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第2章 HNS海中拡散に係る数値解析方法等の考察
 前章においてHNS海中拡散予測を実施するためには、流動モデルとHNSの物性に係わるモデルが必要と検討された。そこで、これら2種類のモデルを利用した解析について、出来る限り簡易性に優れ、かつ、汎用性のある解析方法等について考察を行う
2.1 流動モデル
 HNSの海中拡散予測を実施するためには、潮流などの海域の流れを表層から底層まで予測する必要がある。また、海中に流出したHNSが海水よりも密度が低い場合、海中を拡散しながら表層へ浮上する事も考えられる。そのため、潮流だけでなく、海表面における吹送流を考慮する事も汎用性の面から必要と考える。
 以下に各モデルについて記述する。
 
2.1.1 海洋流動モデル
(1)解析方法の考察
 本モデルを必要とする海域として、ケミカルタンカー等の船舶交通が輻輳し、且つケミカルタンカー等によるHNSの荷役が定常的に行われている東京湾、伊勢湾、大阪湾が想定される。
 これら内湾は、潮の干満による潮流が卓越している海域である。従って、HNSの海水中での拡散を迅速に予測するためには、準3次元モデルによって各内湾の主要4分潮(M2潮、S2潮、K1潮、O1潮)による潮流計算を河川流(出水時、豊水時、平水時、低水時)も考慮して実施し、得られた結果をストックする事が1手法と考える。この手法の場合、風による吹送流は事故発生時に別途計算し、ストックされた潮流場(上層)に足し合わせる事となる。また、ストックする流動場は水平方向の流れとなるため、鉛直方向の流れを無視し、物質の鉛直移動を沈降や拡散で表現する事となる。
 これに対して、昨今のパソコンも高性能化もあり、計算格子数や予測対象期間にもよるが、河川流だけでなく風も同時に考慮した潮流計算が短時間で実施できる環境となっている。そのため、数時間〜数日先までの流動計算ならば、事故発生直後に計算を開始しても速やかに結果を出力する事が可能となる。また、この手法は、風による吹送流だけでなく鉛直方向の流動場も同時に得られるというメリットを有する。
 以上の様に、流動モデルについては2種類の手法が考えられる。ただし、後者の利用を考える場合は、実際にモデルを構築して、例えば数日先までの流動場の予測に要する時間を検証する事が今後必要と考える。その結果、多くの計算時間を要する場合は、前者に挙げた事前の計算結果をストックする手法でシステム構築を実施する事が望まれる。
 この事前の計算結果を利用する手法を用いる場合は、多くのデータをストックする事と計算時間の両面から計算格子数が大きく影響する。ここで、前章で準3次元モデルの例として取り上げた2種類の解法を見る。1つは準3次元モデル、他方は平面2次元モデルと準3次元モデルを組み合わせたモデルである。この内の後者は、米国プリンストン大学により開発されたモデル(POM)であるが、図2.1.1に示す様に準3次元モデルに比べて計算格子数が多くなる。
 従って、本手法の場合はストックするデータ量等を考慮して準3次元モデルを利用した流動場の計算が良いと考える。
 なお、準3次元モデルとPOMの計算時間を比較した場合、POMが平面2次元モデルと準3次元モデルの組合せである事から、計算量が比較的少なく、短時間で結果が得られると考えられる。このため、事故発生時に流動場を計算する手法の場合は、POMの利用が妥当と考えられる。
 以上、解析方法として、次の2種類の手法が考察された。何れの手法を利用するかについては、今後のモデル開発の段階で検証計算を実施し、決定する事が望まれる。
 
手法1: 事前の計算結果を利用する手法
 事前に主要4分潮および河川流を考慮した潮流計算を実施し、得られた潮流場を調和分解して、各計算格子の調和定数をストックする手法。吹送流に関しては、事故発生時に計算し、その時の潮流(上層)に足し合わせる。(準3次元モデルの利用を考える)
手法2: 事故発生時に流動場を計算する手法
 事故発生時に、その時の湾口部の潮位変動(予測値)や河川流(統計値)、そして風(実測値もしくは予報値)条件の基で潮流計算を実施する手法。(POMの利用を考える)
 
図2.1.1 準3次元モデルとPOMの座標系比較
 
 何れの手法を利用するにしても、設定する計算条件は共通する。次節で計算条件について記す。
 
(2)主な計算条件
 主な計算条件として、計算格子や潮位条件、そして水温・塩分条件や河川条件、気象条件が挙げられる。
1)計算格子
 計算格子は、格子サイズが細かいほど、流動場を詳細に表現する事が可能となる。しかし、計算時間やストックするデータ容量に影響する項目であること、そして対象海域が東京湾や伊勢湾、大阪湾など、比較的広い内湾が想定されることから、1000m程度の格子分割が妥当であると考える。また、他にも対象海域の大きさに依存して格子分割数を例えば100×100等の一定値にする等の方法も考えられる。
 
2)潮位条件
 潮位条件は対象海域の外海境界に近い地点の潮汐調和定数を用いる事で設定可能となる。表2.1.1に東京湾、伊勢湾、大阪湾を対象とした時の潮位条件例を示す。
 なお、大阪湾には瀬戸内海側と紀淡海峡側の2つの境界が存在し、しかも瀬戸内海が潮流の卓越する海域である事から、瀬戸内海全域の潮流計算を実施し、得られた結果を大阪湾の境界条件と設定する手法も考えられる。
 
表2.1.1 東京湾、伊勢湾、大阪湾を対象とした場合の潮位条件例
対象海域 潮位条件(cm) 測点名
M2 S2 K1 O1
東京湾 37.30 16.80 22.90 19.70 間口
伊勢湾 44.00 20.00 22.00 17.00 的矢港
大阪湾1 64.40 20.70 30.50 22.61 高松港
大阪湾2 45.56 21.80 24.24 18.20 下津港
※大阪湾1は瀬戸内海側、大阪湾2は紀淡海峡側の地点である。


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