風速であり、これらデータに気象予報値を用いることで、数十時間先までの吹送流の予測が可能となる。
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